番組のエッセンスを5分の動画でお届けします
(2023年4月29日の放送内容を基にしています)
多くの病気には男女で明らかな違い、いわゆる“性差”があることをご存じですか?例えば「病気のかかりやすさ」。男性の場合、高血圧は女性と比べて1.4倍。肥満や糖尿病にもなりやすく、痛風ではなんと65倍にもなります。一方、女性は男性に比べて、ぜんそくやうつ病、自己免疫疾患などにかかりやすいというデータがあります。
さらに、同じ病気でも、その「起こり方」に明らかな性差があることが分かってきました。今、さまざまな病気の性差を解明し、男女それぞれに最適な診断や治療を実現する「性差医療」という新たな医療が注目されているのです。
<病気・男女に違い!?「性差医療」最前線>
ヒロミ「ちょっと驚きましたね。今は男女平等。分けるのはよくないみたいな傾向にあるじゃない?それなのに医療は分けた方がいい。時代と逆行しているような・・・」
鈴木奈穂子アナウンサー「最新研究では、私たちの脳が生み出す性格や能力については、性別による違いはあまりないことが分かってきたんですね。一方で、体の中、そこにはかなり明確な男女の違い、いわゆる“性差”があることが分かってきているんです。それ故、『病気のなりやすさ』や『病気の起こり方』も、男女で違っているということなんです」
ヒロミ「やっぱり違うものは違うんだ」
鈴木アナウンサー「最初にご覧いただくのは、身近な薬に潜む性差の話です」
<薬の作用に「性差」 効果・副作用への影響は>
アメリカ・サンディエゴに住むテリ・ワイズさんは、10年ほど前、ある奇妙な体験をしました。
最初は、自宅の洗面所でした。
テリさん「その夜は11時ごろにベッドに入りました。それなのに気づいたら、ここで髪を乾かしていたんです。でも、起きてシャワーを浴びたことも、服を着たことも、全く記憶がないのです。とても怖かったです」
奇妙な出来事は、ほかにもありました。ある日、突然ダンベルが届いて驚いたと言います。注文の記録をたどると、意識のない中、電話で注文し、支払いまでしていたことが分かりました。
テリさん「このままでは意識のないまま、車を運転してしまうことだってありえます。自分や誰かを傷つけるかもしれず、とにかく心配でした」
不安を感じたテリさんは、かかりつけの医師に相談しました。
相談を受けたポセタ医師。実はテリさん以外の多くの患者からも、同じような相談を受けていたと言います。ポセタ医師は、こうした夢遊病(睡眠時遊行症)の患者に“ある共通点”があることに気づきました。皆、同じ睡眠薬「ゾルピデム」を服用していたのです。
さらにポセタ医師を驚かせたのは、ゾルピデムの副作用の頻度が男女で大きく異なることでした。
スティーブ・ポセタ医師「ゾルピデム服用後の夢遊病を訴える患者さんの大半は、女性でした。男性より女性が多いということは、私たちクリニックの医師から見ても明らかだったのです」
ゾルピデムの副作用の問題を重く見たアメリカ政府が行った実験から、驚きの事実が明らかになりました。
この実験では、男女それぞれが10mgのゾルピデムを服用し、薬の効き目が消えるとされる8時間後の血液の中の薬の残留量を調べました。上のグラフは、服用8時間後、血中に薬が多く残っていた人の割合です。男性が3%。しかし女性ではその5倍。女性の方が、長く薬が残りやすいことが明らかになったのです。
女性の体内に薬が残りやすい原因は、体格の差ではなく「臓器の働きの違い」だと分かってきました。たとえば、小腸。女性は小腸で薬を吸収する速さが、男性よりも遅い傾向があり、薬は時間をかけて吸収され、男性より長時間にわたり作用し続けます。
そして腎臓。薬の成分を排出する速さも、女性は男性より遅い傾向があるため、薬が体内に蓄積、濃度が高くなり、薬の作用が強くでます。薬の作用が強過ぎたり長時間続いたりするために、女性は男性より、副作用のリスクが高いのです。
この発見から、アメリカ政府は、男女とも10mgだったゾルピデムの服用量を、女性では男性の半分の5mgにするよう緊急の勧告を出しました。
お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 佐々木成江 特任教授「そもそも薬の副作用は、女性の方が男性の2倍リスクが高い。アメリカの調査では、一般に処方されている86種類の薬を調べた結果、76種類で女性の方が残りやすい」
鈴木アナウンサー「どんな副作用があるんですか?」
佐々木 特任教授「眠気、頭痛、吐き気という軽いものもあるんですけれども、突然死につながる不整脈という深刻なものまであります」
ヒロミ「女性は基本的に薬の量を減らした方がいいという感じなんですか?」
佐々木 特任教授「副作用のためには薬の量を減らすのはいいことかもしれないんですけれども、それで効果が下がってしまうと本末転倒。実際に女性で服用量を減らしている薬は少ないです」
鈴木アナウンサー「対策は、とられているんですか」
佐々木 特任教授「国や製薬会社に、副作用の情報を集めるシステムがあります。その中で副作用の性差というのも監視されておりまして、これは日本でも行われています。我々ができることとして、新しい薬を飲んで異常を感じたときは、すぐに医師に相談して、薬の用量や種類を検討する。そういうことが大切だと思います」
<女性は要注意 病気の「性差」>
北海道にお住まいの鈴木さんご夫妻(仮名)は、夫婦そろって市民マラソンランナー歴は15年以上。健康には自信がありました。しかし5年前、妻のひろこさん(63歳)に、“ある異変”が起こりました。
ひろこさん(仮名)「最初はちょっと胸が痛くなったんですけれど、どこかにぶつけたのかなという感じだったんです。そのあたりから、あごが痛くなったりとか背中が痛くなったりとか・・・」
ひろこさんは、インターネットなどで情報を探りました。そして自分の胸の痛みが、「狭心症」の症状に似ていることに気づきました。
そこでひろこさんは、循環器専門の病院を訪れ、検査を受けました。上の画像は、そのとき病院で撮影されたひろこさんの心臓のレントゲン写真です。赤い部分「太い血管」には、詰まりなどの異常は全く見られません。医師の診断は「原因不明」というものでした。
ひろこさん(仮名)「がっかりしましたね。本当に実際に痛いんですよ。すごく痛いので、『この痛みは何なんですか』って先生に聞いたんですけれど、『筋肉痛かな』って言われたんです」
その後も7か所も病院を回り続けたひろこさん。しかし実に3年もの間、診断はつきませんでした。
そんなひろこさんに、転機が訪れます。ある医師の紹介で、東北大学病院(仙台市)で特別な検査を受けることになったのです。行われたのは、心臓の血流を見る検査です。心臓にカテーテルを挿入、造影剤を流し込み、血液の流れを撮影します。その際「アセチルコリン」という薬を注入し、あえて血管に負荷をかけます。そうして、血管に問題がある場所を探り出そうというものでした。
下の画像は、ひろこさんの心臓の血管です。黒く見えるのが血液の流れです。
一般的な狭心症の患者と比べてみると(下画像)、狭心症の患者ではマルで囲った部分で血流が途切れ、血管が詰まっていることが分かります。一方、ひろこさんの血管には、こうした異常は見られません。
しかしこのとき、心電図に変化が起こりました。心臓の血流が悪くなっていることを示す波形が現れたのです。
一体、何が起きていたのか?
実は血管造影で見える血管は、太い血管のみ。すべての血管の5%にすぎません。
ひろこさんの場合、問題が起きていたのは、映像に映らない直径0.5mm以下のごく細い血管です。微小な血管が狭まり、心臓の血流が悪くなって胸の痛みが起こっていたのです。
東北大学医学部 高橋潤 准教授「一般的に狭心症というと男性に多くて、血管造影で分かる太い血管が詰まる。ところが今回の患者さんは女性で、細い血管が狭まることが原因でしたので、やはりそれが広く認知されていなかったので、今回診断がつくのが遅くなったと考えられます」
佐々木 特任教授「狭心症などの心臓病は、男性が女性の3~5倍ほど多く発症しています。男性の狭心症というのは太い血管が詰まることが多いので、『狭心症=太い血管が詰まる』という先入観があったということが大きいですね。(微少血管の狭心症は)およそ7割が女性だと言われています。だいたい10人に1人が発症するというふうに言われています」
鈴木アナウンサー「女性が自覚しにくいという問題もあるんですよね。(上の画像は)心臓病で男女が痛みを感じる場所です。男性は胸の痛みが主なんですけれど、女性は首や肩、おなかなど、いろんなところに痛みがでるんですね」
ヒロミ「治療はできるんですか」
佐々木 特任教授「痛みを予防する薬や血管を広げるような薬が処方されています」
この微小血管の狭心症のほかにも、女性に特徴的な「病気の起こり方」が、次々と明らかになっています。
例えば「認知症」。男性は脳の血管が詰まって血流が悪くなることで神経細胞が死んでしまう『血管性認知症』の割合が多いのに対して、女性はアミロイドβというゴミが蓄積することで神経細胞が死ぬ『アルツハイマー型認知症』の割合が多いのです。
そして最近、分かってきたのが「大腸がん」の性差です。男性は肛門に近いところに、大きくでっぱった腫瘍ができる傾向があります。一方女性は、肛門から離れた大腸の奧に、へん平な腫瘍ができます。この腫瘍は見つけるのが難しいうえ、悪性度が高いので注意が必要です。実際、日本の女性のがんの死亡原因の第1位は大腸がんです。
ヒロミ「これは、最近分かってきたことなんですか?」
鈴木アナウンサー「実は『男性と女性には違いがある』という認識が、医学の世界には長らくなかったんです」
<医療はなぜ「男性基準」に 性差医療が開く未来>
アメリカ・ニューヨーク。ここに“性差医療の母”と呼ばれる人物がいます。
マリアンヌ・レガート博士「男女を比較し類似しているか、男性の研究をそのまま女性に適用できるかを調べる動きが起きたのは、1990年代初頭になってからです。それまでは男女の違いを調べることさえありませんでした」
実はつい最近まで、「病気に男女の違いはない」というのが医学界の認識でした。このため、生理がなく体の状態が安定している男性が主な研究対象となり、診断や治療が作られていました。
さらに1960年代以降、男性基準の医療を加速させる出来事が起こります。睡眠導入剤として開発された薬「サリドマイド」をはじめとする、数々の薬害事件です。薬の臨床試験に参加した女性の赤ちゃんの体に、異常が生したのです。このため1977年、アメリカ政府は、臨床試験には女性の参加を禁止するという勧告を出しました。
こうして、臨床試験はさらに男性だけを対象に行われるようになり、治療も診断も、おのずと男性基準になっていったのです。
当時から、男女で心臓病の起こり方が違うことに気づいていたレガート博士は、男性基準の医療を変えるべく立ち上がりました。性差医療を専門に研究する学会を設立。政府関係者にも、その重要性を訴え続けました。
レガート博士の半世紀にわたる取り組みが、現在の性差医療の普及につながっています。例えば、女性専門の循環器クリニックは、全米60か所以上に設立されています。こうした取り組みのおかげで、アメリカでは、2000年以降、女性の心臓病の死者数が20%以上減りました(下画像)。
鈴木アナウンサー「研究の世界でも、性差医療による革新が始まっているということですね」
佐々木 特任教授「新しい発見が出てきています。細胞にも性差がある。『培養細胞』、『幹細胞』、『iPS細胞』で、どちらの性別由来かで実験の結果が変わってきます」
さらに、性差医療がもうひとつ明らかにした重要な事実は、女性に特有の「病気が起こりやすい時期」があるということです。上のグラフは、微小血管の狭心症による胸の痛みが起こった年齢です。なぜか46~50歳に集中しています。
鈴木アナウンサー「この時期に減るのが『女性ホルモン』なんですよね。女性の健康と深く関わっているんです」
<解き明かされる 女性ホルモンのチカラ>
女性ホルモンは、卵巣で作られます。その役割は、卵子を成熟させること。さらに、女性の健康を守る働きもあります。女性ホルモンの働きを調べるある実験を行いました。
このシャーレ(上画像)を、顕微鏡で拡大すると・・・
下画像のように、細胞がたくさん集まり、膜を作っています。血管の内皮を構成する細胞です。
シャーレを針でひっかくと、細胞が集まった膜に大きな傷ができました(下画像)。
ここに、女性ホルモンを加えてみます。
すると、徐々に細胞が増殖し、傷を埋めていきます。そして元通りになります(下画像)。
血管の内皮の細胞は、血流の影響で常に傷ついています(下画像)。
女性ホルモンがあると、傷はただちに修復されます。こうして女性ホルモンは血管を守っているのです。
そんな大事な女性ホルモンですが、女性は更年期に向かって、下のグラフのように急激に減っていきます。
女性ホルモンが少ない場合は、血管の傷は、なかなか修復されません(下画像)。そうすると、血管の傷の部分から動脈硬化が進み、心臓病や脳梗塞のリスクが高まるのです。
女性ホルモンの減少は、「骨の内部」にも大きな影響を与えます。こちらは、新しい骨を作れるように、古い骨を溶かす「破骨細胞(はこつさいぼう)」です。
下の画像は、特殊な顕微鏡で捉えた破骨細胞。動き回っている赤いものです。黄色く見えるのは、破骨細胞が吐き出す「酸」。これが骨を溶かします。
女性ホルモンが十分にある場合と比べると、下画像・右側の女性ホルモンが少ない場合は、黄色く見える酸の量が多くなっているのが分かります。破骨細胞の活動が過剰になっているのです。その結果、骨はどんどん溶かされ、スカスカになっていきます。
女性は更年期に体を守る女性ホルモンが減少すると、心臓病や骨粗しょう症、さらに糖尿病や認知症など、多くの深刻な病気のリスクが一気に高まります。これが新たに見えてきた「性差医療」が取り組むべき課題なのです。
<更年期は要注意 女性を救う最新性差医療>
政策研究大学院大学では、女性外来を訪れた、延べ3万人分の受診データの分析から、更年期で不調を感じて診察を受けた女性のおよそ27%に、深刻な病気が潜んでいることを明らかにしました。
そこで、この膨大な診察記録を統計解析し、更年期のさまざまな症状をもとに、隠れた病気のリスクを予測するアプリを開発しています。
まず、現在、感じている体の不調を打ち込みます。この女性の場合、体のむくみや手足の冷え、息苦しさなどがあります(上画像)。
すると、「心不全」という病気のリスクがあると判定されました。受診すべき診療科も示されています。
アプリを使用した女性「ちょっと胸が苦しかったり痛かったり、そういう症状があったので、このアプリに教えてもらったので、早急にお医者様に行こうと思っています」
このアプリは、来年には、一般向けに運用を始める予定です。
(アプリの詳しい情報は、こちらをご覧ください) (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
政策研究大学院大学 片井みゆき教授「いつでもどこでも誰でも、アプリで、女性専門外来で性差医療を経験できるということを目指しました。医師の側にとっても、患者さんの症状がきちんとまとまって、非常に診断に役に立つものであろうと考えています」
一方、性差医療の先進国、アメリカでは「更年期の女性に起こりやすい病気を予防しよう」という研究も進んでいます。
研究を行っているのは、アンリア・ヒル博士です。
女性ホルモンを含む錠剤は、更年期の不調を緩和する目的で、欧米などで広く服用されています。
ヒル博士は、アメリカ西海岸の町・ラグナウッズ(カリフォルニア州)で、女性ホルモンを補充している5000人以上の健康状態を、30年以上追跡してきました。その結果、女性ホルモンを補充していた女性は、補充していない女性と比べて、心臓病や脳卒中の発症リスクが20~40%減少、アルツハイマー型認知症の発症も抑えられていることが分かりました。さらに、病気や老衰で亡くなった人の数を調べたところ、女性ホルモンの服用を続ける年数が長い人ほど、死亡率が下がり長生きしている傾向が明らかになったのです。
YOU「『女性ホルモンの補充がしたいんです』って言えば、いただけるんですか?」
佐々木 特任教授「女性外来や産婦人科に行って、検査と問診などをして処方されます。飲み薬やジェルタイプ、貼り薬などがあります。日本ではちょっと普及が少ないというところがあるんですけれども、それは以前、女性ホルモン補充療法は乳がんや子宮がんのリスクが高まるというデータをアメリカが出したところ、みんな一気にやめたということがあるんです。今は新しい研究がどんどん出てきまして、ホルモン投与の工夫で、リスクは非常に少ないことが分かってきています。閉経から5年以内に始めれば、大きなメリットがあると考えられています」
ヒロミ「逆に、男性ホルモンは女性ホルモンみたいに僕らの体を守ってくれないんですか?」
佐々木 特任教授「女性ホルモンというのは、体を保護する作用とか病気から体を守るという作用が強いんですね。男性ホルモンは、筋肉を増やしたり骨を太くしたり、体を強くするという作用が強くなります」
ヒロミ「なんでこんなに違うんですか」
佐々木 特任教授「人類進化の研究で、男性は狩猟や外敵と戦うために強い体が必要な時期が長かった。一方、女性は妊娠・出産・育児のために、病気にならない体が必要だった」
ヒロミ「おもしろいですね。体はそうやってできてきて・・・でも今の時代、生き方は男女一緒になっている。俺は体が強いよりも、健康を守ってくれる女性ホルモンが欲しい。もう本当に、この年になってくると・・・」
性差医療の研究から見えてきた女性ホルモンのチカラが、男性も対象とした新たな医療の可能性を広げようとしています。
<女性ホルモンが男性を救う!? 性差医療が開く未来>
今、新たに女性ホルモンの活用が期待されているのは、一刻を争う命の現場・救急医療の分野です。女性ホルモン製剤を注射することで、事故などで大量出血して命の危機にある人を、男女問わず延命できるというのです。
上のグラフは、豚を使った動物実験の結果です。出血から5時間後の生存率は、何も手当てをしない場合は73%。しかしたった一回、女性ホルモンを注射しただけで、生存率が90%にまで高まったのです。女性ホルモンを注射すると、出血で滞った血流が改善、低下した血圧も上昇、心臓の筋肉にも作用し心肺機能が向上。その結果、延命につながることが分かりました。現在、人での臨床試験が始まっています。
ヒロミ「これは、副作用はあるんですか」
佐々木 特任教授「女性ホルモンの注射は一回だけなので、副作用はほとんどないというふうに言われています」
実は性差の研究をきっかけに、性差以外にも、さまざまな病気に関わる個人差が解き明かされ、そこから未来の医療が生まれようとしています。
鈴木アナウンサー「性差のほかにも、今回3つハテナがあります。ひとつは『年齢差』」
佐々木 特任教授「高齢者は成人と比べて、臓器の機能や代謝が大きく異なっているので、診断基準や薬の服用量など、さまざまなことを成人と変える必要があると言われています」
鈴木アナウンサー「つづいて『人種差』です」
ヒロミ「アジア人と欧米人の違いは?」
佐々木 特任教授「なりやすい病気が違います」
佐々木 特任教授「糖尿病はアジア人や黒人で発症リスクが高かったり、皮膚がんは白人で発症リスクが高かったり。ほかにも多くの病気で、人種差があるということが分かってきていて、人種ごとに最適な医療が必要だということが注目されています」
鈴木アナウンサー「もうひとつ、ハテナがありますね。男女問わず、“あるものの差”を知ることが、がんの治療などで重要になってくることが分かってきているんです」
<性差から個人差へ 「オーダーメイド医療」の可能性>
がん治療の現場でウズデミール博士が頭を悩ませていたのが、抗がん剤の深刻な副作用です。抗がん剤は副作用のリスクが特に高い薬です。薬の作用が強くでる女性は、男性と比べて副作用が出やすく、入院するほど悪化することもあります。そこでまず、女性患者の抗がん剤の量を、男性より減らしてみました。しかし、それでも強い副作用がでてしまう女性がいることに、ウズデミール博士は気づきます。
ベルナ・ウズデミール博士「同じ女性でも副作用の強さはひとりひとり違います。つまり副作用を左右する原因が、性別以外にもあることが分かったんです」
同じ性別でも、抗がん剤の副作用の重さが異なる原因は何なのか?
それを明らかにするために、CTスキャンを使って、患者ひとりひとりの体の中を詳しく調べました。
上の画像は、副作用が軽い女性患者と重い女性患者の腹部の断面です。体重はほぼ同じ。両者の大きな違いは、ピンク色で示した部分「筋肉」です。副作用が重い患者は、筋肉の量が少ないのが分かります。実は、この筋肉の量こそ、抗がん剤の副作用を左右する要因だったのです。
体内に入った抗がん剤は、主に筋肉に取り込まれ、そこで有効成分に変化し効果を発揮します(下画像)。
筋肉の量が少ない患者は、抗がん剤を取り込みきれず、薬の一部がそのまま残ります(下画像)。それが、副作用を引き起こしていたのです。
現在、ベルン大学病院では、性差に加え、患者個人の『筋肉の量』に応じて、最適な薬の量を調整しています。
性差の研究をきっかけに発見された「筋肉量」という個人差の重要性。性差医療は今、男女の違いに合わせた医療から、個人個人の体の違いに合わせた医療「オーダーメイド医療」へと進化しつつあるのです。
ウズデミール博士「性差医療はその先にある個人差に応じた医療、オーダーメイド医療を実現するためのひとつのステップだと思っています。男女を問わず、誰もが自分の体に最適な治療を受けられるように、年齢とか体の組成とか、その他の「個人差」の検討を今後も進めていかなければなりません」
鈴木アナウンサー「性差、年齢差、人種差そして筋肉量の差と、いろんな差が解き明かされて、その差を生かした医療が進むと、その行きつく先にはひとりひとりの体質の差に合わせた医療『オーダーメイド医療(個別化医療)』の実現が待っているということなんです」
佐々木 特任教授「オーダーメイド医療は、究極の医療ということなんですけれども、それをどうやって実現していくか、どこから手をつけていくかというのが分からない状態だったんですね。体の最大の違い『性差』に取り組んだことで、オーダーメイド医療を実現する道筋が見えてきたという流れですね。体や病気には比較的明確な性差があって、それを利用すればよりよい医療を実現できる。誤った区別なのか、正しい区別なのか、正しく理解していく。それが私たちの社会をよりよく成熟させていくために必要になってきているのではないかというふうに思います」