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デルタ株の脅威 後遺症の苦悩 最新報告

NHK
2021年8月11日 午後7:13 公開

新型コロナ 第5波(もっと詳しい番組まとめ記事はこちら)

「これまでとは明らかに違う。こんな急激な症状悪化はみたことがない」(国際医療福祉大学成田病院・遠藤拓郎医師)

「デルタ株は、いままでと同じ対策では制御できない」(京都大学・西浦博教授)

新型コロナウイルスに最前線で立ち向かってきた医師、専門家のことばです。

変異ウイルス「デルタ株」による急激な感染拡大に襲われている日本。これまで重症化しにくいとされてきた比較的若い世代にも重い症状で入院する人が増え、病床がひっ迫しています。

日本でいま何が起きているのか。デルタ株とはどんな性質のウイルスなのか。

国内外の臨床や研究の現場からみえてきた最新情報をお伝えします。

(2021年8月11日の放送内容の一部をまとめたものです)

<日本に入ってきたデルタ株 医師たちが感じた“異変”>

変異した新型コロナウイルス「デルタ株」が、日本で最初に確認されたのは、今年春。

それからわずか数か月、デルタ株への置き換わりは急速に進み、8月5日に国立感染症研究所が発表した推定結果では、首都圏でほぼ90%を占めるまでになっているといいます。

中等症の患者の受け入れを行う、千葉県成田市にある国際医療福祉大学成田病院。

治療を行っている医師たちは、次々と重症化する患者への対応に追われています。

症状が悪化し、人工呼吸器が必要な状態となった50代の患者の容体について医師が語りました。

国際医療福祉大学成田病院 救急科部長 志賀隆 教授

「ネーザルハイフロー、高流量酸素をやっているのですが、もう限界なんです」

成田空港に近いこの病院では、空港の検疫で感染が分かった人の治療を数多く担ってきました。今年4月、救急科の遠藤拓郎医師は、これまでとの明らかな違いに驚いたといいます。肺に炎症が起こっていることを示すCT画像を見ながら、その怖さを教えてくれました。

国際医療福祉大学成田病院 遠藤拓郎医師

「1年間新型コロナの診察にあたって、肺炎の症状を診てきました。デルタ株の患者は、これまでとは明らかに違いました。CTで肺を見た時に、発症から4日目でここまで症状が進んだ例は見たことはなかったのです」

これまで、発症から入院治療が必要になるまでの目安は7日程度といわれていました。しかし、遠藤医師が診察したデルタ株の感染者では、平均3日ほどで、入院しなければいけない状態にまで肺炎が進行していました。

国際医療福祉大学成田病院 遠藤拓郎医師

「デルタ株では発症から数日で重症な肺炎に至っている人がいます。アルファ株(イギリスで確認)も、従来の株に比べて進行が速いと思ったが、デルタ株はそれにも増して速い」

<2倍もの感染力を持つデルタ株とは>

WHO=世界保健機関などによると、デルタ株は2020年10月にインドで初めて報告され、インドでの爆発的な感染拡大の原因のひとつとみられています。

その脅威は世界に広がり、現在は130以上の国や地域で報告され、WHOでは、最も警戒度が高い「VOC=懸念される変異株」に位置付けています。国内外の研究では、従来株のウイルスに対して2倍程度、アルファ株に対して1.5倍程度、感染力が強まっています。中国のグループの研究では、デルタ株に感染した人は、体内から検出されるウイルス量が、従来株のウイルスの1200倍多かったと指摘しています。

<世界の研究で明らかになるデルタ株の実態>

デルタ株の脅威はどれほどなのか? イギリスで、デルタ株がこれまでよりも症状が重くなりやすいことを示すデータが発表されました。

イギリス・スコットランドでの治療・入院の状況をエジンバラ大学アジズ・シェイク教授らがまとめたものです。およそ2万人の感染者を対象に調べたところ、入院が必要になる人の割合が、アルファ株と比べ、デルタ株は1.85倍に高まっていました。

アジズ教授は私たちのインタビューに「デルタ株に感染した患者は入院治療に至るリスクが明らかに高まっている」と語り、こう警告しました。

エジンバラ大学アジズ・シェイク教授

「イギリスではデルタ株は出現して数週間のうちに他の変異ウイルスを圧倒して優勢になり、定着しました。非常に強力なウイルスです。もしイギリスでのワクチン接種がここまで進んでいなければ、医療システムが崩壊の危機に陥って多数の犠牲者がでていたかもしれません」

<デルタ株 症状悪化の謎を追う>

なぜデルタ株は、症状が重くなりやすいのか? 東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授たちのグループでは、実験を通じて、そのメカニズムを探っています。

佐藤さんたちが注目したのは、デルタ株が持つ「P681R」という遺伝子の変異です。この変異がどんな影響を与えているか調べたところ、従来株よりも、より多くの細胞を壊していくことがわかりました。

新型コロナウイルスが感染した細胞は、その周りの細胞を取り込んで塊のようにくっつき合いながら、死んでいきます。このとき、「P681R」という遺伝子変異をもつデルタ株に感染した細胞は、周囲の細胞とよりくっつきやすくなり、多くの細胞を巻き込んで大きな塊となりながら死んでいくことがわかったのです。

東京大学医科学研究所 佐藤佳准教授

「P681Rという遺伝子の変異を持っていると、感染した際、これまでは起きなかったような細胞の融合やダメージが起こることは十分想像できる。より重症化につながりやすい可能性があると思います」

<今も“変異”を続ける新型コロナウイルス>

新型コロナウイルスは、今も次々と遺伝子に新たな変異が起こり続けています。

8月5日。鹿児島県は、「新たな変異を獲得したデルタ株を発見した」と発表しました。デルタ株が持つ遺伝子に、「E484K」という遺伝子の変異が加わり、免疫の攻撃をよりすり抜けやすくなっている可能性が指摘されています。

さらに、いま南米で猛威をふるっている「ラムダ株」。日本でも、7月20日に羽田空港の検疫所で、ペルーから到着した人の感染が確認されました。このラムダ株は、ワクチンの効果を低下させるおそれがあると警戒されています。

次々と出現する新たな変異ウイルス。東京大学医科学研究所の佐藤准教授は、「変異にはまだまだ終わりがなく、監視を続けていく必要がある」といいます。

東京大学医科学研究所 佐藤佳准教授

「新型コロナウイルスは“進化”する余力をまだ残している。広がっていく中で毒性は弱まるという予測をみんな持っていたが、この一年みてきたなかでは、明らかに弱毒化の方向に向かっていない。新型コロナウイルスが現れた当初には持っていなかったような、いろいろな能力を獲得して広がっている。間違いなく、これで終わりではない」

<休職・転職70人 20代から30代にも深刻な後遺症>

もうひとつ、新たにわかってきた新型コロナウイルスの脅威が「後遺症」です。

感染したときは無症状や軽症だった人の中にも、その後、深刻な後遺症に苦しむ人が少なくないことがわかってきました。しかも、20代から30代の若い世代にも多いことがみえてきたのです。

聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)では、ことし1月から総合診療科が中心となり、後遺症外来を設けています。7月末までに受診した患者は170名を超えました。

そのほとんどが感染したときは軽症だったにもかかわらず、後遺症に悩み、なかには半年以上にわたって苦しんでいる人もいます。症状もけん怠感、嗅覚・味覚異常、呼吸困難、不安、頭痛、脱毛、めまいなど、多岐に渡っています。

この外来を受診したおよそ170人のうち、8割が20代から50代の働き盛りの世代。そして、その半数近くにあたる70人が、「後遺症によって休職や転職を余儀なくされている」という深刻な実態がわかってきました。

聖マリアンナ医科大学病院・土田知也医師

「後遺症になって働けなくなることが非常に問題です。お金の問題もそうですが、仕事にやりがいを感じていた方が、働けなくなって精神的に落ち込んでいる方も数多くいらっしゃいます」

20代の女性は、感染後の症状は軽症でしたが、その後、後遺症に苦しめられています。看護師として働いていましたが、周囲にけん怠感を訴えるものの理解されず、休職せざるを得ませんでした。立ち上がっただけで、脈が異常に速くなる体位性頻脈症候群(POTS)を患っていることがわかりました。

30代の男性は、感染した際、38度の熱が一晩だけ出ましたが、軽症で済みました。しかし、療養先のホテルから帰宅を許された後、異変が始まりました。動悸(どうき)や激しい息切れに襲われたのです。それ以上にショックを受けたのが、「記憶力の低下」でした。事務職として細かい数字を扱う専門的な仕事をこなしていた男性でしたが、これまで使っていたデータが理解できなかったり、依頼された仕事を度々忘れてしまったりして、同僚からも、「最近、物忘れが多い」と指摘を受けるようになったというのです。

30代の男性

「脳にもやがかかったようにボーとして、周囲から物忘れを指摘されたり、自分が話していたことも忘れたり、ああ、だめだなって・・・これ以上、迷惑をかけられないと退職を決断しました」

貯金を切り崩して生活する日々。感染から7か月たった今も、けん怠感や物忘れに悩まされています。男性は、「若いから大丈夫と思わないでほしい。自分と同じような経験をする人が増えてほしくない」といいます。

30代の男性

「普通にまた仕事ができるようになるのか、そういった不安や怖さがどうしてもあります。もう半年、いろんな症状が出て本当につらい。ひとりひとりが気をつけてもらえればと思います」

<“ブレイン・フォグ” の謎を追う>

こうした新型コロナウイルスの後遺症は、海外では「ロング コーヴィッド(Long COVID:長いコロナ)」と呼ばれています。中でも、いま、世界中で研究が始まっているのが、頭にもやがかかるような「ブレイン・フォグ(Brain Fog:脳の霧)」と呼ばれる症状です。

最新の研究から、そのメカニズムや広がりが次第に明らかになってきています。アメリカ・シカゴにあるノースウエスタン大学では、新型コロナの後遺症を診るクリニックに来た人の中で、肺炎などの症状はなく、発熱やせき程度の軽症で治った人たちの後遺症を調べました。すると、ブレイン・フォグと診断される人が81%にも及びました。

ノースウエスタン大学 イゴール・コラルニク教授

「注目すべきは、発熱やせき程度の軽い症状で治った人たちの多くにブレイン・フォグがみられたことです。しかも、時間がたっても回復の程度は10%から20%程度にすぎません。知っておかなければならないのは、今はまだこの症状の全貌がわかっておらず、今後大きな社会問題になりかねないということです。後遺症に苦しむ人が世界で数千万人にのぼることになれば、世界の労働人口に大きな影響を及ぼしかねません」

ブレイン・フォグの症状を訴える患者では、実際に脳の機能の低下が生じているという事実が最新の研究で確認されました。

低下が認められたのは「認知能力」です。イギリスでは市民8万1337人を対象に認知能力テストを実施。参加者のうち1万2689人は新型コロナに感染したことがある人でした。テストの結果を見ると、感染歴がある人は認知能力のスコアが、感染したことのない人と比べて低下。新型コロナの症状が重かった人ほど認知能力の低下は大きく、とくに「論理的思考」や「問題解決」などの項目が下がっていました。

研究チームのアダム・ハンプシャー医師は「患者が自覚するブレイン・フォグの症状と、今回の認知能力テストの客観的なデータはぴったり一致するといっても過言ではない。密接な関係性が明らかになった」と語り、とくに驚いた点を、こう指摘しました。

インペリアル・カレッジ・ロンドン アダム・ハンプシャー准教授

「自宅での療養で新型コロナが治った人たちや、軽い症状で済んだ人たちにも、認知能力の低下がみられたことにとても驚きました。この能力の低下がどのくらい長く続くのか、まだわかっていないのです」

<脳にダメージを及ぼすメカニズム>

おもに肺などの呼吸器に感染する新型コロナウイルスが、なぜ脳の機能にまで影響を及ぼすのか?そのメカニズムも次第に明らかになってきました。米スタンフォード大学の研究チームは、新型コロナで亡くなった人たちの脳を詳しく調べました。すると、脳の神経細胞を支える「グリア細胞」と呼ばれる脳細胞が炎症を起こし、周りの組織を破壊していることが確認されました。脳内には新型コロナウイルスは存在していませんでした。

スタンフォード大学 アンドリュー・ヤン研究員

「脳の中で炎症が起こっていた部位は、人類が進化で獲得した高度な能力、つまり認知機能や実行機能にとって極めて重要な部分でした。この炎症が、ブレイン・フォグやけん怠感など、多くの人たちが訴える後遺症の説明になるのではないかと思います」

研究チームは、次のようなメカニズムを考えています。

新型コロナウイルスが肺の細胞に感染し増殖すると、それを攻撃しようと、私たちの体の免疫細胞は大量の「炎症物質」を放出します。その炎症物質が血液に乗って脳にも運ばれ、感染していない脳の細胞でも炎症を起こしてしまう、というものです。

スタンフォード大学 アンドリュー・ヤン研究員

「まだ他のメカニズムもあるかもしれない。今後、軽症だった人でも研究を進めて、新型コロナウイルスが脳にまでダメージを及ぼすメカニズムを明らかにしたい」

デルタ株による感染急拡大に私たちはどう立ち向かえばいいのか。

国内外の医療現場、そして、研究の現場での闘いが続いています。

※さらに詳しい情報は「特設サイト 新型コロナウイルス」

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