超・進化論 第2集 愛(いと)しき昆虫たち~最強の適応力~

NHK
2022年11月17日 午前2:14 公開

(第1集のまとめ記事はこちら)

番組のエッセンスを5分の動画でお届けします

(2022年11月13日の放送内容を基にしています)

堺 雅人さん「『進化論』。それはダーウィン以来の生物学の常識。今、そのルールの奥に隠された驚くほど深えんなしくみが、明らかになり始めている。今日の主役は『昆虫』です」

あるものは強く、あるものは美しく。昆虫は、地球上のあらゆる場所に姿形を変えてすみつき、その種を爆発的に増やしてきました。地球上にいる全生物の種数は200万種余り。そのうち私たち人類、ホモ・サピエンスは、たった1種。ほ乳類全体で6000種。植物は40万種。そして昆虫は、なんと100万種に及びます。これほどの「種の爆発」をもたらした進化のカギは、昆虫ならではの「適応力」です。その驚きの秘密を、最新の科学は、次々と明らかにしています。昆虫があらゆる環境に適応してきた進化の世界を、堺雅人さんが“人間代表”役を演じる不思議なドラマを交えながら、ご案内します。シリーズ「超・進化論」。第2集は、「昆虫の不思議」に徹底的に迫ります。

<地球のあらゆる環境に進出!昆虫 大空への適応>

教授役 西田敏行さん「堺さん、昆虫の『超進化』のカギは、何だかご存じですか?」

堺さん「超進化のカギですか?」

教授役 西田さん「それはね『適応』です。アダプト。昆虫は、徹底してどんな場所にも適応して、多種多様な進化を遂げてきたんですけれども、そのために手に入れた最大のスキルが『空を飛ぶこと』なんですよ」

右足、左足、右足…これは、昆虫が飛び立つ前の準備。足場をよく確認して、空へ…。昆虫の9割以上は、空を飛びます。しかも鳥と違って、羽の形や飛び方を多種多様に変化させ、あらゆる空間に適応しました。

例えばトンボは、開けた場所に適応。高速飛行で獲物を捕まえます。

甲虫は、2枚の羽を硬いヨロイに変えました。木々が茂る森の中などで、身を守る適応です。

そしてハチは、小さい羽に進化。花の間など、狭い場所で小回りがきくよう適応したのです。

昆虫は、さまざまな空間に適応するため、鳥や飛行機とは全く違う特殊なテクニックを獲得してきました。それが明らかになったのは、ほんの最近のことです。発見した王立獣医大学(イギリス)の比較生体力学者、リチャード・ボンフリーさんは、さまざまな動物の「飛しょう」の研究を、30年にわたって続けてきました。

そのひとつが、ハチです。鳥の大きさに拡大して比べてみると、羽が体の割にとても小さいことが分かります。こんな小さな羽では、鳥と同じ飛び方をすると、体が重すぎて落ちてしまうはずです。

どうやって飛んでいるのか?それは、長い間の謎でした。

今回、特別に開発した最新鋭の装置で、その謎に迫る実験に挑みました。真ん中のステージにハチを入れ、10台のハイスピードカメラで、飛ぶ瞬間を同時に撮影します。100倍のスローモーションで、肉眼では見えない羽ばたきをとらえました。

驚くのは、羽ばたくスピードです。

まばたきを1回する間に、羽ばたき27回。なんと1秒間に、185回もの超高速で羽ばたいていたのです。

さらに、撮影した映像をもとに、詳細な3Dモデルを作成。羽ばたきを観察すると、羽を根元からねじる特殊な動きをしていることが分かりました。このねじりが、飛ぶ力を生み出します。

このときの空気の流れを、シミュレーションで見てみました。水色は、羽ばたきで生じる空気の流れです。ボンフリーさんが注目したのは、羽の前の縁の部分。羽をねじる瞬間、縁に沿って渦ができます。渦の内側は、気圧が低くなります。すると、周りの空気との差が生じて、上向きの力が生まれます。

ところが、渦ができるのは、わずか千分の数秒の間だけ。一瞬にして消えてしまいます。そのため、1秒間に200回近くも羽ばたくことで、常に渦を作り続け、体を浮かび上がらせていたのです。だから、何かに接触して羽ばたきの回数が減ると、落下してしまいます。

この飛び方を手に入れたおかげで、狭い空間でも飛べるようになっただけでなく、空中でピタッと止まって花の状態を見たり、わずか数mmの小さな花びらに着地したりする「適応飛行」が可能になったのです。

比較生体力学者 リチャード・ボンフリーさん「昆虫の飛行は、現代の科学では一般的ではない、型破りなメカニズムを使った並外れたもの。この飛しょう力によって、昆虫は世界のすみずみにまで、適応できるようになった」

<生物史上最初に空へ! 昆虫 羽の誕生秘話>

昆虫役 板垣瑞生さん「ところで堺さん、僕たち昆虫がいつから空を飛んでいるのか、知っていますか?」

堺さん「いつから?考えたこともないなあ」

昆虫役 板垣さん「3億5000万年前です。生物で初めて空に進出したのが、昆虫ですから!」

堺さん「最初は鳥じゃないの?」

昆虫役 板垣さん「鳥!?鳥たちが飛び始めたのは、僕らの2億年後です。まだ誰も空を飛んでいない時代、羽もないのに大空を目指した。それが昆虫です!」

生物史上最初に空を目指した昆虫。でも大空への適応は、そう簡単なことではありませんでした。昆虫の祖先が現れたのは、4億年ほど前のこと。これが最古の昆虫の祖先の化石です(上写真  提供 ロンドン自然史博物館 )。現在のトビムシに近い仲間です。

それから5千万年後、当時の昆虫です。大きさ1cmほど。羽はなく、このころの昆虫は、種数も数もごくわずかでした。当時、地球を覆っていたシダの原始的な花粉(※)を食べていました。羽がないため、歩いていかなければなりません。途方もない時間、何度も何度も、落下を繰り返しました。より長く飛べたものが生存に有利になり、生き残っていったと考えられています。

(※注 当時の植物は「シダ種子植物」と呼ばれ、裸子植物でありながら、前花粉と呼ばれる原始的な花粉をもち、種子を作っていました。シダ種子植物は白亜紀に絶滅し、現存はしていません)

そしてついに、体を劇的に変化させたものが現れました。生命で初めて、羽を手に入れたのです。誰もいないフロンティアを一気に支配していきました。植物の幹や枝、高い場所まで、簡単にアプローチして、安全に食べ物やすみかが得られるようになったのです。

こうして昆虫は、大空への適応を果たしました。これが、地球のあらゆる環境に姿形を変えて適応するという、昆虫独自の進化の始まりだったのです。

植物役 角田晃広さん「ちょっと待って。『あれ(上写真・左)』と『あれ(上写真・右)』の間が気になるんだよね。急に立派な羽が生えていたでしょ。あれは、いつ、どうやって生まれたの?」

昆虫役 板垣さん「あれは、まだ分かっていないんです。僕も知りたいんですけどね…ご先祖様が、どう羽を持ったのか。ただひとつ確かなことは、この体にご先祖様から脈々と受け継いできた『アダプト精神』が流れているということ。そこから昆虫は、空だけじゃなくて、ありとあらゆる場所に適応していったんです」

堺さん「草むらとか、お花畑とか、森とか!」

昆虫役 板垣さん「そうです。でも、僕の言うあらゆる場所は、もっともっとアメージングな『あらゆる場所』です!」

<昆虫 最強の適応力>

昆虫役 板垣さん「例えば一本の草花でも、花の蜜を吸うチョウやハチ、花粉を食べるハナムグリ、葉っぱを食べるハムシやバッタの仲間、それを狙うカマキリ、茎から汁を吸うアブラムシ、そのアブラムシを食べるテントウムシ…」

堺さん「一本の草花に、そんなに!?」

昆虫役 板垣さん「甲虫の世界もアメージングなあらゆる場所です!甲虫って、硬いヨロイを着ているヤツなんですけれどね、森に暮らす甲虫だけを思い浮かべても、樹液を飲むカブトムシやクワガタムシ、葉っぱを食べるコガネムシ、木を削って食べるカミキリムシ、穴をあけて食べるゾウムシ…」

堺さん「徹底的に自分の居場所を探し出して、進化していく」

昆虫役 板垣さん「そうです!水辺の昆虫たちもアメージングです。ゲンゴロウは水の中。ミズスマシは水面だし、水辺には光で合図を送るホタル、さらにトンボは…」

植物役 角田さん「もうそれくらいで、ストップ」

昆虫役 板垣さん「じゃあもうひとつだけ!」

堺さん「まだあるんだ。アメージングな適応」

昆虫役 板垣さん「むしろ、ここからが本題です!短い間に、別の生物のように姿形を変えるメタモルフォーゼ!全ての生物の中で昆虫だけが編み出すことができた、スーパーアメージングな適応能力。その名も、『完全変態』」

堺さん「カンゼンヘンタイ!?」

<昆虫だけの“魔法” 完全変態>

例えば、オオムラサキというチョウの完全変態の場合。卵から生まれ、幼虫時代はイモムシとして葉っぱを食べて暮らします。

およそ11か月後、下から上に皮を脱いで、蛹(さなぎ)になります(下写真)。

その2週間後、全く別の姿をした成虫に大変身。これが「完全変態」です。

完全変態の進化が起きたのは、羽を手に入れてから、およそ5000万年後。昆虫にとって、革命的な出来事でした。それまで適応できなかった場所に、爆発的に広がっていったのです。

<世界初!さなぎの“透視”>

その話の前に、世界初とっておきの映像をまずはご覧いただきましょう。一度は中をのぞいてみたいと思っていた、「さなぎの内部」の姿を撮影することに成功したのです。

特殊撮影に挑んだのは、2人の専門家。マンチェスター大学の材料科学者、フィリップ・ウィザースさんとグライフスヴァルト大学の動物生理学者、フィリップ・レーマンさんです。使うのは、私たちの体の検査にも使われる、CTスキャナー。普通、解像度は1mmほどですが、今回は、1000分の1mmという高解像度のマイクロCTを使って、昆虫の体の中を“透視”することに挑戦しました。

用意したのは、モンシロチョウの仲間のさなぎ。幼虫から成虫になるまでの10日間、さなぎの中の変化を、時間を追ってスキャンしていきます。

材料科学者 フィリップ・ウィザースさん「誰も見たことがないことを目にするので、本当にエキサイティング」

スキャンした1万枚を超える画像をもとに、さなぎを3D化します。昆虫は、一体どうやって変身しているのでしょうか。

ゼロ日目。緑色は脳です。ピンク色は腸。オレンジ色は、移動するための筋肉(上写真・上)。はって移動し食べるのが仕事という、まだ幼虫の体に近い状態です。

それから3日後。劇的な変化が起きていました。黄色の触角と、水色の脚、(体の底部の中央に沿って)ストローのような口ができました。ゼロ日目と比較すると、脳が格段に大きくなっています。視覚を発達させたり、繁殖に関わる判断をしたりするための準備です。

レーマンさんが特に驚いたのが、下写真の赤い部分。巨大な筋肉の塊が現れました。

筋肉の役割が分かったのは、6日目です。この筋肉を覆うように羽ができました(下写真)。飛ぶための筋肉「飛しょう筋」だったのです。

8日目。花の蜜を摂取する成虫の内臓ができあがります(下写真)。

9日目、羽化の前日。成虫の体が完成しました(下写真)。脳や飛しょう筋といった重要な臓器は、ごく初期から作り始め、内臓は、幼虫の腸を利用して最後に仕上げる。まるで精密機械を作るかのように、緻密な設計図によって、短時間でおとなの体を作り上げる実態が、世界で初めて明らかになりました。

動物生理学者 フィリップ・レーマンさん「とてもぞくぞくする結果。ごく初期のさなぎに、すでに『飛しょう筋』が発達していたのには驚いた。成虫にとって非常に重要なうえ、そうとう大がかりに作り替えるので、早い段階から始める必要があった」

おとなと子どもが、全く違う生き方をすることを可能にした「完全変態」。では、それが昆虫の適応を爆発的に加速させたというのは、一体どういうことなんでしょう?

完全変態しないバッタやカマキリなどの場合、生まれたときから、その姿は成虫とほぼ同じです。おとなと子どもは、同じ場所にすみ、同じものを食べています。こうした昆虫は、すむ環境が限定されるため、種数も限られてしまいます。

ところが、完全変態というしくみでイモムシが登場すると、さまざまな場所に適応し、すむ場所を広げていきます。

昆虫写真家の高嶋清明さんに森を案内して頂きました。(特別な許可を得て撮影しています)

例えば倒木をひっくり返すと…おなじみのカブトムシの幼虫がいました。土に潜って、木や葉が分解された腐葉土を食べます。

朽ち木の中にいたのは、コクワガタの幼虫です。朽ち木を食べて、掘り進みながら成長します。

さらに…

葉っぱに白い線のような跡があります(下写真)。これも、幼虫のしわざです。

線の先端をよく見ると、何かが動いています。ハエの幼虫です。葉っぱの内側に入り込んで、中を食べているのです。

幼虫は、木の中や、朽ち木の中、葉や実の中、土の中と、あらゆるものの「中」へと入り込み、さらに細かくすみ分けていきます。例えば、主に実の中にすむシギゾウムシの仲間だけを見ても、競合を避けて植物の種類ですみ分け、日本国内で、なんと57種もが生まれています。

現在、100万種余りいる昆虫のうち、完全変態をする種は、実に89万種。昆虫独自の適応戦略によって、他の生き物にはない圧倒的な多様性を実現したのです。

昆虫役 板垣さん「ねえ、教授!教授ご監修のこのカードの昆虫のサイズ(上写真)、全部実物大なんですよね」

教授役 西田さん「そう。昆虫の『小ささ』を正確に伝えるためにね、ちょっとこだわりました」

堺さん「小ささ?大きい虫もたくさんいるじゃないですか」

教授役 西田さん「でも、『大』クワガタと言ってもね、『小』鳥よりは小さいでしょ」

微生物役 関水渚さん「考えてみたら、小犬サイズの昆虫って、見たことないですよね?」

教授役 西田さん「圧倒的に昆虫は小さいんです。それが大事なことなんだよねえ」

昆虫役 板垣さん「『小さい』ということは、僕たち昆虫にとって強みのひとつです。小さく、小さく、小さく…進化してきたんです。小さいと、みんなハッピー!食べ物もすみかも、ちょっとですみます。みんなで資源を分けあえるんです」

植物役 角田さん「そういえば、昆虫って、地球上に100京匹いるって聞いたことがある」

堺さん「100『京』匹!?」

教授役 西田さん「1兆の100万倍ですよ」

微生物役 関水さん「地球の陸地面積は1億5000万km²だから…上空・地下を含めて1 m²あたり、およそ6600匹ですね」

教授役 西田さん「多い!」

<潜入!アリの地下世界>

小さく小さく進化した昆虫たち。9000万年前、地下の世界に進出し、爆発的に種を増やしたものが現れます。これはブラジルで撮影された、アリの巣の地下の調査の様子です(上写真)。丸いのが部屋。部屋をつなぐ細い筒状のものが、アリたちが通るトンネルです。深いところで5m。巣全体の大きさは、直径10mにも達します。

巣を作ったのは、ハキリアリというアリです。大きさ1cm。切り取った葉っぱを、巣に運んでいきます。葉を材料にキノコを育て、食料にします。いわば“農業”をしているのです。ひとつの巣に暮らすのは、なんと100万匹。互いに協力して暮らしています。行列を敵から守る係。葉をカットして運ぶ係。キノコの世話をする係。アリは、複雑な社会を作ることで、大集団での暮らしを可能にしました。

<究極の適応!? アリと暮らす不思議な昆虫たち>

そんなアリの巣の中には、究極の適応を遂げた「未知の昆虫」がいることが、最近になって分かってきました。突き止めたのは、九州大学の昆虫体系学者、丸山宗利さんです。調査しているのは、世界一の大集団を作るアリ、サスライアリです。

でも丸山さんが追い求めているのは、アリそのものではありません。

昆虫体系学者 丸山宗利さん「すごく小さい、1mmくらいのやつ」

その昆虫は、めったに表に現れないので、実態はほとんど分かっていません。

丸山宗利さん「潜水艦で、深海の深いところを探索しているのと同じような、誰も見たことのない世界がここにはあるんです」

丸山さん「いたっ!」

行列にまじっている小さな昆虫(上写真・中央)。アリの群れにすみついている、いわば“居候”たちです。大きいもので5mm。多くは1mm以下です。さまざまな姿形のものがいます。ひとつの群れに、100種もがすむこともあります。“居候”は、主に「すみか」と「おこぼれ」を目当てに、アリと暮らしています。

実は、これはとても不思議なことです。

アリの社会は、みな、女王アリから生まれた、ひとつの家族です。その絆は非常に強く、互いに食べ物を分け合い、いたわり合います。家族ごとに異なるにおいをもち、触角でにおいをかいで、瞬時に家族かどうかを判断します。家族でなければ襲われ、ときには食べられてしまいます。

ところが、なぜか“居候”たちは襲われません。それには秘密があります。

これは、日本にすむ、アリの巣だけで暮らすコオロギの仲間です(上写真)。この“居候”は、アリにそっと近づいて、アリに気づかれないうちに、体の表面の「におい物質」をなめとります。そして、全身に塗り付けます。こうして、まんまとアリの家族になりすますのです。

そうとは知らないアリは、コオロギのおねだりを受け入れて、口移しで食べ物を分けました(上写真)。こうした片方だけが恵みを受ける関係は「片利(へんり)共生」と呼ばれます。このシロオビアリヅカコオロギは、もはやこのアシナガキアリからの口移しでしか、物を食べることができません。まさに、究極の適応。たった1種のアリに適応して、他のコオロギとは全く違う進化をしたのです。

アリが、こうした“居候”を抱えていけるのは、アリの社会が極めて安定し、生活に余裕があるからだと考えられています。

そして最新の研究によって、アリもまた、“居候”から恩恵を受けているケースもあることが、分かってきています。

一生を地下で暮らすミツバアリの巣に適応したのが、その名も「アリノタカラ」という昆虫です(上写真)。大きさ1mm足らず。丸く膨らんだ方が頭です。目はなく、自分ではほとんど移動することもできません。ミツバアリが、くわえてどこかに運んでいきます。アリノタカラは、草の汁を吸って生きています。ミツバアリのおかげで、汁が出る根に運んでもらえるのです。

一方ミツバアリも、アリノタカラに命をゆだねています。アリノタカラは、余った糖分を排出します。これが、ミツバアリの唯一の食べ物なのです。互いに相手に適応して進化した「絶対相利(そうり)共生」と呼ばれる関係です。

その関係性の深さを象徴するできごとがあります。

巣の中に、羽を持つアリが現れました。新しい女王アリです。アリノタカラをくわえました。新女王は、巣から飛び立ってオスと出会い、新しい自分の家族を作ります。このときだけ、羽を持ちます。新たな場所で生きていくために、1匹だけ、アリノタカラを連れていくのです。この先、互いにたった1匹から、再び何千、何万という大家族を作っていきます。

丸山宗利さん「本当に底知れない多様性があることを、今回の調査でさらに実感しました。それぞれに関わりを持っていて、それで生態系ができあがっているということは間違いなくて。どの生き物がどれだけ重要かというのは、全然分かっていないんですね。そういう目で見ると、どれもすごく美しくて、尊いものだと感じます」

堺さん「生き物の多様性って、何なのでしょう?」

教授役 西田さん「強い者、弱い者、数が多い者、少ない者、いろんな生き方を受け入れて、ぎゅっと絡み合って、あるがままに命をつないできているんですよね、彼らは」

<愛(いと)しき昆虫たち 地球を支える適応力>

昆虫の多様性を生んだ環境への適応力。それが、逆に地球環境を支えていることが、最新研究から分かってきました。

体長1cmほど、植物の受粉を助けるハナアブの仲間が、実は人知れず、大移動をしていることが明らかになりました。

生物学が専門のエクセター大学のカール・ウットンさんは、数百万匹ものハナアブが、ピレネー山脈を越えて、最長2000kmも移動をしていることを突き止めました。寒さに弱いハナアブは、ヨーロッパ南部で冬を越し、春、花を追いかけて北へ移動、繁殖して子孫を増やします。そして、秋、再び南に下ります。この季節に適応した大移動が、ヨーロッパ全体の植物に大きな恩恵を与えていることが分かってきました。

調査では、ハナアブが移動中に運ぶ花粉の数は、推定30億から190億個。本来なら出会うことのない、遠く離れた北と南の植物の交配を、手助けしている可能性があるのです。

生物学者 カール・ウットンさん「ハナアブは移動の間も、花粉をつけている。数百kmも北から、運んできたものかもしれない。植物の遺伝的多様性や繁殖に大きく貢献している」

さらに、ある昆虫が、地球の気候変動から環境を守る、重要な役割を持つことも分かってきました。その昆虫とは、日本では害虫として嫌われがちなシロアリです。

リバプール大学の熱帯生態学者、ケイト・パールさんは、50m四方の区画を作ってシロアリを取り除き、シロアリがいるエリアと比べる調査を3年間行いました。

その結果、ひどい干ばつの年。シロアリのいないエリアは、いるエリアに比べて、土壌の水分量が3割以上減少。幼木の生存率が5割も低いという予想もしなかったデータが出ました。

パールさんは、シロアリの役割を調べるために、地面のコアを採取しました。CTスキャンして中を見てみると(上写真)、シロアリがいるエリアには、無数の微細なトンネルが張り巡らされていました。シロアリが、地下を移動するために作ったものです。細いものは直径2mm。この微細なすき間に、雨季には水が浸透し、水分が蓄えられます。それが干ばつのときに放出され、植物の水源になったと考えられるのです。

熱帯生態学者 ケイト・パールさん「シロアリは、干ばつなど地球の気候変動から、森林生態系を守る緩衝となっている。シロアリにしかできない自然を回復する力を生態系に与えている」

4億年も前から、あらゆる環境に適応し、地球を支えてきた『昆虫』。その地球環境を、わずか500万年前に誕生した私たち人類が、破壊し続けています。昆虫のほとんどは、まだ発見されておらず、実際の種数は400万とも1000万とも言われています。どの種が、どんな役割を果たしているのか。まだ全くと言っていいほど分かっていません。そんな中、人間の活動によって、毎年2.5%のスピードで、昆虫が姿を消しているといいます。