南海トラフ巨大地震 第2部 “最悪のシナリオ”にどう備えるか

NHK
2023年3月8日 午後2:34 公開

番組のエッセンスを5分の動画でお届けします

https://movie-a.nhk.or.jp/movie/?v=xho84737&type=video&dir=XAw&sns=true&autoplay=false&mute=false

(2023年3月5日の放送内容を基にしています)

日本列島の南にある南海トラフ。

ここでは陸側のプレートが、海側のプレートに押され続け、“ひずみ”を蓄積。およそ100年から150年間隔で、繰り返し巨大地震を引き起こしてきました。

今後30年以内に「南海トラフ巨大地震」が起きる確率は、70%から80%(地震調査委員会)。国や専門家が危惧する“ある過酷なシナリオ”があります。

南海トラフの半分だけが最初にずれ動くケース「半割れ」です。

その後、南海トラフで再び巨大地震が起きる可能性が高まり、もし巨大地震が連続して起きれば、激しい揺れと大津波が2度にわたり日本を襲います。今回独自に入手した国の想定では、「西の半割れ」の死者は最大10万2,000人、「東の半割れ」では8万4,000人にのぼり、過去の災害を大幅に上回ります(内閣府 半割れケースの一例)。

半割れのケースでは、これまで経験のない事態に直面します。次の地震がいつどこで起きるのか予測が困難な中で、社会は混乱と不安に陥ります。被災地への支援さえも大幅に遅れる恐れがあるのです。

南海トラフ巨大地震に、どう立ち向かうのか。命と暮らしを守る方法を探ります。

高瀬耕造アナウンサー「昨夜放送した第1部ドラマ『南海トラフ巨大地震』。第2部の今夜は『“最悪のシナリオ”にどう備えるか』。決してドラマの世界とは思わずに、近い将来必ず起きることとして備えていきたいと思います」

林田理沙アナウンサー「『南海トラフ巨大地震』が起きたとき、どうやって命と暮らしを守っていくか。4つのポイントで見ていきます」

高瀬アナウンサー「最初は『マグニチュード8クラス 連続する”激震”への備え』です」

林田アナウンサー「今回、国が作成した『半割れ』ケースの被害想定の詳細を、独自に入手。専門家のシミュレーションも交え、科学的知見に基づいてドラマのシナリオを作成しました。舞台は3か所。津波のリスクが高い高知県の沿岸の街、大都市・大阪、そして気象庁のある東京の3か所です」

高瀬アナウンサー「ドラマを振り返りながら“激しい揺れ”による被害について見ていきます」

<M8クラス 連続する“激震”>

東大阪市で3人暮らしの森澤家。ある土曜の夜、それぞれの時間(とき)を過ごしていた。午後8時21分。和歌山県南方沖を震源とするマグニチュード8.9の巨大地震が発生。「西の半割れ」だ。最大震度は7。大阪府は最大震度6強の激しい揺れに襲われた。(南海トラフ巨大地震 第1部ドラマより)

このとき何が起こるのか。

激しい揺れによって16府県で62万1,000棟の建物が全壊。液状化による建物の被害は、23府県で8万4,000棟にのぼります。25万棟の建物が火災によって焼失(16府県)。死者は最大10万2,000人にのぼります(内閣府 半割れケースの一例)。

ドラマでは、その後「東の半割れ」が発生。国の想定では、マグニチュード8.6。愛知、静岡、三重で震度7。日本一の工業地帯がある愛知を含む東海エリアに大打撃を与え、日本の大動脈の交通網も寸断される恐れがあります。死者は、最悪の場合、8万4,000人にのぼります(内閣府 半割れケースの一例)。

たび重なる巨大地震が、超高層ビルに深刻なダメージを与えることも分かってきました。こちらは鉄骨造25階建て、高さおよそ100mの超高層ビルのモデルです(下画像)。

西の半割れでは、赤くなったところで、鉄骨が“揺れ”によって変形します(下画像)。

何も対策を取らないまま次の巨大地震に襲われると、青い部分で鉄骨がちぎれた状態となり、建物が使用できなくなる恐れがあります(下画像)。

<“揺れ”への備え 大丈夫?>

林田アナウンサー「スタジオには、俳優の仁村紗和さんと松尾諭さんにお越しいただきました」

高瀬アナウンサー「ドラマでは、お二人は大阪と東京に離れて暮らす兄と妹の役でした」

俳優 仁村紗和さん「『半割れ』という現象自体、この作品に入るまで知りませんでした。巨大地震が連続して実際に起こったら、恐怖でしかありません」

高瀬アナウンサー「松尾さんは、ご自身も兵庫県出身で阪神・淡路大震災のあの揺れを体験していらっしゃる」

俳優 松尾 諭さん「ドラマの中でも部屋がバーッと揺れるシーンがあって・・・僕は19歳のときに西宮で被災しているんですけど、そのときの揺れというのが縦揺れで部屋が動いてるみたいな感じで、それを思い出しながらやりました。いろいろ考えると不安は尽きないです」

林田アナウンサー「ここからはドラマのシナリオを監修した名古屋大学名誉教授の福和伸夫さんとともに考えていきます」

福和伸夫さん「『阪神・淡路大震災』は直下の活断層がずれ動いたので、強烈な揺れでしたよね。実は『南海トラフ地震』は、震源域の一部が陸にかかった真下の地震なんです。かつ『東日本大震災』のようにとても大きい地震です。ということは、ふたつを足したような地震で強烈な揺れが来るとともに長い時間揺れ続ける」

福和さん「おそらく、東京の超高層ビルはものすごく揺れると思います。高層ビルは長周期地震動で揺れやすいんですよね。エレベーターに閉じ込められる恐れがないかということも気をつけていただきたいです」

高瀬アナウンサー「高いビル・マンション、そういったところの揺れについては、今年2月から『緊急地震速報』の対象に加わりました」

福和さん「緊急地震速報で揺れる前に情報をもらえれば、エレベーターのボタンを押せばいいですよね」

高瀬アナウンサー「福和さんは日ごろからかなり対策を徹底されている名物先生でもあります」

福和さん「何よりも大事なのは『家の耐震化』。家を失うと災害後、本当に大変な思いをします。それからファミリークローゼットなど家具を一室にまとめる『家具部屋』をつくって、できるだけ家具のない部屋で過ごすようにする。家具がある部屋は『家具を固定する』。大事なのは、けがをしない対策です」

仁村さん「私は賃貸なんです。L字型の金具で家具を固定するものがありますけど、賃貸だと穴を開けられないですよね」

福和さん「東京都港区では公営住宅に限って、家具を止めるために穴を開けても原状復帰しなくてもいいんです。例えば、いま私たちは当たり前のように、ごみの分別をしていますよね。こういうことをするのが当たり前という社会にすれば、家具の固定は絶対できると思います」

高瀬アナウンサー「今回ドラマでは『西の半割れ』のあと『東の半割れ』というかたちになりました。(実際には)その限りではないんですよね」

福和さん「前回は昭和。1944年の東南海地震と1946年の南海地震。先に東で起きて、2年後に西だった。もう1回前は幕末。東海地震が東で起きて、翌日32時間後に南海地震が起きた。みんな東が先だと思い込んでいるが、西が先というのもありえます」

<沿岸部を襲う大津波 最前線の対策>

林田アナウンサー「次に見て行くのは『数分で到達』『大都市を襲う』大津波からどう逃げるか。国の被害想定では死者の7割が津波によるもので、南海トラフの最大のリスクと言えます」

下の画像は、国の想定をもとに作成した「西の半割れ」の津波シミュレーションです(内閣府のデータに基づき作成)。早いところでは、およそ3分で津波が到達します。

特に高くなる高知県では、黒潮町で最大26m(下画像)。さらに2度目の巨大地震「東の半割れ」では、千葉から宮崎までの77の市町村が、3mを越える2度目の大津波に襲われます。

ドラマでは、高知で津波避難タワーに逃れる人々の様子を描きました。自力で歩けないお年寄りを背負って助けるシーン。これには、モデルとなったある町の取り組みがあります。最も高い津波が想定されている高知県・黒潮町です。

目指すは”犠牲者ゼロ”。

避難に助けがいる高齢者や障害者などの支援に力を入れています。始めたのが、「玄関先まで避難」です。

民生委員「きぬおばちゃん!ここまで来られる?」

中村絹恵さん(93)「はーい。ありがとう」

最大の目的は「避難をあきらめずに最初の一歩を踏み出す力を養うこと」です。玄関先まで出れば、地域住民とともに避難できる可能性が高まります。

「とりあえず外さえ出れば、誰かしらいるので」

中村さん「生きている間は自分の責任でしっかりしないと。みんなに迷惑かけられん。自分で行きます」

夜の地震を想定した避難訓練も行っています。

「逃げるよ!避難タワー!」

「走れ~!来よるぞ~!」

津波が到達する20分以内に避難タワーを目指す中、あの「玄関先まで避難」をする高齢者もいました。

この日は、地区住民の半数近い100人が参加しました。

京都大学 杉山高志 研究員「1分1秒でも早く津波避難を始める必要があり、家の外まで出るという習慣を要配慮者にも持ってもらうことが、“犠牲者ゼロ”を達成する上で非常に重要な試みだと考えております」

<大都市を襲う津波 どこに避難するか>

一方、大阪では、中心部の梅田周辺に最大2mの津波が襲います(大阪府想定)。大阪市内の浸水想定エリアには、ピーク時、145万人が滞在(大阪府調べ)。市外から来た人がおよそ3割を占め、津波のリスクや避難場所を知らない人も少なくありません。

東京大学 廣井 悠 教授「買い物客とか通勤客とか、どこに逃げればいいのか分からない方々も結構いる。自律的に整然と避難するというのは、なかなか考えにくい」

津波の際の一時避難場所は、新御堂筋より東に36か所あります。ここにたどりつけるよう、地下街では“ある対策”をしています。

この地下街にある181すべての店舗が、避難誘導に使う「黄色い旗」を保管。いざというとき、店員が率先して避難場所へ向かうことで、大勢の人たちを誘導することが狙いです。

地下街の管理会社 危機監理室長「各お店の従業員の方が『率先避難者』になって、自らも当然避難していただく。そのことがパニック防止につながり、スムーズな避難誘導につながると考えています」

<大津波からどう逃げる 命を守る対策は>

松尾さん「ばらばらの場所にいて連絡もつかないと不安だと思うんですけど」

福和さん「昔から東北の三陸沿岸では『津波てんでんこ』と言いますよね。みんな逃げていることを信じて、てんでんばらばらに逃げる。これは鉄則なんです。いつも通っている場所に、どんなハザードがあるのかということを調べていただいて、ふだんから『絶対逃げるんだよ。高いところへ』ということを親子で確認しあっておくことが大事ですね」

災害リスクの確認に使えるのが「NHK全国ハザードマップ」です。ご活用ください。

<“最悪のシナリオ”にどう備える あなたの疑問に答えます>

高瀬アナウンサー「今回事前にインターネットで、南海トラフ巨大地震についての質問を視聴者の皆さんから募集しました。『被害想定』『対策』についての質問が多かったんですが、『富士山の噴火を誘発する可能性はあるんですか』といった質問もありました」

福和さん「『宝永の地震(1707年)』という大きな地震があったんですが、49日後に大噴火しました。ですが、『安政の地震(1854年)』と『昭和の地震(1944年・1946年)』のときには、噴火しませんでした。ですから噴火することもある」

高瀬アナウンサー「こんな質問も来ています。『太平洋側にばかり警告や意識が向いているので、周辺では他人事(ひとごと)です』」

福和さん「これは『自分事(じぶんごと)』になります。過去の南海トラフ地震のときは、地震が起きる前後に、内陸あるいは日本海側で活断層がずれ動くような地震が頻発しています。ですから、南海トラフ地震の前後は日本海側の方々も含めて要注意です」

<臨時情報巨大地震警戒 “孤立する被災地”で生き延びる>

林田アナウンサー「次は、『臨時情報巨大地震警戒 孤立する被災地』」

高瀬アナウンサー「いつ起きるか分からない次の巨大地震に備える状況の中で、新たな困難が生じるかもしれないんです」

「南海トラフ地震臨時情報・巨大地震警戒を発出致します」(南海トラフ巨大地震 第1部ドラマより)

ドラマの中で、地震発生の2時間後に出された「南海トラフ地震臨時情報・巨大地震警戒」。南海トラフ沿いでマグニチュード8.0以上の地震が起きたときに、気象庁が発表。次の巨大地震の可能性がふだんよりも高まっていることを知らせます。対象となるのは、揺れや津波のリスクのある29都府県、およそ6,000万人です(南海トラフ地震防災対策推進地域の指定地域)。リスクがとくに高い地域では「避難指示」が出され、1週間の「事前避難」が求められます。

ドラマでは、臨時情報の発表によって、西の半割れで被災した地域にも深刻な影響が出ていました。

「『臨時情報が出されたことで消防・救援体制は遅れる』と言っていた。3日で助けなんか来るわけないと思いますよ」(南海トラフ巨大地震 第1部ドラマより)

なぜこのような事態が起きるのか。

理由のひとつが、「救援する側が被災地に向かえない事情」があるためです。全国各地から被災地の救援に駆けつける「緊急消防援助隊」。臨時情報が出されると、南海トラフ沿い10県の部隊は地元の活動に特化し、1週間、県外の支援ができなくなります。次の地震に備えるためです。

一方、被災地への救援が期待されている部隊も出動をためらう実態が、アンケートから見えてきました。

「後発地震による被害を考慮し、部隊の出動を決めかねる」(千葉県の回答)

「小規模な消防本部は連動地震での被害発生を警戒して、早期に隊を出動させる判断ができるか分からない」(熊本県の回答)

生存率が下がるとされる72時間以内に、被災地へ到達できる見込みの部隊数は2,781隊。45%にとどまりました(隊数の回答がなかった東京・京都を除く全国6,135隊のうち)。

関西大学 永田尚三 教授「救援が来なくても、自分たちの地域の消防力である程度対応できるような体制。これを通常から整備しておく必要性がある」

災害時の孤立は、命を守る医療機関にとっても、大きな課題です。高知市の災害拠点病院、近森病院の周辺では、最大3mの津波が想定されています。

井原則之 医師「外から他の職員は来られない。うちの病院は相当“籠城戦”。耐え忍ばなければいけないだろうと思います」

災害時の救命救急の責任者、井原則之 医師は、20年近く国内外の被災地で災害医療に携わってきました。

井原さんの指揮で、津波から患者の安全を確保する訓練を実施。さらに電子カルテを印刷して、浸水しない場所に保管する仕組みを整備してきました。1週間以上支援がなくても、医療が継続できる体制を目指しています。

今、井原さんが取り組んでいるのは、災害医療に携わる心構えを地域全体で共有することです。町の薬剤師や看護学生のもとに足を運び、問いかけています。

井原 医師「病院が浸水する、あるいは道がダメになる。自分の病院に行けなかったらどうするか。いざというときは、自分が行ける他の病院に行ってください。医療者として働くときの『覚悟』として、特に高知県はそれが必要だと思ってください」

看護学生「看護師として1人でも多くの被災者の人の命を救えるように、できることを手伝いたいと思います」

井原 医師「あくまで高知県の人間が、自分たちの住んでいる場所を守るために頑張る。“生き残る”ということですよね」

福和さん「『臨時情報巨大地震警戒』。1週間、事前避難をしてくださいという呼びかけがされるという話が出てきましたけど、この1週間というのは、避難の限度だろうということで決まった1週間なんです。ですから1週間たったあとも十分に警戒して過ごしていただきたい。臨時情報を作ったいちばんの眼目(がんもく)は、あらゆる人たちに臨時情報を通して、そのときどんなことが起きるのかということを想像してもらう力を育てるためだったんです」

松尾さん「高知の近森病院の先生が『覚悟』という言葉を使われていた。ちょっとした意識があるだけでたぶん助かると思うんですけど、もうひとつ上の覚悟を個人個人が持てば、より助かる命が増えるのではないかなと思いました」

福和さん「地域の力を日頃からつけておくことが大事です。自分たちでできることは少しでも取り組んでいただきたい」

<日常の中に防災を “フェーズフリー”な対策とは>

高瀬アナウンサー「そういったときに備えておきたい、考えてもらうきっかけとして、さまざま用意してあります」

林田アナウンサー「最近避難所でもよく使われる『段ボールベッド』。これは『強化段ボール』の箱を重ねたもので、いざというときに、組み立ててベッドとして役立つ。“フェーズフリー”という考え方で、ふだんの暮らしの中に防災を取り入れていこうというものです」

高瀬アナウンサー「フェーズフリーの考え方を取り入れたグッズを用意しました。例えばエコバッグ、これは『撥水(はっすい)バッグ』で水を運ぶのにも使えます。長期保存が可能な『液体歯みがき』。それから『モバイルバッテリー』など」

福和さん「『防災の日常化』をかっこよくいうと“フェーズフリー”なんですね。わが家もフェーズフリーをいっぱいやっています。特に『水』はたくさんあります。少し多めに食材を買っておいていただければ、役に立ちますよね。いわゆる『ローリングストック』。定期的に交換しながら、日常でもいただくことができます。電気の問題もあります。わが家は、屋根の上には『太陽光発電』。それを蓄電する『蓄電池』。さらには、ガスだけでもあれば得なので『燃料電池』ですね。『プラグインハイブリッド車』。4つも電池があります」

日常に防災を取り入れる“フェーズフリー”という発想は、さまざまな企業に広がろうとしています。

関西大学  奥村与志弘 教授「皆さんの業界が関連しそうな問題がどこにあるのか。シールを貼ってもらいたいんです」

話し合われたのは「震災関連死」をどう防ぐか。過去の事例をもとに、企業ができる対策を考えます。

奥村教授「便秘は何かあるんですか?」

食品会社 開発担当「食物繊維をとることで、便秘解消というような商品を作ろうと」

奥村教授「鉄道事業者としてはトイレ?」

鉄道会社 安全管理担当「(駅などに)簡易トイレを用意する対策が必要じゃないかな」

奥村教授「これまで防災の分野と思っていた人でなくても、ここにビジネスチャンスがあると思ってもらって、ここにアプローチしていきたいという気持ちを育んでいければいいなと思います」

福和さん「災害がたくさんある国だからこそ、思いつくアイデアがありますよね。日本でしか生まれないビジネスかもしれない」

松尾さん「うちには子どももいるので、例えば『ランドセル』。子どもは持ち慣れているからパッと持ち出すのに重くならないような機能。いすになるとか、枕になるとか、何かプラスワンがあるだけでそれもフェーズフリー。商品開発というのがいろんなもので進んでいったらいいなと思います」

<経済低迷を防ぐには カギは企業の“つながり”>

高瀬アナウンサー「最後に見ていくのは、『国難級の災害 経済崩壊のリスクをどう抑えるか』です」

南海トラフ巨大地震の経済への影響を分析した、兵庫県立大学の井上寛康教授が注目したのは「サプライチェーン」。仕入れ・製造・供給の取り引きが、鎖のように連なる企業活動の流れです。井上さんの研究グループは、全国100万の企業情報と500万の取り引きデータから、サプライチェーンの全体像をコンピューター上に構築し、半割れケースの地震が起きたときの企業への影響を計算しました。

西の半割れで、企業の生産額がどれほど減少するか予測した結果です(上画像)。赤は生産額が地震前の8割以上減少、黄色は4割から2割減少した企業を表しています。地震の直後は西日本に集中しています。

1週間で、サプライチェーンでつながる首都圏の企業にも拡大します(上画像)。

20日後には、北海道から沖縄まで全国に広がりました(上画像)。

東日本大震災と比較すると、西の半割れだけでも、経済への影響が深刻になることが分かりました(上画像)。

兵庫県立大学 井上寛康 教授「例えば、あるものを作るのにネジ1本足りないから、他の材料がそろっているのに作れない。ドミノ倒しのように“連鎖的な破綻”が起きるわけです」

もし西の半割れの半年後に、東の半割れが発生したとすると、1日あたりの生産額は地震前の半分に落ち込み、1年たっても元の水準には回復しませんでした。年間のGDPの減少額は134兆円。東日本大震災の10倍です。

災害時の経済へのダメージに、どう備えるのか。

大阪にある従業員10人の板金加工会社で、模索が始まっています。ここでは大手電機メーカーや自動車会社の依頼で、特注の部品を製造しています。社長の岩水建二さんは、災害時に供給を止めない仕組みを作ろうと、大阪府内の同業者と話し合いました。

岩水建二さん「やっぱり機械が動かないっていうのが一番不安ですよね」

門真市の板金加工会社 社長「似たような設備があるので、困ったときにはお互い協力し合える」

八尾市の板金加工会社 社長「有事のときに頼める。そういうふうな付き合いがね」

工場の機械が使えなくなったとき、お互いが「代替先」となれる関係を作っていくことになりました。

さらに、遠く離れた地域にも代替先を確保しようとしています。新潟の町工場を支援する団体に相談しました。

岩水さん「これがレーザー加工機になります。例えば、大阪で大きな地震があったときには、新潟の会社さんにお願いできたらなというのがあります」

新潟 町工場支援団体担当者「そうですね。3次元レーザーを持っているところがありますので」

こうした対策は、どれほど有効か。井上教授は、日本の企業全体が「代替先」を増やした場合の効果を計算しました。対策しないケースに対して、青の「代替先を増やした」ケースでは、地震後の沈み込みが少なく、その後、回復していくことが分かります(下グラフ)。1年間のGDP減少額は4分の1に抑えられる結果になりました。

井上教授「代替先を見つけておくことの効果は非常に高くて、日本経済全体にとってのレジリエンス、回復力に大きく寄与します」

<“最悪のシナリオ”に どう備えるか>

福和さん「もうひとつ課題があって、2022年には私が住んでいる愛知県では明治用水という大事な農業用水の頭首工で水漏れが起きて、その影響は農業だけではなく、発電や自動車産業にまで及んでしまった。これはいろいろなものが老朽化してきているということ。ですから、大事なインフラやライフラインは、みんなで強化しようという雰囲気作りが必要だと思います」

仁村さん「こうやって地震のことについて学んだり、自分の中で防災力を上げていったりして、正しく怖がるというのがいちばん大事なのかなと思いました」

松尾さん「ちゃんと覚悟を持って臨まないと。守るべき人もいますし、キャンプグッズとかを防災用具に転化するとか、得た知識を防災に役立てるとか、それを楽しみにしながらずっと意識を持ったままいられたらいいなと思います」

高瀬アナウンサー「今日はここまで、ありがとうございました。南海トラフ巨大地震が避けられない未来だとしても、今できることがあります。私たちの命そして未来は、私たち自身で守りたいです」