追跡 謎の中国船~”海底覇権”をめぐる攻防~

NHK
2022年7月8日 午後5:30 公開

(2022年6月26日の放送内容を基にしています)

地球上に残されたわずかな資源をめぐって今、闘いが起きている。

温暖化によって氷が溶け始めた北極圏には、世界に埋蔵されている天然ガスのうち2割が集中する。ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー危機が高まる中、日本など各国が開発を急いでいる。

地球上に残された最後のフロンティア、「海」。海の底に眠るのは、石油やガスにとどまらない。先端技術に不可欠な、希少な鉱物資源の数々。獲得出来れば、各国の資源戦略を大きく変えるのだ。

この海底での覇権争いを制するのは、いったい誰なのか?

近年、際だった動きを見せているのが中国だ。私たちは、主要な中国船の位置情報10年分、2000万点を入手。NHK独自のシステムで可視化すると、驚くべき活動の全容が現れた。とくに目立った動きをしているのが、世界中の海に出没している中国の調査船。そして、もう一つ、各国が注視するのが浚渫船(しゅんせつせん)だ。希少資源となっている海底の砂を、根こそぎ吸いあげている。

海底の資源をめぐって、世界は新たな次元に突入している「海底覇権」。知られざる攻防に迫る。

<中国の調査船>

2022年6月4日、沖縄県石垣島の沖合に、不審な中国船が姿を現した。

そこにいたのは中国の海洋調査船。日本の同意なしに何らかの調査を行っていたとみられる。海上保安庁は繰り返し中止を求めたが、調査船は4日間、とどまり続けた。

日本のEEZ=排他的経済水域で中国の調査船による「特異な行動」が確認されたのは、この10年で60回以上にのぼっている。

現在、中国が保有するとされる調査船は80隻以上。海底の地形や地質を調べ、データを収集することができる特殊な船だ。一体、何の目的でどこを調査しているのか?

私たちが手がかりにしたのが、船に搭載されているAISと呼ばれる装置だ。AISは、船が位置情報などを自動で発信する機械。信号は、基地局などを経由し、他の船に受信され、衝突など海難事故を防ぐのが主な目的だ。

今回私たちは、AISの情報をデータベース化している会社から、中国の調査船のデータ10年分を入手した。点が示すのは、船から信号が発信された時間と場所。それらを線でつなぎ、航跡として可視化。

驚くべき実態が浮かび上がった。中国の調査船の活動は、アジアのみならず、世界中に広がっていたのだ。

細かい格子模様や、一部が弧を描いたものなど、不可解な航跡も少なくなかった。

これらの航跡から何が読み取れるのか。私たちは、海底資源研究の第一人者、浦辺徹郎さんに分析を依頼した。

幾何学的な動きを刻んだ航跡は、一定の間隔で海底の形状を調査したもの。

一方、一帯を徹底的にスキャンするような動きは、どんな資源が眠っているのかを調べているのだという。

東京大学 名誉教授・浦辺徹郎さん「基本的には最近は、海底資源の調査を熱心にやっていて、資源があるということで、彼らも予算がつくんだろうと思う」

<南鳥島>

分析を進めると、気になる航跡が見つかった。本州からさらに東に1800キロ離れた南鳥島。2021年8月のデータから、北側が弓なりの形状をした航跡が現れた。資源調査を示す動きだ。

航跡は、日本のEEZの境界線ぎりぎりを沿うように走っていた。EEZの内側は、日本が優先的に資源を開発できるが、その外側は「公海」にあたり、どの国でも自由に調査ができる。

中国の狙いは何なのか?

EEZ内の調査を進めてきた日本のチームの倉庫に保管されていたのは、レアアースを豊富に含んだ泥。南鳥島周辺では、大量のレアアースが埋蔵されていることが確認されているのだ。

”貴重な土”を意味する「レアアース」。EV=電気自動車や、風力発電機などで必要とされ、最新のテクノロジーに欠かせない資源だ。しかし、陸上で生産されるレアアースの6割は中国が占め、価格も高騰している。

将来、南鳥島周辺にあるレアアースを獲得出来れば、資源を輸入に依存してきた日本の運命を変えると期待されているのだ。

日本のレアアースの調査が、始まったのは今から9年前。赤い線が日本の調査船の航跡。調査結果の一部は、論文としても公表されてきた。航跡を確認すると、2021年6月にEEZの南側で、詳細な調査が繰り返されていたことが分かる。

中国の調査船がEEZの外側を調査したとみられるのは、そのわずか2か月後だった。

日本の調査チームを率いる石井正一さんは、日本の調査を強く意識したとみられる中国の動きに対して焦りを募らせた。

戦略的イノベーション創造プログラム プログラムディレクター・石井正一さん 「私どもの情報などについても、しっかりと彼らにウォッチングされているんじゃないかと思います」  「今のウクライナ戦争で一段と鉱物資源の希少性・貴重性はわかってきているので、危機感が少し今までと違ったレベルになってきているのかもしれないです。日本の調査活動は世界に先駆けた、世界初の色々な調査手法をとっているので、そこは決して負けているつもりはありません」

中国の海洋政策に詳しい段烽軍(だん・ほうぐん)さんは、中国にとっても「人口14億を支えられるかどうかの死活問題だ」と語る。

キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員・段烽軍さん「中国はこれからのさらなる成長、あるいは国民の生活レベルをさらにアップさせるためには、海洋の資源を獲得したいと。海洋を利用して、中国の持続可能性を高めていきたいというのが大前提。この10年間の動きにはっきり見えるのは、やはりこの動きの加速。スピードアップしているという状況が、はっきり読み取れる」

<台湾>

ここ数年、世界であつれきを生んでいるもう一つの中国船がある。

台湾が主張するEEZでは、謎の中国船が頻繁に侵入し、違法行為を行っているとして、台湾当局は取締りに乗り出している。

「台湾当局に拿捕(だほ)された中国の船がある」と聞き、台湾の南竿島(なんがんとう)に向かった。拿捕(だほ)された船は中国の浚渫船(しゅんせつせん)だった。船内には、数千トンにものぼる砂が残っていた。海底の砂を商業目的で、採取していたとみられる。

浚渫船は、強力なドリルなどで海底を削り、ポンプで砂を根こそぎ吸い上げる。さらに採取した砂を噴射し、埋め立てを行うこともできる。

実は、海底の砂は、コンクリートの材料や、港の埋め立てなどに不可欠な天然資源だ。世界的な需要の高まりを受け、争奪戦が起きており、国連が枯渇の可能性に警鐘を鳴らすなど、希少性が高まっている。

中国の浚渫船は、どんな目的で台湾の海域で砂を取っているのか?私たちは拿捕(だほ)された船に搭載されていた、AISのデータを調べることにした。さらにこの船以外の浚渫船の航跡情報も、データ会社から入手した。南竿島に最も多くの中国船が現れたとされる、2020年10月25日の250隻分のAISデータだ。

明らかになったのは、大量の浚渫船が中国の上海や広州付近の2カ所から出発。船団を組み、南竿島沖で砂を採取するという組織的な動きだった。

実際に大量の中国船が現れた、当時の様子が島民によって捉えられていた。撮影された映像には、200隻以上が密集する様子が映っていた。

島の住民「島が船に囲まれているぞ」

上空の映像からは、あふれるほど大量の砂を吸い上げた様子がよく分かる。

さらに中国の浚渫船は、北朝鮮の沖合にまで出現。国連の制裁決議に違反し、北朝鮮でも砂を入手していたという。

浚渫船が各地に現れる背景には、中国国内で続く開発ラッシュがあるとみられている。1年間でコンクリートに使われる砂だけでも、世界最大のおよそ120億トン。今や中国周辺の砂は枯渇し、採取が厳しく制限されている。

台湾 国防安全研究院 副研究員・黄恩浩さん「中国では、海や川で砂を採取することは違法であり、厳しい罰則が科されます。そのため中国の外で砂の採取を行うのです。中国であれだけの建設需要があるため、積極的に外に出ざるを得ないのです」

私たちは浚渫船のAISデータをさらに長期スパンで分析。すると、多くの船の動きに不審なパターンがあることが見えてきた。台湾から直接、香港に向かわず、フィリピンやインドネシアを経由。Y字型のルートを取っていたのだ。このルートは何を意味するのか?

台湾の地方議員・楊家俍(よう・かりょう)さん。2年前、中国本土とつながりのある人物から情報提供を受けたという。楊さんによると、台湾の砂が最も使われたのが、香港の空港。1億トンを超える砂で埋め立てが行われたという。

台湾 桃園市議員・楊家俍さん「空港の滑走路の埋め立てには、海砂が必要でした。中国国内で砂が高騰していたので、台湾の海域で取ろうと考えたのです」

さらに、中国船がとったあのY字型のルートに心当たりがあると明かした。

台湾 桃園市議員・楊家俍さん「彼らが使う手口に“洗砂”があります」

「洗砂(せんさ)」。つまり、砂のロンダリングだ。

楊さんによると、砂を積んだ船は台湾を出たあと、一旦、フィリピンやインドネシアに寄港。その理由は、台湾では砂の採取の許可を得ていないため、他の国で架空の原産地証明書を手に入れるのだという。その後、香港に向かい、砂を高値で売っていた。

台湾 桃園市議員・楊家俍さん「フィリピンなどから原産地証明書を発行してもらうことで、違法に採取した砂を合法な砂として香港で売ることで、莫大な利益を得たのです。その額は450億円以上だといいます」

台湾当局は法律を厳罰化し、取り締まりの強化を図っている。一方、中国政府は、違法採取だという台湾側の主張に対し、これまでに公式な見解を示していない。

<南シナ>

アジア・太平洋で中国との対立を深めるアメリカも、浚渫船の動きを注視している。

これはアメリカ軍が撮影した映像。南シナ海のサンゴ礁を、中国の浚渫船が埋め立てる様子を捉えたものだ。

中国の浚渫船は2013年以降、海底の砂を吸い上げ、埋め立てを行い、人工島を造成。滑走路や港などを建設し、瞬く間に軍事拠点化した。

この海域で領有権を主張するフィリピンやベトナムなど、周辺国との衝突も先鋭化している。日本列島から台湾、フィリピンなどに連なる「第1列島線」。

この線を防衛ラインの一つに掲げる中国は、その内側にある南シナ海で軍事力の増強を目指してきた。ここに短期間で7つもの人工島を作り上げた中国。

国際社会の目をどのようにかいくぐり、戦略上の拠点を築いたのか?

人工島の大半が完成したとみられる、その3年前、南シナ海で1隻の浚渫船が活動を開始。のちに7つの人工島が作られることになる場所のうち、5カ所の間を行き来していた。浚渫船は、それぞれの場所にあったサンゴ礁を少しずつ砂で埋め立てていたとみられる。

アメリカのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所で安全保障が専門のグレゴリー・ポーリングさんは、アメリカは当初、中国の動きを関知していたものの、強く警戒していなかったと証言する。

戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員 グレゴリー・ポーリングさん 「当初、アメリカはこのような大規模な地表の改造など、うまくいくと思っていませんでした。一方、中国は国際社会の反応をうかがっていましたが、強い抵抗がなかったため、プロジェクトを続けられたのです」

アメリカが不可能だとみていたという人工島の造成。しかし、中国には手立てがあった。国を挙げて向上させた浚渫技術だ。いまや、中国が保有する浚渫船は200隻を越えている。ヨーロッパを抜き去り、世界一の浚渫大国となっている。

巨大なドリルを搭載したこの浚渫船。1時間に7000トンの砂を吸い上げられるという。こうした技術が人工島の造成に生かされたと見られている。

ポーリングさんは浚渫船の航跡から、中国が国際社会の反発が広がらないうちに、一気に人工島の埋め立てを進めようとしたと読み解いた。

当初は一隻の浚渫船によって、小規模に行われていた人工島の埋め立て。しかし、2014年から浚渫船が増え始め、その後、確認できただけで5隻が合流。短期間で一気に、大きな人工島の埋め立てまで完了させたと見ている。

戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員 グレゴリー・ポーリングさん「中国は現在、最先端のドリル型浚渫船を数多く保有しています。人工島が造成された時、アメリカは中国を非難しました。しかし一連の報道によって、中国の浚渫技術がいかに優秀かを世界に示す結果になってしまったのです」

結局、アメリカなどから反発を受けながらも、計1300ヘクタールを埋め立てた中国。高い浚渫技術で、サンゴ礁を7つの人工島に変えた。

アメリカの軍事専門家は、人工島の軍事拠点化によって、中国の影響力が太平洋にまで広がると懸念している。

元アメリカ海軍司令官 カーク・リッポルドさん「中国は南シナ海の軍事のみならず、太平洋全域を支配しようとしている。中国は国際法に無関心なのです。そもそも南シナ海の島の占有自体が、国際法に違反しているのですから」

一方、中国で南シナ海の安全保障を研究する専門家は、人工島の建設はあくまで国益を守るための行為だと主張した。

南京大学教授・中国南海研究協同創新センター・朱鋒さん「アメリカは軍艦を中国の領海に派遣し、挑発行為や圧力を常にかけています。中国が主張する南シナ海の権益を守るには、軍事力による支えが必要なのです」

<海底資源アラカルト>

地球上に残された最後のフロンティア海底をめぐり、激しさを増す攻防。

海底資源は、無限の可能性を秘めている。金や銀などを含む熱水が冷やされることでできる、海底熱水鉱床。天然ガスの成分を含む白い結晶、メタンハイドレート。リチウム電池などの原料となる、黒い塊・コバルトリッチクラスト。

太平洋にあるこうした海底資源をめぐる戦いの渦中に、日本も立たされている。

<パラオ大陸棚>

南鳥島の周辺で、つばぜり合いを繰り広げる日本と中国。太平洋の島々と隣り合う、最南端の沖ノ鳥島周辺でも、対立が起きていた。中国の調査船の航跡データからは、日本のEEZのすぐ南側で頻繁に活動していたことが分かってきた。

海底資源研究の第一人者、浦辺徹郎さん。このエリアは、国連が定めるある仕組みによって、日本にとっても非常に重要な場所であると指摘した。

東京大学 名誉教授・浦辺徹郎さん「日本は沖ノ鳥島を起点にして、この九州パラオ海嶺の上のパラオまで、大陸棚延長を申請した」

海底資源の獲得に密接に関わる、大陸棚の延長。

国際的なルールでは、各国の陸地から370キロまでの海底を大陸棚とし、その国のものと定められている。しかし、地質などが同じだと国連の委員会に認められれば、延長大陸棚にある資源は、その国が優先的に開発できる。

2008年、日本は沖ノ鳥島から、南のパラオまでが延長大陸棚にあたると申請。地質などは同じと認められたものの、中国などが沖ノ鳥島は島とは言えず、延長は認められないと反発。判断は、いまも保留となっている。

しかし2017年、事態が動いた。日本の反対側に位置するパラオが、同じエリアを再申請。これを日本も支持した。

人口1万8千のパラオ。延長大陸棚の申請の責任者が、取材に応じた。デビッド・イディップさん。友好国の日本の協力も得て、延長大陸棚が認められれば、海底資源の開発の範囲がより広がると期待を示した。

パラオ国土資源情報システム デビッド・イディップさん「もし申請が認められれば、海底にある鉱物や石油などの資源は、パラオの権利となります。パラオはとても小さな国で資源は限られています。もし将来、石油などの資源が見つかれば、パラオの経済にとって非常に重要で、大きな資金源になるはずです」

しかし、中国船の航跡データからは、中国がパラオの再申請を阻止しようと動いていた可能性が浮かび上がってきた。パラオ近海での調査結果をまとめた論文が、インターネット上で見つかったのだ。そこでは、パラオが再申請していた場所は地殻の性質が異なっていると結論づけられていた。

調査を行った船の名は、「大洋号」。その航跡を追うと、まさに、大陸棚の延長が審査されている場所に沿って小刻みに調査をしていた。

パラオのウィップス大統領が、今回、私たちのインタビューに応じた。

パラオ ウイップス大統領「中国の調査船が、大陸棚の上で調査を行っていることは承知しています。これは明らかに、パラオの主張を侵害しようとしているのではないでしょうか。パラオと日本の大陸棚はつながっています。このことは両国の関係の深さと、資源への権利を主張し続けることの重要性を表しています」

<海底ケーブル>

パラオ周辺での中国船の活動に対しては、安全保障上の懸念も持ち上がっている。

いま、アメリカ国務省、オーストラリア国防省、そして日本の海上保安庁の関係者は、パラオの海をどう守るか、議論を重ねている。

オーストラリア国防省関係者「私たちは、国家間の訓練の機会を探し、対立を解消する役割を担っています。私たちはパラオを助けます」

関係各国が危機感を強める1つのきっかけとなったのが、あの「大洋号」だった。

2021年11月、「大洋号」がEEZ内に入り込み、無断で調査をしたとみられている。国際法上、他国のEEZ内で調査を行う場合は、その国の同意が必要とされる。

パラオ公安局長 イスマエル・アグオンさん 「ロープを水の中に垂らしています。パラオの同意なしに、水中で何かしていると判断しました」

再三の警告にも関わらず、「大洋号」は、「嵐を避けている」と主張し、EEZ内に6日間とどまり続けた。「大洋号」の不審な動きについて、国の安全保障を担当する政府高官は、ある懸念を口にした。

パラオ国家安全保障調整官 ジェニファー・アンソンさん「大洋号が私たちの海底ケーブルの真上を通過しているように見えました。彼らがなぜそこにいたのか、非常に気になります」

国際電話やインターネットなどの情報通信を担う、海底ケーブル。パラオの海の底には、アジアとアメリカをつなぐ大動脈がある。

パラオ政府によると、保安上の理由から位置情報は公開していないにも関わらず、「大洋号」の航跡の一部は海底ケーブルの位置と重なっていたという。ことはケーブルだけにとどまらない。各国が警戒感を高める背景には、パラオの地政学的な位置も関係している。

中国がアメリカとの有事に備え想定している防衛ライン。パラオは、そのうち第2列島線に位置し、戦略上の要衝となっているのだ。

EEZ内に入った「大洋号」の目的は、何だったのか。私たちは「大洋号」を運用する中国政府の第二海洋研究所に取材を申し込んだが、回答は得られなかった。

「中国船の活動は、国際法に違反している」。そう指摘するアメリカの安全保障の専門家、ポーリングさん。

中国では調査船を国防のためにも使う、とした法律も存在する。これは、国際ルールから逸脱しているのではないか、と。

戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員 グレゴリー・ポーリングさん「国際法で別々の運用が定められている軍事調査と民間調査を、中国は区別していません。中国は軍事と民間の融合という政策をとり、常にその両方が行われているのです」

いま、パラオの海上警察は、中国などを念頭においた取り締まりを強化している。指導に当たるのは、日本の海上保安庁の出向者だ。

太平洋が、いま、攻防の最前線となっている。

<浚渫船開発 一帯一路の先へ>

世界中の海で存在感を増す中国。どのような未来を見据えているのか?

航跡データ10年分を見ると、中国の浚渫船の活動は、アジアから、アフリカ、そして南米に至る20カ国以上に拡大していた。

その主な目的は、港湾建設だ。世界中で海底の砂を吸い上げ、埋め立てを行い、国家戦略上の拠点としていた。ヨーロッパへとつながる基幹航路・「海のシルクロード」。そのルート上に次々と布石を打っている。

そして今、中国の動きが加速しているのが西アフリカだ。4年前に完成したガーナのコンテナターミナルは、西アフリカ一帯の拠点となっている。

人口3100万のガーナ。今、ゴールドラッシュに沸いている。ガーナは、アフリカ大陸最大の金の生産地。港から、中国の重機を運び込み、金だけでなく様々な鉱物資源を手に入れたいと考えている。

中国人ビジネスマン「ガーナには、金やマンガンなどの鉱山があり、大型の重機が必要なのです。機材を運ぶため、港の拡張が不可欠だったのです」

世界の港湾開発に詳しい、柴崎隆一さん。港を足がかりにして、今後中国の影響が内陸深くにまで拡大すると分析している。

赤い線で示された2020年のモノやカネの動きは、2035年には沿岸国にとどまらず、大陸の奥深くへと拡大。中国は内陸の鉱物資源へのアクセスも獲得すると予想した。

東京大学 准教授・柴崎隆一さん「まずは港に進出して、そこから中へ、どんどん入っていこうという考えなんじゃないかと思います。アフリカはまだ開発の余地があるというか、フロンティアといえると思うので、港湾投資そのものが目的というケースだけでなく、地域開発の一環として港湾投資を行うということもある」

中国政府の意向を受け、浚渫船を使った開発を一手に担う、国有企業・中国交通建設。世界中の港湾、人工島の造成、そして内陸部の開発。企業の幹部は、海も陸も全てを繋ぐネットワークを構築する青写真を描いていると語った。

中国交通建設 幹部・孔琦さん「中国は世界の人々を結び、経済の好循環を生み出し、世界の発展を促すため、開拓者として貢献しているのです。我々の活動に国境はありません」

世界中の海底をくまなく調べ、資源の開発を目指す調査船。そして、海底から吸い上げた砂で、各地に拠点を築く浚渫船。2種類の船を武器に、7つの海を席巻する中国に、どう向き合うのか。

南鳥島に豊富に眠るレアアースの商用開発を目指す日本の調査チーム。2022年6月、最新の採掘技術を試すため、新たな航海に出た。資源の乏しい日本の未来が、かかっている。

東京大学 名誉教授・浦辺徹郎さん「ちょうど大航海時代に、世界の海に乗り出したスペインだとかポルトガルだとか、そういう感じを今、海底に向かって中国はやっているのに、他の国が全然追いついていない、大きな落差を感じます。今後100年経った時に、大航海に参加しなかった国が、どういう思いでそれを見たか。将来日本が、そういう気持ちになる可能性もすごくあると思って心配ですね」

中国船10年分の航跡データから見えてきた、「海底覇権」をめぐる、しれつな闘い。

私たちの目の届かない深い海の底で、限られた資源をめぐる攻防がますます激しさを増している。