誕生から30周年。節目のシーズンが開幕間近のJ リーグ。中村憲剛さんが今回の「Kengo’sLab」の研究テーマに挙げたのは、チームの命運を握る監督。これまで総勢404人の指揮官たちが、Jリーグの歴史を彩ってきた。勝利を積み重ね、日本代表までのぼりつめた監督。独自の戦術を掲げ、新時代を築いた監督。そして今シーズン、30周年のJリーグで注目すべき指揮官とは?(2023年2月12日放送)
豊原キャスター:30周年の節目に、憲剛さんが監督に注目した理由は?
中村憲剛さん:多くの監督が、この30年でJリーグのレベルアップに大きく貢献してくれたと僕は思っています。また次のレベルに進むためには、より優れた監督が多く出てくることが絶対条件だと思っていますし、僕が監督の資格を取るべく、S 級ライセンスの研修を受け始めるので、今一番考えたい項目であります。
中村憲剛が影響を受けた監督
中川キャスター:この30年間の歴史の中で憲剛さんが大きく影響を受けた監督は?
憲剛さん:実際関わった監督、皆さんから大きな影響を受けたのですが特に2人ですかね。最初にイビチャ・オシム監督です。対戦相手として守備も激しくきましたから。攻撃では後ろからどんどん人が湧いて出てくるように駆け上がってくる。本当に攻守で手ごわいチームを作るなというのが最初でしたね。
憲剛さん:代表で指導を受けてからは、練習した内容が試合中に本当に再現されることがあって、僕が凄く驚いたというのもありましたし、影響を受けたのは、“リスクを冒せ”という考えです。後ろを気にせずに味方を追い越して、とにかくチャンスだったら前に出ろと。それまであまり聞いたことがなく、言われたことがない考え方だったので。これを実際にやったことですごく僕も成長しましたし、これは今の僕の考え方の基本になっています。
豊原キャスター:2人目は風間八宏監督ですね。憲剛さんとはフロンターレで5年間共に戦いましたね。
憲剛さん:はい。僕が出会ったのは32歳になるシーズンでしたが、そこからサッカー選手として上達したので、30歳を過ぎてもうまくなることを教えてくれましたね。本当に小学生の基本練習のパス練習、そして“止めて蹴る”、その大事さと重要性をたたき込まれた監督さんです。
豊原キャスター:“止めて蹴る”といえば、憲剛さんの代名詞的な言葉。これは風間さんの教えだったのですね。
憲剛さん:もともと大事にしていましたが、風間さんに出会ってからよりこだわるようになりました。ボールをちゃんと操って狙った位置にトラップできると、その次のプレーに最速で移れるという考え方で。僕自身もすごくうまくなって、選手を育てる指導という意味では、本当に大きな影響を受けている方ですね。
中村憲剛 注目のJ1監督
中川キャスター:今シーズン30周年のJ リーグですが、J1チームを率いる18人の監督がこちらです。日本出身の監督が11人。外国出身の監督が7人。そのうち新監督は2人で浦和レッズのマチェイ・スコルジャ監督と、ガンバ大阪のダニエル・ポヤトス監督です。この中で憲剛さんが特に注目する監督がこちらです。まずは女子サッカーの指導に長年携わった異色の経歴の持ち主、サガン鳥栖の川井健太監督です。
サガン鳥栖川井監督 主体的に戦う きっかけは“あのスーパースター”
憲剛さん:僕と同世代の41歳。昨シーズン就任1年目、主力が大量移籍したにもかかわらず、とても魅力的なサッカーをされていたのですごく注目をしています。具体的には、主体的に戦う攻撃的なサッカー。本当に攻撃的なスタイルですね。しかも“可変式“といって、相手に合わせて変幻自在に戦い方を変えていきます。そこを1年目からしっかり落とし込めたので、どのような監督なのかとても興味があります。
中川キャスター:その憲剛さん注目の攻撃的なサッカーは、どのように生み出されているのか。川井監督が挙げたのは、あるスーパースターの名前でした。
川井健太監督「僕はメッシ選手がすごく大好きなので、いろんな発想がメッシを基準にいろいろ物事を考えることがあって、きっかけはあの人(メッシ)。」
——川井監督のサッカー観に大きな影響を与えたのは、去年ワールドカップでアルゼンチン優勝の立て役者となったメッシ選手です。たった一人で相手のディフェンスを崩しきってしまう圧倒的な個の力。
川井監督「みんながメッシではない。メッシの役をメッシは1人でできるが、あれを2人でやる、3人でやる、チームとしてあのようなプレーを表現していきたいなと。」
——1人で2人分、3人分の働きをこなしてしまうメッシがチーム内にいるような攻撃。それを実現するため川井監督がチームに求めたのが、数的優位な状況を生み出すサッカー。
憲剛さん:メッシ選手は唯一無二ですから、誰かができるということはなかなかないですが、その分複数の選手が連動して動いて数的優位を生み出すことで、メッシ選手の攻撃力をある種生み出してしまおうという、発想の逆転みたいなことですかね。上手く2対1の数的優位を生み出して、一番危険と言われているペナルティーエリアの中に、どれだけフリーの状態で入り込んで得点を奪うことができるか。面白い発想だと思います。
川井監督「数的優位を保つというのは、1つ僕の中では大切にしているところですね。2対1を基本的に形成すれば前にいけると思っています。なのでその局面をずっと作り続けること。」
——数的優位を生み出す戦術はゴールキーパーの立ち位置にまで徹底されていて、センターバックの位置まで上がってきているシーンがありました。11人目のフィールドプレーヤーとしてビルドアップに参加するのです。
憲剛さん:こうすることで、ピッチ上は11対10になって数的優位な状況が生まれる可能性が非常に高い。これもチームにメッシを生み出すための戦術の1つであるとは思います。
——こうした高度な戦術を身につけるためのピッチ上での全体練習は、なんとたったの45分。
憲剛さん:正直聞いたことないぐらい短いですよね。よほど狙いを明確に絞り込み、頭をフル回転させて練習している。凄く凝縮された練習だと思います。なので、ミーティングでどうフィードバックするかが大事なってくるはずです。
岩崎悠人選手「監督の1つ1つの言葉に何か心動かされるものがある。ミーティングもすごく上手ですし、面白くないミーティングがない。」
パク・イルギュ選手「言葉のチョイスですよね。そこがすごくスッと入ってくるような伝え方をしてくれます。」
川井監督「できないことをどう理解してやってもらうかというところで、凄く言葉遣いは意識しましたね。全部パーフェクトにやってくれたら絶対優勝できますよね。その理想の仕組み、構造の部分は必ず持っていますし、僕は勝てると思っている。」
2人目の注目監督 鹿島アントラーズ 岩政大樹監督
豊原キャスター:監督にこう言われたら、もうやるしかないですよね。そして、憲剛さんが注目するもう1人の監督は、鹿島アントラーズで2年目のシーズンを迎える岩政大樹監督です。こちらも同世代ということですが、注目されている理由はどんなところですか。
憲剛さん:岩政監督が現役時代の鹿島アントラーズは、3連覇を成し遂げているので、本当に強かったんですね。でもここ6シーズンはリーグ優勝から遠ざかっている状態です。30周年の節目の年、常勝軍団復活の使命を背負う中で、岩政監督のアプローチが、かつての栄光の時代を取り戻そうという発想なのか、それとも新しいアントラーズ像を作り上げようとしているのか、そこに注目しています。
岩政大樹監督「僕は昔の鹿島を知っていますし、勝っている鹿島を知っているので、昔のやり方をやろうよという事は簡単ですけど、もう時代が変わってしまったから。チャレンジャーとして挑むことをまず選手たちに植えつけること、その先に常勝になることができるという順番にならないと、いつまでも勝てないと思いました。」
——新たなアントラーズを作り出すという岩政監督。それでも受け継ぎたいチームのスピリットがあるといいます。
岩政監督「キーワードは強度 熱量 個性というのは変わらないですね。カシマスタジアムはどこのクラブが来ても嫌がっていたスタジアム。強かったという言葉で言えば簡単ですが、その強さは何かというと、例えば強度だったり熱量だったり、そこに渦を巻くようなスタジアムの空気感、そういうサッカーをしなければいけない。システムとか戦術とかはどうでもいい。それはその3つを表現するためのものであって、それがどういうものかというのを今チームで1個1個作りあげている。」
——今シーズンのJ1では最年少となる岩政監督。選手たちを指導する上で最も大事にしていることとは?
岩政監督「僕が大事にしているのは、言葉にすると気持ち悪いですけど“愛”ですね。世の中というか生き物でいる限り、すべては愛だなと思うようになって。すべての選手、うまい、下手にかかわらずうまくさせてあげたいし成功させてあげたい。愛だけは結構自信がある。」
——中村憲剛さんへメッセージ
岩政監督「憲剛君ご無沙汰しております。いずれ恐らく近い将来に(監督として)戦うことになるでしょうけど、(監督に)なる前でもなってからでも、これまでと変わらずサッカー談議ができるような間柄でいたいなと思いますし、憲剛君も早くこっちの世界においでということで待っております。」
豊原キャスター:岩政監督からのメッセージいかがですか。
憲剛さん:愛をもらいましたね。本当に新しい鹿島を作ることを期待していますね。楽しみにしています。
豊原キャスター:憲剛さん、2人の監督に改めて期待することを最後に教えて頂けますか。
憲剛さん:僕と同年代でもあるので、Jリーグに新しい風を吹かしてもらって、いろんな意味で僕たちを驚かせてほしいなと思います。