君の声が聴きたい ~若者が願う 幸せのカタチ~(後編)

NHK
2022年5月13日 午後6:08 公開

(前編はこちら)

(2022年5月7日の放送内容を基にしています)

「精神的幸福度」が低いとされる、日本の子どもや若者たち。どうすれば若い世代が幸せを感じることができるのか。全国の若い世代1万人に、今かなえたい「願い」を聞くアンケート調査を実施。子どもたちの幸福度をあげるために、大人ができることは何なのかを語り合ったNHKスペシャル。この記事では、前編に続き、若者たちの「願い」に耳を傾けます。

田村淳さん、和久田麻由子アナウンサーの進行のもと、カンニング竹山さん、YOUさん、トラウデン直美さん、たんぽぽの白鳥久美子さん、ぺえさんに加えて、臨床心理学が専門で、長年カウンセラーとして若者の声を聴いている近藤卓さん(日本ウェルネススポーツ大学教授)が語り合いました。

和久田 麻由子アナウンサー「改めて願いの星空をご覧ください。この願いの中にひときわ多く含まれていた言葉が『コロナ』だったんですね。感染対策でさまざまなことが制限され、若い世代が幸せを感じにくい状況だったことが見えてきました」

<コロナ>

「私の願いは『コロナで、思い出作りの機会を奪わないでほしい』」

高校のダンス部で活動するRuaさん。5歳のころから新体操やチアダンスを習い、人前で披露することにやりがいを感じてきました。

Ruaさん(17)「ダンスって誰かに見てもらってなんぼというか、見てもらいたいので。人に見てもらうことは恥ずかしいけど、やりきった感じがあったので。やっぱりその楽しさがあるなと思って」

ダンス部の最大の見せ場は、年に一度の文化祭。コロナの感染が広がる中、Ruaさんたちは常に感染対策に気を配りながら、本番に向けて練習を重ねてきました。

Ruaさん「マスクを外さないように。自転車登校なので、ずっとこいでいると、息が切れちゃうんですけど、学校に『マスク外していたよ』と指摘がくるらしくて、そういう指摘がこないように、息が苦しくなっても外さないようにはしています」

しかし、目標にしてきた文化祭のダンスは、結局、事前に録画した動画で発表することになったのです。

Ruaさん「寂しいというか、なんか悔しい。せっかく頑張ったのになっていう悔しさがありました。寝ていた人もいたんですよ。やっぱり動画だとこうなっちゃうんだなって思って」

今回、コロナに関する願いを寄せてくれたのは、1万人のうち500人以上。その多くに、「かけがえのない時間を失った」という思いがつづられていました。

くりーむさん(16歳 女性)「学生に当たらないでほしい。今しかない、人生で一番くらいに楽しいはずの時期に、制限されすぎて、精神ボロボロ崩壊状態」

みっふぃーさん(17歳 女性)「子どもの1年と大人の1年は価値が違うと思う。その日、その年しかない。修学旅行に行けなかったらもうないし、文化祭や体育祭も、そのクラス、メンバーはそのときしかない」

Ruaさん「思い出を作る機会も奪われちゃって、日々の学校生活、ずっとみんなマスクばっかりで、お互いの顔も見られるかどうかも怪しい感じなのに、じゃあ何を思い出にすれば?っていう。当事者、今、バリ泣きそうになるぐらい、しゃべっとるけんね」

トラウデン直美さん「いちばん思い出だったり、成功体験だったりが必要な年齢じゃないですか。これが大人になってからの力になることってあるんですよね。なのに私たちの奪われていることに対して、社会は何も感じてくれないし、『我慢させてごめんね』だったり『みんなそうだから』って言われても、でもでもでもっていう、わがままな部分とやっぱり理性的な部分と・・・」

淳さん「社会人になってからの2年間と、高校の2年間というのは違いますよね」

白鳥 久美子さん「全然違いますよね。大人になるとあっという間の2年間だと思うんですけど、高校生の2年は貴重です。しかも、皆さん給食とかの時間も黙食で。授業中も静かに、登校でもマスクしてないって怒られ、学校では黙食、何をしているんだって、ストレス半端ないと思いますね」

カンニング竹山さん「これはね、難しいと思います。それぞれの世代で、いろんな立場に立った意見はあるけども、高齢者が命を落とすという現実はあって、極端な意見だと、『じゃあ高齢者を殺していいのかい?』という話にもなる。その対策が分からないから、『いったんやりましょう』でやったんだけど。結局、今、それぞれ不満はある。僕、51ですけど、51の不満もあるし、10代の不満もあるし」

淳さん「うちのおやじも言ってましたよ。町内会やってるんですけど、祭りがなくなった、みこしが出せなかったと。コミュニティの中での思い出が1個なくなったと」

YOUさん「たぶん、ごめんね。それも残念ですけど、ちょっとやっぱり・・・何回もやったじゃんって(笑)。ごめんなさい。何かやっぱり特別に感じちゃうから、15歳、16歳というのは」

トラウデンさん「YOUさんのおっしゃるとおりで、むしろ大人で、10代経験してきたんだから分かるじゃんと思う。今、いちばん楽しくて、大事なんだよと」

和久田アナウンサー「大人と子ども、世代間に温度差もある中で、大人にこんなふうにしてほしいという願いも寄せられたんです」

「私の願いは『若者の疑問を聞き流さないでほしい』です」

願いを寄せてくれた若者を、カンニング竹山さんが訪ねました。

この春、大学を卒業した、たくやさん(22)。願いのきっかけになった、あるものを見せてくれました。エントランスホールに置かれた、自由に弾けるピアノです。

竹山さん「ちょっと、たくや君、弾いて」

竹山さん「おお!」(拍手)

中学のころ、周りとうまくなじめず「自分には価値がない」とまで感じていたという、たくやさん。大学では、このエントランスのピアノが、人とつながるきっかけになったといいます。

たくやさん「入学式当日から、ピアノを弾いたんですね。そうすると先輩とか、たくさんの方が『いいね』って声をかけてくれて。入学式の当日からバーンと40人とか友達になって」

しかしこのピアノ、コロナの流行が始まった2年前、感染対策を理由に鍵がかけられ、弾けなくなりました。たくやさんは、その理由について疑問を抱いたといいます。

たくやさん「しっかり手を洗って、マスクもして、しゃべらずに、1人で黙々と弾く分には、ほぼ感染リスクはないと思うんですね。なのに『感染対策としてピアノをロックする』というのが、よく分からないということで、ずっと疑問を投げかけていたんですけど」

竹山さん「大学の事情というか状況を、直接、大学側に聞いたことはあったの?」

たくやさん「ずっとそれを、1年以上、続けてきました」

感染リスクは高くなさそうなのに、弾いてはいけない理由は何か?大学側の回答は、今の感染状況では許可が出せないというものだったといいます。

たくやさん「聞き流されてしまったという感じはありましたね。自分を見てくれていないっていうか、存在しているものとして見てくれていない感じがするんですね。自分がやっぱりおかしくて、周りが正しくて、自分が持っている疑問にも価値もないし、自分の存在にもあまり価値がないんじゃないか、そういうふうに気分が落ち込むこともありました」

弾けないまま1年以上がたち、諦めかけたころ、ある大人の存在が、ひとつの転機になりました。言語学の授業を担当していた、講師の黄 竹佑(こう・ちくゆう)さんです。ある日の授業後、黄さんがふと声をかけてくれ、ピアノの話になったといいます。

講師 黄 竹佑さん「『お元気ですか?』って聞いたら、『最近この件ですごく悩んでます』みたいな。いろいろ話してくれて」

竹山さん「話を聞いたとき、どう思いました?」

黄さん「最初は本当に価値判断せずに、受け入れるだけっていうか、『こんなことがあったんだ』『困るんだよね』という感じで聞いていて。『今、何をやっていますか?」とか「どのように進んでいますか?」とか、ちょっと聞くだけだったんですけど』

たくやさん「私の意見とか思いを聞き出す感じで聞いてくださって、協力的に接してもらったので、非常に自信になって、うれしかったですね」

黄さん「『聞いてほしい』っていう気持ちもあるんじゃないかと思います。『こうしなさい』『こうしないでください』じゃなくて、『そうなんだ。じゃあどうすればいいか一緒に考えよう』っていう」

竹山さん「大人の立場から『明らかに間違っているな』と思うときあるじゃないですか。物事によっては」

黄さん「私と違うところはあるかもしれないです。でもそれは、正しいか正しくないかではなくて、私と違うだけであって、決めつけないで、大人とか若者とかではなくて」

黄さんの声かけに励まされた、たくやさん。SNSで呼びかけて賛同者を集め、改めて大学に思いを伝えました。

大学も、たくやさんからの問い合わせに丁寧にメールで答え、直接事情を説明する機会も設けたといいます。

そして感染状況が落ち着いた去年12月。消毒をするなどの条件で、ついにピアノが弾けるようになったのです。

たくやさん「本当にうれしかったですね」

竹山さん「最後、聞き流さなかったじゃん、大学。何を得られたと思う?」

たくやさん「やっぱり、希望と自信ですかね」

竹山さん「いま若者の立場から大人に対して『こうあってほしい』っていうならば、何が言えます?自分の経験から」

たくやさん「年下でも1人の人間なので、1人の人間として尊重して、疑問とかがあれば、それにしっかりまっすぐ答えることをしてほしいですね。別に、その答えが否定的であったとしても全然よくて、結論って、めちゃくちゃどうでもよくて、それに至るプロセスが大事なので。99%、プロセスが大事で、すり合わせて議論をすることが、やっぱり大事だと思います」

淳さん「なるほど、プロセスね。彼が求めていたのは、自分を納得させてほしいじゃなくて、せめて理解させてほしいということですよね。弾けないことじゃなくて、何で弾けないかっていう理由をちゃんと明確に聞ければいいということ」

竹山さん「正直、結論じゃないんだという、話をまず聞いてくれという、ちゃんと向き合ってくれ。そこが、われわれは大事なんだというのが、たくや君の意見でしたね」

YOUさん「だからさっき先生がおっしゃっていた、『共有』っていうものができて、それがよくてもだめでも、共有することによって、きっと自信になる。それが、彼自身、ふに落ちたから、うれしかったんだろうなって思いますね」

日本ウェルネススポーツ大学 教授 近藤 卓さん「一緒に黄先生が考えてくれる。一緒に寄り添って時間を過ごしてくれるって、まさに共有」

淳さん「そこで肯定感が上がるっていうことですよね」

近藤さん「基本的自尊感情っていうことですよね。彼も『99%が、プロセスが大事なんだ』って、『結果じゃない』と言っていました。プロセスっていうのはつまり一緒に考えてくれる時間ということだと思うんですよね」

白鳥さん「大人の立場から見ると、10代だし、守ってあげなきゃいけない存在だから、答えをあげなきゃいけないって思ったんだと思うんですよね。大学側が。でも10代とはいえ、子どもだけど子ども扱いされたくない、ちゃんと対話をしてほしいという思いを持っているんだっていうことすら、私は気づけていないかもと思って。教えなきゃいけないとかじゃなく、対話を求めているんだっていうことを、40代の私はちゃんと理解しなきゃいけないと思いましたね」

精神的幸福度が低いとされる、日本の子どもや若者たち。大人には、何ができるのでしょうか。

ぺえさん「自分と違う価値観だったり、意見が全然違ったりしたとしても、その自分と違った考えを楽しみながら、受け入れながら、一緒に考えていくっていうのが、今のこの苦しい世の中に、すごく合った人間同士の向き合い方なのかなとも思いました」

近藤さん「ただね、面と向き合うっていうときに、向き合うっていうのはやっぱり、相手と二人だけの関係なんですね。並ぶ関係、横に寄り添って、横で一緒に感じてほしい、一緒に考えてほしい、一緒に悩んでほしいっていうのが、子どものいちばん大切な願いだと思うんですね」

淳さん「併走なんですね」

竹山さん「大人ってすぐ、『未熟な子だから教えなきゃいけない』とか、そういう感じでしゃべろうとするんだけど、自分はかつてそういうふうにされたときに、そんなに響かなかったこともあるわけですよね。だから、そこは大人、子どもという年齢とか関係なく、人間と人間としてしゃべるということをすれば、なんの問題もないんだなっていうのはすごく最近感じるんですよ」

トラウデンさん「対話をしてくれる、声を聞いてもらえるって、社会からの愛情に感じるというか、そこの一員であることに幸福感を感じるし、そういう経験が、社会に出たときに土台になるとすごく思いますね。声を聴いてもらえる機会っていうのを、いろいろな場面で増やさないといけないと思いました」

白鳥さん「子どもがこんなに声を上げてるんだったら、大人として聞こうとも思うし、子どもにとって『話してみたい』と思われる大人になりたいってすごく思いました」

記事の最後に、ご紹介したほかにもたくさん寄せられている“願い”のうちの一部をご紹介します。

若い世代1万人から寄せられた“願い” — みなさんはどのように聴きましたか?

大学で環境問題を学ぶ みさきさん(21)「私の願いは『環境問題に対して、真剣に向き合ってください』です。飲食店でアルバイトをしているんですけど、食べ残しがすごくあって、もちろん捨てなきゃいけないわけで。もっと対策をしていかないと影響を受けるのは今後の私たちだから。もっと自分ごととして考えなきゃいけないと思いました」

わかさん(20)「私の願いは『性別にとらわれず、自分らしさを表現すること』です。何となく感じるのは、普通に生きている中で、日常の中に『これは男性の仕事』『これは女性の仕事』って振り分けられちゃっている感じがして、『女性=何』っていうのが、なくなったらいいなって思います」

みーさん(18)「私の願いは『若い世代の大人に、政治に興味を持ってほしい』です。もともと保育士になりたかったんですけど、保育士の給料が安かったので、小さい子どもを育てるところにお金を使うような政治になればいいな。(選挙に)ちょっと行って、ちょっと興味を持って、投票すればいいと思うので」

リンさん(18)「僕の願いは『同性婚を認めてほしい』です。お互いこの人にそばにいてほしいと思っているから、結婚するっていう考え方になるのが理想だと思うので、異性同性が(結婚に)関わらないようになってほしいなと思います」