(2023年2月12日の放送内容を基にしています)
ロシアによるウクライナ侵攻によって安全保障の脅威が高まっており、それが経済活動に影響し、これまでのように自由にものをやりとりする仕組みが揺らいでいます。
シリーズ「混迷の世紀」。第8回はグローバリゼーションが揺らぐ今、対応に追われる日本の姿。資源を持たない日本は戦後、グローバル化の恩恵を受けることで経済を発展させ、私たちの暮らしも豊かになってきました。
ところがいま、アメリカが保護主義的な政策を打ち出し、中国も激しく対抗。互いに不信感を募らせています。
アメリカ/バイデン大統領「中国との21世紀の競争に勝ち抜く」
中国外務省/汪文斌 報道官「すべての国は、アメリカ政府の一国主義と保護主義を野放しにしてはならない」
世界は、どんな転換点に立っているのか。
日本は荒波にどう立ち向かおうとしているのか。
苦闘する日本の姿です。
<グローバリゼーションの危機に揺れる日本企業>
総合電機メーカー・三菱電機の経済安全保障統括室の伊藤隆さん。いま、大きな課題になっているのが、アメリカの異例の政策への対応です。
三菱電機 経済安全保障統括室/伊藤隆 室長「アメリカの技術覇権を守っていきたい、という意思が強く出て来ているのかなと」
もともとグローバリゼーションを推進してきたアメリカ。中国への対抗策として、保護主義的な動きを強めています。
アメリカが2022年10月に発表した国家安全保障戦略では、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と位置づけ、軍事だけでなく、経済、科学技術など、総合的な抑止力を構築するとしました。
経済の分野では安全保障を脅かすとして、4つの特定分野、半導体・蓄電池・重要鉱物・医薬品に焦点を当てました。
そして、特定の中国企業を指定。それらの企業との取引が分かった場合、制裁を科されるおそれがあるのです。
指定された企業が、自分たちの取引先にないか。伊藤室長が、この日訪れたのは、AIを活用して企業の部品や製品のサプライチェーンを可視化するベンチャー企業「FRONTEO」です。
インターネット上に公開されたデータや、独自の情報をもとにして、星座のように企業を配置。ある企業の1次から7次の仕入れ先にどんな企業があるのか、一目で分かるようにします。
総合電機メーカーでは、コストの安さや効率の良さなどから、38の国と地域で生産する体制を築き、複雑なサプライチェーンを構築してきました。分析では、この会社の取引に関係する8万7000社のうち、1万社あまりが中国企業です。規制対象の企業がサプライチェーンにあった場合、赤い点で表示されます。
今回、直接の取引先には、対象となる企業はなく、アメリカから制裁をうける心配はありませんでした。ところが、取引先の、さらにその先の企業が、規制対象の企業である可能性が浮かび上がりました。
直接取引をしていなくても、サプライチェーン上にある企業が制裁を受ければ、そこからの部品の供給が途絶えてしまう可能性が浮き彫りになりました。
三菱電機 経済安全保障統括室/伊藤隆 室長「経済合理性に基づく意思決定というのが基本にあったわけですが、残念ながら、経済合理性以外の意思決定のしかたも必要になってきます」
総合電機メーカーでは、別のリスクへの対応も急いでいます。部品や原材料の調達を、特定の地域に依存するリスクです。
レアアースは、家電や産業用ロボットなど、幅広い製品に欠かせない重要鉱物です。日本は、全てを輸入に頼っており、その6割を中国に依存しています。
中国はレアアースを戦略的資源と位置づけ、過去には輸出手続きを事実上停止。外交カードとして利用していると指摘されてきました。
中国商務省/沈丹陽 報道官(当時)「中国の輸出規制は、資源と環境の保護が目的の正当なもの。WTOのルールに合致している」(2012年)
レアアースは限られた地域にしか埋蔵されていないため、調達先を代えることは簡単ではありません。会社では、レアアースが原料の永久磁石に着目し、その磁力を正確に測定する技術を開発。余分な磁石を使わずに、レアアースの使用量を削減することも可能になるとしています。
三菱電機 経済安全保障統括室/伊藤隆 室長「特定の地域、国、企業に高い依存をしているとしたら、ある程度複線化を図って、過度な依存をしないで済む技術開発をする。あるいは、循環型の資源の再利用というものを考えていくことも必要」
グローバリゼーションの危機は、中国向けの事業で大きな収益をあげてきた企業に、難しい判断を迫っています。
従業員200人あまりの、EV向け電池などの製造装置をつくる「テクノスマート」です。電池の部品となる金属板に特殊な薬品を塗る生産設備をつくり納入しています。
いま、売り上げの8割を中国向けが占めていますが、中国向けの売上げがなくなるリスクを警戒しています。ロシアによるウクライナ侵攻のあと、懸念が強まっている“台湾有事”を現実的なリスクとして受け止めるようになっているのです。
テクノスマート/柳井正巳 社長「2年前、コロナがはやった時期の売上高がその前年度の半分以下まで落ち込みました。もし台湾有事があれば、コロナの時に経験したことが起こり得る」
そこでいま、ヨーロッパなど他の地域への売上げを増やそうとしています。しかし、国ごとに求められる製品の仕様は異なり、取引相手を代えるのは簡単ではありません。
テクノスマート/柳井正巳 社長「以前は、政治と経済は別物で政経分離と、これが望ましい姿ですが、今ここに安全保障が入ってくると、経済というのは確実にそちらに飲み込まれてしまいますので大変です」
世界を覆うグローバリゼーションの危機。それが日本企業にどんな影響を与えているのか。
今回、東京大学でAIを活用した経済の研究を行っている坂田一郎教授とともに分析しました。活用したのは全世界の貿易データです。200の国と地域のそれぞれの間で輸出入がどう行われているか、2500品目について膨大な計算をAIが行います。およそ40年分、4億3000万のデータをAIに読み込ませることにしたのです。
AIが順位付けた、世界の貿易に対する影響力のランキング。当初は、アメリカ、ドイツ、日本の順番でしたが、中国が次第に力を増していきます。
中国は、日本、ドイツ、そしてアメリカも抜き、トップに立ち続けています。
さらにそれぞれの国がどの国と関係が近いかAIが自動的にグループ分けしたところ、2000年、AIは世界を3つのグループに分けました。アメリカ中心の青色のグループ。ドイツ中心の緑。そして日本を中心とした黄色のグループです。
2003年、日本のグループが赤色に変わります。貿易の額だけでなく、他の国とのつながりの強さなどをもとに、中心が中国に替わったのです。
その後も日本は、中国グループの中に置かれています。
東京大学工学系研究科/坂田一郎 教授「アジアの城主の立場が、日本から中国に移動したことを、この図は表しています」
東京大学工学系研究科/坂田一郎 教授「アメリカとは政治的、文化的、社会的にも、非常に強いつながりがあるので、アメリカと日本は一番強くつながっていると感じてしまいますが、日本企業にとってみると、現状ここまで中国を中心としたアジアの貿易圏の中に組み込まれた存在になっているので、日本企業からみれば非常に難しい状態になるといったことを示しています」
<分断が引き起こす戦争のリスク>
河野憲治キャスター「グローバリゼーションの危機を世界はどう見ているのか。2023年1月。スイスで開かれた世界経済フォーラムの年次総会、通称『ダボス会議』で印象的だったのは『グローバリゼーションが大きな曲がり角にきている』という問題意識の高まりでした」
国際政治学者/イアン・ブレマー氏「世界第2位の経済大国である国家資本主義の中国。政治的分裂を抱え内向きになったアメリカ。ならず者のロシア。これらをすべて合わせると、『脱グローバリゼーション』が起きているといえるのではないでしょうか」
歴史家/ニーアル・ファーガソン氏「今は第2次冷戦中で、2つの世界秩序が存在します。1つはアメリカ主導、もう1つは中国主導です」
河野キャスター「グローバリゼーションをめぐっては、格差拡大や産業の空洞化などを招いているとして世界各地で反発が広がり、今回も会場の外でデモが行われていました」
河野キャスター「そうした中で、グローバリゼーションがもたらす『ある効果』について強調していたのが、EU=ヨーロッパ連合の元委員長ジョセ・マヌエル・バローゾ氏です。バローゾ氏は、2004年からの10年間、欧州債務危機などでバラバラになりかけたヨーロッパの国々の結束を強めました」
バローゾ元EU委員長「EUは第2次世界大戦後、経済的な統合を進めながらつくられ、最も重要な政治的目標は『経済的な統合を通じた平和』でした。グローバリゼーションは、経済や社会を発展させる大きな原動力だったのです」
河野キャスター「グローバリゼーションの現在の状況や、世界の分断をどのように見ていますか?」
バローゾ元EU委員長「私は、この亀裂は元には戻らないと考えています。大きなリスクは、大規模な戦争です」
かつて世界恐慌をきっかけに各国が自国の産業を立て直そうと“保護主義”に走り、“ブロック経済化”が進みました。ナショナリズムが高まり、第2次世界大戦へとつながっていったのです。
アメリカの元財務長官ローレンス・サマーズ氏は、今の世界が再び危うい状況に陥るリスクに警鐘をならしています。
サマーズ元米財務長官「現在高まっている地政学的な緊張、アメリカと中国の緊張などを考えると、ますます分断が進み、世界が以前ほどフラットでなくなるのは避けられないでしょう。経済的な対立が安全保障の対立につながり、安全保障の対立が経済的な対立につながる悪循環に陥る可能性があります」
対立を深めるアメリカと中国は、いま、競うように、自らの経済圏を広げようとしています。そうした中、日本は対応に苦慮しています。
<自らの経済圏を拡大する米中 苦慮する日本>
アメリカは自国の都合を優先した、新たな経済的な枠組みをつくろうとしています。インド太平洋経済枠組み「IPEF(アイペフ)」です。中国へのむき出しの対抗心を隠さず、東南アジア各国を、自らの経済圏に取り込もうとしています。
日本はアメリカの同盟国として、各国との調整役を担っています。
西村経済産業相「IPEFは、どの国際貿易協定とも異なる新しい取り組みであるため、協力体制の強化が欠かせません」
一方アメリカは、特定の産業にしぼった中国への対抗策も打ち出しています。
半導体・蓄電池・重要鉱物・医薬品の4分野。中でも深刻な脅威と捉えているのが、脱炭素社会実現のカギを握る、蓄電池のサプライチェーンです。
中国は世界最大、500万台を超えるEV市場を抱えています。原料として重要なリチウムの生産量も中国が世界第3位。そのリチウムを取り出す精錬の工程では世界の60%近くのシェアを占めるなど、サプライチェーンの川上から川下までを握りつつあります。
アメリカは中国に頼らずに、蓄電池を生産できる体制を1から築き上げようとしています。
アメリカでEVを購入する人に最大およそ100万円の税額控除を導入。その条件として、リチウムなど重要鉱物の調達や加工をアメリカ国内とFTA自由貿易協定を結ぶ国だけに限定。蓄電池の生産、車両の組み立ては、北米3カ国で生産する企業のEV車にだけ適用する方針を示しています。これによって露骨な中国外しを進めているのです。
アメリカ/バイデン大統領「未来の競争力を高める分野について、中国などへの長期的な依存をやめる必要があります。その実現のため、あらゆる手段を使っていきます」
EV産業を下支えするため、リチウムの生産を国内で復活させる巨大プロジェクトも動き出しています。
アメリカ・カリフォルニア州のソルトン湖に眠るリチウムの埋蔵量は、将来の世界需要の40%にのぼると推計されています。アメリカ政府が資金提供を発表、企業が生産体制を築こうとしています。
政策の恩恵を受けるため、中国との関係を見直す企業も現れています。ネバダ州でリチウム鉱山のプロジェクトを進めている企業、リチウムアメリカズは、アメリカ国内で採掘から精錬までを行い、年間でEV100万台分のリチウムを生産する計画です。
その工場建設のために、もともと筆頭株主は中国企業でしたが会社を分割し、アメリカの事業から中国企業を切り離すことを決定。政府から数百億円規模の融資を受けやすくする狙いがあると見られます。
リチウムアメリカズ/ティム・クロウリー副社長「中国企業はもうパートナーではありません。分割することで、国内企業だけが所有する会社になるのです」
一方の中国も独自の経済圏を構築して、アメリカをも超える強い国を目指しています。中国が着々と影響力を強めているのが、ASEAN・東南アジア諸国連合です。
インドネシアの首都ジャカルタから1600キロ。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の看板がありました。
中国が狙うのは、EV向け電池の素材に欠かせない「ニッケル」。インドネシアには、世界の埋蔵量のおよそ4分の1が眠っているとされています。
この企業は、45年前の生産開始以来、日本企業の出資も受けて採掘を行ってきましたが2022年、新たな製錬所の建設を発表。そのパートナーに選んだのは中国企業でした。
ヴァーレ・インドネシア/アブ・アシャールCOO「中国は、煩雑な手続きを簡略化してくれるので、プロジェクトが早く進みます。すばらしいです」
インドネシアで生産されたニッケルは、中国にある電池の素材を生産する工場に運び込まれます。中国が力を入れる経済圏で生み出された素材は、世界1の中国EV産業の屋台骨になっています。
中偉新材料・南部生産基地/胡培紅 社長「中国は新エネルギー産業において今、電池も材料の分野も、世界で最も影響力があります。中国は世界で最も発言権があり、最も優位性があるのです」
自らの経済圏を強固なものにし、世界をリードする大国を目指す中国。その戦略が、日本の競争力を脅かすのではないかと危機感が広がっています。
中国はいま自らの競争力を引き上げるため、海外からの技術も取りこもうとしています。
産業の川上から川下まで。完成品では、産業用ロボットや内視鏡、複合機など。部品では、半導体関連の装置や自動車部品、燃料電池など。さらに、炭素繊維や半導体の材料など、素材の分野にもターゲットを定めているのです。
こうした分野について、中国での生産や開発を求められることなどで、半ば強制的に技術移転を迫られる懸念が高まっています。
中国でビジネスを拡大したい日本企業は、難しい対応を迫られているといいます。
中国日本商会/池添洋一 会長「最先端の技術を持っているメーカーは、最終製品は中国でつくっていたとしても、中間製品は日本の工場でつくったものを輸入しているケースが多々みられます。それを中国で国産化(=中国国内で生産)しろと突然言われても、それには対応できないという現状です。何がよくて、何が駄目かということを、日本政府と企業がクリアにして、対中国の戦略を練っていくと」
総合電機メーカーにとって、アメリカと中国は海外事業の稼ぎ頭。二者択一の判断はできないといいます。
三菱電機 経済安全保障統括室/伊藤隆 室長「『中国依存をやめるんだ』という言い方をされますが、日本だけではなくて、世界に供給していることをわれわれは忘れてはいけない。中国との関係をどうマネジメントしていくかも大事です」
米中の分断が続いた場合の未来、2030年はどうなっているのか。
アジア経済研究所では、物流網の発達度合いや各国の関税など、様々な要素を組み込みシミュレーションしました。最悪のシナリオでは、分断が続かない場合と比較して、アメリカのGDPはマイナス12%。中国はマイナス9.4%。そして日本も、マイナス11.6%になることがわかったのです。
アジア経済研究所/熊谷聡さん「アメリカと中国の対立ということですが、中国はアジアの一国です。経済対立の最前線がアジアの中にあるので、日本にマイナスの影響が出ていると理解できる」
<日本を支えた自由貿易の危機>
「脱グローバリゼーションが進んでいくと、物価高など私たちの暮らしにも深刻な悪影響を及ぼす」。
そう警告するのが、アメリカの元財務長官、サマーズ氏です。
サマーズ元米財務長官「最も効率的な場所でモノを生産するメリットが受けられなくなり、大量生産のメリットも受けられなくなります。その結果、供給が減り、物価が上がるリスクがあります。“脱グローバリゼーション”によって、低成長とインフレのリスクが生まれるのです。経済のブロック化は、世界経済にとって良いシステムではありません。誰もが自由に貿易できるのが、最善だと考えています」
自由貿易の拡大は、日本の経済成長の推進力となってきました。
1995年WTO=世界貿易機関が発足。日本は2000年代に入ると、世界50か国との間で21の経済連携協定を締結。関税を引き下げ、共通のルールで取り引きできる相手を増やしてきました。
しかし、グローバリゼーションが危機にあるいま、自由貿易の仕組みが、維持できるかどうかの瀬戸際に立たされています。
<通商交渉 日本の苦闘>
自由貿易の番人と呼ばれた国際組織、WTO=世界貿易機関。モノやサービスが自由に貿易できるよう国際ルールを定めてきましたが、各国の利害が対立する中、参加するすべての国の意見が一致することを原則としているためものごとが決まらず、機能不全に陥っています。
寺西規子さんは20年以上、日本の通商政策に携わり、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉にも関わっていました。しかし、いったんまとまった交渉から、自国第一主義を掲げるアメリカのトランプ大統領が離脱を表明。1つにまとまれない世界の現実を痛感しています。
経済産業省通商政策局/寺西規子 室長「日本はずっと自由貿易にコミットし、それに資するルール作りに貢献をしてきました。そういう意味で『通商』は、日本の生命線です。自由な貿易や投資が、確保される状態でないと生きていけない」
機能不全に陥っているWTOで、世界をまとめる交渉を一歩でも前進させようと、寺西さんは新しい方法に取り組んでいます。あるテーマについて、関心のある国や地域が集まり、先にルールをつくって、ほかの国々にも賛同を募り、広げていく方法です。
いま、日本が議長国を務めているのが、デジタル分野のルール作り。データの自由な取り引きを求めるアメリカなどに対し、中国などデジタル保護主義をとる国では政府がデータを閲覧できる余地などを求めています。日本は、分断を越えて共通のルールを作るために働きかけています。
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部常駐代表/山﨑和之特命全権大使 「地政学的な主要国家のかい離、ひずみというのが非常に大きい時代に入ってきまして、電子商取引交渉という枠組みだけでなくて世界の平和と安定のためにもこの交渉を少しでも前に出していきたい」
しかし、関心のある国や地域が集まっている会合であっても、同意を取り付けるのは容易ではありません。立場や考えの違う国や地域をどう説得するのか、議論を重ねています。
経済産業省職員「一部の途上国は、自分の国に進出している先進国企業から、技術を学ぶ権利があると考えていて、だからこそ企業秘密を自分たちは開示できるんだ、と思っている節が」
経済産業省職員「政府が企業に強要となってしまうと、企業がその国に進出する意欲を失うことにもつながってしまう。ちゃんと理解してもらう必要がある」
経済産業省通商政策局/寺西規子 室長「日本は、多様な国々のメンバーの中で、バランスのとれた着地点を探すという役割に、たけているのかもしれないですね」
交渉が始まってから4年、依然合意には至っていません。2023年1月、日本を含む議長国は、2023年末までの妥結を目指すとする声明を発表しました。
グローバリゼーションが危機を迎える中、交渉妥結には、いくつもの壁が立ちはだかっています。
<激動の時代 日本企業の対応は?>
台湾有事への警戒感から中国依存を脱却しようとしていた大阪の機械メーカー、テクノスマート。2022年、10億円をかけて実験棟の新設を決定しました。世界各地から寄せられる様々な注文に応えられる体制を整えるためです。これまで中国一辺倒だったものを、韓国やヨーロッパなどからの受注を増やし、リスクを分散しようとしています。
テクノスマート/柳井正巳 社長「今の時代は、何が起きるか分からない状況が普通に出てきています。これはもうしょうがない。怖がっていたらやっていけません」
総合電機メーカー三菱電機は、アメリカや中国以外でも生産の強化に乗り出しています。
2016年に設立したトルコ工場。2022年、さらに130億円を投資して新たな工場を建設することを発表しました。トルコの他にも、タイやインドなどの工場を強化し分散することで、世界の需要の変化に柔軟に対応しようとしています。
トルコの工場では、ヨーロッパや中東、そしてアフリカをにらんで、生産能力を向上させようとしています。
三菱電機/漆間啓 社長「今後規制の動きの中で、どのように組み替えていったほうが効率的なのか。一極集中から多極化するとしても、どこでやっていくのが一番正しいのか。需要と規制の間の中で、考えながらやることが重要ではないかと。何が起きようが、それに対して動いていける、反応が出来るようになっていく」
グローバリゼーションが揺らぐ世界。危機にどう立ち向かうか、簡単には答えがでない時代にいま、突入しています。
どんな視点を持って考えるべきなのか。2人の著名な歴史家に問いました。
歴史学者/ニーアル・ファーガソン氏「グローバリゼーションは滅び得るものです。実際1914年以降に滅び、地域ブロックにほぼ完全に分割されました。アメリカと中国は戦争に備え、防衛費を増やしています。しかし、戦争が起きない限り、グローバル化は続いていきます。経済的なつながりを持つことが、戦争を防ぐと考えられます。人々は失うものが多すぎる場合、戦争を起こそうとは考えられなくなるのです」
経済史家/アダム・トゥーズ氏「地域ごとの連携は進展しています。EUの拡大や、RCEP(地域的な包括的経済連携)など、地域ごとの連携の例をあげることができます。“地域化”を通じて、グローバリゼーションを実現しているのです」
河野キャスター「地域ごとのグローバリゼーションのパッチワークのようですね」
経済史家/アダム・トゥーズ氏「こうした動きは、続いていくと考えています。80億人の惑星が、他の方法で機能していくと想像するのは難しいからです。1970年代初頭に現代的な形のグローバリゼーションが始まった時、地球上の人口は現在の半分でした。私たちは、お互いが関係を結びながら、グローバルに生きていくしかないのです」
経済だけを追い求めることができた時代から、経済と安全保障が一体となった時代へ。
日本は、いかに豊かさを実現していくのか、幾重にも重なった難題が突きつけられています。