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景気回復VSインフレ ~どうなる私たちの暮らし~

NHK
2021年11月29日 午後0:22 公開

(2021年11月27日の放送内容を基にしています)

今さまざまなものが値上がりし、私たちの暮らしが脅かされています。ガソリン代や電気代なども値上がり、年間4万6000円の負担が増えるとも試算されています。じわじわと広がる物価上昇が、景気回復の妨げになろうとしているのです。さまざまな要因が複雑に絡み合って起きている経済の異変。景気の行方そして私たちの暮らしはどうなっていくのか解き明かしていきます。

<食材が高騰 飲食店の苦境 背景に中国 し烈な争奪戦>

飲食店経営 西嶋芳生さん「人の流れというのは、だいぶ戻ってきたかなという気がするんですけど、原材料も上がっていって第6波はこっちでしたね」

「手頃な価格でおなかいっぱい」を売りにしてきた飲食店。一時は1日の売り上げが3割に減りましたが、緊急事態宣言も明け、およそ7割まで回復しています。飲食店を2店舗経営する西嶋芳生さん。業績回復が見えてきたやさきに、思いも寄らぬ原材料の高騰が起きました。

1000円をきる手頃さとボリュームを売りにした、いちばん人気の豚バラ丼のセット。豚肉の価格がこの1年で、1.2倍に上昇しています。少しでも安く調達できないか、新しい卸業者を探してきました。しかし、色よい返事はもらえません。

肉卸業者「今までにないぐらい豚バラが高騰したり、冷凍の豚肉系はすべて今までにないくらいの仕入れ値になってしまって。仕入れが上がってしまうと私たち卸業者も生活があるので上げざるを得ない」

西嶋さん「お先 真っ暗ですね」

最近売り上げが伸びてきたこともあり、今のところ700万円の黒字。しかし、豚肉などの値上がりで、年間200万円のコストが増える見込みです。黒字が維持できるのか不安を募らせています。

西嶋さん「本当に厳しいですよね。今まで経験したことがないです。この値上がりは。何かが上がれば何かが下がることもあったんですけどね。何かが下がったって何かあったかな。社長のやる気が下がったかな」

私たちの家計にも響く豚肉価格の高騰。その原因をたどっていくと、行き着いたのが一足早く景気を回復させた中国です。GDPの伸び率は、日本がたびたびマイナスとなる中、中国はプラスを維持し経済を成長させています。

消費が盛り上がる中、需要が拡大しているのが豚肉です。中国は、世界で取り引きされる豚肉のおよそ半分、528万トンを輸入(2020年)。世界の豚肉価格を押し上げています。

中国のレストラン店主「豚肉の価格は上がったけれど、お客さんも多いよ」

豚肉の消費が増えていることで、別のものも値上がりしています。餌となるトウモロコシです。世界最大のトウモロコシの産地アメリカへ向かってみると、中国が買い付けを増やし、し烈な奪い合いとなっていました。トウモロコシは、家庭で使う油やビールの原料にも使われています。世界中で需要が急拡大する中、コロナ前の1.6倍に値上がりしています。

大手商社 アメリカ駐在員 瀬川達也さん「毎年作ってくれる限り、われわれは買い続けます」

トウモロコシ農家「世界的に今トウモロコシの需要が旺盛だ。加えて自分たちも肥料・燃料・農薬、すべての価格が上昇していて、それをかぶらなきゃいけない。農家も売値を上げざるを得ないのさ」

瀬川さん「われわれも1円でも安くトウモロコシを買いたいという思いはありつつも、やっぱり競合がいくらで買っているのか、もちろん競合がわれわれよりも高い価格で買っているのに、われわれが安い価格で買えというのも、非常に難しい。結局、今日を逃すと明日さらに(価格が)上がりますというふうになると、どうしようもなくなってしまうので、多少は目をつぶってでも、今は買わざるを得ない」

トウモロコシの値上がりの原因は、ほかにもあります。輸送費です。海外から運んでくるための船もし烈な奪い合いとなっていました。

ここでも日本の相手は中国。圧倒的な量の船を押さえようと動いています。この1年で輸送費は2.5倍にまで上昇しました。

用船担当者「昨日の相場もまた、船の先物相場5%上昇しましたし、中国は追加で船の確保が世界各地で行われるという噂(うわさ)も出ているので、強材料しかないというぐらい強いですね」

この日、商社の担当者は取引先の飼料メーカーに「卸値はさらに上がりそうだ」と伝えました。

担当者「結論からかなり前月対比でいうと“上げ”になります。イメージで、前月からの対比で10%ぐらい少なくとも。10%ですね」

穀物担当 杝 拓郎さん「世界的に物価上昇というか、コスト上昇というのはもう起こっている話なので、この波自体は、トレンドは変わらない。食料自給国でないわれわれとしては、非常に危機感は持たなければいけない状況になるかなと」

世界で次々と起こる値上げの連鎖。そのあおりを受け苦しんでいる飲食店経営の西嶋さんのもとに、また値上げの連絡が入りました。

この日は食用油の価格の通知。9月に3度目の値上げがあったばかりです。

西嶋さん「これはちょっと、本当きついな。1.6倍か。最近の値上げ要請ペース、すごいよね」

食用油やマヨネーズも値上がりしています。大豆など原料となる穀物の価格が上がっているからです。そこには、食の需要とは別の思惑がありました。大量の「投資マネー」が価格を押し上げているのです。

<穀物が高騰 流れ込むマネー  “コロナ対策”の金融緩和で>

ヘッジファンド マネージャー トム・マンズリーさん「今は大量のマネーがあふれています。私たちは常に利益を上げるチャンスを探しています。市場に混乱があればそれを利用するのです」

アメリカ・ニューヨークのヘッジファンドのマネージャー。このファンドでは、総額13兆円の資金を運用しています。株などに加えて、穀物価格に連動する金融商品にも投資しています。

トム・マンズリーさん「投資に対して大幅なリターンを得るすばらしい機会です」

アメリカでは、穀物や原油の先物価格を反映したさまざまな金融商品が売買されています。例えばこの商品。

コロナを受けて価格が急落しました。ところがその直後、急激に買いが入ります。投資マネーが流入し続け、その量は3倍以上になりました。それに伴って価格も2倍以上と大きく値上がりしたのです。こうしたことが、さまざまな金融商品で起きました。

トム・マンズリーさん「“コロナ割引”で投資商品を買うチャンスでした。その後、巨大な需要の波が来るのは明らかでした。パンデミックのおかげです」

穀物価格を押しあげる大量のマネー。多くの投資家が殺到した背景には、コロナ対策で行われた空前の規模の金融緩和がありました。アメリカの中央銀行にあたるFRBはリーマンショックの時の2.5倍にものぼるマネーを供給。あふれるマネーが株や債権以外の市場にも流れ込むことになったのです。

トム・マンズリーさん「多くのお金が短期間に経済に注入されたのです。彼らは無限のマネーを持っているということです。私たちのファンドは依然として大きなプラスです。私たちは、今年は毎月プラスになっています」

<飲食店“1000円のカベ”  デフレ下 賃金が上がらない>

世界中の需要拡大そして投資マネーの思惑。その影響がのしかかっている飲食店経営の西嶋さん。赤字を防ぐためにはメニューの価格を上げたいところですが、踏み切れずにいました。

デフレが続いた日本で、ランチが1000円を越えないように我慢してきました。現在は951円。値上げしたら、客が離れていくと心配しています。

客(30代 会社員)「月々使えるお金にも限界があるので、1000円いくとちょっと抵抗感でちゃうなというのもありますね。高いなっていう」

西嶋さん「ランチ1000円という見えないガラスの天井みたいなのがあって、なかなか(1000円を)越えたときのお客さんの顔を見るのがどうかというのは、ちょっとまだふんぎりのつかないところではありますね」

価格を上げられない分、西嶋さんは自分の給料を減らしてやりくりしてきました。かつては10店舗まで拡大し給料は130万円ありましたが、現在は31万円あまり。

西嶋さん「なかなか厳しい部分もあります。徐々に徐々に下げていっているというのが今のところの現実ではあります。でも自分の責任なんでしかたないです」

値上げに踏み切るべきか否か。西嶋さんは、重い決断を迫られていました。

<景気をよくするために・・・ 賃金が上がらない日本>

飲食業にとどまらず、日本全体が原材料価格の高騰に苦しんでいます。企業同士が取り引きするものの価格は、40年ぶりの記録的な上昇率となりました。一方で、消費者が買うものやサービスの価格は、上昇はしていますが大きな開きがあります。企業が値上がり分を消費者に転嫁できず、自らが負担していることを表しています。

景気を良くするには、原材料が上がった分、値上げをして利益を出し、賃金も上げる好循環を作ることが必要です。しかし、日本人の賃金は、欧米諸国が上がっているにも関わらず、この30年ほとんど上がっていません。

賃金が上がらなければ、私たちはなかなか景気がいいと感じることはできません。

<世界的なモノ不足 なぜ? メーカーの苦境 最前線で>

今、景気の行方を左右するもうひとつの異変が起きています。世界的な「モノ不足」です。

工作機械メーカー社長 「まったくの異常事態です。今までこんなこと一度もありませんでした。偉そうなことを言うと、日本全体のものが作れないという状況になっているのではと思っています」

好調な海外経済を追い風に、利益がコロナ前の水準に戻っていた工作機械メーカー。今月上旬、工場に並んでいたのは、部品が足りず未完成のままとなっていた20点の製品でした。

工作機械とは、自動車や電機メーカーの生産ラインを作り上げるのに必要な業務用の機械です。景気がいいと、この機械が多く発注されるため「景気のバロメーター」ともいわれています。

担当者「日々入らないものが増えています。端子台、電源、圧着端子、樹脂を使ったリレーソケット、ブレーカー、ラインフィルター」

なぜ、いくつもの部品が手に入りづらくなっているのか。部品を納めている会社が、深刻な実態を明かしてくれました。

静岡制御 社長 海野一人さん「まったくめどがたたないのがいくつもあるんだよ。何もかもない。全然だめだよ。どこへ聞いてもない。やりようがない。商売にならないっていうわけだ」

見せてくれたのは、取引先が示した納期のリストです。部品の中には、1年先まで手に入らないものもありました。その理由は、今も収束のみえないパンデミックの影響など、さまざまな要因が組み合わさっているといいます。

海野さん「複雑に関係していて、まずコロナで東南アジアがロックダウンしているでしょ。こういう単価の安いものは海外で作ってるから、東南アジアで。それが全然間に合わない。それもあったし、今年2月にアメリカのテキサスの寒波で、世界中のケミカルメーカーの工場があるんですけど、それがダウンした。樹脂が間に合わなくなった。だけじゃなくて今、中国は電気がないから工場が止まっちゃっている。1週間で2日しか稼働しないとか、いいところでも週3日しか動かない」

中でも困っているのが、世界的な半導体不足です。

海野さん「5Gだとか巣ごもりでパソコンの需要が増えたり、いろいろ電子機器を使う需要が増えていて。いちばん大きいのは車ね。ものすごい電子部品の塊でしょ。(車が)最優先だから。われわれの所は、その後の後の後でしょ。めちゃくちゃ厳しいね」

部品が届かず出荷ができなければ、せっかくの業績を伸ばせるチャンスを逃してしまいます。今、工作機械メーカーでは、世界中のサイトを検索して、足りない部品を補おうとしています。

工作機械メーカー 担当者「モーターを制御するための電源です。海外から取り寄せているのは今回が初めてです」

アメリカのサイトでなんとか探しだした部品が届きました。

工作機械メーカー 担当者「相当違うよね。容量が違うからね。これで取り付けて動作確認を」

果たして信頼できる部品か、納得できるまで何度も試します。これまで通りの品質を保てなければ、出荷できません。綱渡りの状況が続いています。

<上向く個人消費 今後は 原油価格の動向がカギ>

人やものの流れを止めたコロナショック。そこからようやく動き出した今、企業の業績に加え景気の鍵を握るのがGDPのおよそ半分を占める「個人消費」です。消費者の買い物への意欲は、最初の緊急事態宣言が出たとき急落。最近になってようやくコロナ前の水準まで戻ってきました。

しかし、専門家は急激に値上がりしてきた原油価格の影響が気がかりだといいます。

第一生命経済研究所 永濱利廣さん「エネルギー価格が上がれば、当然ガソリンの値上がりということを通じて、移動の負担も増えるということになると、せっかくのリベンジ消費といわれる行動制限緩和による消費の回復の勢いを、若干止めてしまう可能性があるというリスクはありますね」

<大打撃から復活へ 航空業界 環境対策が経営課題に>

個人消費が回復し、景気が上向くことに期待をかけているのが航空業界です。

航空会社 客室乗務員「やはりお客様が本当に戻ってきてくださるのか不安ですし、終わりが見えないような気がして不安はあったりします」

一時は乗客数が1割以下に減ったこの航空会社では、ようやく赤字脱却の兆しが見えてきました。国内線では徐々に乗客が戻りはじめ、来年3月には、およそ9割まで回復を見込んでいます。

日本航空 社長 赤坂祐二さん「本当に異常な状態で、がらんとした見たこともないような空港の風景でしたけれど。今ようやく元に戻ってきた感じがします」

今、力をいれているのが行動制限の解除で回復が期待できる観光客の掘り起こしです。旅行会社の人を招待し、飛行機を利用する新たなツアーを売り込んでほしいとPRしています。

JALJTAセールス 吉濱千佳子さん「勝負時です。ここ1か月2か月で頑張って、来年につないでいきたいと思っています」

少しずつ光の見えてきた航空業界。ところがここにきて、環境問題が経営に重くのしかかっています。ヨーロッパでは、二酸化炭素を大幅に削減する「代替燃料」を義務づけようという動きがあり、達成しないと運航できないリスクがあります。そのため、2030年までに燃料の10%を代替燃料に切り替える目標を打ち出しました。しかし、そのコストは、従来のジェット燃料の数倍かかります。さらに、燃費のいい新型機への投資も必要です。その額、1機につき数百億円。再来年までに13機を導入する予定で大きな負担になります。環境問題への対応に伴うコスト。今、脱炭素に関連する動きで物価があがる「グリーンフレーション」が起きています。燃料だけでなく、太陽光発電に使う「銅」や「アルミニウム」などの素材も値上がりしています。企業は環境対策に伴うさまざまなコストアップに対応しなければならないのです。

赤坂さん「これはもう何がなんでもやらなきゃいけない。これからは地球環境問題がいろいろなリスクの源になる。これが発端になって、いろいろなリスクにつながっていくようなそんな心配をしています」

<米31年ぶりの物価上昇率   “住宅バブル”社会のひずみ>

日本の景気を左右する物価の上昇。しかし、世界では、日本とは比べものにならないほど上昇しています。中でも激しいのがアメリカです。消費者物価の上昇率が先月6.2%を記録。31年ぶりの高い水準になっています。これほど上がると何が起きるのか。アメリカでは今、社会のひずみが生まれてきています。

いびつな状況を招いている背景のひとつが、住宅価格の急激な値上がりです。今年42年ぶりという異常な上昇率を記録しました。住宅バブルとも呼ばれる中、個人の間では投資で稼ごうという動きが広まっています。この男性は、ふたつ目の投資物件を探しています。

穀物などの金融商品に投資していたニューヨークのヘッジファンド。住宅ローンを組んで投資する人が増えていることに注目し、それに関連する金融商品への投資を加速。FRBによる大量の緩和マネーが市場を押し上げ、大きな利益を上げてきました。

ヘッジファンド マネージャー トム・マンズリーさん「間違いなく今は住宅の需要が増えています。それは今後も続くと思います。住宅ローン関連の金融商品に投資すると、より高いリターンを得られます。正しく投資すればね」

投資で利益をあげる人がいる一方で、住まいを失いかねない人が出始めています。

賃貸で暮らす子供4人の6人家族です。

月の収入は4000ドル。アメリカの平均的な収入から少し低い程度です。物価が急激に上がる中、家賃もコロナ前から1万円以上あがったため、この家を出て行くことも考え始めています。

住人 「給料は増えないのに家賃だけ上がっていくの。今の経済状況では家賃は払えないわ」

アメリカの元財務長官、ローレンス・サマーズ氏が注目しているのは、アメリカの物価と賃金の動向です。これまでとは違って、物価の急激な上昇に、賃金が追いつかない恐れが出てきています。このままでは暮らしが厳しくなり、日本のように経済が停滞する可能性があると指摘します。

アメリカ 元財務長官 ローレンス・サマーズ氏「今のような状況が続いていくと、アメリカなどほかの国でも日本と同じ問題に直面する可能性が高いと考えています。インフレが加速し、賃金上昇を上回るペースで物価があがれば、人々の生活が苦しくなるうえに、失業という問題も出てくるでしょう。それは重大なリスクだと思います。放っておくとコロナが収束してもインフレは続いていくので注意が必要です」

<大量の緩和マネー縮小へ 年金運用“転換点に”>

コロナ禍の景気を支え、世界にインフレを起こす一因となってきた大量の緩和マネー。その風向きが、今変わろうとしています。

FRB パウエル議長「経済は目標通りに前進している。量的緩和を縮小していくことを決めた」

FRBは危機対応からの転換を決め、マネーの供給を徐々に減らすと発表したのです。金融政策が大きくかじをきることは、私たちの暮らしにどのような影響を与えるのか。

年金や退職金の運用を手がける資産運用会社です。緩和マネーによる株高の恩恵によって、半年で資産を1兆3000億円増やしました。コロナショックからの回復を後押ししてきたマネーの流れが変わることで、予測が難しい新たなステージを迎えているといい、担当者の間でも景気の行方に対する見方が分かれています。

りそなアセットマネジメント 蔦谷智之さん「非常にカオスだと思ってまして、やはり大事なのは過去の思考の枠組みを漫然と継続するというのは非常に危険な投資スタンスではないかと思ってまして、転換点にきていると思っています」

<苦境打開へ それぞれの挑戦 どうなる私たちの暮らし>

景気は回復できるのか。インフレが今後どうなるのか。先行きが見通しにくい状況が続いています。それでも、それぞれの現場では、苦境を乗り越える動きが始まっていました。部品が調達できず苦しんでいた工作機械メーカーは、先週、主力製品を展示会に出品しました。パンデミック後、初めて行われた展示会です。新たな設備投資を検討している企業が、次々とたずねてきます。ここにきて部品不足が解消し、生産を持ち直す動きもでてきています。

工作機械メーカー 営業担当者「問い合わせ件数もかなり多くなってきていますし、ここにきて次の展開が見えてきたというお客様も多いですから、今後が楽しみだと思います」

工作機械メーカー社長 野賀 美作さん「お客さんがほしいという時間で供給することが使命だと思ってやっていますし、増えてきている需要に応えたい。製造業の景気も上がってきている。なんとか一緒に乗っていきたい」

コロナショックでフライトがほとんどなくなり、航空会社からほかの企業へ出向していた人たちも、再出発のときを迎えています。客室乗務員の渡辺瑶子さんは、去年から11か月間、通信会社へ出向していました。今月(11月)5日、渡辺さんは出向を終え、現場に復帰することができました。およそ1年ぶりの本来業務です。

航空会社 客室乗務員 渡辺瑶子さん「実際に飛んでみたら、やっぱり楽しくて、お客様とお話しして、ダイレクトに反応が返ってくるのは、やっぱり帰ってきたなという感じがしましたし、また元気にみなさんが笑顔で飛行機に乗っていただける世界がきたらいいなと思いました」

食材の高騰に苦しんできた飲食店経営の西嶋芳生さんは、ついに大きな決断を下しました。創業以来20年以上にわたって死守してきた「1000円の壁」を越える値上げです。

飲食店経営 西嶋芳生さん「なかなか1000円超えていくのは、ちょっと厳しいなと思っていたんだけど、1000円超えるっていうところでトライしてみたい。トライというか、せざるを得ない」

店長「僕も価格据え置きはなかなか厳しいので何か付加価値をつけて、バラ丼といううちのいちばん推しの商品なので提供していきたいなと同じく思います」

そして迎えた値上げの当日。12時を過ぎると、店内は徐々に混み合い始めました。

客(20代 会社員)「おいしいから、1000円以上払ってもたぶん来る」

客(20代 会社員)「こういった情勢ですけど、頑張ってほしいなと思いますね。もちろん、また近いうちに来させていただきたいなと思います」

値上げをしても、売り上げは落ちませんでした。

西嶋さん「デフレをずっとこれだけやってきて、豊かさってみんな感じているのかなって。日本がこんなにおいしくて、こんなに安いんだってことは、誰かの何かしらの犠牲があって、その価格が生まれているのかなと自戒をこめて思っていたので。1000円の壁を越えてしっかりとした利益をいただかないと、働いているスタッフたちも疲弊してしまいますし、みんながよくなっていかないと長続きしないんで」

<賃金アップで日本モデルを 長年の課題を解決できるか>

長年賃金が上がらず停滞が続いてきた日本。世界的なインフレが激しさを増す今、このままでは暮らしが厳しくなるばかりです。サマーズ元財務長官は、日本が長年かかえてきた課題を今こそ解決すべきだと指摘します。

アメリカ 元財務長官 ローレンス・サマーズ氏「日本がまず手をつけるべきことは、企業が賃金を引き上げられるように促していくことです。人々が今まで以上に豊かさを感じることができるように、日本政府は財政支出を増やすことができるはずです。それに減税する余地もあると思います。世界は今、(現在の)日本のように経済の停滞とインフレが同時に起きるリスクがあります。ですから日本が長年の課題を乗り越えることができれば「日本モデル」がとても有効なモデルになる可能性を秘めています。簡単ではないですが、最も重要なことは問題を受け止めそこに立ち向かう決断を下すことです」

長く経済の停滞が続いてきた日本に、突如押し寄せてきた世界的なインフレの波。日本は逆境を乗り越え、景気を回復させることができるのか。それは賃金という長年の課題を解決しなければ、実現できないことが見えてきました。停滞が続くのかそれとも豊かさを感じられる社会を再び作れるのか。将来を決める大事な瞬間を迎えています。