藤川球児の『球自論』 ファンを思い 選手を思う SNS担当 加藤和子さん

NHK
2022年10月29日 午後3:52 公開

 長きにわたってプロ野球を支えるレジェンド女子。東がロッテの谷保恵美さん(藤川球児さんが名物アナウンサーの長~~~いキャリアに迫りました -サンデースポーツ -NHK)なら、西はこの人かもしれません。ソフトバンクのオフィシャルリポーター 加藤和子さん。球団がオフィシャルメディアを立ち上げた2006年に入団し、16年間、選手たちの情報を発信してきました。加藤さんが撮影する写真には、試合中とはまったく違う、自然体な選手たちの姿が捉えられています。いまやパ・リーグNo.1のフォロワー数を抱える人気コンテンツになったソフトバンクのSNSの“中の人” 加藤さんに、ひとつひとつの投稿にかける思いを聞きました。 (サンデースポーツ野球班)    

選手たちの士気が最も高まる試合前の円陣。その輪の中でカメラを構える女性が、加藤和子さんです。毎試合欠かさず投稿しているこの円陣の動画は、加藤さんが始めたソフトバンクの人気コンテンツです。

藤川さん:ホークスはほんとにSNSで見た時の選手たちの表情がめちゃくちゃいいんですよ。自然なんですよ、みんな。映像に収められている姿を見ると、ここのチームはどこまでいっても一体感があるんだなっていうのをすごく感じて。その瞬間を狙ったりしてるんですか。

加藤さん:そこを逃さないように努力してます。狙うというか、どこで何が起こるか分からないから。もちろん逃すときもあるんですけど、できるだけ逃さないように選手の表情だったり、やり取りだったりっていうのは常に狙ってます。

藤川さん:1回の練習、ゲーム前の練習で何回ぐらいシャッターを押しますか。

加藤さん:多い時で600枚ぐらいは撮ってるんですけど。でも、その中で使えるのって大体 3,40枚、2,30枚ぐらいなので、もう泣く泣く捨てる部分はもちろんあります。

藤川さん:だよね。やっぱり当日のホットな写真じゃないとなかなかリアルじゃないですよね。表情がそれだけ違いますよね、前日の表情と当日の表情では。

加藤さん:変わりますね。一日一日やっぱり変わっていくので。雰囲気も違うし、髪型から変わる選手もいますしね。

藤川さん:ソフトバンクの選手は、西武もそうだけど、かなり奇抜なヘアスタイルの選手もいたりするもんね。

加藤さんはチームが練習をするときには必ずグラウンドに降り、選手の姿を写真に収めています。ときには外野の守備練習に励む選手の様子をすぐ近くから撮影することも。

藤川さん:やっぱり実際グラウンドに出られて、打球も飛んでくるじゃないですか。ピッチャーが走ったりもする。練習中はどれぐらい視野を広げて撮影をしている?

加藤さん:とにかくボールには当たりたくないので。当たらないようにっていうのは大前提なんですけど。そこで自分の全視野を使って、ぼんやり球の行方だったり選手の動きを見て。今あそこであれをやってるからボールに気を付けようとか、今あの選手があれをやってるから、あれが終わる前に行こうとかっていうのは、常に見てると思います。

藤川さん:そうか。ボールとか練習をかわしながら、邪魔にならないように。選手の空いてる一瞬の隙で撮影もする?

加藤さん:そうですね。

藤川さん:これはすごい。

加藤さん:いやいや。でも、多分長年の肌感覚というか、その辺はあると思うので。 長く現場で受け入れてきてくれたチームにはすごく感謝してます。

もともと地元・福岡のテレビ局で、リポーターとしてソフトバンクを取材していた加藤さん。16年前、チームがインターネットを使った情報発信を行う部署を立ち上げたとき、声がかかりました。入団した当初は、戸惑いしかなかったと言います。

藤川さん:最初はブログからですか。

加藤さん:ホームページですね。ホームページの中で選手のインタビューを。あとからコラムも始まりました。とにかくチーム情報を公式サイトで充実させていくなかで、どんなコンテンツをやっていこうかって考えながら。その当時は、ほんとにちっちゃな機材からいろんなものを揃えて。

藤川さん:今で言うと、例えば多方面に出るYouTubeであったりっていうのが、まだはっきりする前ですもんね。

加藤さん:はい。

藤川さん:それをトライして。トライアンドエラーの繰り返しで今のコンテンツが出来上がってるってことですか。

加藤:そうですね。あの時は本当に手作り感満載で、ああでもない、こうでもないって仲間内で言い合いながら。

藤川さん:そうですよね。始めたときの選手たちの反応っていうのはどうでしたか。
選手もプライドがあるし、特に九州のチームですから、無骨な集団のイメージがありましたから。

加藤さん:その当時、やっぱり内側にメディアが入ることへの抵抗はすごくあったと思うので。そこを何とか慣れてもらうためにはどうしたらいいのかっていうのはすごく悩みました。

藤川さん:それは悩むでしょうね。それこそ小久保さんや松中さんなど、九州でも伝説のような選手たちばかりで。やっぱり大変でしたか。

加藤さん:そうですね。“何であの子がいるの?”って声もちょっとちらっと聞こえて、ああどうしようってなったりとか。そういうところではほんとに空気のような存在になっていかなければいけないんだな、ここではって、すごく思いました。 

男だらけのチームの内側に、女性が入ってカメラを回すことの難しさ。悩む加藤さんの背中を押してくれたのも、一心に野球に打ち込み、厳しい戦いに挑む選手たちの姿でした。

加藤さん:やっぱりああいう頑張ってる姿とか、悩んでる姿とか、嬉しそうな姿って、こっちもそういう気持ちになってしまうというか。だからこそ、この姿を届けたいっていうのもあるので。それでファンの人に一体感を持ってもらいたいっていうところにいきつくと思うので。(ファンの方に)“これで選手の様子が分かります。ありがとうございます”とか。“これでホークスのことが好きになりました”とか言ってもらえたのが、“やってきたことは間違ってなかったんだ”って思って、頑張ろうって思いました。

加藤さんの思いがとくに表れた投稿がありました。10月2日に行われたリーグ最終戦。勝てばリーグ優勝を決められるはずだったこの試合で、ソフトバンクは先制していたものの、中継ぎ投手が打ち込まれて、逆転負け。優勝を逃し、打ち込まれた中継ぎ投手には心ない声が浴びせられました。選手のほとんどが個人アカウントでの投稿を控える中、加藤さんは翌日から、普段通りの投稿を続けました。

藤川さん:負けた中でもSNSをアップしなければいけないっていうのは辛いと思うんですけど。

加藤さん:そうですね。負けたときって、もちろんセーブする部分はあるんですけど。でもファンの方にはチームがシュンとしてる姿よりも次に向かっていくんですよっていう姿を私は届けたいので。もちろんこの間のリーグ戦では悔しい思いがあったんですけど。ただ、応援してくださったファンの方にはそこでシュンとしちゃうと失礼なので、とにかく感謝を伝える思いであげるようにはしてます。特にピッチャーだったりすると、打たれることが続いたりするとなかなか笑顔は届けづらいなって思うんですけど。でも、その中で話をして、元気そうだなとか、大丈夫そうだなって思う部分もありますし、ちょっと今日は悩んでるなっていう部分もあるので、そこで(投稿するかどうか)判断はしてます。

藤川さん:これなんですよ。今のなんですよ(拍手)。これがやってる中で一番重要な仕事だと思うんですよ。本当の頑張り。非難ももちろんある、批判もある中で、個人でやると、なぜ今?って言われるところを、“違うんだ、これだけしんどいところがあって、でもまた次に向かおうとしてる”というのを伝えられる。自分では言えないことができるというのが、やっぱりアスリートとして一番助かる存在ですよね。

加藤さん:どんなことでファンの方が喜んでくれるかとか、どんな姿を選手は見てほしいかとか、その辺って多分永遠のテーマだと思うので。そこは自分が一番頑張れるところです。