サンデースポーツの新コーナー「球自論」(きゅうじろん)。藤川球児さんが、巨人の元木大介ヘッドコーチに話を聞きました。
藤川:きょうは、「ヘッドコーチとは」「元木流ヘッドコーチとは」というところを聞きたいと思います。
元木:いやもう野球が好きだし、ジャイアンツのヘッドコーチさせてもらってるっていうだけで、僕はすごい感謝してます。原監督の顔に泥を塗るわけにいかないと思って何が何でもって、自分のやり方で。まあ、野球はそれなりには知ってると思ったんで。
▼ヘッドコーチの役割は
藤川:桑田ピッチングコーチをはじめ各担当コーチの意見は、元木ヘッドコーチが集約して原監督に伝えるんでしょうか。
元木:ヘッドコーチというポジションは、まず監督がいて、次に僕がいて、そこから先が枝葉のように分かれてるんで。コーチだけではなくて、それこそ広報とかトレーナーからの情報もまず僕のところを通ってから監督にいきます。
藤川:全て、元木ヘッドコーチが軸となっている?
元木:伝えるか伝えないか判断して、トレーナーと行くときは一緒に行ったりとか、選手と監督と一緒に行ったりとか。だからとりあえず僕のところは通ります。
藤川:コーチになって4年目。2年目にヘッドコーチになったその瞬間から、その役割になったということでしょうか。
元木:そうですよね。だから1年目は守備コーチだったんですけど、ヘッドコーチになってからは野球以外の仕事がすごく多くなって。はじめ慣れないときはもう大変だったですね。
藤川:「ちょっと待ってくれ」なんて言うときもあったんですか。
元木:あります、あります。いや今野球だから、そっちじゃないからっていう。だからもう、監督の意見も考えもよくわかってないといけないし。それが全てできてるとはまだ思ってないです。
藤川:なぜ元木さんにヘッドコーチの役割をということは、原監督から直接何か言われたことはあるんでしょうか。
元木:「ことしはもう、お前さん、俺のことわかってるだろ」っていうことを言われて、もう「全然わかってないんですけど」っていう感じだったんですけど。球団や監督からそう言っていただけるんであれば、わかりましたっていうことで。
藤川:オフの段階でいろんな可能性を球団として探っている中で、元木ヘッドコーチでやるということでまとまったということ。
元木:そうですね。
藤川:そして、3塁コーチにも戻られたじゃないですか。僕が現役のとき、元木さんが3塁コーチにいて、目が合うことも何度かあったと思うんですけれども。そういう選手っていうのは、各チームにいますか。
元木:まあなんとなく意識してる選手はいますね。自分なりにどういうふうにピッチャーを見て、どういうふうに試合展開を見ていこうかなっていうのはあるんで。僕は、選手の癖とか見るの好きなんでね。だから正直何人かいます。
藤川:しぐさとか。
元木:うん。もうわかる。表情でもわかるときもあるし。
藤川:そうですよね。お互いが現役のときから、阪神とジャイアンツで試合をしながら、元木さんには僕も痛いところで打たれたこともあるんですけど。
元木:いやいや、全然打ったことないですけど。
藤川:いやあります。だから各球団にとって元木さんがサードのランナーコーチにいるというのは、ものすごい脅威だったんですよね。例えば、1アウトランナー三塁から、ランナーに何かひと声かける。ゴロゴーなのか、ゴロストップなのか、一般的なランナーコーチであれば、もうベンチからサインが出て、ストップかゴーかだけなんでしょうけれど、そのあたりの細かいところとかも含めて、何かしてるんじゃないですか。
元木:基本はベンチからの指示で僕がパイプになって伝えるだけなんですけど。やはりサイン以外でも動かないと。そこでやっぱり何かを見つけて、何か隙をっていうときにアドバイスはします。野球って点取りゲームなんで、いかにあのホームベースに一人でも多く行かせられるかだから。今年は僕の意識で、ランナーセカンドの場合は、結構(腕を)回します。回して点が入ると、チームもうれしいし何より打ったバッターですよ。打点がつくんですよ。やはり打点っていうのはうれしいんですよ。個人成績にもなるんで。まあ展開にはよりますけど、基本、勝負かけるときは、腕を回しますね。
藤川:個人の成績っていうことでいうと、原監督は組織で戦うんだといつもおっしゃられてるんですけども、ヘッドコーチとしては、やっぱり選手たちのことも見ていると。
元木:チームのためにランナーを止める・止めないは、まあしょうがない。場面によってはしょうがないんですけど。やっぱり基本は最後の成績、個人の成績じゃないすか。彼らはプロとしてお金を稼がなきゃっていうのもあって、僕らも現役のときにそれを感じているんで。
▼去年の10連敗が教訓に
藤川:3年間の経験をいかして、自分はこの役割をしなくてはというイメージはありますか。
元木:やっぱり昨年の失敗が全てですよね。10連敗。
藤川:昨年の10連敗はどういう日々だったんでしょうか。
元木:全然寝られなかったですし、やっぱり食事もとれなかったですよね。選手のときは、「ああ、もう明日明日」みたいな感じだったけど。こっちはコーチとして「お願い、頼む」っていう祈ってるだけなんで。
藤川:担当コーチとまたヘッドコーチでもさらに違うのでは。
元木:全然違います。打つだけだったら、10点とった、でも11点とられた、 「俺らのせいじゃないぞ」ってなるじゃないすか。でも、ヘッドコーチになってくると、僕はやっぱきつかったです。ヘッドコーチとして10連敗して、そこで僕が何をできたのか、何をしたのかっていうのがあるし。今、タイガースの状態がよくないっていうのは、やっぱり他人事ではないんですよね。もう我々は10連敗しているときもあるんで。だからもう、なんかこう余裕持ってしまっちゃいけないなっていう、いつなるかわかんないんで。だから勝てる試合は絶対に落とさないっていう気持ちは強いですね、今年は。
藤川:10連敗の経験が、他球団がそういった経験をしているときにも、他人事に感じられないと。
元木:もう感じられないですね。また特に他のチームを僕は知らないですけど、うちのチームはやっぱりこうなってくるともうすごく暗くなってくるし。個人でも打てなかったり抑えられなかったりすると、どこまでも落とされるような気持ちになるんですよね。だからそこで、なんとか僕の仕事は止めなきゃいけないというのはあるので、ヘッドコーチとして視野を広くしとかなきゃいけないなと思って。
藤川:選手の入れ替えも起こってくるわけじゃないですか。
元木:そうですね。状態を聞いて、一番いいときに一軍に上げたいんですよ。やっぱり僕らでも現役の時に、二軍にいて、今上がりたいと思って一生懸命打ってて。でもちょうど(調子が)落ちてくる頃に呼ばれたりするときもあったんで。それはやっぱ悔しかったし、調子いいと思って一軍に上がっても、すぐに試合に出られなかったりしもするんで。
藤川:はい。出られないですね。
元木:ずっとベンチにいてだんだんピッチャーとの感覚がずれてくると、打てなくなったりするんで。だから今状態がいい選手は、上げたんだったら使おうっていう。
藤川:もうすぐ使っちゃう。
元木:100%じゃないですけど、使いたいです。僕は。
藤川:選手に二軍行きを告げるときは、どういう気持ちなんでしょう。
元木:ヘッドコーチの仕事でやりたくないのは、もう選手に二軍に行ってきなさいって言うのがね。もうそれはほんとにつらい。ただ、そこはもう鬼になって、「もう一回やり直してこい。何が足りないかわかってるよな」っていう話はして。すごくつらいです。ほんとに。なんだろう。あの仕事だけは、ほんとに、やりたくないすね。
藤川:約束、できないじゃないすか。「またすぐな」っていうコーチもいるじゃないすか。
元木:そう。あんなのも、全然僕信用もしてない。
藤川:そういうのは言わないですか。
元木:言わないです。結果出せば、上がってくるチャンスが増えるから。ただ「結果出さないとチャンスはないよ」っていうことは言います。
藤川:ファーム行きを告げるときっていうのは、言葉っていうのは、数はやっぱり少ないですか。
元木:少ないですね。もういつも言うのは「明日からファームね」って言って、それ以上言わないときもあるし、ちょっと一言言うときもあるし、ほんとに申し訳なく、「調子いいんだけどメンバーの構成で、こうなってきてこう、明日から行ってくれ」っていうのもあるんで。それはほんとに、一番嫌な仕事でもあるし、軽々しく、「十日後には、呼んであげるから」っていうのも絶対言っちゃいけない言葉だし。だからもう、もう一回結果出せよっていう。もうプロの世界は結果だから、誰も助けてくれない。
藤川:原監督は選手の入れ替え方がものすごい早いですよね。
元木:早いですし、ほんとによく見てます。
藤川:熱いうちに試合に出しますし、代打でも抜擢して、昨年の八百板選手なんかもそうなんですけど、また今年も結局、今投手陣もそうですけど、鍬原選手がよかったら「鍬原いくぞ」って8回に固定して、いまは7回に今村投手が出てきて…
元木:形が作りあがってきてるんですよね。
藤川:切磋琢磨もしながら、若手が入ると今までいた選手たちの方が気合が入るというか。
元木:そうですよね。だからもうほんとに監督が今年もう、はっきり言ってたんですよね。同じ力だったら若い方使うって。そこでやっぱベテラン連中も「あれ」っと思うわけですよね。
藤川:思いますね。はい。
元木:だからやっぱり、今ベテランがよく頑張ってるなっていうのが、感じますよね。
▼理想のヘッドコーチ像
藤川:理想のヘッドコーチ像は、お持ちなんでしょうか。
元木:理想のヘッドコーチは、監督が座ってるだけでいいように監督がパッと指示する前に指示してっていう感じ。でもそんなに甘くないです。野球っていうのはやっぱむずかしいし、原監督は決断力や試合中の観察力はすごいです。
藤川:原さんはサード、元木さんはショートでしたけど、元々現役のときから原監督はそういうのをお持ちでしたか。
元木:監督は「サードなんか誰でもできんだよ」って言いますけど、チームリーダーでやってたからやっぱりいろんな選手の顔色も見てやってたんじゃないかなと思うんで。でもほんとに監督としてその視野の広さ、あと記憶力もすごい。もう僕なんかドラフト終わったら、他のチーム行った子なんて、忘れちゃうんですけど、「あの子ね、ドラフト何位だっけ、6位ぐらいか。どこどこ出身のどこどこ大学だろ」って。98%当たってますよ。
藤川:ほんとですか。
元木:それを答えなかったら、「お前らミーティングしてんのかー」って怒られますから。
藤川:それだけ詳しく。
元木:詳しいです。監督室に入られたら二軍の試合ずっと見てますからね。僕ら練習してて急に「あいついいバッティングしてたぞ」って、「こっち練習中なんすけど」みたいな。でも監督それぐらいずーっとファームの選手や他球団も相手ベンチもすごく見てます。
藤川:監督がそれだけのたくさんのことおっしゃられる中、みんなにはどう伝えるんですか。
元木:僕はチームのことは、言われたらもう全員にコーチミーティングで言います。今日、監督にこういうふうに言われたんで、こういうふうに。
藤川:それも必ず。
元木:必ず言わないと、僕で止めちゃうと、「知らなかったです」では許されないんで。それはもうコーチミーティングでは必ず言います。あとはピックアップして、これは言った方がいいな、これは別にここで止めといていいなっていうのも考えてやって。逆に今度は選手に遠回しに言わなきゃいけないなっていう。だからその辺はうまくごまかしながら。
▼きついから、やりがいがある
藤川:ヘッドコーチとして一番うれしいっていうのは?
元木:うれしいのはやっぱり、まず試合に勝つこと。試合の中でミスがなかった、勝ち方。何が起きるかわかんないですから。あの10連敗経験してなかったら僕はもっと偉そうなこと言ってると思う。でもあの10連敗っていうのは、ほんとにつらくて苦しかったんで。ここまで落とされるかっていうぐらい落ちていくんで。でも俺は何かしなきゃいけない、ヘッドコーチとしてっていったときに、やっぱり何もできなかった。そのときにベンチでもやっぱり、声出してるつもりが声が出てなかった。坂本勇人がショート守備から戻ってきたときに、「ベンチ暗い、声出せ」って言ったのでほんとに心の中で「すまん」って謝った。彼がそういうことをパッと走ってきて、グランドからこっち見たときに、どうしようもない空気なんだろうなって感じて。申し訳ないって思いました。
藤川:そこで、パッとこう、立ち返ることが。
元木:そうですね。やっぱりやらなきゃ俺たちが。
藤川:目が覚めるっていう瞬間ですか。
元木:1点2点とられてもう、点差つけられたら「あー」ってなってしまうんですけどね。そこで目を覚まさせてくれた、ヘッドコーチとしての目が覚めたのは、あの一言じゃないかなと思うし。
藤川:元木ヘッドが、また成長する。
元木:成長っていうか、いろいろ学ばせてもらってるなっていうのはありますね。成長しているかどうかは僕はわかんないです。
藤川:でも次は、おそらく10連敗もしなくても、 「おい元気ないぞ」って。
元木:言います。切り替えっていうのが必要なんですよね。
藤川:むずかしいですね。毎日試合ですから。
元木:むずかしいです。ほんとにもう、次の日すぐきますからね。
藤川:元木さん個人にとってヘッドコーチというポジションはうれしいのか、きついのか、やりがいがあるのか?
元木:きついから、やりがいあるんじゃないかなと思うんですよね。
「球自論」1回目は、「サンデースポーツ」(【総合】022年4月17日夜9時50分)で放送。