若者を狙う“闇の錬金術” 〜調査報告 借金投資の罠(わな)〜

初回放送日: 2023年4月22日

悪質な業者に指南されるまま、複数のローンを組んで借金をし、実態が疑わしい暗号資産や不動産に投資。その結果、多額の借金だけが残り、追い詰められていくという深刻なトラブルが急増している。全国の消費生活センターなどには3300件あまりの相談が寄せられ、その多くは10代、20代の若者からの相談だ。番組では、法の網をくぐり抜ける悪質業者たちの手口と実態に迫り、どうすれば被害を防げるのか、警鐘を鳴らす。

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(2023年4月22日の放送内容を基にしています)

これは、投資で確実な利益が確保できるとうたうグループのセミナー。巧みな話術を駆使し、650億円もの金を集めたとされる。後に幹部らは逮捕されたが、多くの人が「金が返ってこない」と訴えている。

今、将来への不安などを背景に、若者の間で投資への関心が急速に高まっている。

飲食業(21歳)「普通に働いてもやっぱり稼げないので、今の時代、投資とかで稼がないとだめなんじゃないかな」

学生(21歳)「生きていくのにいろいろとお金がかかるじゃないですか。投資とか、自分の力でなんとかできるところはしていきたいな」

国も、投資による資産形成を後押ししようと、NISAなどの優遇制度を拡充。20代から30代の5人に1人がなんらかの投資をしているという(野村総合研究所「生活者1万人アンケート調査」2021年)。一方で、若者をターゲットにした悪質な業者による投資トラブルが相次いでいる。全国の消費生活センターへの相談は3300件におよび、うち10代から20代が半数近くにのぼる(2022年度「モノなしマルチ」の統計)。

金のない若者たちに多額の借金をさせて、運用実態が疑われる投資に誘い込む。ゼロから金を生み出す“闇の錬金術”ともいえる手口が、そこにあった。

実際のセミナーでの音声「お金を持っていない人で、この話を聞いている人もいると思うんですよ。『私、10万円持っていません』みたいな。そういう方のためにすごくいい案件があって、実際は1円も持っていなかった人です。お財布にもお金を持っていないし、銀行にもお金を持っていなかった人が、ただで銀行で1000万円借りて、それで6000万円とか8000万円とかに化けているんですよ。だから、やらない理由ないんですよ。この話、よく聞くとね」

その罠(わな)にはまり、手元には一銭も戻らず、多額の借金だけを抱えた人が続出。将来への不安や金融知識の無さにつけ込んで広がる“闇の錬金術”。その実態に迫る。

<若者の心理につけ込む“闇の錬金術” その手口>

なぜ若者たちは、怪しい投資に引きずりこまれてしまうのか。

多額の金を失ったという20代の男性に話を聞いた。関西に住む松本さん(26歳)。4年前、大学を卒業し、派遣社員として働き始めた。

松本さん(仮名)「年収250~260万円やと思うんですけれど、営業とかでひどい断られ方もして、つらかったんですね。そのとき」

給料は低く、将来も見通せない。そんなとき、営業先で出会った女性が声をかけてきた。

松本さん(仮名)「僕の表情を見て、『つらそうにしているように見える』って言ってきたんですよ。そこから、『世の中、こんなことせんでも稼げるよ』みたいなことを言われて」

そこで紹介されたのは、海外を拠点に暗号資産に投資をするという「ジュビリーエース」。

松本さん(仮名)「『創業者が外国人で、中国に会社がある』と言われたんです。それだけやと全然信用はできないんですけれど、その会社の創業者が載っている雑誌があるんです。それを見せられて信用してしまったというのが大きかったですね」

顧客から預かった金を暗号資産に替え、独自に開発したAIで運用。さらに海外のスポーツに金を賭けるなどして、「確実に利益を出す」と説明された。

松本さん(仮名)「『どのチームが勝っても、もうかるように操作ができる“AI”をこの会社は持っている』という資料も見せられて。それで年収何千万、何億。君と年齢も近い、年下の子で、これだけ稼いでいる人がいるよって。でも、何億、何十億、ほしいっていうんじゃなくて、少しでも足しになればという・・・貯金とかしていったら、仕事でつらいことがあっても、一応これだけお金があるし、大丈夫やろうという“気持ち”がほしかったというのが一番ですね」

松本さんは、こつこつためてきた80万円を預けた。

すると、この投資で大成功したという同世代の男性を新たに紹介された。その男性は「80万円では足りない。“借金”をしてもっと投資すれば、自分のようにたくさん稼げる」と持ちかけてきた。そして、消費者金融に行き、金を借りるよう指南される。1日のうちに複数の店舗をまわり「車を買う」と嘘(うそ)の説明をして、できるだけ多くの金を借りてこいという。

松本さん(仮名)「1社借りて、次の日に行ったら、信用情報で『この人はこの会社から借りている』っていう情報が回っちゃうから、もう借りられなくなるよということを言われて。それで1日で(何社も)回りました」

嘘(うそ)をついて金を借りることに、松本さんは躊躇(ちゅうちょ)したが、言葉巧みに促されたという。

松本さん(仮名)「『みんなやっているよ』みたいな。『こういうマニュアルで、みんなやっているから全然大丈夫』みたいな。『そんなんでビビッてるの?』みたいな。ちょっと笑い返されるといいますか。自分が間違ってんのかなって・・・」

こうして借金を重ね、合計300万円を渡してしまった。

その金がどう運用されているかは、専用のウェブサイトで確認できるという。上の画像は、松本さんの運用実績とされる画面だ。預けた300万円は順調に増え、半年後には4万600ドル、およそ540万円と表示された。

松本さん(仮名)「これで稼げるんやな。すごい話をもらえたんやな。というのを、信じきっていました」

しかしその2か月後、突然、預けた金を引き出せなくなるという通知がきた。松本さんが「詐欺ではないか」と詰め寄ると、「今は出金できないが、間違いなく海外で運用されている」と繰り返された。

私たちは、中国・深圳にあるというオフィスに取材を試みた。

番組スタッフ「英語で登録した会社を調べてほしいのですが、よろしいですか?」

番号案内人「どうぞ」

番組スタッフ「J、U、B、I、L、E、E。 ACEが続きます」

番号案内人「電話番号は登録がありません」

番組スタッフ「『ジュビリーエース』の登録はないですか?」

番号案内人「そうです」

番組スタッフ「住所をお伝えするので、調べていただけませんか?〇〇〇1205室です」

番号案内人「1205号室の登録はありません」

ビルの管理会社にも問い合わせたが、連絡はつかなかった。

金を預けてから3年たった今も、松本さんは1円も出金できずにいる。残ったのは、消費者金融で借りた借金だけだ。

松本さん(仮名)「ただの数字ですね。今見たら、こんなちんけなサイトといいますか、作ろうと思ったら誰でも作れるので。だまされていた自分が情けないといいますか・・・」

今、全国の消費生活センターに、「運用実態が疑われる投資などで、金を失った」という相談が殺到している。昨年度、3300件あまりの相談があり、その半数近くが10代から20代の若者だった。知識の乏しさにつけこまれ、消費者金融から借りた金を、領収書や契約書すら受け取らず、渡しているケースが多いという。

東京都消費生活総合センター相談課 髙村淳子課長「悪質事業者が、お金がある高齢者を狙うのではなくて、お金がない(若い)人を狙っているというのは、やっぱり知識がない人がそこにいるからだと思うんですよ。高齢者に関しては、ものすごく今、警察も注意をしています。高齢者のいわゆるお金持ちから1000万円取るよりも、若い人たちが自ら進んで借金をして払ってくれる。悪質の極みだなとは思っているんです。幻のお金といいますか、もうかると信じさせることによって、それ以上のお金を搾取していく」

おととし11月、警視庁は、日本でジュビリーエースを広めたグループの最高幹部を含む7人を逮捕した。容疑は、無登録で投資を勧誘した「金融商品取引法違反」。警視庁が金の流れを追跡したところ、その多くが暗号資産に替えられ、総額650億円分にものぼることを突き止めた。逮捕により、被害の拡大は食い止められた。関係者によると、警視庁はさらに、より罪が重い詐欺罪での立件も検討していたが、暗号資産に替えられたことで運用実態の詳細までは解明できず、詐欺罪での立件は見送られた。グループでは最高幹部が執行猶予付きの有罪判決を受け、罰金300万円の支払いを命じられた。

投資トラブルに詳しい弁護士は、捜査の難しさを指摘する。

葛田勲弁護士「渡したお金が実際戻ってこなかったり、なくなったりしてしまうということについて、一般の感覚で考えると“詐欺”だというふうに思うわけですけれども、詐欺罪で有罪の立証をするためには、お金の流れを解明し尽くす必要があるんです。暗号資産の口座を誰が持っていて、どのように出金されていったのかということを解明する。極めて高い立証のハードルがあるんです」

グループ側は、「暗号資産は海外で運用されており、詐欺ではない」と主張している。

巨額の資金が本当に運用されていたのかを知る手がかりはないのか。

私たちは、暗号資産の追跡を得意とするホワイトハッカーのチームに、調査を依頼した。預けた金が返ってこないと訴える複数の人たちの協力を得て、FBIの捜査にも使われているという特殊な解析ソフトを使用し、暗号資産の流れを追った。

金を預けた人たちが暗号資産を送ったジュビリーエースに関係する、“ある口座”。ここには、3年前から少なくとも400億円近い暗号資産が集まっていた。もし運用するのであれば、この暗号資産は直接、取引所に送られるはずだ。ところが、なぜかほぼ全ての暗号資産が、複数の個人口座を転々としていたことが分かった。

さらに・・・

ホワイトハッカー 河崎純真さん「このミキシングサービスに、資金が流れているんですよね」

一部は、暗号資産にひもづく情報を読み取れないようにする「ミキシング」という技術が使われていたことが明らかになった。

河崎純真さん「ミキシングが何かというと、お金の動きを分からなくさせるというもので、犯罪性の高い資金がほとんどなんですよね。結構多くの資金が、個人(の暗号資産口座)、取引所ではないアドレスに資金が多く流れていて、とても運用目的でこういった資金の動きをしているとは説明しがたいです」

今、若者たちを狙った同じような事件が相次いでいる。

2月には、海外のヘッジファンドに投資するとうたい、現金をだまし取ったとして、会社の社長らが逮捕された。200億円を集めていたとされる。

また、海外事業への投資名目で、少なくとも130億円を集めていたとされる会社幹部は、今も逃亡している。若者にクレジットカードで借金をさせていたという。

ゼロから巨額の金を生み出す“闇の錬金術”。取材から見えてきたのは、若者に消費者金融などで借金をさせ、投資名目で金を集める手口だ。そして、運用実態を分かりにくくして、追及を逃れようとする悪質事業者たちの姿だった。

<社会に広がり続ける“闇の錬金術”>

知識や経験を積んだ大人も、怪しいもうけ話に惑わされてしまう。

木本武宏さん「今回、このような騒動に巻き込んでしまった仲間の友人の皆さま。あらためて本当に申し訳ありませんでした」

去年8月、投資トラブルが発覚し芸能事務所を退所した、お笑いコンビTKOの木本武宏さん。きっかけは、20歳の青年Aとの出会い。外貨を売買して利益を得る、FX取引の「天才トレーダー」と紹介された。

木本武宏さん「アメリカのトレードの大会みたいなので賞をもらったとか。A本人がいない場所でも、とにかくAがどれだけすごいかという話で持ちきりなんですね。しゃべってみるとすごく真面目で、ちょっと職人肌っぽい空気を感じたんです」

当時、コンビを組む相方の不祥事や新型コロナの影響で、仕事が半減していた木本さん。少しでも収入の足しになればと、Aに100万円を預け、運用を任せることにした。

案内されたのは、都内のマンション。専用のトレーディングルームで、Aを含む3人が取引をしていたという。ずらりと並んだモニターにトレード画面が表示され、ホワイトボードには複雑な計算式が書かれていた。トレード画面を見せられながら、「預けた100万円がどんどん増えている」と説明された。

木本武宏さん「負けないやり方でやっているんですと言われて。説明されるんですけれど、全部が全部、理解できていない。でも、この100万円が3か月くらいで400万円というところにいったから、このペースでいったら、すごいお金を手にできるんじゃないかなと思って」

仕組みも分からないまま、雰囲気に飲まれてAを信じ込んだ木本さんは、周囲の人たちに投資の成功を自慢した。それをきっかけに、木本さんの紹介で、Aに金を預ける人が続出。総額は1億円以上に膨れ上がった。

しかし、5か月後。「預けた金を引き出したい」と言うと、Aは突然失踪した。

木本武宏さん「頭が真っ白になって、“詐欺”だと思いたくないというのがすごく大きかったんですね。まさか自分が“詐欺”にひっかかっているとは、まず思いたくない」

Aの居場所を突き止め、詐欺ではないかと問い詰めると、「運用に失敗しただけで、だましたわけではない」と繰り返したという。裁判に訴えても、時間も費用もかかる上に、金が戻る保証もない。少しずつでも返済するという条件で、示談にした。

木本さんは責任を感じ、自分の紹介でAに金を預けた人たちの損失を、借金をして穴埋めした。

木本武宏さん「悔しいけれど、折れた部分もありますよね。結果として、だまされたほうが八方ふさがりになる」

<22歳の女性を自殺に追いこんだ “マルチ商法”のような仕組み>

ゼロから金を生み出す“闇の錬金術”。巨額の金を集めるもうひとつの“仕組み”が、取材から見えてきた。

650億円を集めていたとされるジュビリーエースのセミナーで語られていたのは、新たに別の人を勧誘すれば、多額の紹介報酬を受け取れる“マルチ商法”のような仕組みだ。報酬を得ようと、多くの若者がSNSなどで友人や知人を勧誘して、巨額の金が集まったとみられている。

この報酬システムに巻き込まれ、自ら命を絶った若者がいる。川上穂野香さん、当時22歳。社会人1年目だった。

穂野香さんの母 佐永子さん「似たような人を近所で見かけたら、『あ、娘かな』とか。本当に『何で?』っていう・・・」

穂野香さんが2歳のときに、母・佐永子さんは離婚。以来、ひとりで娘を育ててきた。忙しく働く母へ、穂野香さんは、ことあるごとに手紙を書いていた。

佐永子さん「話したいことがあっても、私が家事をしていたり、疲れてそうやなって思ったりしたら、遠慮するみたいなんですよ。性格的にめちゃくちゃ気をつかうタイプですね。誰にでも」

そんな穂野香さんを投資に誘ったのは、大学時代から親しくしてきた友人だった。その友人がSNSに投稿した「新しい事業をはじめる」というメッセージ。それに、何気なく反応したことがはじまりだった。友人からすぐに返信があり、ある人物を紹介された。その人物は、ジュビリーエースのメンバーだった。

穂野香さんが友人同席のもと、メンバーから説明を聞いたときのメモが残っている。

「1万ドル投資すれば、毎月8%の配当が得られる」

「デメリットは、正直ない」

400万円近い奨学金の返済を抱えていた穂野香さんは、メンバーからの指示に従い、3社の消費者金融から合計150万円を借りた。

このころ、SNS上で「このグループは怪しい」という声が上がり始めていた。しかし、穂野香さんがそれに気づいたのは、150万円をメンバーに渡したあとのことだった。穂野香さんは精神的に追い込まれ、母の佐永子さんに「眠れない」と相談する。医師からは「うつ病」と診断を受けた。

それからしばらくして、穂野香さんは、最初に投資に誘った友人に、あるメッセージを送った。

穂野香さん「私紹介つけたことによって(私を紹介したことによって) マージン入ってるやろ?」「その分を返してほしい」

実は、友人も借金をして、メンバーに金を渡していた。そして、穂野香さんを含む複数の知り合いを勧誘していたとみられる。

穂野香さんは自ら命を絶つ前日、当時交際していた男性とともにメンバーに会い、金を返すよう訴えた。そのときの音声が残っていた。

穂野香さんの交際相手「こいつの150万円、返してほしいんですよ」

メンバー「なんで?(笑)」

穂野香さんの交際相手「僕からしたら止めたいと思うし、そんな不透明なこと、やらんといてほしいなと」

メンバーの知人「でも、それは個人の責任でやっているわけなんで。僕も500万円やってますけど、もし無くなりました、ほかの人にどうこう言われました。でも、自分の責任でやっているんでって言いますよ。そういうもんですよ。投資って」

穂野香さんは、母・佐永子さんにあてて、遺書を残していた。

「お母さんへ。22年間ずっと私を育ててくれてありがとう」

「奨学金は保証人になってもらっているのに、こんなことになってごめんね」

「もう十分迷惑をかけたと思います。だから、自分で人生を終わりにします。ごめんなさい。本当にありがとう」

佐永子さん「全部、自分が悪いみたいに言っていて。だましてくるほうが悪いやろうって思いますし、なんでそんなひとりで抱え込んでしまって・・・。止められへんかったのが、本当に悔しいですね」

その後メンバーは、無登録で投資を勧誘した罪で、罰金70万円の支払いを命じられた。

私たちは弁護士を通じるなどして、メンバーと、最初に穂野香さんを誘った友人に取材を申し入れたが、回答は得られなかった。

佐永子さん「通常じゃない。みんな、考え方が。ほんまに自分のことしか考えていない。自分の欲のために人の生活を壊して。こうなるというのも予想もせず。無理やりやってきたのが、最悪な結果になってしまって。娘を返してほしいけれど、それがかなわへんわけなんで」

<さらなるトラブルが起きかねない 危うい実態>

投資トラブルに巻き込まれた人たちが金を取り戻そうと、逆に行動をエスカレートさせるケースも起きている。

「夜分すみません。今、50名ほどの被害者の方の代表で来ています。お話あるんですけど、居留守ですか?」

これは、被害を訴える人の相談を受けたグループが、投資を勧誘した相手の自宅に押しかけたときの映像だ(上画像)。

「被害金額、全部合わせると、ざっくり4500~4600万円ありますよ。『すいませんでした。私も被害者』は通用しませんよ」

このグループの中心人物に話を聞くことにした。

このグループには、投資トラブルの当事者から、日々相談が寄せられるという。上の画像は、「借金をして投資した金が、戻ってこない」という、大学生からのメッセージだ。

だが当事者の救済が目的だとしても、この活動は法に触れるのではないかと、問うた。

グループの中心人物「裁かれない世界の中で、裁かれないことをいいことに活動しているグレーな連中がたくさんいるゾーンがあって、そこをグレーゾーンだと僕たちは認識しているんです。そのグレーゾーンの中に僕たちは潜入しなければ、せん滅できないじゃないですか。被害者を救済することができなくなるじゃないですか。だから、そのグレーゾーンに飛び込む勇気がなかったらできないということなんですよ。だから僕たちみたいな者に、需要があったりするわけですよ」

金を取り戻したいという人たちの怒りが行き場を失い、さらなるトラブルが起きかねない危うい実態があった。

<“闇の錬金術” 不幸の連鎖を断ち切るために>

一人娘の穂野香さんを失った川上佐永子さんは、娘がなぜ命を絶つことになったのか、納得できる答えを知りたいと、去年11月、民事裁判を起こした。穂野香さんを勧誘したメンバーと友人、そして最高幹部に慰謝料を請求した。

川上佐永子さん「娘も亡くなる前に、自分以外にも、ほかにもたくさん被害者の方がいるということを言っていて、ほかの被害者の方のことまで心配していたんですよね。まだまだ、だまされる側が悪いと思われる方が、やっぱり世間にもたくさんいらっしゃって、そこまで巧妙なやり口で、なかなかその状況を理解してくださるのが難しいので、顔出しもして、名前も公表して。勇気もかなりいったんですけれど」

これに対し、3人はいずれも裁判で争うとしていて、このうち最高幹部は「自分がともに責任を負う根拠は明らかではない」などと主張している。

今も、若者の投資を巡るトラブルは絶えない。

これは今、全国各地で開催されている、あるセミナーの様子だ。

セミナーの司会「一応ですね、このシステムをお知り合いやお友だちに紹介していただくと、増える仕組みになっています」

セミナーを主催する会社に対しては、民事裁判が起こされている。「一定以上の運用益が出る」と“嘘(うそ)の説明”を受け、暗号資産を自動取引するソフトウェアを購入した結果、損失が出たというのだ。

セミナーの司会「勝率100%の絶対負けない資産形成。勝率100%。これ、絶対もうかるじゃなくて、負けないってことですね」

セミナーの司会「マイナスの取り引きは、1件もない。すべてが、すべてがプラスの取り引き」

司会を務めていたのは、以前投資の勧誘を巡って事件になった別のグループで活動していたと見られる人物だった。

一方、会社側の弁護士は取材に対し、「100%負けないというのは、暗号資産の数が減らないということで、必ずもうかるという意味ではない」と答えた。裁判では「運用益を確約した事実はない」と主張している。また、司会を務めた人物の経歴については、答える立場にないとしている。

手を替え、品を替え、若者を怪しげな投資に誘い込む“闇の錬金術”。不幸の連鎖を、断ち切らなければならない。

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