FIFA ワールドカップ 2022、いよいよ4強が出そろったということで準決勝の行方を中澤佑二さんとともに徹底展望していきます。(2022年12月11日放送)
中川キャスター:準々決勝を終えてベスト4に名乗りを上げたのが、クロアチア、アルゼンチン、モロッコ、フランスの4チームです。
”不屈の魂” クロアチア
豊原キャスター:まずは、左の山を見ていきましょう。PK戦の末、日本そしてブラジルに勝利したクロアチアです。そのサッカーをひと言で表すなら、“不屈の魂”。
モドリッチ選手 クロアチアはとても小さい国です。誰も私たちの勝利を信じていませんでした。1次リーグ突破は不可能だと思われ私たちは負けると思われていました。
37歳のモドリッチ選手が語るように、準々決勝おおかたの予想はブラジルの勝利でした。序盤ブラジルのエース、ネイマール選手がゴールに迫ります。クロアチアは最後の最後のところで体をなげうって阻止します。クロアチアのキーパー、リバコビッチ選手もスーパーセーブでチームを守ります。それでも延長前半終了間際、ネイマール選手によってブラジルに先制点が入ります。必死に耐え忍んできた守備が相手のスーパープレーによってついに決壊します。
中澤さん:これは耐え忍んできた分だけ、普通はダメージ大きいですけど、ここで諦めなかったのがクロアチアの強さだと思います。きついです、本当は。
試合は残り15分。やはり勝つのはブラジルなのか。それでも選手たちは覚悟を持ち続けていました。
モドリッチ選手 今まで何度も私たちは強い信念をもち質の高いチームでもあることを証明してきました。私たちは今回も諦めませんでした。最後まで信じていました。
クロアチアのこの強い信念はどのように培われてきたのでしょうか。1990年代前半、旧ユーゴスラビアからの独立を求め激しい戦闘が繰り広げられたクロアチア。この時期、多感な少年時代を過ごしたのがモドリッチ選手。祖国を代表して戦うことには、特別な意味があると言います。
モドリッチ選手 (代表でプレーすることは)誇りです。常に熱意をもって試合に臨んでいます。代表のユニフォームを着ることはこの上ない名誉です。
1点を追うクロアチア。試合終了間際でした。すでに115分間走り続けていたモドリッチ選手が前方へ必死にパス。その瞬間クロアチアの選手が一斉に駆け上がります。
「実況:中2人、3人目も入って来た。後ろを使った。シュートだ。クロアチア追いつきました!」
中澤さん:ここはモドリッチ選手が相手のマークをかわして、前を向いた瞬間にスイッチがONになるんですね。まるで翼を広げるかの様に、クロアチアの選手たちが後ろから駆けあがってくるわけですよ。シュートを打った選手の後ろからも、もう1人選手が走り込んできますから、ここで決めるんだという、強い気持ちと気迫というのが全員から伝わってきましたよね。
決着はPK戦へ。世界が驚いた結末。サッカー王国の牙城を崩したのはクロアチアの選手たちの不屈の魂でした。
モドリッチ選手 選手はそれぞれ自分の国のために戦っています。準決勝に進めてとてもうれしいです。
クロアチアの不屈の魂を象徴して縦横無尽に走り回るモドリッチ選手。ただ称賛が集まっているのはプレーだけではありません。試合後PKを外したブラジルのロドリゴ選手を抱擁するモドリッチ選手です。所属するレアルマドリードで息子のように可愛がるチームメートに声をかけていました。
豊原キャスター:谷さん、不屈の魂は、人の弱さ、痛みが分かる魂ということでもあるのでしょうか?
谷真美さん:そうですよね、生き様ですよね。つらい過去も乗り越えてきたその優しさというのか、アスリート全てのお手本だなと感じました。
”メッシのために” アルゼンチン
中川キャスター:このクロアチアと準決勝で戦うのがアルゼンチンです。このチームをひと言で表す言葉は、“メッシのために”。
メッシ選手 僕たちはみんなの声援を受けて勝ち進んでいくことを楽しんでいるんだ。すごく幸せだよ。
世界最高のサッカー選手と称され、あらゆるタイトルを獲得しながらも、ワールドカップでは敗れ続けてきたメッシ選手。ときに非難を一身に浴びることもありました。今大会が最後のワールドカップと臨むメッシ選手。35歳になった今も左足の精度と決定力は健在です。ただ、メッシ選手が過去に出場してきた4大会とひと味違うのが、メッシ選手のために走る献身的なチームメートの存在です。
中川キャスター:中澤さん、世代的にメッシ選手の活躍を見て育った選手たちが周りを固めているんですよね。
中澤さん:子どもの頃から見ていた選手だと思いますから、本当にスーパースターと大舞台で戦える喜びを感じながらプレーしていると思いますね。
迎えた準々決勝のオランダ戦、中澤さん一押しの世界屈指のセンターバック、ファンダイク選手が率います。先制ゴールの場面、メッシ選手が前を向いてドリブルを始めると、アルゼンチンのチームメートたちが一気に動きだし、4つのパスコースを作ります。ここでメッシ選手が選んだのは、一番難しいパスコースでした。
中澤さん:これはですね、ファンダイク選手の視点からすると、前にディフェンスが1人いるのでそこのコースは切ったと思っているので、ちょっと油断しましたね。そこの股を抜いてパスを出す所がメッシのすごさですよね。なかなか通せないですね。
そのパスからモリナ選手がゴール。ファンダイク選手も背後を取られ、カバーしきれませんでした。その後メッシ選手がペナルティーキックを決めて2点差にしたアルゼンチン。しかし終盤、オランダの猛反撃を止め切れず、立て続けにゴールを奪われて同点にされます。試合は延長でも決着がつかずPK戦へ。アルゼンチンのキーパーはエミリアーノ・マルティネス選手。最初の2本を連続で止めました。
メッシ選手のもと、チーム一丸となって戦うアルゼンチン。クロアチアとの準決勝に臨みます。
メッシ選手 非常に厳しい試合になる。クロアチアはブラジルに競り勝ったし、いい選手がそろっていて特に中盤の選手がすばらしい。ワールドカップの準決勝だし、とても厳しい試合になるだろう。
そのメッシ選手のために走る選手の中でも特に躍動しているのが、中盤のデパウル選手。定位置はメッシ選手の隣。常に用心棒のように寄り添う、筋骨隆々の選手です。
中澤さん:かっこいいですね。
谷さん:これはいかついですね。
中川キャスター:ボディーガードのような感じがありますよね。そのデパウル選手が見せたプレーですが、猛烈なスプリントでプレスをかけると、そのままゴールキーパーまで休まずプレスをかけます。1人で追い込み、味方のゴールに繋げました。このデパウル選手、走行距離、スプリントの回数、プレスの回数、全てがチームナンバーワンのハードワーカーです。
中澤さん:チームのために走る選手がいるチームはやっぱり強いですし、強いチームには必ずこういった選手がいるんですよね。お手本ですよね。こういったプレーを日本の子どもたちは真似して欲しいですね。
中川キャスター:さらに別のプレーです。メッシ選手が前を向くと、猛然とスプリント。メッシ選手を追い越し、ゴール前まで駆け上がっていきます。
中澤さん:信頼しきっていますね。
中川キャスター:こうした走りを試合中に何度も行なうのが超人デパウル選手です。
中澤さん:もうメッシ選手からのパスが欲しいんですね。
中川キャスター:試合後、真っ先に駆け寄るのはもちろんメッシ選手の元でした。
谷さん:嬉しそう。もうメッシ選手とプレーできる喜びにあふれていますよね。
豊原キャスター:日本風にいうと、「メッシさんを手ぶらで帰すな」ですね。そのメッシ選手を中心にまとまるアルゼンチンと不屈の魂のクロアチア。両チームの対戦の注目はメッシ選手とモドリッチ選手の10番対決ということになりますか?
中澤さん:そうですね。ここで2人を比較するデータがあります。これはどこでプレーしたかを示す図ですが、左側がメッシ選手、右側がモドリッチ選手。
谷さん:こちらはどう読み解けばいいのでしょう?
中澤さん:ポジションが違うので、一概に比較はできないんですが、モドリッチ選手はピッチ全体を攻守にわたって走り回っていて、37歳でこの運動量は本当に驚異的だと思いますし、縦横無尽に走り回っていますが、特に右サイドを中心に起点としていることが分かります。逆にメッシ選手は、プレーエリアは狭いのですが、モドリッチ選手よりも相手ゴールの前の危険なエリアでプレーしている事が分かるので、より左足を活かせる所にいるのかなと思いますね。
豊原キャスター:クロアチアの視点に立つと、中央でいかにメッシにその危険な所、左足が活きるような所で持たれないか、それが重要になってくるということですね。
中澤さん:そうですね、基本的にはゴール前で持たせないこともそうですし、どこに行っても絶対にマークを付かせなきゃいけないって事で、中盤の選手、ディフェンス含めて、しっかりとメッシ選手のポジションに関しては注意を払わなきゃいけないのかなと思いますね。
中川キャスター:一方でアルゼンチンは、モドリッチ選手にどう対処していけばいいですか?
中澤さん:モドリッチ選手は、(メッシ選手とは)逆に自分たちのディフェンスラインに下がってチームを助けることもしますので、アルゼンチンはフォワードの選手たちもモドリッチ選手の動きに注意しないといけないかなと思いますね。
中川キャスター:中澤さん、ズバリ勝つのは?
中澤さん:これはね、両方とも勝つ要素ありますから、勝ったチームが強いんです。
中川キャスター:そうですか(笑)。分かりました。
“アフリカの夢” モロッコ
豊原キャスター:うまくまとまった所で、続いて右の山です。まずはモロッコ。このチームが追いかけるのは、“アフリカの夢”。
モロッコは6回目のワールドカップ。過去の最高成績はベスト16でした。これまでアフリカ勢の最高はカメルーンとセネガルとガーナ。いずれもベスト8の壁に跳ね返されてきました。アフリカの夢を背負い、今大会モロッコは快進撃。決勝トーナメント1回戦ではスペインにPK戦の末勝利しました。躍進の原動力はここまでオウンゴールのみの1失点という堅い守りです。その象徴が中盤の底、アンカーの位置に構えるアムラバト選手。インテンシティーの高い激しいタイトな守備が持ち味です。チームのタックル数は4強の中で最多の119回。アフリカ勢初のベスト4進出を懸けた準々決勝の相手はポルトガル。ここまで最多12得点を誇る攻撃陣。ベンチにはクリスチアーノ・ロナウド選手が控えます。タレントぞろいの相手にモロッコは序盤から体を張った守備。ポルトガルにチャンスを作られますが、ゴールは破らせません。
中澤さん:非常に集中して守っていますし、キーパーのボノ選手の調子がいいですよね。なのでそれは勇気を与えていますね、ディフェンスラインに。
モロッコは前半終了間際、チャンスを作り出します。クロスボールにエンネシリ選手が合わせて先制ゴール。
豊原キャスター:どうですか、このヘディング?
谷さん:こんなの初めて見ました。すごいですよね。
中澤さん:これは、ちょっと次元が違います、すごいです。
後半投入されたクリスチアーノ・ロナウド選手がゴール前に迫りますが、仕事をさせません。ポルトガルの攻勢がさらに強まった試合終盤。モロッコの激しい守備の象徴アムラバト選手がボールを奪って前へ。
中澤さん:苦しい時間帯、押し込まれている時にこういったプレーはチームに勇気を与えますね。一呼吸できるのでありがたいです。いい選手。
そのまま試合終了。モロッコ、アフリカ勢として初めてのベスト4です。アフリカの夢はまだ続きます。
豊原キャスター:モロッコ国内は歓喜に包まれました。
中澤さん:そうなりますよね。すごいな。
アムラバト選手 スタジアムにいる人だけではなく、本当にたくさんの人が後押ししてくれる。とても感謝している。彼らのために戦っている。
中川キャスター:皆さんのパワーが届いている感じですね、選手たちにも。
“黄金の三銃士” フランス
中川キャスター:そのモロッコに挑むのが連覇を狙うフランスです。モロッコの鉄壁のディフェンスをどうこじあけるのか、鍵を握るのが“黄金の三銃士”。
決定力がすごみを増したエムバペ選手。今大会の主役へと躍り出ています。脇を固めるのが、空中の支配者ジルー選手。その2人を正確無比の左足で生かすのがゲームメーカーのグリーズマン選手。三銃士がかみ合い、盤石の強さで勝ち進んできました。ベスト4進出をかけた相手は、前回大会得点王ケイン選手擁するイングランド。序盤のフランス、グリーズマン選手中心のパス回しでチャンスをうかがいます。先制点はそのグリーズマン選手からパスを受けたチュアメニ選手が振りぬきます。今大会レギュラーに抜てきされた22歳のミッドフィルダーがこのゴールです。
中澤さん:恐らくシュートを打つ前、パスをもらう前からアイディアがありましたよね。ワンタッチでシュート打つんだという。だから三銃士以外にもこんな若手がいるのでね。フランスの層の厚さを感じますよね。頑張っていましたよ、この試合も。
後半左サイドに張るエムバペ選手は、突破を狙いますが、3人で囲むイングランドに警戒され持ち味が出せません。相手のドリブルにも手を焼くフランスは、ペナルティーエリア内でファール。PKをケイン選手に決められ同点に追いつかれます。ここで奮起したのはエムバペ選手。中盤でボールを受けるとサイドに流れてスピード勝負。
中澤さん:すごいですよ、本当に。緩急の使い方がすごかったですし、止まって走って、止まって走って、最後トップスピードに乗って、ラストパスまで中を見て出すんですよ。すごいですよ、これは。
攻めるフランスは、グリーズマン選手から正確なクロスがはいり、決めたのはジルー選手でした。
中澤さん:フランスは困ったら真ん中にジルー選手がいるってことで、3人のうち誰かしら点が取れるっていう強さがありますよね。ジルー選手はいいですよ。36歳なんですけどね。
中川キャスター:個性豊かな黄金の三銃士が補完し合うフランス。史上3チーム目となる連覇へあと2勝です。
ジルー選手 (準決勝に進めたことは)ものすごく誇りだ。グリーズマンから最高のセンタリングを待っていたから(得点は)彼のおかげだ。才能豊かな選手がそろっているモロッコとのビッグマッチに臨みたい。
中川キャスター:3本の鉾を持つフランスと、鉄壁の盾を誇るモロッコという構図になりましたが、データで見るとフランスの優位性が見えてきます。ペナルティーエリアへの進入回数はフランスが4チーム中トップの81回。そしてモロッコは半分以下の34回と攻撃に関しては圧倒的にフランスが有利となりそうです。逆にペナルティーエリアに侵入された回数を見ますとフランスが37回、そしてモロッコが46回とここもモロッコのほうが多く侵入されています。
中澤さん:侵入をある程度されるのは、守備を重視しているのでしょうがないとは思うんですけど、モロッコはその後の対応がすばらしいですね。しっかりとシュートコースにブロックしていますし、体を投げ出してマークしていますから。そういったところがちゃんと出来ているのがモロッコの強さかなと思いますし、失点がここまでオウンゴール1点というのは、本当にすごい事だと思います。ただこの守備を三銃士やデンベレ選手など、タレントがいっぱいいるフランスがどうこじあけていくのか、というところが注目ポイントですよね。
豊原キャスター:鍵になりそうなのは、どういうポイントになりますか?
中澤さん:フランスは困ったらジルー選手がいるので。ジルー選手にセンタリングを上げれば、多分中で何か起きると。結構シンプルにフランスは戦ってくるので。
中川キャスター:中澤さん的には?
中澤さん:僕的には勢いのモロッコか、武器を持っているフランスか、ということでやっぱり勝ったチームが上がってくるんじゃないかと思いますね。
中川キャスター:あとでこっそり教えていただければと思います(笑)。NHKでは15日の朝3時45分からフランス対モロッコの準決勝を生中継でお伝えします。