高瀬キャスター「ここからは宗教社会学がご専門の、上越教育大学の塚田穂高さんとお伝えします。今のインタビューで教会は献金の減額規模、それから過度な献金となる基準について、具体的な数字を初めて示したんですが、これどう聞かれましたか」
上越教育大学・塚田穂高准教授「具体的な数字を出したことは、評価できると思います。ただ実行性が不透明です。それを内部だけでできるのかは非常に疑問です。大前提として、まず言っておきたいのは、過去の問題に対しての向き合い方、そしてそれを認めるということが不十分だと思っています。具体的にはいわゆる霊感商法について、教会はこれまでの3回の会見でも認めていない、ということで一貫しています。『霊感商法は教会としてはやっていない』『信者が勝手にやってきた』として、教会本体に火の粉が及ばない、防火壁として、教会から切り離してきたわけですが、8月の教会内部の会議では、関連団体の天宙平和連合の事務総長が、『今回の問題が湧き上がってくる中で、完全に突破されてしまった』ということを論じています」
高瀬キャスター「教会自身の問題にもなっているということを、認識しているということ?」
塚田准教授「内部でも認識しているということです。ですから従来どおりの霊感商法を認めないという話ではなくて、過去関わってきたということを認め反省し、その救済回復というところをまず考えないと、それなくして、教会の改革推進というのはありえないと考えます」
高瀬キャスター「韓国の本部の考えが変わらなければ改革は難しい、という指摘に対して勅使河原本部長は、『世界本部も基本的に了解しながら進んでいる』と答えたんですが、本当に変われると考えますか」
塚田准教授「そうですね、これもかなり難しいことだと思います。VTRにもあったように、韓国に献金するのが日本の役割、使命というのが基本になって長らくやってきていますので、これを根本から変える、韓国に送金しないようになるというのは、旧統一教会が旧統一教会でなくなるに等しいこと。教理的にも、そういう活動を実践的にも、根本から変わるようなことですので、果たしてそれが実現できるのかは、まだやはり疑問ですね。その点では2007年から2010年にいわゆる霊感商法等で摘発が続いて、2009年のコンプライアンス宣言になったんですが、これも結局いわゆる物販を介した霊感商法は控えるようになりましたが、結局は内部で宗教的な脅しを伴った強要的な献金に、振り替わっただけというふうに見ています。2014年に日本総会長が『ほとんどの信者家庭が困窮しており、無理な献金のために自己破産者が急増している』と発言しており、コンプライアンス宣言後も続いたと、内部でも認識をしていたわけですね。それは結局、送金の目標・ノルマ的なものがあるから、それを満たすカタチが“献金”だったので、今回こういう改革と言っても、そのやり方が変わるだけではないか。具体的には、韓国のチョンピョンという聖地に、お金を持って行って現地で献金をする。もうすでにここ近年でやっていることですので、そうすると、『国内の予算規模を縮小する』ということも、果たして実行性があるのか。そういう別のやり方、抜け道ということにならないか、という危惧はあります」
高瀬キャスター「教義の中で、家族というのを全ての基本にしながら、献金によってその家族が崩壊していくという、強い矛盾があることに、この3か月はっきりと私たちは気付かされたわけなんですが、この事件が突きつけた問題の本質はどのようにお考えですか」
塚田准教授「主には2点あります。特に山上容疑者から得られることですが、自助とか自己決定、自己責任だと、どうにもならない悩みや問題を抱えていたたわけですね。家族や親族の手助けはあったんですが、それ以外、例えば共助・公助といった公的な支援につながることができなかったと。これは山上容疑者の場合だけではなく、やはりこの20年間社会全体が、“自助・共助・公助”の中で、とりわけ“自助”を強調してきたため、公的支援にたどりつかなかったことが問題の本質の1つだと思っています。一方で、この旧統一教会の献金の問題等も含めて、やはり弁護士や、一部のジャーナリスト、そして被害者家族というのは、警鐘を鳴らして鳴らし続けてきたわけですよね。ただそれが、ある種スルーされてきてしまった。すでに上がっている声に、どう耳を傾けるか、拾うか。とりわけ政治が。そういうことも浮き彫りになったのがこの問題だと考えています」
高瀬キャスター「ここからは旧統一教会と政治家との関係について考えます。与野党問わず、関連団体のイベントに出席したり祝電を送ったりするなど、接点が相次いで明らかになっています。中でも自民党はおととい(2022年9月30日)追加の公表を行いました。これで一定以上の関係があったとして、氏名が公表されたのは125人になりました」
高瀬キャスター「3日前には、最大派閥安倍派の会長を務めていた細田衆議院議長がコメントを発表。関連団体の会合に出席していたことなどを認めました。さらに、これまで教会側との接点に関して、釈明を繰り返してきた山際経済再生担当大臣は、おととい(2022年9月30日)の会見で、ナイジェリアで行われた関連団体の会合に出席していたことを新たに認めました。そして今回私たちの取材に書面で回答を寄せました」
<旧統一教会と政治 結びつきはどこまで>
4年前の2018年、韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁も姿を見せた、旧統一教会の会合に出席していた山際経済再生担当大臣。
山際氏は20年前、自民党の公募に応じて、地元ではない選挙区から立候補しました。
選挙区を取材すると、教会側で接点となった人物がいることが分かりました。関連団体で支部の事務局長を務めてきたその人物。長年にわたって山際氏の事務所に出入りし、地域での活動を支援していたなどと、複数の関係者が証言しました。
今回、私たちの取材に対し山際氏は、当初からこの人物が旧統一教会の関係者だと認識していたと、はじめて明かしました。
「私が初めて衆議院選挙に出馬して以来、当該団体に関するご案内を熱心にお持ち頂く方で、平和連合に所属されている方がいました。数多くある団体の1つとして、お付き合いをしてきたものであり、他の団体と違った、特別な対応をしてきたわけではありません。(山際事務所の回答)
長年の支援者は、これまで山際氏が行ってきた説明に、納得できないといいます。
山際氏の支援者「はっきりね、物事言いなさいって言ってるんですよ。『そうらしいですね』なんて言っておいたり、あとで証拠見せられたら『僕です』とか。それじゃ、ちょっとおかしいんじゃないの。そんなの自分で分かってたんじゃないのかって。統一教会のそういうのやめないって言うんだったら、次の選挙はないよと。われわれは一切手伝えないよと」
教会側との今後の関係について、山際氏は次のように回答しています。
「団体にお墨付きを与えてしまうようになりかねないことまで、思慮が至らなかったことについて、率直に反省しています。今後は一切関係を持たないよう、慎重に行動してまいります」(山際事務所の回答)
旧統一教会側と政治は、どのように結びつきを深めてきたのか。
私たちは、栃木県で行われてきた、ある教育シンポジウムについて取材しました。旧統一教会の関連団体が10年以上前に始め、その後、関係者の団体が主催してきました。案内のチラシには、文部科学副大臣を務めた自民党の参議院議員の名前がありました。その数は、この11年間で9回に上っていました。
シンポジウムを企画した女性。旧統一教会関連団体の支部の代表を務めてきました。その主張の一部は、インターネット上で公開されています。
「皆さんもやがて結婚するとか、そうした時が必ず来るから、それまでは無責任な性関係を持たないでほしい。だから、自己抑制してほしいと思うんですね」(2011年投稿・YouTubeより)
この中では、同性愛を扱った漫画などをスライドで提示し、侮蔑的な発言を行っていました。女性が強く主張していた、婚前交渉や同性愛の否定。これらは、旧統一教会の教義と重なっていました。
この女性に講演を依頼したことがある中学校の教諭です。学校で行った講演では、同性愛についての発言はなかったものの、内容に違和感を覚え、おととしからは依頼していません。
中学校教諭「『結婚までは性行為をしない』という選択肢の1つとして出される分には、問題はないと感じているところなんですが、『それにしなさい』となってしまうと、行きすぎた指導になってしまうと思うので」
女性は、「教会から指示されたことはなく、私が独自でやっています。子どもたちを守らないと、間違いを犯さないようにと、講義をしている」としています。
女性が企画するシンポジウムに毎年のように参加していた参議院議員の上野通子氏。
このシンポジウムに毎回参加していた自民党の市議会議員が取材に応じました。
自民党市議会議員「基調講演のときは、やはり30~40分。文科省副大臣までなされている方が、基調講演を引き受けてくださる団体ということになれば、やっぱり(名前の)効果はゼロではなかったと思います。深くその団体の名称ですとか、その団体がどういう団体かということまで、掘り下げて調査することはしてこなかった。本当に反省しなければならない」
これまでの自民党の調査に対し、「関連団体の会合で挨拶はしたが、講演を行ったことはない」と回答している上野氏。事実関係を問いました。
「教育シンポジウムについては、当初講演依頼がありましたが、お断りいたしました。その結果、講演ではなく挨拶をいたしました。今後は出席する行事等について、より十分に確認の上、対応したいと思います」(上野事務所の回答)
さらに、教会側による上野氏への選挙支援についても、複数の証言が得られました。
教会の関連団体関係者の証言「2010年の選挙で、世界平和連合が上野先生を応援していた。最初の国政選挙で、相当盛り上がった」
自民党の元県議会議員で、当時教会側から頼まれ、選挙支援の橋渡し役を務めたと証言しました。
自民党 元県議会議員「教会の役員から『名刺を持って挨拶に行きたいので、一緒に行ってくれませんか』と言われ、上野の選挙事務所で自分も同席した。『応援します』『ありがとうございます』などのやりとりがあった。自分が、旧統一教会や関連団体の信者に、上野に票を入れるよう呼びかけたのは間違いない」
上野氏は、「旧統一教会側に選挙協力を依頼した事実はない」として、こう答えています。
「旧統一教会の関連団体が、私の選挙を組織的に支援していたとの認識はありません。選挙戦では多くの方々にお手伝いをいただいており、お一人お一人のお立場やお考えを確認するということは致しておりません」(上野事務所の回答)
旧統一教会側と政治との、さらに根深い関係も見えてきました。
栃木県議会でおよそ50年に渡って議員を務め、議長の経験もある自民党の板橋一好氏です。先月まで7年間、関連団体・世界平和連合の支部の代表も務めていました。
旧統一教会側との関係をどう考えているのか、問いました。
取材班「事件の後に、これだけの事実が出てきてるわけじゃないですか」
自民党 栃木県議会議員・板橋一好氏「いや、だから掘り起こしてるわけだろう?一生懸命に掘り起こして、こんな悪いことしてるんですよってやってるのと、ちがうのかい?」
取材班「教会側は、なぜ議員と付き合うのか。目的についてはどのように考えていますか?」
自民党 栃木県議会議員・板橋一好氏「それはどこの団体だって同じことで、政治家を利用できるなら利用したいというのは、それぞれ当たり前の行動だと思うよ。われわれが見て問題がある活動とは思わなかったから。それに会長(代表)を引き受けたことについては、別に悪いことしているという意識は全然ないよね。あくまでも、提言の中身が正しいかどうか。自分の考え方に合っているかどうかで判断するのが、政治じゃないのかね」
取材班「今後、世界平和連合との関わりについては、どうされていくんですか?」
自民党 栃木県議会議員・板橋一好氏「今のところ、党の方針として、『おつきあいをするな』ということなのでね、おつきあいは遠慮せざるを得ないということだから。それは党の方針は守ると。ただ、これがいつまで続くか、もう少し冷静な判断ができるようになれば、状況は変わってくる気はするけどね」
高瀬キャスター「取材の中で、教会側が自らの思想に近い政策を実現するため、保守色の強い政治家に接近している例は各地で見られました。川崎市議会では4年前、議長を務めていた自民党の市議会議員が、関連団体から依頼を受けたことをきっかけに家庭教育支援法の制定を求める意見書が可決され、衆議院と参議院に提出されたと、この議員が取材に答えました」
高瀬キャスター「地方の関連団体の幹部は、わたしたちの取材に対し、『地方からこうした提言を行っていくことで、国の政策に影響を与えていきたい』と述べています。
ここからは政治学が専門の一橋大学、中北浩爾さんにも加わって頂きます。旧統一教会ですが、実際のところ国政にどれほど影響を与える力があるというふうに見ていますか?」
一橋大学・中北浩爾教授「旧統一教会の集票力というのは、およそ8万票程度といわれています。ですから、旧統一教会が自民党全体を支配しているという見方は、極端だと思います。しかし、あの選挙の運動員の派遣などを通じて、旧統一教会が巧みに自民党の個々の議員に食い込んできたということは明らかでして、こういうことを踏まえて考えると、例えば2015年の統一教会から家庭連合会の名称変更に、当時の下村文科大臣の影響力があったのかどうか。また警察の過去の捜査について、個々の政治家の影響力行使があったのかどうか。こういったことを子細に検証していく必要があろうと思います」
高瀬キャスター「与野党問わず、次々に関係が明らかになっていますけれども、とりわけ自民党の議員が多いというのは、なぜだと考えますか?」
中北教授「政策的な一致がやはり大きいと思います。旧統一教会と自民党、とりわけ保守派との政策的一致ですね。かつての冷戦期は反共産主義という点で一致していましたし、ここ20年余りはジェンダー平等に対する消極的ないし、否定的な考えという点で一致があったと思います。振り返って考えると2000年代に入って、自民党は民主党に押される形になって、そうした中で、自らのアイデンティティーを確認していく必要に迫られ、党内では安倍総理を中心とする保守派が台頭してきたということです。そして2009年に民主党政権ができると自民党は下野します。多くの団体が自民党から離れる。そうした中でも自民党を支援し続けた旧統一教会との関係が深まっていった。とりわけ当時落選した議員、例えば萩生田政調会長であるとか、先ほど出てきた山際大臣、こういった人と旧統一教会の関係が深まったのも、この時期だということです。そして2012年自民党が政権に復帰して、第2次安倍政権ができました。そうすると旧統一教会との関係が深い議員が、政権、党の要職を占めていくとこういう流れだったと思います」
高瀬キャスター「極端な韓国優位ともいえる教会側の考えと、日本の伝統を重視する保守的な政治家。その考えと相入れないようにも思えるんですが、どうやって結び付いていくんですか?」
中北教授「日本の植民地支配に否定的な考えを持っている旧統一教会と、そういう考えから距離を取っているであろうはずの保守派が協力すると。またナショナリストの国民を大切にしなきゃいけないはずの保守派が、日本の庶民を泣かせているというか、経済的に追い詰めている旧統一教会と深い関係を持ってた。これはやはり深刻かつ、恥ずべき矛盾だと思います。では、その背景に何があるのかというと、やはり長期政権を担ってきた自民党、その一員であった保守派が極めて実利的、プラグマティックだということですね。要するに政策的な一致もありますが、選挙のための実利。選挙で勝ちたいという議員の心理、欲求というものが強く働いたと思います」
高瀬キャスター「旧統一教会をめぐって、自民党は『関連団体を含め一切関係を持たない』とする方針を決定するとしています。これに対する教会側の受け止めを聞きました」
<今後の政治との関係 教会幹部に問う>
高瀬キャスター「今回、政治家から今後一切のその関係を断つという方針が示されていますが、この対応についてはどう捉えていますか」
勅使河原本部長「政権与党の総裁が関係を断つというのは、とても残念なことですけれども、それを重く受け止めないといけないと思います」
高瀬キャスター「そういう意味では、承服できないところもありますか」
勅使河原本部長「それは内心はですね、何ていうか。それってどういう根拠で、そこまで言い切れるのかという内心の疑問はありますよ。ただ、やみくもに反応することはできないですよね。落ち着いたら、またいろいろと対話ができるようになるかもしれないし。それはわかりませんけれど。まずは、信頼を取り戻すというか、これが第一だと思います」
高瀬キャスター「中北さんはどう聞きましたか」
中北教授「今の勅使河原本部長の発言にあるように、旧統一教会は、ほとぼりが冷めれば、再び政治に関与していくという可能性があるんじゃないかと思います。では、当の自民党が旧統一教会との関係を断ち切れるかというと、私はやはり難しいと思います。なぜならば、自民党の組織は分権的で、党本部が個々の議員、とりわけ地方議員などを完全にコントロールをすることは難しいからです。ですから、今度の統一地方選挙にもかなり尾を引くでしょうし、こういう難しいということを前提として、自民党はそれを直視して、腰を据えて実行性ある措置を講じていく必要があるのではないでしょうか」
高瀬キャスター「塚田さんいかがですか」
塚田准教授「今後は被害救済、回復の方策、枠組みづくりこそ進めなければなりません。特に、悩みを抱える2世の相談支援体制の充実などです。自民党や政治家の本気度というのが、問われていくと思います」
高瀬キャスター「銃撃事件が起きるまで、高額献金によって崩壊した家庭があったこと、人生の選択を奪われ絶望する宗教2世がいたこと、政治や社会、メディアの目は十分に行き届いてはいませんでした。改革に取り組むという教会、関係を一切断つという政治家。実態や問題が見えなくならないよう、これからしっかり見ていく必要があると感じます」