「夢見た国で〜技能実習生が見たニッポン〜」

初回放送日: 2022年6月12日

3年半にわたり取材してきたベトナム人技能実習生たちが、コロナ禍の日本で次々に姿を消した。何が起きているのか?SNSコミュニティ“ボドイ(兵士)”では、実習生たちが闇金融や犯罪組織にからめ捕られていた。さらにビザに関する国の特例措置で無保険になる人が続出。借金を抱え、命の瀬戸際に追い詰められる人も。憧れを抱きやってきた「夢の国」の過酷な現実。それは、日本の未来に何をもたらすのか。調査ルポから迫る。

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(2022年6月12日の放送内容を基にしています)

ベトナム人技能実習生 ティエンさん「私はティエン。(ベトナムから来た)技能実習生です。日本は文明国・先進国で法律もちゃんとしている。日本に行ける日が待ち遠しくて、ワクワクしていました。どうしても日本で技能を身につけたかった」

日本への憧れを話していたティエンさん。3年半前、SOSを発しました。

「会社、こわい。会社、かわりたい」

ティエンさんが働いていた工場 社長「400枚縫って1時間たたむ。7時半からだったら12時半にたたみ終わる。全員が。言っている意味、わかりますか?」

ティエンさん「私たちの生活は刑務所の中みたいです。すごく失望していて悲しいです」

日本で、低賃金、長時間労働にさらされる技能実習生たち。技能を学ぶはずが、その目的を果たせない人も大勢いました。2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大。技能実習生を取り巻く環境は、さらに過酷さを増します。コロナ解雇などで帰国できず、行き場を失う人が急増。困窮する実習生たちから金銭を搾り取る、闇のビジネスも水面下で拡大していました。30年にわたって、拡大の一途をたどってきた技能実習制度。その裏側で、いったい何が起きてきたのか。3年半のルポ、そしてコロナ禍の最前線から制度の実態に迫ります。

2019年、ベトナムの空港は日本を目指す技能実習生でごった返していました。この年、技能実習生の数は過去最高の41万人に達しました。その半数がベトナム人です。

技能実習生の希望者たちが、日本語や生活習慣を学ぶ送り出し機関です。多くが貧しい農村部の出身です。平均80万円ほどという高額な手数料を借金して、日本を目指しています。

ディレクター「日本でどんなお仕事をしますか?」

「機械保全です」

「私の仕事は鋳造です」

「日本は人権意識や労働環境が、とてもすばらしいと思います」

実習生たちが夢見る日本。しかし、その現実は、全く違うものでした。

日本のある地方都市で、会社の目を盗んで現れた実習生たちです。

SOSを出したティエンさん。

ベトナム人技能実習生 ティエンさん「勤務時間が長くノルマが多くて怒られるうえに、正しい給料をもらえていません。毎日、我慢して働いて、借金を返すためだと言い聞かせています。すごく失望していて悲しいです。家畜扱いされて、一日中叱られています。仕事と勉強をしたくて日本に来たのに」

ティエンさんは、日本で洋服の縫製技術を学ぶはずでした。実習生が何を学ぶかは、あらかじめ契約で決められています。しかし…

ティエンさん「実際は全く違いました。日本に来てから、タオルしか作ったことがありません。『誰かに何を作っているのかと聞かれたら、必ず婦人服や子供服と答えてください』。監理団体の人に、そう言われていました」

技能実習制度には、不正が行われていないかチェックする仕組みがあります。その役割を担うのが、国の許可を受けた監理団体です。実習生を企業に紹介し、毎月、監理費を受け取ります。そして実習が計画通り行われているか、違法な労働を強いていないか、指導・監督を行います。

ティエンさんたちの監理団体は、実態を把握しているのか。2019年7月、代表を直撃しました。

監理団体 代表「僕らはなんの瑕疵(かし)もないですから、きちっと答えます」

ディレクター「監理団体としては、婦人・子供服を縫っているという認識?」

監理団体 代表「はい、そうです。じゃなかったら、僕らも認可する方向で書類は出しません。それは当たり前でしょ」

ディレクター「僕、あそこに1週間くらい、ずっと張り付いて見ていたんですけれども、トラックに運ばれてくるものは、すべてタオルで」

監理団体 代表「タオルから、いろいろ加工しますからね。その会社から出て、どういうふうに加工されるかというのは、わからないですしね。僕らは少なくとも監査している範疇(はんちゅう)で、当然、行くたびに研修生たちとも話をしますし、法律に基づいて、すべてきちっと行われている。行っているという認識で物事は進めています」

この7か月後、監理団体は、技能実習法違反のため行政処分を受けました。「会社への監査を適切に行っていなかったこと」などで、監理団体は許可の取り消し。ティエンさんがいた会社は、計画通り「技能実習を行わせておらず」、長時間労働など「不正または著しく不当な行為をした」として、5年間の受け入れ停止となりました。

なぜ監理団体は機能しなかったのか。

神戸大学 斉藤善久 准教授「監理団体からみると、各企業というのはビジネスパートナーであり、あるいはお客さんですから、どうしても問題があっても強く言えないということがあります。そもそも技能実習制度というのは、国際貢献を建て前にする国策なんですけれども、実際には民間に丸投げで動いているシステムなんです」

技能実習制度は、発展途上国の人材育成を通した「国際貢献」を掲げています。実習生を、労働力調整の手段とすることは禁じられています。

しかし、実情としては働き手として頼らざるを得ない。そう話すのは、繊維産業を取りまとめる業界団体です。

日本繊維産業連盟 事務総長 富𠮷賢一 さん「日本人が雇えないような状況ですので、その中で実質的には(外国人技能実習生が)貴重な労働力といえると思います。急速に人口が減少し、かつ高齢化している中で、もう雇える人がいなくなっていまして、その中で生産を続けていかなければいけないとなると、外国人という選択肢しか残っていないと思う。実際には技能実習というのは実習生であって、本来は労働力ではないのですけれども、今は技能実習生がいなくなったら即座に生産が止まって成り立たなくなる企業が、非常に多いと思います」

技能実習制度は開始以来30年にわたって、拡大を続けてきました。経済界の要請に応じて、実習生が働ける期間は、当初の2年から最大5年に。職種も、縫製や食料品加工など、17から86へと5倍以上に増えました。国際貢献という理念を掲げながら、労働力として期待する現実。その背景を、制度に深く関わってきた官僚が、匿名で話してくれました。

技能実習制度に深く関わってきた官僚「ある種『人的補助金』というか、中小企業のいちばん困っている『人手』というところを供給している制度なのではないですかね。単純労働者を『移民』として受け入れることについて、世論としては否定的だったわけですし、技能実習というのは、実習期間を終えたら(母国に)帰るということで、『移民』という議論に踏み込まない形で、どうやって人を、労働力を受け入れようかという工夫の中でできた制度だとは思います」

制度の背後にある本音。それが技能実習生を巡る数々の問題を生み出してきました。労働基準監督署などが指導に入った事業所のうち、7割以上で法令違反が見つかっています。

タオルの下請け工場から保護されたベトナム人実習生たち。技能を学べず、長時間労働に苦しんできたティエンさんは、仲間とともに新しい生活を始めていました。

ボランティアに日本語を学びながら、今度こそ縫製技術を学びたいと、新たな職場を探していました。

2020年、新型コロナの流行で技能実習生を取り巻く環境が一変します。

無許可で客を乗せ、日銭を稼ぐ、通称“白タク”。ベトナム人ドライバーのこの車は、いま技能実習生からの依頼が相次いでいるといいます。

白タク ベトナム人ドライバー「(コロナ禍で実習生は)ほとんどの人が、ひどい目にあっています。先日の客は、足場の仕事で週6日働き、手取りは月8~9万円。コロナ禍で会社が倒産して、虫や野草を食べるしかないほど、追い詰められている人もいます。もっと悲劇的な話もあります」

職場から姿を消す実習生たち。この日の依頼は首都圏のある街。現れた乗客は、4人。中部地方まで、夜通し走り続けました。

実習生が職場を離れる背景にあるのが、国が出したビザの特例措置です。これまで技能実習生には、転職が原則認められてきませんでした。コロナ禍、企業の業績悪化や倒産で突然の解雇通知を受け、失業する実習生も多くいました。

国は、困窮した実習生の在留資格を切り替えることで、事実上の転職ができるようにしました。この措置は人道的配慮だと説明されています。

出入国在留管理庁在留管理課「在留資格が終わるタイミング、活動が終わるタイミングで、必ずしも帰国便が確保できない方もたくさんいらっしゃいました。また、倒産する企業もありましたし、倒産する前に解雇されてしまうという方もいて、それぞれ特定活動や、短期滞在などの在留資格への変更を認めているということになります」

コロナ禍でのビザの特例措置。それは実習生たちの間に「転職バブル」のような状況を生み出します。

実習生「会社を辞めた。仕事もないし給料も低いから。ビザが取れたら東京で仕事がしたい」

実習生たちは、よりよい仕事を求めて、続々と職場を離れ始めたのです。

縫製工場で働いていたティエンさんと同僚は、コロナ禍、どうしているのか。

ティエンさん「みなさんは、いま“失踪”。どこにいるか、わからないです」

保護されたあと、ティエンさんは洋服を作る会社で、再び技能実習生として働いていました。しかし、仲間の多くは、コロナ解雇や転職で行方がわからなくなっているといいます。その一人アインさんです。

2021年9月。神戸大学の斉藤さんに、連絡が入りました。

斉藤さん「アインが、咳(せき)が出て息が苦しいみたいって言っている」

アインさん「コロナかもしれないけど、まだよくわかりません」

急いで、アインさんの元に向かいます。夜6時、病院に着くと、ちょうどPCR検査が終わったところでした。

アインさん「咳が出て、そうすると体が震えて痛い。診察してPCR検査しましたが、結果はまだです。治らないんじゃないかと心配です。怖いです」

アルバイト先の仲間が、次々と発熱。アインさんにも3日前から熱と咳の症状が出ていたといいます。

医師「やっぱり陽性でした。自宅があれば自宅待機ぐらいになるんでしょうけど、もしなければホテルを確保してもらわないと。これから掛け合いますので、保健所と」

保健所は、療養のためのホテルを手配。アインさんは、2週間の隔離生活に入ることになりました。

1か月後。体調が回復したアインさん。コロナ解雇にあって、行方がわからなかった1年、どのように暮らしていたのでしょうか。

アインさん「仕事を探すにも、どこへ行けばよいかわからず、なかなか見つかりませんでした。岐阜にも行ったし、大阪にも行ったし、広島にも行きました。1年失踪したといっても、半年ぐらいは仕事がなくて、仕事があっても安定しませんでした」

アインさんは、ホテルの清掃やイチゴ農家の草取りなどで日銭を稼ぎながら、全国を転々としていました。技能実習生のときよりも、収入は大幅に下がったといいます。

アインさん「ベトナムでの借金もまだ20万円残っていて、コロナ後、さらに日本で20万円借金が増えました。私は残って働きたいです。ベトナムでの借金と日本での借金を、全部返したい。それから別のビザに切り替えられるか探りたいです」

コロナ禍で追い詰められる技能実習生たち。新たな搾取にさらされることもわかってきました。実習生たちの苦境につけ込む、あるビジネスが拡大していたのです。

“ボドイ=兵士”と名付けられたベトナム人のSNSコミュニティです。

「群馬の大泉。パチンコ台の組み立て。時給1200円」

「東京。ホテル清掃。時給1150円」

飛び交っているのは、仕事の情報です。その中に、通帳の売り買いやパスポートを担保に金を貸すといった違法な情報が流れていました。

私たちは、技能実習生を相手に闇金融を行っていたという、ベトナム人の男性に接触しました。

ディレクター「パスポートで、いくらお金を借りられるんですか?」

ベトナム人闇金融関係者「実習生は、10万円から最大30万円。利息は10日で1割。実習生たちはみな、せっぱ詰まって借りていく。失踪するような人は、個人情報くらいはどうでもよくなっている。将来のことを考えられなくなっている。貸した金が返ってこなくても、彼らの個人情報があります。ドコモ、ソフトバンク、イーモバイルなどで契約して携帯番号を手に入れる。それからクレジットカードを申請して、Amazonなどの通販サイトで買い物する。携帯の電話番号さえ手に入れば、通販サイトで100万から150万ほど買い物ができる」

この男性もかつては、技能実習生でした。

ベトナム人闇金融関係者「コロナ禍では、日本の高い生活費が払えないし、居場所もなく寝るところさえないから、そうするしかない。食うか食われるか」

実習生が、実習生を食い物にする実態。

さらに取材を進める中で、闇金融を行っている外国人のリストを手に入れました。彼らは日本全国に広く存在。数百万円から1500万円程度を運用していることがわかります。

こうした闇金融業者の元締めとなっている犯罪組織。その一員に話を聞くことができました。

半グレグループ幹部「年間だいたい12億~15億円ぐらいというのは、この貸し金で上がる水揚げ。めちゃくちゃ増えていますよ。俺が知っている範疇で考えると、3・4年前は、せいぜい月に500万円とか。年で1億円いかないのがほとんどだったけども、今は全然ケタが違う。かなりもうかっています。金融バブルみたいな感じ」

男性のグループは、元実習生たちを組織し、闇金融や売春など違法なビジネスを手がけているといいます。

半グレグループ幹部「労働力としてあぶれているお金のない外国人たちを、ひとつのコミュニティとしてまとめ上げて、いろんな仕事をさせる。そこからの水揚げを吸い取っていこうという考え方。言葉を変えて言うと、日本の実習生たちの監理団体の代わりをしているという論理なのよ。いい金づるというか、悪い言い方をすれば、そうなってしまってるよね」

本来、コロナ解雇などによって仕事を失った実習生には、監理団体が次の職場を手配することになっています。しかし、特例措置でビザを切り替えた場合、監理団体の手を離れる人が多くいます。困窮したとしてもサポートを受けることができなくなります。闇のビジネスへの入り口が、開いてしまったのです。

神戸大学 斉藤善久 准教授「もともと技能実習生の多くが、すごい借金を背負って来ていて、いざ日本で思ったように仕事ができない、稼げないときに、正常な判断ができなくなるようなプレッシャーの中で暮らしているわけですよね。今まで、技能実習制度に乗っかった表の搾取というものがあるとしたら、今はコロナ禍の中で、行き場を失った人たちに対する裏の搾取というのが、裏の社会で起こっている」

コロナ禍で拡大する制度のひずみ。

ビザの特例措置は、さらに命の問題までも引き起こしていました。31歳のクインさんです。

クインさん「腎臓なので、腰のあたりが痛いです。あとは背中です。(内臓に)水分がたまって痛いです」

クインさんは、去年の年末、腎臓の病気、ネフローゼ症候群だと診断されました。病気がわかるまでに、複数の病院を受診し、300万円以上を支払ってきました。高額の医療費の理由は、ビザ。

去年、「短期滞在」に切り替えたクインさん。このビザでは、実習生のときには持っていた保険証を持てません。医師からは、入院が必要だと言われています。しかしさらに100万円が必要なため、知人の元に身を寄せていました。

クインさん「怖いです。珍しい病気で、薬を1年以上のまないといけないと言われました。途中でやめると、病気がさらにひどくなります」

症状は重く、働くこともできません。

クインさんは、農業の技能実習生として来日しました。両親に仕送りをし、いずれは家業である農家を継ぐのが夢でした。

しかし病気になったことで、ベトナムの実家に過酷な負担をかけることになってしまいます。医療費の多くは、両親が送金。この1年で借金は250万円ほど増えました。

クインさんの母(60)「最近、クインに10万円を送金しました。12月にも15万円を送金してあげた。11月にも7万5000円を送金してあげなきゃいけなかった。ちょっとずつ送金して、総額は250万円にまでなりました」

母親が農作業を担い、72歳の父親はホーチミンに出稼ぎに行って工事現場で働いています。年収は合わせて36万円。返すめどの立たない借金が増え続けています。

母「頭が痛くなるぐらい悲しいです。自分の子供の命が危険なので、どんな母親でも悲しくなります。体調とメンタルが弱くなりました。でもお金を準備しないと、クインが治療できません」

なぜ短期滞在のビザでは、保険証が持てないのか。出入国在留管理庁は、「在留資格」によって決められているといいます。

在留管理課「短期滞在の在留資格をもっていらっしゃる方は、中長期在留者には該当しないので、国民健康保険の適用の対象とはならないというふうに承知しております」

ディレクター「保険がない元技能実習生が、短期滞在を中心にいますが?」

在留管理課「どういう在留資格の方に国民健康保険を適用するのかは、厚生労働省の所管になりますので、私からお答えできることではないというふうに思います」

厚生労働省は、どのような見解なのでしょうか。

厚生労働省国民健康保険課「短期滞在というのは、基本的には観光目的等で滞在される場合に付与されると認識しておりますので、国民健康保険は、短期滞在の在留資格の方については、適用対象外となっている。技能実習の方が、そもそも短期滞在の在留資格が出されていることが適当なのか、入管庁に適切に判断いただく必要がある」

重い病を抱えるクインさん。

クインさんの母「もしもし、薬飲んだ?」

クインさん「ご飯を食べて、薬をのんだよ」

母「お金は足りた?友達から借りたお金は、返せたらでいいから。ダメなら無理しないで。体調が良くなったら、また働いて返そう」

母親の涙。

クインさん「なんで泣いてるの?」

母「借金があっても生きていればなんとかなる。治療費がかかっても元気になればいいんだから。元気になれば、それでいいから。お金が足りなければ、家を売る。ホームレスになっても売るから」

家族の幸せのために、日本を選んだはずでした。

クインさん「母の声を聞いたら、寂しくなりました。病気のことも心配ですが、ベトナムの家族のことも心配です」

今年3月。ベトナムへの国際線が再開していました。乗客の中に、半年前、新型コロナで陽性となったアインさんの姿がありました。

ディレクター「荷物はないの?」

アインさん「荷物はあまりないです。転々としたので、物をいっぱい捨てました。たぶんこの便で(荷物が)いちばん少ないですね」

4年前、縫製の技術を学ぶために来日したアインさん。長時間労働や残業代の未払いにあい、別の実習先ではコロナ解雇にあいました。借金は返せたものの、仕送りも貯金もできませんでした。

アインさん「日本に失望しました。ベトナムに帰国できるのがうれしいです。私は(技能実習の)仕事がうまくいきませんでした。失踪しても、生活が不安定で悲しかったです。みんなのように、うまくいかなくて悲しい。早く帰りたかった。飛行機のチケットが取れたので、帰国することにしました。私は運が悪かったんです」

「疲れて、もう頑張る気力が湧かない」。アインさんはそう言って、帰国していきました。

日本への技能実習生、最大の供給国であるベトナム。制度の先行きに、かげりが見えていました。農村部から若者たちを集め、海外に送り出してきた会社です。

カイン社長「技能実習生の候補者を集める事業は、以前より難しくなっています。かつては海外、特に日本で働くことは、ベトナム人にとって、大変魅力的なことでした。現在、その魅力が低下しています」

ベトナムのSNSでは、実習生が日本人に暴力を振るわれる動画が拡散。長時間労働や賃金未払いなどの実態も、広く知られるようになりました。さらに懸念されているのが、日本の経済力の低下。10年前に比べ、円安などで、およそ3割収入が落ちたといいます。

カイン社長「円安が急速に進み、日本で受け取る給料の価値が下がっています。そのため日本で働くことは、以前ほど魅力的ではなくなってしまっています。きつい仕事を日本人はしたがりませんが、ベトナム人だってしたいわけではないのです」

世界の人材にとっての魅力度などのランキングです。日本は年々その順位を落とし、現在39位。同じアジア圏でも台湾や韓国、中国を下回っています。

さらに人身売買を巡るアメリカの報告書は、技能実習制度における外国人の強制労働や虐待などの問題を、指摘し続けています。

神戸大学 斉藤善久 准教授「技能実習制度については、国際的にも、人権侵害という批判がなされている。これをこのまま放置することによって、日本のステータスがどんどん下がっていく、あるいは日本に夢を持って、日本とか日本人とか日本の文化を信頼してきてくれた若者たちが、悪い印象を持って帰っていくことによって、国際的な日本の評価が下がっていく。そうすると、経済的にも、国力全般が今後下がっていく。そういう危惧は感じています」

技能実習制度の今後について、所管省庁のひとつ厚生労働省は、「取締りの強化は必要」としながらも、次のように答えました。

海外人材育成担当参事官室「我々としては、みんながとは言いませんけど、母国で技能を生かして活躍する、そういった人がたくさんいるので、そういった制度の趣旨に沿ったように、日本でそういうことをやりたいという希望もあるし、実際それに協力するぞ、しっかりやろうという監理団体も企業もある中では、これはすぐになくなるものではないんじゃないかなとは思います」

今年5月末。重い病を抱え、クインさんの借金は300万円を超えていました。

クインさん「日本での治療費が高いので困っていますが、一緒に働いていた後輩は、給料が入れば治療費を貸してくれると言ってくれています。しかし今後、借金をどう返せばいいか、ベトナムに帰国してもどうすればいいかわかりません」

医師から、今後3年は治療を続けなければならないと言われています。日本の北関東医療相談会(NPO法人)が支援に入りましたが、借金返済についてはまだ先が見えません。

技能を学ぶために来日したクインさん。病気を治し借金を返すためにも、日本に残ることを希望しています。

クインさん「覚悟を決めて来日して6年。こんな結果になって失望したし、悲しい。いつになったら働けるようになるのか。本当はベトナムでイチゴの栽培をしたかったけど、難しくなってしまったので、人生をどうすればいいのか、考え込んでしまいます」

技能実習生は、単なる労働力なのか。それともこの国に生きる仲間なのか。

タオルの下請け工場から保護され、今は別の工場で働くティエンさんは、特例措置で滞在期間を延長。日本で技能を学び、働き続けたい。そう考えています。

ティエンさん「会社は法律守ってない、多いと思います。国は実習制度、よくなって直してほしいです。今はね、働いている会社で本当にいろいろ勉強して、今は日本は大好きです。実習生は日本に貢献してますから、差別、しないでほしいです」