恐竜超世界2 後編~恐竜絶滅の“新たなシナリオ”~

NHK
2023年4月13日 午後0:30 公開

番組のエッセンスを5分の動画でお届けします

(前編はこちら)

(2023年3月26日の放送内容を基にしています)

今から6600万年前、そこは進化の絶頂を迎えた恐竜たちが支配する世界だった。

ある日、現在の北米の沖合の海に、直径10kmもの隕石(いんせき)が衝突。

激しい爆風。そして瞬く間に世界各地を森林火災が襲った。その後、恐竜たちを襲ったのは、地球規模の寒冷化「衝突の冬」だ。舞い上がった大量のチリが、太陽の光を遮ったことが原因だ。

「隕石衝突が引き金になり、恐竜たちは一気に絶滅した」と、考えられてきた。

ところが今、「隕石衝突のあとも一部の恐竜は世代をこえて生き残っていた」と考える研究者が、現れ始めている。

小林快次 博士「恐竜は隕石の衝突で、一気にいなくなったというイメージがあります。ただそれが本当であれば、世界のどこかに大量の恐竜の骨が見つからないといけないんですけれども、今のところそういう証拠はないんです。また違った恐竜たちの絶滅ストーリーが行われたのではないかというふうに思います」

「違った恐竜絶滅のストーリー」とは?

その舞台は南半球、恐竜時代に存在した超巨大大陸・ゴンドワナだ。当時ここには多様な進化を遂げた恐竜が生きていたことが分かってきた。そのゴンドワナで、恐竜たちが災害を免れた可能性を示す痕跡が、次々と見つかっているのだ。

マット・ラマンナ博士「隕石衝突後、恐竜は明らかに何千年、何万年、あるいは何十万年も生き残ったと考えられます」

恐竜学者たちが思い描く「恐竜絶滅の“新たなシナリオ”」に、恐竜が大好きな小学生・ハルカが迫っていく。どんな答えにたどりつくのだろう。

隕石衝突から10時間ほどたった地球。

ここは南半球のゴンドワナ、今の南米・パタゴニアの付近だ。全長35mにもなる巨大恐竜・プエルタサウルスが、衝突の影響で発生した山火事から逃れようとしているようだ。きっとこのとき、地球の各地で、逃げ惑う恐竜たちの姿があったに違いない。

体の小さな若いプエルタサウルス2頭が、洞窟に駆け込んでいく。でも大人のプエルタサウルスは体が大きくて入れない・・・。2頭の若者に、この先、どんな運命が待っているのか。

<隕石の被害には“ムラ”があった?>

ハルカ「隕石衝突が起きて、山火事が起きて、どこかに隠れて助かった恐竜がいたとしたら…?」

ハルカの母親「山火事ってことは、食べるものも燃えちゃわない?一日に何十キロも食べるんじゃなかったっけ?プエルタサウルスって」

ハルカ「そっか・・・」

ハルカの父親「ただいま~」

ハルカの父親がびしょぬれで仕事から帰ってきた。

ハルカ「お帰り!パパ。びしょぬれだけど、どうしたの?」

ハルカの父親「駅を出たら急に雨が降ってきちゃって」

ハルカ「こっちは降ってないのに?でもパパの背中、ぬれてるところと乾いてるところがある」

ハルカの父親「リュックをしょってたから」

ハルカ「“ムラ”だ・・・。パパの背中のぬれてるところと乾いてるところ。隕石の衝突の被害にも“ムラ”があったはず。地球はもっと大きいんだから!」

「地球は大きい。だから隕石衝突の被害にもムラがあったはず」と、ハルカは言うのだ。

<最新研究から見えてきた 山火事の“ムラ”>

月惑星研究所のデイヴィッド・クリング博士が注目したのは、隕石衝突直後の森林火災だ。その原因は、衝突時に宇宙まで巻き上げられたチリや岩。これが地球に再び落ちたとき、大気との摩擦で「熱波」が発生し、深刻な森林火災を引き起こしたのだ。炎は瞬く間に世界中に広がり、恐竜の大半が焼け死んだとされてきた。

ところが、

この熱波が衝突地点からどのように広がったのかをシミュレーションしてみると、意外な結果がでた。熱波は時間がたつにつれ、広がっていく。ところが、熱波の届かない黒い部分も残っている(上画像)。

デイヴィッド・クリング博士「山火事は地球の全てで起きたわけではありません。地球全体で見れば、山火事の分布にはムラがあったのです」

<最新研究から見えてきた 被害の少なかった場所とは?>

さらに「山火事の被害が特に少ない場所があった」と指摘する研究者が現れた。隕石衝突を研究する世界的な権威、東京大学の杉田精司博士だ。

注目したのはユカタン半島に残る隕石衝突の跡。特殊な手法で衝突地点を解析すると、海底から直径180kmのクレーターが現れた(上画像・青部分)。よく見ると、上の部分が欠けている(上画像・矢印部分)。ここから衝突で溶けた岩盤などが、北西方向に流れ出ていたことが分かったのだ(上画像・オレンジ部分)。これは、隕石が南から北に向かって斜めに衝突した結果だという。このことが「北半球の被害を大きくし、反対に、南半球の被害を小さくした」と指摘する。

杉田精司 博士「南の方から巨大隕石が飛来して、その結果、非常に高温の巨大な火の玉のようなものが、北米の方に飛んでいくんですけれども、北米に限らず、ヨーロッパ、アジアも含めて、大きな影響を与えた可能性が高いです。(対して)この影響は、南半球は非常に限定的であったというふうに我々は考えています」

南半球には恐竜時代、ゴンドワナと呼ばれる超巨大大陸が広がっていた。

次第に分裂していったが、6600万年前にはまだ、現在の南米・南極・オーストラリアなどがつながっていた(上画像)。衝突地点から遠く、被害が限定的だった南半球の恐竜たちなら、生き延びるチャンスがあったのではないか。そんな可能性が見えてきた。

隕石衝突から数日後、洞窟へ逃げ込んだあの2頭の若いプエルタサウルスが姿を現した。無事だったのだ。少し赤みが強い方を「レッド」、もう1頭を「ハナ」と名付け、行く末を見守ることにしよう。

レッドとハナは、食べ物を探してさまよっている。山火事や熱波を乗り越えても、飢えに苦しめられたのだ。洞窟を出て、もう10日がたった。どこかに食べるものはないか・・・。

そこに現れたのがマイプ。当時、南米で最強を誇った肉食恐竜だ。

残る力を振り絞るレッド。しかし、群れからはぐれ衰弱したマイプに、自分よりも大きな獲物を襲う力は残っていなかった。

命拾いをしたレッドとハナだが、このまま食べるものが見つからなければ、死が待っている。

<恐竜の避難所はどこ?>

ハルカ「南半球のどこかに、隕石が衝突しても、セーフだった場所があるはず。そこに行けば、恐竜たちは助かるかもしれない」

ハルカの父親「それは“避難所”みたいな場所ってこと?」

ハルカ「そう。“避難所”。隕石は南から北に向かって衝突したから・・・そこからできるだけ離れるとしたら?・・・ここ!南極!」

そう、6600万年前の南半球はゴンドワナ大陸の名残りで、南米、南極などが、ひとつながりになっていた。最新研究から、当時の南極は比較的温暖で、肉食のインペロバトルや、植物食の鎧竜類(よろいりゅう)、ハドロサウルス類など、多様な恐竜たちが暮らしていたことが分かってきている。

「この南極のどこかに、恐竜の避難所があったのではないか」と、ハルカは言うのだ。

<南極付近で発見!恐竜の避難所の手がかり>

博物館の大林先生「今日のお目当てはティラノじゃないんだね?」

ハルカ「今、南極の恐竜に興味があって」

博物館の大林先生「南極で発見されたクリオロファサウルスってさ、このトサカがかわいいよね」

ハルカ「恐竜時代の南極って、暖かかったんですよね」

博物館の大林先生「今は氷に閉ざされているけれどね。恐竜が生きてたころは、緑が茂る季節もあったの」

ハルカ「じゃあ、もし隕石が衝突したあとに恐竜が南極にたどりついたとしたら、食べるものがあったってことですよね?」

博物館の大林先生「面白いものが届いたから見せてあげる」

博物館の大林先生「これ、何か分かる?南極やその周辺に、恐竜たちの避難所があった可能性を裏付ける証拠」

ハルカ「これが?」

博物館の大林先生「化石は、時をこえて届く手紙だから。恐竜たちに何があったのか、ちゃんと書いてあるの」

南極付近に避難所があった可能性を示す証拠。それが見つかったのは南米チリの最南端、南極にほど近い小さな島だ。化石が報告されたのは2015年。発見したのは、太古の植物を研究する世界的な権威、中央大学の西田治文博士だ。では、その化石の正体とは?

西田治文 博士「『シダ種子類』の化石ですね」

「シダ種子類」とは恐竜時代に栄えた植物で、6600万年前の隕石衝突で絶滅したと長年考えられてきた。ところが、西田さんが見つけた化石は、隕石衝突から少なくとも500万年もたった時代のものだった。

西田治文 博士「この化石が重要なのは、見つかったのが『新生代』という、隕石で恐竜が絶滅したと考えられている時代よりあとの地層から見つかったということです。南半球の南では、植物がかなり生き残っていた可能性がある。だからそれを食べる恐竜のような動物も、もしかしたら生き残っていたかもしれないということにつながるわけです」

この意見に、恐竜学者も賛同する。カーネギー自然史博物館のマット・ラマンナ博士もその一人だ。南極まで何度も恐竜化石の発掘に行っている世界的な恐竜学者だ。

マット・ラマンナ博士「恐竜の避難所の有力候補地は、南半球の特に南端部、南極。そして南米やオーストラリアの南部です。特に南極はまだ隕石が落ちたときの山火事の跡が見つかっていません。結果、恐竜は衝突後も、長ければ何十万年も生き残ることができたと思っています」

あの隕石衝突から、1か月はたっただろうか。レッドもハナも、体力はもう限界に近い。ところが…。

目の前に広がっていたのは、なんと、見渡す限りの緑。偶然にも、今のパタゴニアにあたる付近から南極までたどりついたのだ。現在は厚い氷に覆われている南極だが、隕石衝突前には多くの恐竜が暮らしていた。ここにはまだ、その恐竜たちが生き延びていたのだ。レッドたちは長旅を終え、ようやく安住の地にたどりついた。

ハルカ「じゃあ、南極まで行けば、食べるものがあったんですね」

博物館の大林先生「少なくとも、そのあたりまで行けたら、きっとね」

レッドたちが南極にたどりついて、数か月がたった。こちらは、鳥のように羽毛を生やした超小型恐竜(上画像)。大きさはカモメくらい。

こちらは、全身を硬いウロコで覆った鎧竜(よろいりゅう)、ステゴウロス(上画像)。

豊かな世界が残っている一方で、危険も残っていた。

全身を羽毛で覆われた肉食恐竜・インペロバトルは全長4m。恐竜たちの避難所では、隕石衝突前と変わらない恐竜たちの激しい生存競争が繰り広げられていた。

インペロバトルは、体が大きなプエルタサウルス・レッドにも襲いかかる。しかし、ハナが長い尻尾で一撃、インペロバトルを吹き飛ばした。苦難をともにしたレッドとハナは、いいパートナーだ。

隕石衝突からおよそ半年。さらなる災害「衝突の冬」が始まった。その原因は、衝突の影響で舞い上がった大量のチリ。それが厚い雲のように空を覆い日光が遮られた結果、地球が冷え込んでいった。

「衝突の冬」が始まったのは、隕石衝突後、数か月から半年ほどたったころだ。レッドたちがたどりついた南極の避難所も、例外ではなかった。気温はおよそ20度も低下。「この深刻な寒さが、恐竜に致命的な打撃を与え、一気に絶滅に追いやった」と、長い間考えられてきた。厳しい寒さで、木々は葉を落としただろう。それでも恐竜たちは枝や根を食べ、生きようとしたに違いない。

おや?レッドが雪面に顔を近づけ、何かを探しているようだ。そこには、植物が・・・。

プエルタサウルスのような大型恐竜は、その巨大な体自体が冷えにくく、体温を維持できたと考えられている。「衝突の冬」は短くとも数か月、長ければ10年ほど続いたという。

<化石の証拠で見えた 寒さに強い恐竜たち>

「『衝突の冬』さえも乗り越えた恐竜たちがいた」。その考えの背景には、近年、北極圏などで相次いで見つかった恐竜化石の存在がある。

北海道大学の小林快次博士は、恐竜時代に氷点下にまで気温が下がった北極圏、現在のアラスカで、「恐竜の子どもの足跡」を見つけたことを重視した。子どもが長距離を移動することは難しい。だから、この恐竜は北極圏で越冬していたと結論づけたのだ。

小林快次 博士「アラスカの研究をすると、雪原が広がるような厳しい環境でもさまざまな恐竜が越冬できたのではないかという証拠が、次々と出てきています。そう考えると『衝突の冬』が来ても、世代をこえて、例えば数十年、数百年単位で、恐竜が生き延びることができたのではないかというふうに思っています」

この日、レッドとハナはある場所にやってきた。火山活動が盛んな地熱地帯だ。

プエルタサウルスの仲間は、地熱を使って卵をかえす独特の繁殖術を持っていたことが分かっている。この繁殖術が、衝突の冬の世界での世代交代にも役立ったに違いない。

それから、およそ3か月。隕石衝突後の世界で生まれた新たな命。過酷な環境にさらされながらも必死に生き、レッドたちは命をつないだ。

そんなある日。暗く閉ざされていた空に晴れ間が・・・ついに、「衝突の冬」を生き延びたのだ。

ハルカの母親「『衝突の冬』も生き延びたとしたなら、あとは何だろうね」

ハルカ「絶滅しそうにないんだよね。調べれば調べるほど、恐竜ってこんなにすごかったんだなって!」

ハルカの母親「恐竜って、子どもと似てるなと思って」

ハルカ「人間の子ども?」

ハルカの母親「うん。生きる力にあふれていて、どんどん進化して、目が離せない」

ハルカ「私も?」

ハルカの母親「大きくなったよね。この間まで赤ちゃんだったのに。ハルカ、ありがとね」

ハルカ「なぁに?いきなり」

ハルカの母親「ハルカのおかげで、世界が広がった。この地面をずっとずっと掘っていったら、恐竜たちが生きていた時代につながるんだなって。そんなこと考えたこともなかった。地球の見え方が変わった感じ」

ハルカの母親「鳥って、恐竜の一部が進化したものなんだよね」

ハルカ「ママも進化してるよ」

ここは6600万年前、隕石衝突から何十年もたった南極の“避難所”。レッドは35mの大きさまで成長した。後ろにはハナや子どもたちもいる。その体に秘められた「生き抜く力」。これこそ、最新の研究から見えた隕石衝突後の恐竜の姿なのだ。そして実際、現代へと生き延びた恐竜がいる。そう、鳥だ。近年続々と見つかる化石の証拠から、鳥は恐竜の仲間から進化した生物、つまり恐竜の一種だったことが決定的になっている。

ではなぜ鳥は残り、他の恐竜たちは滅んでしまったのか?

隕石衝突は他にも、温暖化や海の酸性化などを引き起こしたというが、それが恐竜を絶滅に追いやったのか?

運命を分けたのは、いったい何だったのか?

恐竜絶滅の謎は、まだまだ尽きない。

<恐竜絶滅の謎 その探究は今も続く>

博物館の大林先生「ハルカさんって、私がよく知ってる子に似てるなと思って」

ハルカ「そうなんですか?」

博物館の大林先生「恐竜が大好きで、頭の中は恐竜のことでいっぱい。恐竜を知れば知るほど、どんどん調べたくなっちゃうの」

ハルカ「その子は今どうしてるんですか?」

博物館の大林先生「うーん、今ね、恐竜のことを調べるのが仕事になった」

ハルカ「その子って先生のこと?」

博物館の大林先生「正解」

ハルカ「恐竜のこと、分かるようになりましたか?」

博物館の大林先生「そう簡単には分からないから、恐竜は面白いんだよ」

ハルカ「大っきいですからね」

博物館の大林先生「そう、何かとデカい。恐竜がどうやっていなくなったかを知るのは、どうやって生きていたかを知ること。恐竜たちが残してくれた手紙を読み解いて、そこから学ぶことが、この星を受け継いだ私たちのミッションだと思う」

論文「死ななかった恐竜たち」。執筆者は、ジェームス・ファセットさん。

なんと「隕石衝突のあと5万年たった新生代の地層から、この大きな恐竜の骨が見つかった(下画像)」と報告したのだ。しかも発見場所は、隕石の衝突現場にほど近い北半球、アメリカのニューメキシコ州だ。その新生代の地層から、4種類の恐竜化石を発見。「新時代の王者として繁栄を始めたほ乳類と多様な恐竜たちが、少なくとも20万年もの間共存していた」。そう主張し続けている。

ジェームス・ファセットさん「隕石が地球に衝突したあと、壊滅的な状況だったことは誰もが知っています。しかしその後間もなく、植物がアメリカの各地でかなり豊かに戻ってきました。その植物を新生代の恐竜が喜んで食べ、それをティラノサウルスが襲う。そんな世界がまだあったと考えています」

この論文には反対する意見も少なくなく、今も議論は続いている。しかし、ここまで恐竜の力強さが明らかになっている今、すべてを否定することはできるのか?恐竜絶滅のシナリオは、これからも書き換えられていくに違いない。

デイヴィッド・クリング博士「6600万年前の恐竜絶滅の謎は、『地球最大のミステリー』の一つです。もしも私が50年後にタイムトラベルできたら、後継者が何を学び明らかにしたのかを見てみたいです。きっと恐竜絶滅のストーリーは、もっともっと興味深くなっているに違いないからです」

小林快次 博士「もしかしたら新しい説が生まれるかもしれない。恐竜絶滅はまだまだ研究することがいっぱいあるので、私も頑張りますけれども、若い次世代に一緒に参加してもらって、この『謎解きゲーム』を一緒にトライしてもらいたいと思っています」