(2023年2月19日の放送内容を基にしています)
2023年2月、国際連合を率いるグテーレス事務総長が、ウクライナでの戦争を止められない、苦しい胸の内を語りました。
河野憲治キャスター「戦争を止められない国連は、もはや不要だという声もあります。それでも国連は必要ですか?」
国連/グテーレス事務総長「ちょっと待ってください。国連は戦争を止めるだけが仕事ではない。事務総長として、国連への批判を何度も聞いてきた。いたしかたない」
ロシアが軍事侵攻に踏みきって、まもなく1年。対話による解決を目指すはずの国連・安全保障理事会では、議論がまったくかみ合っていません。国連はもはや、平和の番人としての役割を果たせないのか。
シリーズ「混迷の世紀」第9回。78年前、「世界の平和と繁栄」を目指して創設された国際連合。各国の対立を乗り越え、人々の命や暮らしを守るため、活動してきました。
国連で、いったい何が起きているのか。私たちは、日本が議長国を務めた安保理のひと月に、カメラを入れました。見えてきたのは、言葉と言葉がぶつかり合う、もう一つの戦場。
ウクライナ/キスリツィア大使「たった一国の行動が、安保理という大切な場をむしばんでいる」
ロシア/ネベンジャ大使「ウクライナの主張はいつも荒唐無稽だ」
各国を巻き込み、ロシアを対話の場に引き戻そうという、水面下の攻防も繰り広げられていました。
創設以来、最大の試練に立たされている、国連のいまです。
河野憲治キャスター「『戦争を止められない国連に、もはや存在意義はないのではないか』。ニューヨークに本部を置く国連に対しては、この1年、“不要論”すら飛び交うほど、風当たりが強まっています。国連は、20世紀の2つの世界大戦の反省から、2度と悲劇を繰り返さないことを目指して発足し、戦後、国際秩序の担い手となってきました。国連の機関の中で、最も強力な権限が与えられているのが、こちらの“安全保障理事会”です」
河野キャスター「安保理(安全保障理事会)の決議は、すべての加盟国に対して法的拘束力を持ち、紛争の防止や解決、平和を維持する様々な活動を決めることから、『平和の番人』とも呼ばれてきました。しかし、常任理事国の1つのロシアが、ウクライナへの軍事侵攻に踏み切って以来、安保理は国際社会の“結束”ではなく、“対立”や“分断”が表面化する場となっています。混迷が深まる安保理の現状を見つめました」
安保理は、アメリカやロシアなど5つの常任理事国、そして2年の任期で各地域から選ばれる、10の非常任理事国で構成されます。
日本は、2023年1月のひと月、持ち回りの議長国を務めることになりました。議長国は、会議の議題や日程を決め、各国を招集する権限を持っています。
2023年1月3日。議長に就任した石兼大使は、ウクライナ問題の議論を前に進めたいと、呼びかけました。
石兼公博大使「安保理の責任は、かつてなく大きくなっている。私たちは、国連憲章の原則や哲学を再確認する必要がある」
しかし、それを冷ややかに見ている人物がいました。ロシアのポリャンスキー次席大使です。外国メディアによるロシア高官への接触が難しくなっている中、NHKの取材に応じました。
取材班「ウクライナでの戦争について安保理の役割は?」
ロシア/ポリャンスキー次席大使「安保理の役割なんてない。ウクライナ政府の味方をする国ばかりだ。それでどんな役割を果たせるというのだ」
安保理に参加する国々への敵意をあらわにするロシア。議長国日本は、対話を成り立たせることすら難しくなっている現実に、直面することになりました。
この日は、ウクライナも交えて、ロシアと直接議論する機会を設けました。
ウクライナ/ジャパロワ外務次官「ゼレンスキー大統領は、この危機を終わらせるために、和平案を示している。責任あるすべての国々が、この和平案に協力するよう求める」
ところが、ロシアのネベンジャ大使は、この会議を開催すること自体がおかしいと、不満をぶつけました。
ロシア/ネベンジャ大使「議長、率直に言って、なぜこの会議が招集されているのか、理解に苦しむ。欺瞞(ぎまん)に満ちたウクライナと西側の代表が集まるおかしな会議だ」
私たちの取材に対しても、欧米やウクライナが主導する議論には応じない姿勢を強調しました。
取材班「戦争開始から1年ですが、この先どうするつもりですか?」
ロシア/ネベンジャ大使「ウクライナが、もっと現実を見つめて、意味ある話し合いに応じることを望む。フェイクはやめにしろ」
この会合の翌日、ロシアがウクライナ東部をミサイル攻撃し、多数の市民が犠牲になりました。その攻撃の直後、ロシアは安保理でも攻勢をかけてきました。自ら、緊急会合を開くよう要請したのです。
ロシア/ネベンジャ大使「みなさんは、なぜ今日この会議を開いたか不思議に思っているだろう。しかし私たちは、ウクライナ国内で平和を脅かす事態が起きていると確信している」
ロシアによるミサイル攻撃には一切触れず、逆に、ウクライナ国内でロシア系住民が迫害されているという主張を、延々と展開したのです。
アルバニア/ホッジャ大使「ロシアは不必要な会議を増やして、安保理に負担をかけている。このやり方はおかしい」
安保理のルールでは、たとえ1か国からでも要請があれば、議長は会議を開かなければなりません。ロシアはこの1年、軍事侵攻の正当性を世界にアピールする場として、安保理を利用し続けているのです。
石兼公博大使「残念ながら、和平に向けたとっかかりが生まれるような議論ではなかった。(ロシアは)当然いろいろな安保理の手続きにも知悉(ちしつ)していますので、なかなか手ごわい相手」
安保理の議論が空転する中、国連のもう1つの役割である、現場の活動に深刻な影響が広がっています。
国連で最大の人道支援機関、WFP・世界食糧計画。2万人以上のスタッフが、世界各地で紛争や飢餓に苦しむ人々への食料支援を行っています。ウクライナでの戦争が始まった直後から、キーウなどに拠点を構え、避難民たちに食料や現金を給付してきました。
しかし、安保理が戦争の出口を見つけられない中、活動は日々困難になっています。
国連WFP職員「ミサイルやドローンによる電力施設への攻撃が、冬の支援活動の大きな妨げになっています」
平均気温が氷点下となる、ウクライナの厳しい冬。この日も、戦争で職を失い、国連からのわずかな現金支給を頼りに暮らす母親の声を聞きました。
支給を受ける女性「食料の価格はすべて値上がりしています。大体6割ぐらい上がっています」
現場の国連職員たちは、一刻も早く安保理に和平の道筋を見出して欲しいと感じています。
国連WFPウクライナ担当/マシュー・ホリンワース氏「この恐ろしい時代に、子どもや家族を守るため、私たちはリーダーたちが平和的な解決策を見つけるまでの時間を稼いでいるのです」
ウクライナをめぐる議論が行き詰まる中、安保理は、もう1つの難題に直面していました。ある重要な決議の採決が迫っていたのです。
今世紀最大の人道危機と呼ばれてきた、シリア内戦。10年以上続く紛争で、家や仕事を失った人々が、いまも難民キャンプで暮らしています。国連は、安保理の決議に基づいて、400万人以上のシリア難民に支援物資を届けてきました。
支援の継続には、定期的に安保理の決議が必要で、その期限が、日本が議長国を務める1月に迫っていたのです。
シリアの難民キャンプで薪を売って暮らす男性。1日の収入は70円ほどです。
シリア難民/ムスタファさん「みんな国連からの支援に依存しています。経済状況は非常に悪く、支援が止まれば暮らしていけません」
8人の家族でシリアの厳しい冬を越すためには、国連の支援が欠かせないといいます。
ところが2022年、支援が一時途絶える事態が起きました。ロシアが支援継続の決議に反対、拒否権を行使したのです。
拒否権とは、5つの常任理事国だけがもつ特別な権限です。重要な決議は、常任理事国が1か国でも反対すれば採択できません。
ロシアは「この支援の進め方が、欧米主導で納得できない」と反対。中国も棄権しました。ウクライナをめぐる対立が、シリアでの人道支援にまで飛び火したのです。
国連OCHAシリア人道支援担当/サン・スオン氏「支援の更新が見通せず、恐怖と不安でいっぱいです。安保理は政治的対立を越えて、人道問題を第一に考えることを心から望んでいます」
難民の命を左右する決議を、安保理で通すことはできるのか。日本は各国の出方を分析していましたが、ロシアがいったいどう出てくるのか、読み切れずにいました。
日本はまず、ロシア以外の国々を、賛成で固めようと動き出しました。この日、濱本公使が接触したのはUAE。これまで、ロシアを非難する決議を棄権するなど、ロシアへの配慮も見せてきた国です。
濱本幸也 公使「中東シリアの決議は、本当に人道的なものなので」
UAE交渉担当者「国境での支援ですね」
濱本幸也 公使「魔法のような解決策があればいいのですが、それはありませんので」
UAE交渉担当者「これは、みなでよく話し合わなければなりませんね」
そして、決議の採決が迫っていたこの日。議場の中で、濱本公使が頻繁に誰かと連絡を取り合い、議場の奥では、一人の女性が待ち受けていました。5分後。揃って議場に戻ってきた2人。女性は、ロシアの交渉担当者でした。
濱本幸也 公使「様々なことはやっている。まず2国間でやった方が、いきなり15か国の間でやるよりは、いいときは時々あるので」
取材班「ああいうときに議論した内容というのは、どういうことなんですか?」
濱本幸也 公使「そこらへんになってくると、申し上げない方がいいかもしれないですね」
そして、採決の日。ロシアは賛成。全会一致で、人道支援の継続が決まりました。
実は採決の前に、日本はロシアに対し、「他の理事国はみな賛成だ」と伝え、孤立を避けるよう促していたことが、取材でわかりました。
ロシア/ネベンジャ大使「難しい判断だったが、ロシアは今回の決議には賛成する。ただし、いまのやり方に疑念を抱いている我々の立場は、まったく変わっていない」
一方で、今回の決議は、半年に限って支援を延長するものでした。引き続き議論をしていくことを前提に、当面の合意にこぎつけたのです。
濱本幸也 公使「半年後の期限までに、さまざまな議論が今から始まる。拒否権まで行使される案件ですので、そんな簡単な話じゃない」
シリア難民の男性も、決議のゆくえを固唾をのんで見守っていました。
シリア難民/ムスタファさん「完全に安心は出来ませんが、なんとかあと6か月生きることができ、ほっとしています」
そのシリアとトルコの国境地帯が、今月(2023年2月)、大地震に見舞われました。さらなる支援が急がれる中、各国の協力が、ますます問われています。
安保理で分断が深まる現状を、グテーレス事務総長は、どう受け止めているのか。
国連/グテーレス事務総長「もちろん非常に懸念している。結束して迅速な行動が必要な多くの重要な問題に対して、安保理が麻痺(まひ)しているからだ。地政学的な分断によって、本来、安保理がしなければならない仕事ができない環境となってしまっている」
河野キャスター「シリアの人道支援の決議では、安保理が全会一致できました。常任理事国が合意するカギは何でしょうか」
国連/グテーレス事務総長「協力できる分野を探すことがとても重要だ。もちろんロシアによるウクライナ侵攻によって、状況は厳しくなっている。しかし私の経験では、すべての国を結束させ、大国間の分断で損なわれてはならない、とても重要なものがあることを、各国に理解させることは可能だ。決して簡単な状況ではないが、わたしたちは絶対にあきらめず、あらゆる可能性を探る」
国連の存在意義はどこにあるのか。「大国の興亡」の視点から国際秩序を読み解き、国連が誕生した経緯についても研究してきたイェール大学のポール・ケネディ教授に聞きました。
イェール大学/ポール・ケネディ教授「国連はいま、1945年に創設者たちが悪い意味で予想していた通りになっています。というのも、安保理が戦争を終わらせることができるのは、大国の考えが一致していて、拒否権を行使せず、他の国を妨害しないときに限られているからです」
この1年、安保理では、ウクライナからの撤退を求める決議案が提出されるたびに、ロシアが拒否権を行使し、否決されてきました。ウクライナのゼレンスキー大統領は、もはやロシアを安保理や国連から追放すべきだと訴えています。
イェール大学/ポール・ケネディ教授「拒否権を持つ大国が、国連憲章の中にある『各国の主権を尊重する』という規定を無視することは、あってはなりません。しかし残念ながら、大国に有利な国連のシステムをどうすることもできません。一方で、だからこそロシアは、国連にとどまっているともいえるのです。創設者たちは、国連を“サーカスのテント”に例えました。一頭の猛獣がテントを飛び出すよりも、すべての動物をテントの中にとどめておいた方が、まだいいと考えたのです」
猛獣をサーカスのテントに閉じ込めるという創設者たちのねらい。念頭にあったのは、国連の前身、国際連盟の挫折でした。ドイツや日本など、主要な国が次々と脱退して力を失い、第2次世界大戦を防ぐことができなかったためです。
その教訓を国連の創設者たちはどう活かそうとしたのか。
第2次世界大戦中の1944年に開かれたダンバートン・オークス会議。後に戦勝国となるアメリカ、イギリス、ソビエトの代表が集まり、国連の創設について話し合っていました。
ソビエトから参加したグロムイコ大使。国連に参加するにあたり、ある条件を突き付けていました。
ソビエト/グロムイコ大使(当時)の回想「ソビエトは、あらゆる決定には常任理事国の意見の一致が必要で、それが得られないときは、拒否権の行使が許されるべきだと訴えた。われわれにとっては譲れない一線だった」
当時世界で数少ない社会主義国だったソビエト。数で勝る欧米の意思を押しつけられることを警戒し、拒否権の導入を求めたのです。
イェール大学/ポール・ケネディ教授「残念ながら、ここで至った結論は、『大国の国益にからむ問題に関しては、彼らに拒否権を与えなければならない』ということでした。拒否権は大国を国連にとどめておくための方策として生まれたのです」
そして、戦勝5か国が、安保理で拒否権を持つ常任理事国となることで、国連は発足したのです。
創設を決めた会議で、各国が行った演説を収めたテープが、残されていました。アメリカとソビエトは、責任ある大国として、世界の平和に貢献すると誓っていました。
ソビエト/グロムイコ大使(当時)「ソビエトは、深い満足とともに国連憲章に署名する。そしてこの文書が将来、戦争の勃発から人類を守ることのできる、新しい国際組織の活動のよりどころとなることを願っている」
アメリカ/トルーマン大統領(当時)「大国は世界の人々を支配するのではなく、世界の人々に奉仕する責任がある」
しかしその後、ソビエトは、西側諸国の国連加盟を阻止しようと拒否権を連発。アメリカも、中東問題で拒否権を繰り返し行使してきました。その数は、5か国あわせて300回以上にのぼっています。
河野キャスター「拒否権は大国を国連にとどめるための方策、つまり“必要悪”ということでしょうか」
イェール大学/ポール・ケネディ教授「“必要悪”その通りです。とても悲しいことですが、これが現実です。大国に踏みにじられているという小国の訴えより、核戦争や大国同士の戦争の回避を優先した、国際秩序の維持の仕方なのです」
河野キャスター「安保理の外にはピカソの『ゲルニカ』のタペストリーが掲げられています。第2次世界大戦前夜、ナチス・ドイツによって無差別爆撃が行われた、スペインの町の惨状を描いた作品です。こうした悲劇を防ぐことが、安保理に託された使命だったはずです。しかし各国の分断が深まり、対話はさらに困難な時代になっています。だからこそ、対立する国が同じテーブルに付くこの場所を、最後の砦として守らなければならないのも確かです。平和を取り戻すため、いま何ができるのか、国連の模索が続いています」
国連がウクライナとロシアの間に入り、接点を探る試みが、トルコ・イスタンブールで動いていました。黒海でウクライナ産の小麦など、食糧の安全な輸送を確保する取り組みです。ウクライナとロシアの協力のもと、国連職員たちが船舶の航行を見守っています。
きっかけは、軍事侵攻したロシアが、ウクライナ南部の輸出拠点の港を攻撃、封鎖したことでした。黒海から、ヨーロッパやアフリカへ食糧を輸送するルートが途絶えたのです。
世界の食糧危機を防ぐため、2022年の夏、グテーレス事務総長が自ら現地に乗り込み、輸出再開の交渉を仲介。この地域に影響力を持つトルコとともに、ウクライナとロシアから合意を取り付けました。4者がイスタンブールに集まり、航路の安全を確保し続けることで、今後の停戦への足がかりにしようとしたのです。
国際/グテーレス事務総長「ここでの素晴らしい貢献の精神が、複雑で長い道のりの末に、平和に結びつくことを希望する」
イスタンブール沖に停泊していたのは、ウクライナと、ヨーロッパやアフリカとを行き来する数々のタンカー。国連の検査官が乗り込み、積み荷や行先に偽りがないか、武器が紛れ込んでいないかなど、確認していきます。検査には、ウクライナとロシアの担当者も立ち会っていましたが、国連側から、撮影は控えてほしいと言われました。
取材班「なぜロシアとウクライナの検査官は撮影禁止なのですか?」
国連検査官「そういう規則であり、方針です」
取材班「緊張状態だからですか?」
国連検査官「いいえ、ここには緊張はまったくありません。なぜならここではみなが職務に忠実に、問題と向き合っているからです」
国連は、ウクライナとロシアがかろうじて協力するこの場を、和平への糸口にしたいと考えていました。
国連 現地捜査官「ある日検査官が海に出たとき、とても素晴らしい虹を見たんです。とても象徴的です。海の上にかかった、私たちの希望です」
河野キャスター「黒海の合意を、経済面だけでなく、和平につなげることはできますか」
国連/グテーレス事務総長「黒海の合意は、象徴的な成果だ。しかし、楽観視はしていない。私たちには、平和を促進するために仲介する能力がある。ただし、戦争を止めるには当事者が仲介を受け入れ、危機の終結のために、誠実に交渉する必要がある。できるだけ早く、真剣な和平交渉が現実のものになるように、私たちにできるあらゆることに、粘り強く取り組んでいく」
安保理では、議長国日本の模索が続いていました。
ウクライナをめぐる議論を前に進めるため、全ての国連加盟国が参加できる「公開討論」を開くことにしたのです。
どんな議題にすれば、国際社会が一致して、ロシアに行動を変えるよう迫れるのか。検討の末に選んだのは、「法の支配」。力ではなく国際法に基づいた秩序を尊重するという、国連の原点に通じるテーマでした。
石兼公博 公使「(ロシアが)ある日突然、『私が悪うございました。すべてみなさんのおっしゃる通りです』ということは、なかなか難しいかもしれません。ただ、法の支配の重み、国際社会の世論の重みをしっかりと彼ら(ロシア)に感じてもらって、その上で今後あり得べき和平の形というものを探る、こちらが重要ではないか」
ロシアに対して強いメッセージとするためには、より多くの国が足並みをそろえる必要があると考えた日本。あらゆる機会を通じて、各国に協力を求めていきました。
中でも、その姿勢が気がかりだったのが、アフリカを代表して安保理に参加しているモザンビークです。ロシアは、軍事や経済での支援を通じて、アフリカ諸国に接近しているからです。
2022年、国連総会では、ロシアを非難する決議を、アフリカ諸国は相次いで棄権。ウクライナ問題とは距離を置いていました。
モザンビーク/アフォンソ大使「ヨーロッパは、かつてアフリカに居座って、小さな国へとバラバラに分割した。その後の2つの世界大戦は、ヨーロッパから始まった。冷戦もヨーロッパが起源だ。まずは自分たちが戦争を起こさない方法を話し合うべきではないか」
そして、公開討論の日。呼びかけに応じて参加したのは75か国。「法の支配」という、同じ価値観を共有できるのか、問われました。
アルバニア/ホッジャ大使「この70年の歴史は、力よりも正義に従って、力よりも法に従って生きることが、合理的な選択であることを示している」
そして、モザンビークの順番がやってきました。
モザンビーク/アフォンソ大使「すべての国は、大国も小国も国連憲章に従う義務を負っている。一方的な単独行動には反対だ」
「ロシア」と名指しはしないまでも、国際秩序を乱す行為は、いかなる国も許されないと訴えました。
石兼公博 公使「『ロシア』という国を名指した国もたくさんありましたが、名指しをしなくても、国際法に対する明白な侵害行為への言及した国が多々ありましたので、ロシアへのメッセージに明らかになったと思います」
ロシアはどう受け止めたのか。
取材班「きょうの公開討論についてどう感じましたか?」
ロシア/ネベンジャ大使「大切な議論だった。しかし、物事の見方は立場によって異なる。それが重要だ」
取材班「いろんな見方があるとはどういう意味ですか?」
ロシア/ネベンジャ大使「西側の国々は、その時々で都合良く法の解釈を変えているじゃないか」
もう1つの「戦場」で、攻防が続いています。
河野キャスター「戦争を終わらせるために、国連にもっとできることはないのでしょうか」
イェール大学/ポール・ケネディ教授「ロシアを国際社会に引き戻す方法を、なんとしても見つけなくてはなりません。プーチンのロシアは、他の国を傷つけながら、他でもないロシア自身を最も傷つけています。もしロシアがいまの状況から抜け出したいと判断したとき、国連事務総長に仲介を要請する可能性は十分あります。まずは、ロシア自身が行動を変える必要がありますが、事務総長の仲介には、戦争を出口に向かわせる可能性が残されています」
ロシアが行動を変えようとするその時にこそ、国連は真価が問われると、ケネディ教授は語りました。
イェール大学/ポール・ケネディ教授「たとえ彼らが無法者であったとしても、安保理というテントに閉じ込め、譲歩を引き出すための話し合いをすべきです。互いに『歩み寄る』というのは、決して愉快なことではありません。しかし、かつてチャーチル首相が言ったように、『交渉は戦争よりもマシ』なのですから」
軍事侵攻が始まって1年。私たちが見せつけられてきたのは、国連が目指す「理想」とはかけ離れた、過酷な「現実」でした。
その「現実」と向き合い、どこまで「理想」へと近づけることができるのか。
果てなき闘いです。