(2023年1月15日の放送内容を基にしています)
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって、まもなく1年。
ロシア・ウクライナの両陣営は、戦況を有利にするための情報を日々大量に発信し、しれつな情報戦を展開しています。
シリーズ混迷の世紀 第6回は、ネットやSNS全盛の時代に国家間で繰り広げられる、新次元の“情報戦”です。
軍事侵攻以降、自国の行動を正当化する「プロパガンダ」を発信し続けてきたロシア。
プーチン大統領「ロシア系住民をジェノサイドから解放するために、ウクライナでの軍事作戦が必要でした」
今回、私たちは、ネットやSNSにあふれるロシア発の情報の流れを徹底検証。見えてきたのは、情報を「武器」と位置づけ、各国にあるロシア大使館やインフルエンサーが、一斉に拡散させている実態。「フェイク」だとされる大量の情報が、世界に混乱を引き起こしていました。
一方のウクライナは、厳しい戦況を打開しようと、世界の広告代理店と手を組み、政治的なPR戦略を展開。「強大な侵略者に立ち向かう勇敢さ」をアピールし、国際社会から大規模な軍事支援を引き出そうとしてきました。
SNSなどの発達によって、情報戦が世界を覆う時代。
軍事侵攻の裏側で何が起きているのか。知られざる攻防に迫ります。
河野キャスター「20世紀、2つの世界大戦を始め、戦争は軍事力だけでなく、その国家の経済力や技術力など、総力をあげた戦いとなってきました。そして今世紀。インターネットやSNSの普及で、大量の情報を瞬時に拡散出来るようになり、国家は、戦争における“情報戦”の比重を高めています。
そうした新次元の情報環境で行われている、ロシアとウクライナの情報戦。そこでは、自国に有利な情報を流し、内外の世論の支持を取り付けようとするプロパガンダや、偽の情報など“フェイク”を使って、敵対する国を混乱させたりする“情報工作”などが展開されています。そして、こうした情報の渦に、世界各地の市民が巻き込まれる事態にまで発展しているのです」
<ロシア“情報工作“の実態>
2022年2月。ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した日。
プーチン大統領「特別な軍事作戦を実施することにした。8年間、ウクライナ政府によって、ジェノサイドの危機にさらされてきた人々を保護するためです」
演説で侵攻の正当性をアピールしたプーチン大統領。以来、相次いで自国に有利なプロパガンダを発信し、国内外の世論の支持を得ようとしてきました。ウクライナのゼレンスキー大統領を装った“フェイク動画”も拡散。
「私の最後の重大な決断は、あなたたちにお別れの挨拶をすることです。武器を捨て、家族のもとに戻るよう呼びかけます」(ゼレンスキー大統領を装ったフェイク動画)
のちに、AIによって作られたフェイクだと判明したこの動画。ウクライナの兵士や市民の士気を下げるのが狙いだと見られています。
イギリスのシンクタンク、ドシエセンターは、ロシア政府の内部文書を分析した結果、政府が国営メディアなどに指示を出し、“情報工作”を行っていることを突き止めたと言います。
ロシア政府が、国営メディアなどに向けて出したとされるマニュアルには「ウクライナで、アメリカと同盟国が、核や生物兵器を開発してきたと主張し続けることが重要だ」と記されていました。こうした真偽不明の情報をSNSで拡散させるよう、多数の動画も用意。軍事侵攻の責任は、ウクライナ側にあると訴えるものが、多く含まれていました。
シンクタンクが、こうした“情報工作”の中核にあるとみているのが、今回の軍事侵攻の総司令官となったゲラシモフ参謀総長が、2013年に発表していた、いわゆる「ゲラシモフ・ドクトリン」。
新たな時代の戦争では、軍事力よりも、非軍事力の方が大きな役割を占めており、中でも情報戦は、相手国を弱体化させることができるとして、その重要性を強調しています。
ドシエセンター/マキシム・ダバー氏「ロシア政府からみた正しい情報を発信し、情報空間を埋め尽くそうとしています。特にネガティブな情報を出すことで、人々を動揺させ、混乱させたり、怒りを増幅させたりすることを重視しているのです」
戦略として“情報工作”を行うロシア。国際社会から非難されている「戦争犯罪」の疑惑をめぐっても、大規模な工作を展開しています。
ロシアによる人権侵害や、真偽不明な情報などを検証してきたNGOでは、とりわけ、国際社会に衝撃を広げた「ブチャの虐殺」の検証に力を入れてきました。
アイズ・オン・ロシア・プロジェクト/ベンジャミン・ストリック氏「3月19日に撮影された衛星画像があります。ロシア軍がこの地域を占領していた時期に、遺体が路上に散乱しているのが見えます」
こうした指摘に対してロシア側は、「フェイクとの戦い」と名付けたサイトを作り、「虐殺は行っていない」と主張。ロシア軍による犯罪の証拠とされた動画や衛星画像は、欧米メディアによるフェイクだと訴えたのです。
アイズ・オン・ロシア・プロジェクト/ベンジャミン・ストリック氏「ウクライナでの人権侵害を正当化するために、ロシアこそが“情報工作”をしています。情報空間を汚染しようとする企てを、阻止しなければなりません」
ある研究機関の分析によると、SNS上では、「ロシア軍が虐殺をした」という投稿よりも、「虐殺していないのではないか」という投稿が、1.2倍多くシェアされていたことが分かりました。なぜ、ロシア側の主張がより多くシェアされたのか。取材を進めると、SNSを駆使した大規模な拡散の手法が見えてきました。
まず、サイトをツイッターで紹介したのは、ロシア外務省のアカウントでした。その1分後に、カナダのロシア大使館がリツイートすると、24時間のうちに世界17のロシア大使館などが次々とリツイート。政府機関が発信した情報として、わずか1日で、のべ300万のフォロワーに広がっていました。
その拡散を加速させたのが、親ロシアのインフルエンサーたち。2か月で、のべ1500万のフォロワーにまで広がっていたのです。
ドシエセンター/マキシム・ダバー氏「大量に偏った情報が流れることで、誰もがそう思っているという印象を与え、その結果、プロパガンダを“事実”だと思い込んでしまうのです。これは効果があります。人々が世論の流れにあらがうのは、とても難しいからです」
<ウクライナのPR戦略に迫る>
こうしたロシアの情報工作に対して、ウクライナも総力をあげて対抗。フェイクなどを流すロシアメディアのサイトを狙って、サイバー攻撃などを仕掛けてきました。
さらにウクライナも、自国に有利になる情報を発信することで、国際社会を味方につけようとしてきました。その一翼を担ってきたのが、ウクライナの広告代理店バンダ・エージェンシー。
バンダは、侵攻直後から政府の要請を受け、被害の実態を伝え、支援を呼びかける動画を制作。さまざまなSNSを通じて発信してきました。
とりわけ、バンダが力を入れてきた政治的なPR戦略があります。2022年4月上旬、徹底抗戦を掲げるゼレンスキー大統領を前面に押し出し、「勇敢さ」をアピールするキャンペーンを始めたのです。
ウクライナ/ゼレンスキー大統領「勇敢さが、私たちのブランドです。(国際社会は)勇敢に決断しなければなりません」
最大の狙いは、欧米各国に、さらなる軍事支援を求めることでした。
当時、ウクライナは、兵器が圧倒的に不足。しかし、欧米各国は当初、大規模な軍事支援がロシアを刺激することを懸念し、大型兵器の供給には後ろ向きでした。
そこで、バンダは「ウクライナのように、勇敢に立ち向かってほしい」というメッセージを、アメリカやドイツ、イギリスなど、世界20か国、140都市の看板や電光掲示板に展開。国際世論に訴えかけたのです。
このPRを始めた直後から、ツイッターでは、「ゼレンスキー大統領」と「勇敢さ」を語る投稿が増加し始めました。
バンダ・エージェンシー/ドミトリー・アダビルさん「『勇敢なウクライナ人が、怪物に立ち向かう戦いだ』と、世界の人々に認識してもらい、心から共感してもらいたかったのです。世界の人々がウクライナのために団結するよう促したのです」
当時、国際社会では、ブチャで起きた虐殺などをめぐって、ロシアへの非難が高まり、ウクライナを支持する世論が広がっていました。そのさなか、イギリスのジョンソン首相がウクライナを電撃訪問。ゼレンスキー大統領の勇気をたたえ、大型兵器を含む160億円の軍事支援に踏み切ったのです。続いて、アメリカ政府も、大型兵器の支援を決断。長距離の砲撃が可能な榴弾砲や砲弾など、1000億円規模の支援を行いました。
バンダの戦略によって、世界に広がった「勇敢さ」のイメージ。このPR戦略について、ウクライナの軍事専門家は、ロシアを警戒していた欧米各国の背中を押す効果があったとみています。
ウクライナ 軍事専門家/オレグ・ジダーノフ氏「指導者が国内から逃げず、首都キーウから命令を下し、家族を守り、国を守っているという事実。そうした勇敢な英雄の情報、リアルな戦争の物語が、情報空間を埋め尽くしたのです。言葉は時に、弾丸や砲弾よりもずっと重く強い。この戦争には、“勇敢さ”というイデオロギーなしで勝つことは不可能です」
<ウクライナが展開したもう一つのPR戦略>
ウクライナ側は、もう1つの政治的なキャンペーンも展開していました。ロシアの戦費を支える「エネルギー」に対して、包囲網を築こうとしたのです。
軍事侵攻から2週間、アメリカとイギリスは相次いで、ロシア産の石油や天然ガスの輸入の禁止などを表明。
アメリカ/バイデン大統領「ロシア経済の“大動脈”をターゲットにすることを発表する。プーチン大統領に、強力な打撃を与えるであろう」
こうした動きの背後に、ウクライナ側が仕掛けた国際的なキャンペーンがありました。
その一翼を担ったのが、ニューヨークに本社を置くアメリカの広告代理店。ウクライナ国営のガス会社など、16の企業からなる団体から、依頼を受けました。
この広告代理店では、軍事侵攻直後、ウクライナ側の窓口となり、国内外のメディアから寄せられた2500件以上の取材依頼に対応。このとき訴えたのが、ウクライナを支援するために、「ロシアからのエネルギーの輸入を断つ必要がある」ということでした。キャンペーンに参加する企業が、議員にも働きかけ、アメリカ政府や議会も動かそうとしてきました。
欧米各国を味方につけようとしてきたウクライナ。2022年、アメリカの広告代理店やロビー企業に払った金額は、およそ3億8千万円。前年の3倍にのぼっています。
カーブ・コミュニケーションズ 社長/アンドリュー・フランク氏「“情報戦”は、戦争という観点から非常に重要です。私たちは、サイバー領域の戦争のプレーヤーではありませんが、メディアでメッセージを発信する能力によって、一定の存在感を発揮したと思います」
軍事侵攻からまもなく1年。一部の戦線でロシアの劣勢も伝えられる中、プーチン大統領は、プロパガンダを発信し続けています。
ロシア/プーチン大統領「道義的・歴史的正義は我々の側にあります。家族や祖国のために前進し、勝利しなければなりません」
<戦争のプロパガンダの歴史>
20世紀、映画やテレビなどが発明され、各国は競って、戦争で有利になるプロパガンダを発信してきました。中には、事実に反する情報が含まれていることも少なくありませんでした。
国家間で繰り広げられてきた情報戦を分析してきた、ベルギーの歴史学者、アンヌ・モレリ氏は、戦争の大義を掲げる国家のプロパガンダを多くの人々が信じてきたことを、教訓にしなければならないと指摘します。
歴史学者/アンヌ・モレリ氏「『自由や民主主義のため』、あるいは、プーチンのように『ナチズムに対抗するため』というように、国家は私たちに“大義”を掲げます。これこそ戦争プロパガンダで、私たちは、そこに疑いを持たなければなりません」
モレリ氏が、例としてあげたのが、1991年の湾岸戦争の際のプロパガンダです。イラクによるクウェート侵攻が起きたとき、アメリカは直接の当事者ではありませんでした。しかし、1人のクウェート人少女の証言によって、アメリカによるイラクへの武力攻撃が支持されるようになったのです。
「イラクの兵士が、病院の中に入ってくるのを見ました。彼らによって、赤ん坊は保育器から取り出され、冷たい床に放置されて死んでいきました」(アメリカ議会でのクウェート人少女の証言)
しかし後に、この少女は、アメリカに駐在するクウェート大使の娘で、まったくの作り話だったことが分かりました。アメリカの広告代理店が仕掛けた、情報工作だったのです。
歴史学者/アンヌ・モレリ氏「少女の証言は虚偽でしたが、公の場などで発表されたのを聞いて、誰もが涙しました。それが、アメリカがイラクに攻撃することを、国民が支持する正当な理由を与えたのです。戦争中に流される情報について、何が真実なのか、本当に見極める手段を私たちは持っていません。そのため私たちにできることは、自問自答することです。『これは本当なのか』、『戦争プロパガンダに取り込まれていないか』と。今回も、欧米とロシアの対立に巻き込まれたくなかった国々が、それぞれのプロパガンダに押されてどちらかを味方し、気づけば戦争に組み込まれてしまう。それが危険なのです」
古来、戦争につきものだったプロパガンダ。SNS全盛の時代に起きた今回の“情報戦”では、その拡散のスピードや規模も格段に違い、知らぬ間に世界中の市民が巻き込まれています。特にロシア側は、市民の不安や怒りにつけ込むような情報を大量に拡散させることで、人々を混乱させ、分断をあおろうとしているとみられています。
<不安や混乱広がるドイツ>
いまロシア側が情報工作の標的にしている国の1つが、ドイツです。ロシアからのエネルギーに大きく依存してきましたが、軍事侵攻以降は経済制裁を実施。対するロシアも、天然ガスの供給を削減したため、エネルギー価格が高騰し、国内に動揺が広がっています。いま、こうした市民の不安につけいるような情報が、大量に拡散しているのです。
ロシア側から発信される情報を監視してきたシンクタンクが見つけた、SNSで拡散されていた風刺画。
EUの帽子をかぶった医師が、ロシアからドイツへのガスの供給を止めている姿が描かれています。経済制裁が皮肉にも、エネルギー危機を招いているというのです。
ドイツの大手メディアのロゴを使い、本物の記事を装って投稿されていました。それを拡散させていたのは、AIでつくられた偽の顔写真を使ったアカウントだと言います。
デジタル・フォレンジック・リサーチラボ/アンディ・カービン氏「私たちが見た中でも、最大級の“情報工作”です。ロシアのある組織が、何百ものフェイスブックやインスタグラムのアカウントを作成し、ヨーロッパの人々を標的にして、経済的な不安をあおり、ウクライナ支援の士気を下げようとしたのです」
市民を標的にした情報工作は、社会の隅々で混乱を広げています。
エネルギー不足への不安が高まる中、旧東ドイツの地域では、政府の政策に抗議するデモが、毎週行われています。ウクライナを支持する人が多いドイツで、ロシアの国旗を掲げる人の姿もありました。参加者の中には、ロシア側が発信する真偽不明の情報に接するようになった人もいます。
デモ参加者のカーステン・クルパさんは、ガスや電気代などの高騰によって、生活を切り詰めるようになっていました。政府の発表や大手メディアの報道は信じられなくなり、SNSの情報に頼るようになったというクルパさん。その中には、ロシア寄りのメディアや、市民の不安や分断をあおっていると指摘されるアカウントもありました。
「エネルギー危機はない。それは政府によって引き起こされたんだ。ロシアへの制裁は不当だ」(SNS動画)
カーステン・クルパさん「納得いくように響きます。これは真実です。SNSで分かったのは、マスメディアでは一方的な報道がなされ、全く議論がないことです。ロシアに対する経済制裁のせいで、私たちが自滅してしまいます。犠牲になるのは常に底辺の人たちです。すべての制裁は終わらせなければなりません」
<ロシアが狙う世界の分断>
ロシアが仕掛ける情報工作が、欧米以外の地域にも浸透し、世界の分断が深まっている実態も見えてきました。
各国のツイッターの投稿を収集・分析してきたイギリスの調査機関は、侵攻直後の3月はじめ、ロシアへの国際的な非難が高まる中、SNS上では、逆にロシアを支持する声が急速に広がっていたことに気づきました。
ツイッターで拡散していたプーチン支持、ロシア支持という2つのハッシュタグ。
3月2日(2022年)に突如出現し35万回投稿されていました。
この日、国連総会では緊急会合が開かれ、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議の採決が行われていました。決議は欧米各国など141か国の賛成多数で採択。一方で、中国やインド、アフリカなど35か国が棄権に回りました。
ツイッター上で広がったロシア支持のハッシュタグ。調査機関が詳しく分析したところ、青色で示された1100のアカウント群は、国連での採決にあわせるように作成され、一斉に投稿が行われていました。国際世論に影響を与えるようと、人工的に作られたボットアカウントだとみられています。
こうした投稿に反応し、ロシア支持の声が広がったのが、南アジアやアフリカなど、いわゆる「グローバルサウス」の地域だといいます。
ソーシャルメディア分析機関/カール・ミラー氏「人工的に作られた偽りの現象が、普通の人々を巻き込んでいました。ロシアには“情報工作”を行う強い動機があり、西側の非難からグローバルサウスを分断させようとしたのです」
<広がるロシア側の主張>
ロシアを支持する声が広がっている国のひとつが南アフリカです。ここ数年、反欧米を掲げる政党が支持を集め、ロシアとの関係を強化しようという動きが出ています。
南アフリカの政党/ジュリアス・マレマ代表「ロシアはアパルトヘイトと闘うために資金をくれた。我々はアメリカ勢の属国ではない」
こうした背景には、冷戦時代からソビエトが、人種隔離政策・アパルトヘイトに反対する動きを支援してきた歴史があります。
南アフリカ市民「アフリカの今日があるのは、プーチン大統領が最大限支援してくれたおかげです」
南アフリカ市民「NATOは、アフリカにとって帝国主義、植民地主義を意味しているのです」
市民の間で広がる反欧米感情。そこで今影響力を増しているのが、ロシアの国営通信社、スプートニクです。欧米とは一線を画すメディアや、ジャーナリストの養成をするようになったのです。南アフリカで急成長を遂げるウェブメディアIOLもその1つです。
その報道姿勢が如実に表れた出来事がありました。2022年9月、ロシアへの一方的な併合を進めるため、ウクライナの4つの州で行われた、いわゆる「住民投票」。
欧米メディアが、非合法だと報じる中、IOLは、南アフリカなど世界6か国から市民が参加した投票監視団の存在を強調、「西側の情報をうのみにできない」とする主張大きく取り上げました。
編集長のランス・ウィッテン氏は西側だけではなく、真偽は不明であっても、ロシア側の主張も提示することが重要だと言います。
ウェブメディアIOL/ランス・ウィッテン編集長「特にウクライナ侵攻は西側諸国で、『ロシアによるテロだ』という言説がありますが、ロシアは『人々を解放するためだ』と主張しています。西側メディアによって、特定の物語が強制されています。そのことを認識することが重要です」
南アフリカでメディアのあり方を研究している専門家は、ロシアメディアの影響力が、このまま強まってしまうことを懸念しています。
ケープタウン大学/ハーマン・ワッサーマン教授「IOLは反欧米・反植民地感情の歴史を利用しています。ロシア国営メディアの南アフリカへの進出は、ロシア寄りの報道を強めます。さらに、地元の通信社のジャーナリストなどを雇うことによって、彼らの報道がより広く、視聴者に届くようになってしまうのです」
国家間で繰り広げられるしれつな情報戦が、世界の分断を引き起こしているいま、私たちは様々な情報とどう向き合えばいいのか。
SNS時代の情報戦を研究/ピーター・W・シンガー氏「現実世界にもっとも影響を与えるのは、事実とは限りません。むしろ事実ではない情報の方が、現実よりも速く、そして広範囲に拡散される危険性を持っています。それに加担しているのは、私たち1人1人です。もっとも読まれる話を決めるのは国家ではなく、あなたや私の“クリック”なのです。インターネットは、善の勢力にも、悪の勢力にも力を与える武器になることを自覚しなければなりません」
<私たちはどう向き合うのか>
世界に真偽不明な情報が溢れる中、どのように真実を見極めればいいのか、各地で模索が始まっています。
ドイツの中学校では、フェイクとされるニュースについて、対策を話し合う授業が行われています。子どもたちが、自分で事実を確かめる力を養うことを目指しています。
講師「重要なのは、情報をうのみにしない姿勢です。情報の内容は現実的か、信頼性が高いか、考えなくてはいけません」
アメリカでは、情報戦で深まった分断を乗り越えようとする取り組みも行われています。
心理学者ミンソンさんと、冷戦時代、ソビエトで暮らしてきた祖母のバルシーナさんは、ロシア側が流す情報にしか接することのできないロシア国内の人々に向けて、いま何が起きているのかを伝えようとしています。
「ロシアでは今、数千人もの若者が自分たちと同じ人間を殺しに行き、大義も分からずに命を落としています」(バルシーナさんのメッセージ)
メッセージを書き込めば、世界中の誰もが、ロシアの市民にメールを送れる仕組みです。この1年で2億通以上のメールを届けてきました。
ジュリアン・ミンソンさん「お互いが自分の信じている真実を押しつけても、相手を説得することはできません。お互いを敵だと思わせようとする試みに疑問を持ち、私たちは、ごく普通の市民同士だと気づいてもらうことが私たちの目標です」
祖母のバルシーナさんは、国家が事実をゆがめる様を目の当たりにした経験から、自分に何ができるのかを考え続けてきました。
バルシーナさん「ソ連に住んでいた当時は、自分の考えていることを言うのが怖かった。だから、今ロシアで危険な目に遭っている人のことを考えるし、彼らが何を感じているのか分かる。もしかしたら、彼らの助けになるかもしれないと思っています」
バルシーナさんは、祖国の人々に問いかけ続けています。
「あなたの考えや意見を聞かせてください。この狂気を止めるために、私たちに何ができるのでしょうか」