「MEGAQUAKE 巨大地震 2021 〜震災10年 科学はどこまで迫れたか〜」

初回放送日: 2021年9月12日

あの日、東北沖であれほど巨大な地震と津波が起きることを想定できなかった科学者たち。深い悔恨と新たな決意を胸に、次こそは危機を事前に社会に伝えたいと、再び挑んできた。この10年で飛躍的に進歩した人工知能やスーパーコンピューター、宇宙からの観測などを駆使。巨大地震の「前触れ」をとらえ、「地震発生確率が高まっている地域」をあぶりだし、命を守ろうとする最前線を、宮城県出身の鈴木京香さんとともに見つめる。

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(2021年9月12日の放送内容を基にしています)

10年前、東北沖であれほど巨大な地震と津波が起こることを想定できなかった科学者たち。次こそは危機を事前に社会に伝え、命や社会を守りたいと、再び挑んできました。巨大地震の「前ぶれ」を捉えようと、次々投入される新たな観測技術。飛躍的に進歩したスーパーコンピューターや人工知能AIによるビッグデータ解析。次に地震が起こりやすい場所も見え始めています。東日本大震災から10年、「メガクエイク」シリーズの蓄積を結集し、科学の到達点を見つめます。

<南海トラフ巨大地震 見えてきた「真の脅威」>

これは日本周辺で想定されているマグニチュード8以上の巨大地震です。千島海溝、相模トラフ、東北沖にも今なおマグニチュード8クラスの巨大地震の可能性が示されています。

そして西日本。最大で死者32万人もの被害が想定される「南海トラフ巨大地震」の震源域が広がっています。

南海トラフに近い、和歌山県・美浜町(みはまちょう)。岩だらけの海辺で、次の巨大地震の恐ろしさを突きつける発見がありました。大阪大学の地質学者・廣野哲朗さんが10年がかりの調査で見つけたのは、“太古の地震の痕跡”です。

大阪大学・廣野哲朗 准教授(地質学)「この黒い筋です。やっと見つけることができた。自分の中ではすごい断層だと思っています」

岩石の黒ずんだ部分は、なんと8500万年も前の地震でずれ動いた断層面です。次の南海トラフ地震が、どれほど巨大化するかを知る重要な鍵だといいます。

太古の地震が起きたのは、海底のはるか下のプレート境界。陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込み、境界面にひずみが蓄積。やがて限界に達して一気にずれ動き、地震が発生しました。そのときのプレート境界面が、長い間の大地の変動で地上に押し上げられていたのです。廣野さんは、岩石に含まれる物質の状態などを詳しく分析。その結果、地震の際、プレートの境界で「ある特別な現象」が起きていたことがわかりました。

プレート境界の岩盤が地震でずれ動いたとき、強烈な摩擦熱が発生。表面の温度は800度以上に達していたと推定されます。この熱で、プレートの隙間に存在していた水が膨張し、隙間を押し広げます。そうして、地震によるずれ動きが一気に拡大したとみられるのです。

廣野さん「太古のプレート境界にもそのような痕跡があることを考えると、これから起きる南海トラフ地震でも(同じことが)起きて、(プレートが)大きくすべるということが十分に考えられる」

廣野さんがシミュレーションしたところ、南海トラフ地震でもこの現象が起きると、プレートのずれは巨大化し、最大50mにも達するとされました。実は、東日本大震災を起こした東北沖のプレート境界でも同じ現象が起きており、そのずれ動きの量が、まさに最大50m以上。揺れと津波を巨大化させる大きな要因となりました。近い将来、南海トラフでも同じことが繰り返されるおそれがあるのです。

<迫りくる巨大地震 最新科学で「前ぶれ」をつかめ>

巨大地震の発生を予測し、今度こそ事前に社会に伝えることはできないのか。科学者たちは、この10年、研究に挑んできました。その一人、海洋研究開発機構の堀高峰さんは、スーパーコンピューターを使って南海トラフ巨大地震のシミュレーションに取り組んでいます。研究の原動力は、10年前のあの日に味わった、決して忘れられない痛恨の思いです。

堀さんが、巨大地震の2日前に書き留めていた研究メモです。

海洋研究開発機構・堀 高峰 センター長(地震学)「ここがその3月9日の地震が起きた場所」

2011年3月9日。宮城県の沖合で、マグニチュード7.3の地震が発生しました。この地震が周辺のプレート境界に何か影響を及ぼすことはないか、堀さんは解析を行おうと考えていました。しかしその矢先、巨大地震が起きてしまったのです。

堀さん「この時点ではまったく、すぐにでも(また地震が起きる)というようなことまでは全然思い至っていなかった。ちょっと、悔しいとか(解析が)間に合わなかったというレベルを超えてしまって、本当に無力感のほうが大きかった」

「前ぶれ」を的確に捉えて、巨大地震の発生を予測することはできないのか。堀さんは悔しさを胸に、研究を進めてきました。注目したのは「スロースリップ」と呼ばれる現象です。

実は、3月9日の地震の直後、震源のすぐ近くでプレートの境界がゆっくりとずれ動いていました。これが「スロースリップ」です。これが引き金を引くかのように、マグニチュード9の巨大地震が発生していたのです。

堀さん「スロースリップ、ゆっくりとした断層のすべりがトリガーする(引き金を引く)場合もあるので。大きな地震が起こるタイミングを早める意味合いがあると思っています。しっかり捉えていくことが大事だと思います」

警戒が高まる南海トラフ巨大地震でも、スロースリップが「前ぶれ」となりうるのではないか。それを確かめるため、堀さんはまず、スーパーコンピューターで南海トラフのプレート境界を精緻に再現しました。

そして、実際と同じように海側のプレートを沈み込ませ、プレート境界に「ひずみ」を蓄積させていくと、コンピューター上で南海トラフ地震が発生します。これを何度も繰り返すと、巨大地震の起こり方には、いろいろなパターンがあることが分かってきました。そのなかに、「前ぶれ」としてスロースリップが起きるパターンが見つかりました。きっかけとなりうるのは、南海トラフの西の端、日向灘で発生するマグニチュード7.5の地震です。

その後、周辺でスロースリップが起きます。これが「前ぶれ」となり、4年後、すぐ隣の四国沖の震源域でマグニチュード8.3の巨大地震が発生。

さらに翌年、マグニチュード8.1の巨大地震が連鎖するというパターンです。

もうひとつ別のパターンも見つけました。南海トラフの中央付近、紀伊半島沖でマグニチュード6クラスの地震が発生したあと、やはりスロースリップが起きます。そして4年後、マグニチュード8.0の巨大地震が発生するというパターンです。

これらのパターンで地震やスロースリップが起きた場合には、「前ぶれ」として注意する必要があることが分かってきたのです。いま堀さんは、ほかにも注意すべきパターンがないか探っています。そして、実際に南海トラフで地震やスロースリップが起きた際、それが「前ぶれ」かどうかを見極めたいと考えています。

堀さん「起きた現象とシミュレーションとを比較して、どのパターンに近いかということから状況を理解する。そのことによってトリガー(引き金)になっているのかどうかを見極める。次に起こる大きな地震の前に(前ぶれを)逃さないようにしたい」

堀さんたちは、「前ぶれ」かもしれない異変を捉えようと、さまざまな観測にも力を注いでいます」。

スロースリップなどの異変を監視しようと、南海トラフには海底観測網が張り巡らされています。しかし、それ以外のエリアでは船で行かないと観測ができず、年に数回程度しかデータを得られないところもあります。

そこで開発されたのが「ウェーブグライダー」。無人で海を動き回り、より頻繁に観測を行えます。海に降ろされると同時に“ひれ”のような装置が海中に飛び出し、波の力で上下に動くたびに推進力を生み出せます。

あらかじめ指定した海域を最長2か月近く自力で動き回り、海底に沈めたセンサーと通信、データをすぐさま地上に送ることができるのです。

海洋研究開発機構・飯沼卓史 グループリーダー「燃料を補給したりする必要がないので、より長い期間、海域にとどまって観測を継続することができる。この無人機を使うことで、より多くの観測点をより高頻度に観測していく道筋が開けたと思っています」

<次の地震はどこで? 見えてきた「新たなリスク」>

警戒すべきは、海側で起きる地震だけではありません。これは日本全国の主要活断層です。列島全域に過去に繰り返し直下型地震を起こしてきた活断層が無数に走っています。国はその活断層がこれまでどれくらいの周期で地震を起こしてきたかなどを調査し、次に地震が起きる確率を予測、公表しています。

しかし、2008年の岩手・宮城内陸地震や2018年の北海道胆振東部地震など、活断層の存在が知られていないところでも大地震が発生しているのです。

次に地震が起こりやすいのは、どこなのか。その予測に新しい手法で挑んでいるのが、京都大学防災研究所の西村卓也さんです。

2016年に放送した「巨大災害 メガディザスター」で、西村さんは「山陰地方で大きな地震が起きるおそれがある」と予測していました。そして番組の半年後、実際に鳥取県でマグニチュード6.6の地震が発生したのです。

京都大学 防災研究所・西村卓也 准教授「ある意味、長期予測的なことが成功した例とも言えるかもしれません。その第一歩としては、今の路線は間違っていないんじゃないかなと思っています」

西村さんが予測に使っているのは「地殻変動」のデータです。全国には、1300もの地点にGPSの観測装置が設置されています。その地点ごとに、大地がどの方向にどれだけ動いているのか、ミリ単位で計測しています。

西日本を見ると、南海トラフから沈み込む海側のプレートに押されて陸側のプレートが北西に動き続けています。

ところが大地の動きをよく見ると、山陰地方の動きは東向き。九州はほぼ逆方向の南向きに動いていることが分かります。これまで西日本は「同じ1枚の大きなプレートにのっている」と考えられてきました。にもかかわらず、なぜ動きの方向が場所によって違うのか。

西村さんは、“プレートは1枚ではなく複数のブロックに分かれていて、それぞれ違う動き方をしているのではないか”と考えました。これが、西村さんが考える西日本のブロックです。

地震が起こりやすいと予測していた山陰地方も、ブロックの境目があると考えていた場所です。

西村さん「もともとのプレートは大きいんですけど、おせんべいとおせんべいをぶつけたら、周りもバリバリと割れるみたいなかたちで、小さいブロックがどんどんできていくのだろうと。(大きな)地震は、こういうブロックの境界に発生しているということが言えると思います」

大地の動きの食い違いが大きいほど、境目には「ひずみ」がたまります。このひずみが大きいところほど、地震が起きやすい状況にあると西村さんは考えました。2016年の熊本地震も、西村さんがブロックの境目と見ていたエリアで起きたものでした。

他にも、今後地震が起きやすくなっている場所があるのではないか。西村さんは、まず西日本一帯のGPSデータを徹底分析し、どこに、どの程度ひずみがたまっているか計算し、マグニチュード6.8以上の大地震の起こりやすさを予測しました。その結果です。西日本一帯をおよそ20km四方に分割。色が赤くなるほど、大地震の発生確率が高まっていることを示しています。

ここに現状分かっている主要活断層を重ねると、北陸から近畿にかけて活断層が比較的多い一帯で大地震の発生確率が高く示されています。

九州地方では、大分から熊本、鹿児島周辺に大地震の発生確率が高い地域が示されています。とくに鹿児島周辺は、主要活断層は確認されていません。

西村さん「たとえばこのあたりの活断層がまだ十分発見されていない可能性もあります。最近(大地が)急激に動き始めている場所だと、今のGPSのデータでは『ひずみが高い』と見えて、(地震発生)確率も高くなるわけなんです。地図の)色が薄くなっているようなところでも確率はゼロではありません。赤くなっているところでは、より注意しなきゃいけないというふうに見ていただきたいと思います。色が薄いところは安心だというふうに見てはいけないと思います」

※関東や北日本では、10年前の巨大地震による影響が大きく、現在も分析の途中だということです。

<激しい「揺れ」から社会を守れ 最先端科学の挑戦>

近い将来、発生が警戒されている南海トラフ巨大地震。国の最悪の想定では、西日本一帯は広い範囲が最大震度7の激しい揺れに襲われ、建物の倒壊によって亡くなる人はおよそ8万2000人に上るとされます。津波は、震源域に近い高知県の沿岸では最大34m。名古屋や大阪などにも最大5mの津波が襲来する可能性があります。津波による死者は、最悪およそ23万人と想定されています。

東日本大震災では、激しい揺れから建物を守る従来の技術に新たな課題が突きつけられました。揺れを吸収できる構造の超高層ビルでも亀裂ができたり、エレベーターが長時間停止したりする被害が相次いだのです。「どんな揺れにも対抗できる究極の技術」はないのか。2017年に放送した「メガクライシス 巨大危機 Ⅱ」では、街の一角を丸ごと宙に浮かすことを目指した研究を紹介しました。空気の力で建物を浮かせ、揺れの影響を受けないようにしようという技術です。それと同じ発想で、ある建設会社が空気の力で“宙に浮く住宅”を開発しました。床下に設置された地震計が揺れを感知すると空気が送り込まれ、2秒後には建物が土台から数cm浮くといいます。

適用できるのは基本的に木造の新築住宅で、費用は400万円。これまでに200戸で導入されています。この技術が実際に効果を発揮したという事例があります。ことし2月、福島県沖で発生したマグニチュード7.3の地震。震度5弱の揺れに襲われた地域にある診療所です。

診療所 所長「こういうもの(医療機器など)も一切このままの状態で、1センチも動いていなかった。非常に安堵したのと、びっくりした」

超高層ビルの揺れ対策も、人工知能AIによって大きく進化しようとしています。鍵を握るのは上下に振動して揺れを抑える“おもり”です。

新しい技術を開発しているのは、大手建設会社の研究所です。建物の揺れを制御する技術を目指して、今、橋の揺れを抑える実験を進めています。

人が歩くと橋が上下に揺れます。橋が下にたわむとき“おもり”を上に動かし、上に跳ね上がるときは“おもり”を下に動かして揺れを吸収する仕組みです。このおもりの制御をAIが行うのです。実験では歩き方を変えて様々な揺れを起こし、5万通りのデータをAIに入力、橋の揺れ方を学習させました。そして、橋を渡り始めたときのわずかな揺れを感知した段階で、そのあとどう揺れるか予測させ、その揺れを打ち消すように“おもり”を動かすことで、揺れを10分の1にまで抑えることに成功したといいます。将来はこのAIと“おもり”を使って、超高層ビルの揺れを従来よりも大幅に抑えることを目指しています。

大手建設会社 免震・制震研究開発チーム 中塚光一さん「揺れに対して、なにか力を出して揺れを抑えにいく。よりよい制御のひとつとして、AIの可能性があるんじゃないか」

揺れに対する都市の弱点をあらかじめあぶり出し、重点的な対策につなげようという研究も始まっています。デジタル空間に都市をまるごと再現する「デジタルツイン」。この技術を使って、どこがどのように揺れるか、詳細にシミュレーションしようというのです。それを可能にしたのが、近年、飛躍的に進化したスーパーコンピューターです。

東京大学 地震研究所・市村 強 教授(計算科学)「都市まるごとのシミュレーションはなかなか難しかったですが、『京』コンピューターや『富岳』のコンピューターを使うことで、そういう可能性が見えてきた」

東京大学などの研究チームがまず注目したのは、揺れを大きく左右する「地盤」です。東日本大震災のあと、関東平野では1km間隔で地盤調査が行われ、精密な地盤データが作られました。そのデータをデジタル空間の東京に入力。都心の硬い地盤と軟らかい地盤の構造を精緻に再現しました。さらに、山手線の圏内にある32万棟以上の実際の建物を配置。建物の構造や年代といった情報も、公開されているデータから推定し、ひとつひとつ入力します。そしてできあがったのが、「デジタル都市・東京」です。

現在解析中のデータの一部を紹介します。マグニチュード7クラスの首都直下地震が起きた場合で計算すると、地震発生後5秒ほどして、建物が強く揺れていることを示す緑色や黄色に変化しました。

8秒後には、揺れが激しくなったことを示す赤色の建物が急激に増えていくことが分かります。

よく見ると、同じ地域でも100mほど離れるだけで揺れが大きく異なる場所があります。さらに隣り合う建物でも、建築年数や構造などが異なると揺れ方が違ってくることが見て取れます。ひとつひとつの建物ごとにどのように揺れるのか、精緻にシミュレーションできるようになってきたのです。

研究チームは、ことし中に建物のデータをより詳細にし、シミュレーションの精度を高める計画です。その結果を国や自治体、インフラ企業に提供し、揺れ対策につなげてもらいたいと考えています。

<どんな津波が?どう逃げる? 津波予測 新たな挑戦>

15mを超える大津波によって、壊滅的な被害を受けた宮城県気仙沼市。東北大学災害科学国際研究所の今村文彦さんは、この地で40年近く住民とともに、津波防災の取り組みを続けてきました。

震災前、今村さんも作成に関わった「津波ハザードマップ」。過去100年あまりの津波の記録をもとに、どこまで浸水するかを想定したものでした。しかし、あの日の津波はその想定を超えるものでした。避難場所とされていた高台にも津波が押し寄せ、避難していたおよそ50人が亡くなりました。逃げ遅れて津波の犠牲になった人も数多くいました。

東北大学 災害科学国際研究所・今村文彦 教授(津波工学)「本当に、津波の避難を今後考える原点になる場所です。将来の被害を繰り返さないという、誓いの場所でもあります」

命を救うためには、津波がいつ、どの範囲まで達するのか、いち早く正確に伝えなければならない。そこで今村さんたちが取り組んできたのが、AIとスーパーコンピューターを組み合わせた「南海トラフ巨大地震の新たな津波予測」です。まずスーパーコンピューター上で、地震の規模や震源の場所などを変えて2万通りシミュレーションし、発生する津波を分析しました。

そのひとつひとつのケースについて、沿岸のすべての地域で津波がどこまで到達するか、道路一本一本に至るまで解析しました。その解析結果をAIがすべて学習。地震が発生したとき、わずか数分程度で、津波がいつ、どこまで達し、どの深さまで浸水するのか、予測できるようになってきたのです。さらにその情報を「ひとりひとりの居場所に応じて」届ける技術も開発しています。

AI津波予測 研究チーム・大石裕介さん「スマートフォンアプリを用いて津波の予測情報を表示することも、将来的に考えています」

スマートフォンの位置情報をもとに、その場所に津波が到達する時間や浸水範囲を知らせる仕組みです。デモ画面上の青い丸は、スマートフォンを持っている人の現在地です。赤く示されたのは、60分後に浸水すると予測されるエリア。黄色は90分後、緑は120分後の浸水エリアです。拡大すると、道路一本ごとに、いつ浸水するか分かるので、どこを通って避難すれば安全か判断できるようになっています。首都圏の沿岸部では、このアプリを使った実験も始まっています。

住民「スマホでこれがまずだめな場所だと分かって、さあどうしましょう、こっちに逃げるか、こちらに逃げるか。事前に(危ない場所が)分かったということは、すごく心強いものですよね。それは本当に感心しましたね」

今村さん「きちんと情報を出すことによって、安全な場所にいち早く逃げていただくことができる。ゴールが『犠牲者ゼロ』という目標になります。しかし、地震の予測においても津波の予測においても、確実にこうだとはなかなか言えないんですね。あらかじめ(起こりうることを)頭の中でシミュレーションして、いろんな備え、行動、訓練をすることが大切です」

<迫りくる巨大地震 「想像力」が命を守る>

私たちひとりひとりは、どのように想定外の事態を考え、心構えをすればいいのか。南海トラフ巨大地震で大津波が想定されている高知県土佐清水市で進められているのが、「防災小説」という取り組みです。

激しい揺れや津波から、どう自分の命を守るのか、地震発生から避難場所にたどり着くまでの過程を自分の視点で具体的に思い描き、800字程度の小説風の作文に書きます。大切なのは「想像力」です。

清水中学校3年・川村芽唯さん「しばらくすると揺れがおさまり、外から『逃げろ!』という大きな声が聞こえた。小さなこどもは泣きじゃくっていた。崩れたがれきや、割れた窓ガラスをよけながら必死に走った」

清水中学校3年・鶴岡桜季さん「足もとでは地割れがおきていた。私は、ばくばくしている心臓を深呼吸で落ち着かせて、区長場(避難場所)まで向かった」

清水中学校3年・佐竹佑奈さん「私は涙をおさえることができず、外でひとり泣いていた。同じ状況の人はたくさんいる。そう思ってはいたけれど、(涙を)おさえることはできなかった」

自分なりの目線で想像することで、どんな想定外の事態が起きるのか思いをめぐらせ、備えを考えられるようにするのがねらいです。

鶴岡さん「もともと絶対ひとりで逃げられるとずっと前から思っていたのですが、そうじゃないかもしれないって、書いてから思い始めました。すごい恐怖で立てなくなるとか動けなくなる可能性もあると感じました」

清水中学校・岡﨑哲也 前校長「自分のことになっているんですよね、すべてが。当事者意識という部分でいうと、ずいぶん変化が表れたんじゃないかと思います」

<迫りくる巨大地震 科学は命を守れるか>

人々に確かな情報を伝えようと挑み続ける科学者たち。またひとつ、気がかりな事実を発見しました。あの日、巨大地震でずれ動いた岩盤の一部。東北沖の海底から掘り出されたものです。

そこから見つかった「スメクタイト」という物質に研究者は注目しました。粘土物質の一種で、ものを非常にすべりやすくさせる性質があります。これがプレート境界に大量に存在したことでプレートの岩盤が非常にすべりやすくなり、ずれ動きが一気に進展。巨大地震につながった要因の一つと考えられるのです。

同じ物質が南海トラフなどほかの場所にも存在し、地震を巨大化させるおそれがあるのではないか。調査が進められています。

海洋研究開発機構・廣瀬丈洋 主任研究員「これは間違いなく重要なピースになると考えています。一歩一歩、真実に迫っている。前進している。コツコツやっていく。それしかないと思っています」

果てしない巨大地震との闘いは、今、世代を超えて受け継がれようとしています。

福島県などで震災を経験した、当時中学生だった若者たちが、津波研究を続けてきた東北大学・今村さんのもとで学び始めているのです。

東北大学大学院・渡邉 勇さん「やっぱり東北のいろんな教訓があると思うので、南海トラフみたいな広域(災害)に役立てる研究ができたらいいなと思っています」

今村さん「この10年で得られた知見、解決できないことをきちんと整理して、彼らが中心となって、彼らの思う社会を、ぜひ推進してもらいたいと思います」

巨大地震、メガクエイク。地球に潜む未知の脅威を明らかにし、私たちの命と暮らしを守るための挑戦は、続きます。