メジャーリーガー大谷翔平 〜2023 伝説と代償 そして新たな章へ〜【前編】

NHK
2024年1月18日 午後5:30 公開

(2023年12月24日の放送内容を基にしています)

この男が、すべてを語る。大谷翔平、29歳。NHKのロングインタビューに応じた。

大谷選手「生活?ちょっと前にチームが決まって発表したので、そこからはスタジアムで、週に3~4回、トレーニングとランニングを兼ねて使わせてもらって、たまに大学とかでやらせてもらって、練習している感じ」

取材班「リハビリの具合というのはどうですか?順調ですか?」

大谷選手「リハビリも順調ですね。トレーナーと週2~3回、リハビリのメニューも兼ねながらミーティングしたり、回復もかなり順調にはきているかなと」

アジア出身選手初のホームラン王、史上初2回目の満票MVP。新たに生まれた、二刀流の伝説。

その代償も払うことになった、特別な一年。

大谷選手「全体を通してみると順調にきていたとは思う。ひじのケガもあって、試合に出られない最後の1か月ちょっとは、悔しいシーズンだったかな。勝った、負けた、打てなかったというのは、必ずあるものだとは思うが、やらないことには、それも出てこない。やっぱりフルシーズンで最後まで試合に出たかった」

そして、初めてのフリーエージェントによる移籍。

大谷選手「どの球団も、ミーティングさせてもらって直接会って話をさせてもらった球団は印象深い。結果的に断らざるを得ない、どこかに決めたら断わらないといけない。断った球団は出たが、すばらしい球団、すばらしい方々だった。このオフシーズンを通して、そういう人たちと話ができたというのは、個人的にはすごく大きかった。すごくいいミーティングができた。野球をやってきて、チームをいろいろ決めてきたが、その中でもいちばん迷ったと思う。それだけ熱意のある誘いをいただいた、どの球団も。ミーティングには地理的な問題もあったが、そこはもう全く関係なく、フラットな状態で話をさせてもらって決めた」

大谷翔平、激動の2023年。その一部始終が、いま、明かされる。

<飽くなき勝利への欲望からドジャースへ>

6シーズンを過ごしたエンジェルスを離れることになった大谷。右ひじの手術の後、愛犬を飼い始めた。

取材班「いま毎日はデコピン(飼い犬)のおかげで、すごく安らかですか?」

大谷選手「どうですかね、ふだん通りのオフって感じ。1人という感じでもないので、それが新鮮。一緒に起きて、ご飯食べて、寝るみたいな」

2023年12月に行われたドジャースへの入団会見。300人の報道陣に、50台以上のテレビカメラ。アメリカや日本だけでなく、世界中からメディアが集結した。その模様は全世界に配信され、実に7000万人が視聴したと言われる。

大谷選手入団会見「明確な勝利を目指すビジョンと豊富な球団の歴史を持つ、このロサンゼルスドジャースの一員になれることを心よりうれしく思うと同時に、今すごく興奮しています」

24回のリーグ優勝に、7回のワールドシリーズチャンピオン。メジャー屈指の名門球団・ドジャースは、いま黄金時代を迎えつつある。

2年連続ホームラン30本以上、恐怖の1番バッター、ムーキー・ベッツ。4年連続3割超え、強打の2番、フレディ・フリーマン。ともにMVPを獲得したことのあるスーパースターを擁し、11年連続でプレーオフ進出を果たしている。

そこに、総額1015億円(契約時のレート)の契約をひっさげ、大谷が加わることになる。

大谷選手「まだチームの本当の一員になれたわけではないと思うので、実際にドジャースタジアムでプレーして、活躍して初めてチームの一員になれるんじゃないかと思う。まずはことし1年、そういう1年にしたい。環境に慣れることもだが、どの球団にいても、勝ちたいというのは変わらない。このメジャーリーグでの6年間、ことしも含めた6年間でも変わらない。そこはこの先もずっと変わらない。チームは変わるが、そういう気持ちはずっと変わらない」

勝ちたいという思いは、異例の契約にも表れている。チームの強化費を捻出するため、契約総額の97%を後払いで受け取るという条件をつけたのだ。

大谷選手「ドジャースの選手もそうだが、大きい契約をする人たち、そのパーセンテージに関しては、選手たちに一任されている。大きい契約の人たちは、そういうのを使うことで、チームのペイロール(球団の総年俸)に柔軟性を持たせられる。よって、ほかの選手の契約にまわすこともできるし、ほかの選手の契約の額も、もちろん大きくなるというのがある。選手の側からできることももちろんあるし、何を目的にするかで、どういう契約になるかは変わってくる。そこは選手と代理人次第なのかな」

140年に及ぶドジャースの歴史は、「多様性」と「フロンティア精神」に彩られてきた。

第二次世界大戦直後、他の多くの球団が反対する中、メジャーリーグ初となる黒人選手、ジャッキー・ロビンソンを獲得。1995年には、野茂英雄が入団。アジア出身の選手がメジャーで活躍できる土壌を、築き上げた。

そして、今回、二刀流でベースボールの新たな歴史を切り開く大谷翔平を迎えることになったのだ。

8回目のワールドシリーズ制覇へ。「青い血が流れる」とも言われる熱狂的なファンからは、大きな期待とともに、厳しい視線も注がれることになる。

ドジャースファン「人生で最高の日だ!」

ドジャースファン「二刀流を見るのが待ち遠しい」

ドジャースファン「最高だよ。あの金額以外はね」

ドジャースファン「彼は大きな違いを生んでくれるんだ」

大谷選手「ファンの熱はもちろん、ファン層というか人数的にも多い。熱量も感じるし、どこの球団に行ってもドジャース戦は、観客がかなり入っている。どこの地域にもそういう人たちがいて、野球好きなんだなと、すごく感じる。まずはポストシーズンに出ること。その先で勝っていくのが、その次かなと」

異例ずくめの契約で幕を閉じた、大谷翔平の2023年。

その幕開けは、あの特別な一球から始まった。

<WBCでの特別な1球>

日本中が固唾をのんで見守った、WBC=ワールド・ベースボール・クラシック。

全勝で勝ち進んで迎えた、決勝、アメリカ戦。わずか1点リードの9回、マウンドを託されたのが、大谷だった。

大谷選手「抑えの経験も少ないし、点差も点差だったので、緊張はした。ブルペンにいたときから、調整の仕方とか、慣れてはいないので、そこらへんも難しかった」

ツーアウトまでこぎつけ、最後のバッターは、エンジェルスの盟友、マイク・トラウト。

大谷選手「トラウトも思いっきり振っていたし、そのくらいの本当におもしろい勝負だったなと。三振かホームランかぐらい、それで決まればいいかなというか、それぐらいの思いきりのよさでいいかなというのがあったので」

大谷が世界一の勲章を手繰り寄せた一球。ストライクゾーンを切り裂くように、速く、鋭く曲がる、「スイーパー」と呼ばれる変化球だ。

大谷選手「その1球で、全部が台無しになってしまうこともあるので、そこは変な緊張というか、レギュラーシーズンとは、またちょっと違う感じがあった。勝てたのがすごく自分としては特別だった」

前日本代表監督/栗山英樹「彼の野球人生にとって、ものすごく大きな節目の年になるのかな」

大谷を9回のマウンドに送り出した、栗山英樹。

前日本代表監督/栗山英樹「これから先どういうふうに、あの曲がり球が進化していくのか。むちゃくちゃ楽しみだなと思った1球でもあった」

一方で栗山は、この一球に、期待と同時に危うさも感じていたという。

前日本代表監督/栗山英樹「170キロとか投げちゃうのかもしれないぐらいの場面。ファイターズ時代だったら、あの場面で怖くてしょうがないのが、翔平の体の強さも少し感じていたので、大会中。大丈夫だと思いながらも、そういう心配ももちろん持ちながら、壊れる怖さというか、そういうのは感じた」

<驚異の進化 “デザイン”された二刀流>

WBC決勝の9日後に始まったメジャーリーグのレギュラーシーズンでも、大谷のスイーパーは威力を発揮する。開幕から5試合の登板で3勝、防御率は0.64を誇った。

打者の手元で大きく変化。全球種に占める割合は、50%近くに達していた。

大谷選手「スイーパーは全体的によかった。特に右バッターに関しては、カウントにもよるが、そんなに強振してくる感じはなかった」

なぜ、大谷のスイーパーは打たれないのか。今シーズンの全投球を分析したところ、驚くべき事実が浮かびあがってきた。

これは、2022年のスイーパーの軌道。曲がり幅は、およそ35センチ。

ここに、開幕後の登板5試合の平均値を重ねてみる。一見、そこまでの変化はないように見える。

しかし、バッターの視点で見てみると、ボール1個分以上、およそ9センチも曲がり幅が増えていたのだ。バットの芯で捉えるのは極めて難しくなる。

MLBデータアナリスト/デビッド・アドラー「ホームベースの端から端まで曲がるため、バッターは太刀打ちできない。大谷はこの得意球で三振の山を築いた。最も多くの三振をスイーパーで奪ったんだ」

魔球のようなこのスイーパーを、大谷は一体どのように磨いてきたのだろうか。

謎を解くカギが、ある施設に隠されていた。マイクロソフト出身のエンジニアによって設立された民間のトレーニング施設、「ドライブライン」だ。大谷は3年前から、ここで極秘トレーニングを積んできたという。

最新鋭のセンサーが張り巡らされ、球の回転数や回転軸など、あらゆるピッチングデータを瞬時に把握することができる。

関係者から入手した映像に大谷が映し出されていた。

大谷選手「スプリットは?スプリットはどうなってる?回転かかってる?」

一球ごとに確認する大谷。センサーが弾き出すデータと照らし合わせながら、ボールの精度を突き詰めていた。

大谷選手「どういう軌道で曲がっているとか、平均的なスライダーの曲がりと球速、どのくらいのところで曲がり始めているか、平均値からどのくらいズレているかが、打ちにくさに、けっこう関わってくる。あとは浮力をちょっと上げてとか、その代わり横幅がちょっと狭くなったりとか、浮力を落とす代わりに横幅を広くしようとか、そういう感じ。ピッチングはデザインみたいな感じと言われているので、どういう形にデザインしていくかが、ピッチングをどういうふうに作っていくかも、また変わってくるのかなと思う」

大谷が語った、“デザイン”というキーワード。

いまメジャーリーグでは、このデザインこそが、最先端の理論になっている。いわば、“デザイン革命”が起こっているのだ。

「ドライブライン」にいち早く注目してきた、トラビス・ソーチック。大谷は、デザイン革命の申し子だという。

ジャーナリスト/トラビス・ソーチック「数年前までドライブラインなんてなかった。そこに大谷が行ったんだ。それは彼の好奇心と向上心、最高の選手になりたいという欲望の表れだ。"執着心の強い選手だけが生き残れる"。強い好奇心と向上心がなければ、デザインは役に立たない。デザインは、大谷のような異次元の選手にとっては、極めて魅惑的な可能性を秘めているのだ」

大谷選手「試すのが好きなほうだとは思う。握りひとつによって、だいぶ変わってきたりするので、原因が結果に直接つながっている感覚が、やっぱりおもしろいというか。バッティングもそう。そういうのがある種、趣味みたいなところもあるので、こうやったらどうなるんだろうなとか、それはやっていて楽しい」

データを駆使して、新たな技術を生み出すデザインの手法を、大谷はバッティングにも取り入れている。

春のキャンプ。大谷がバットに取り付けていたこの装置。高精度のセンサーで、スイングの角度や軌道を詳細に可視化することができる。

ホームランを打つには、どのようなスイングが最適なのか。大谷はデータを参照しながら、明確な狙いを持ってボールを打ち返していた。

さらに大谷は、今シーズンから、デザインしたスイングを実戦さながらに磨くことができる、最新のAIマシンを利用している。

850人以上いるメジャーのピッチャー1人1人の投球を、すべて再現することができるという。その細かさは、「ボールの縫い目にどう指をかけるか」、にまで及ぶ。

通常はこのボールを打ち返して練習するが、大谷は独特の方法で活用していたと言う。

大谷選手「打席には入らずに、ちょっと離れて見るという、使い道としてやっていた。後ろとか横とかで見ているのが、いちばん感覚的にはよかったので。ピッチング練習を見ているみたいな感じ」

2023年5月。デザインしてきたスイングを、完璧にモノにした瞬間があった。

高めのストレートを強烈にはじき返した13号ホームラン。さらに翌日には、14号。そして2打席連続となる、15号。

大谷選手「その日がいちばん、変わるきっかけだった。いちばん印象には残っている。技術的なコツみたいなものをつかむ時って、一瞬で変わるものだと思っている。積み重ねがすごく大事だと思うが、本当にコツをつかむ瞬間は、そういう一瞬のときだと思うので、その日はそういう日だったと思う」

これは、12号ホームランまでの、大谷が打ったボールの分布。真ん中から低めにかけて広く捉えている一方、高めのボールは、あまり打てていないことがわかる。メジャーのホームランバッターに共通する傾向だ。

彼らの多くは、下からボールをすくい上げる「アッパースイング」によって、打球を遠くに飛ばしている。

アッパースイングは、その軌道ゆえ、高めの速球は打ちづらくなる。そこで大谷は、投手が投げる高めのボールを最短距離で捉えられるように、アッパースイングを微調整。データを駆使して、欠点の修正を繰り返した。

高めのストレートを捉えた大谷の13号は、まさに「デザインされたホームラン」だったのだ。

打たれた、ルーカス・ジオリト。2022年に2桁勝利をあげている実力者は、大谷の進化を認めるしかなかった。

ホワイトソックス(当時)/ルーカス・ジオリト投手「今までだったら抑えることができた。あのコースは打ち取れるはずなんだ。でも今シーズンの大谷は対応してきたんだ。彼はどんどん進化しているよ。いろんなコースを打ち返してくるんだ」

この一打以降、大谷は高めのボールを次々と打ち返し、ホームランを量産。バッティングを精緻にデザインすることで、アッパースイングの弱点をも、克服したのだ。

<デザイン時代の進化を支える適応力>

なぜ大谷はこれほど自在に、自らのプレーをデザインすることができるのだろうか。

元エンジェルス/アルバート・プーホールズ「成功するには、素早く適応しなくてはならない。翔平はそれができた。だからこそ、この6年間の躍進があるんだ」

アルバート・プーホールズ。ベーブ・ルースに次ぐ、歴代4位の通算703本のホームランを打った、球史に残るスラッガーだ。大谷がエンジェルスに入団してから3シーズンあまり、進化の過程を間近で見守ってきた。

入団1年目のキャンプ。海を渡ったばかりの大谷は、メジャーのピッチャーにまだ慣れず、ボールをまともに打ち返すことができずにいた。

元エンジェルス/アルバート・プーホールズ「彼はキャンプで苦しんでいた。ある日、私のところにやってきて、翔平は『何でも教えてほしい』という様子だった。前の足のことだ。翔平はパワーがあるから、足を上げる必要はない」

それまではボールを打つ前に、右足を上げていた大谷。プーホールズは、この打ち方だと球速が日本より格段に速いメジャーでは、タイミングが遅れてしまうと大谷に伝えた。

元エンジェルス/アルバート・プーホールズ「突然2日後に翔平がフォームを変えているのを見た。彼は足を上げる打ち方が、メジャーでは通用しないことを理解した」

迎えた本拠地でのデビュー戦。その、最初の打席。足を上げない新たなフォームでいきなり、メジャー初ホームラン。大谷は、短期間のうちに自らのスタイルを変更し、すぐに結果を出してみせたのだ。

元エンジェルス/アルバート・プーホールズ「普通は2~3年、それ以上かかる。でも彼はすぐに適応したんだ。彼の才能は本当に特別だ。びっくりした。大谷翔平のような選手は、半世紀に1度しか地球に現れない」

取材班「プーホールズ選手が、大谷選手は変化への順応が早いと言っていたが?」

大谷選手「そこもトレーニングでできる部分だと思うので。これを実際にやってみて、ものにできるか、できないか。1日たってできる子と、10日、1年10年かかってもできない子もいるが、それはトレーニング次第で、感覚のスパンを短くできるとは思っている。単純にフィジカルが追いついていない場合や、やりたいスキルに対してフィジカルが足りていない場合もあるし。なのでそこは計画性をもって、特にフィジカルに関しては、スキルと違って、一瞬で獲得できるものではないので、長いスケジュールの中で、自分がどうフィジカルを鍛えていって、スキルとどう照らし合わせていくかは、計画性をもたないとできないので」

時間をかけて築き上げてきたことを変えるのに、躊躇(ちゅうちょ)はないのだろうか。

大谷選手「それよりもやってみたい、試してみたいなというのが上回る。それで失敗することも多くあるが、それは間違っていたんだなと思うだけ。また数年してそれがやりたくなって、正解になることも、もちろんある」

“変化を恐れず、新しいことを貪欲に試す“。

その姿勢は、今シーズン、大谷に新たな勲章をもたらした。その数、44本。アジア出身選手として初めて、ホームラン王を獲得。そして、MVPも受賞。2回目の満票は、史上初の快挙だった。

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