FIFAワールドカップ2022。日本は1次リーグの第3戦でスペイン相手に逆転勝利し、1次リーグ2勝1敗で、2大会連続の決勝トーナメント進出を決めました。まだまだ続くワールドカップですが、楽しみは選手のプレーだけではありません。サンデースポーツ中川安奈キャスターがカタール大会で史上初の大役に挑む、こんな女性を取材しました。(2022年10月30日放送)
ワールドカップ 初の女性主審候補
中川キャスター:こんにちは。サンデースポーツの中川と申します。
山下さん:こんにちは。サッカー国際審判員の山下良美です。よろしくお願いします。
女性では日本唯一のプロの審判、山下良美さん36歳。数々の国際大会で主審を務めてきた実績が評価され、ワールドカップの主審候補36人に女性で初めて選ばれました。
中川キャスター:最初に連絡来た時はどんなお気持ちでしたか。
山下さん:正直いちばん最初は驚きという気持ちもありましたけど、責任をすごく強く感じて。その時にいちばん最初にぎゅーっと体が締めつけられるような、そんな気持ちになりました。
より正しい判定をするために取り組んでいることとは
山下さんは、史上初のワールドカップでの大役に向け、更なるレベルアップに取り組んでいます。持久力のトレーニングで基準にするのは距離やタイムではなく“心拍数”です。
山下さん:心拍数を見ながら強度を決めてトレーニングしています。心拍数が上がって、息が切れた状態で事象を見ても正しい判定ができない可能性があるので。
試合中の心拍数も記録している山下さん。1分間に170回を超えることもある心拍数を低く抑えることが目標です。
山下さん:常に余裕を持って90分間フィールドに立てるよう、常に心肺機能を高める事を意識してトレーニングしています。
ジムでは山下さんの持ち味、短い距離の“スプリント力”をさらに鍛えています。その能力が特に必要になるのが、ペナルティーキックかどうかの微妙な判定の時だといいます。
山下さん:ファールのポイントが、ラインに少しでもかかっていればPKになります。あちらのボール、今ここから見て、ペナルティエリアの中にあると思いますか、それとも外にあると思いますか。
中川キャスター:線の外側にあるように見えているんですけど。
山下さん:そうですね。あそこでファールが起こりそうなときには、走らないと!
中川キャスター:私も全力で!全然追いつかない。こう見ると、ちょっと線に乗っているんですね。
山下さん:そうなんです。より正しい判定をするために、短い距離でもスプリントが必要な時があるんです。
そして山下さんが審判として最も大切だと考えているのが、“きぜんとした態度”です。その意識は、背筋をぴんと伸ばして走る姿勢にも。
山下さん:判定をする時、より説得力がある見え方をさせたいので、そのためにも走り方も大事だなと。
難しい判定を選手に伝える時は言葉だけでなく、あらゆる手段を使います。
山下さん:メッセージさえ伝えられれば何でも。笛もありますし、顔でもジェスチャーでも目線でも。伝える方法はいくらでもあるので。
中川キャスター:かっこいいです。
山下さん:目を見ながら言っちゃいました。
コイントスが「一番緊張します」
最後にもう1つ練習していることがあるそうです。
山下さん:これなんですけど。
これはFIFAから国際審判員に毎年届くコイン。
山下さん:試合前にトスするコイン、私はここが一番緊張します。落としたり、ちゃんとキャッチできなかったりするんじゃないかと。手も震えてしまうので。
中川キャスター:そうなんですね。
山下さん:最初の笛を吹いてしまえば試合中は緊張しないんですけど、それまでがとても緊張します。
そんな山下さんの理想のトスとは。
山下さん:まず顔からですね。
中川キャスター:顔から?
山下さん:緊張感を出さないこと。
山下さん:まずコインを落とさないことですね。そこそこ高くまで上げて。(コインを受ける)手をピシっとして、手のひらに落とす。これがベストですね。
中川キャスター:コイントス、見せていただけますか。
山下さん:緊張しちゃうので。
山下さん:いい(出来)じゃないでしょうか。
ワールドカップで世界のトップ選手のプレーを判定するために山下さんのトレーニングは続きます。
山下さん:今回で男性女性かかわらず、すべての審判員がワールドカップを夢に持てるという可能性が広がったことは、本当にすばらしいことだと思っていますし、その思いを笛にのせられたら私自身がとてもうれしいなと。