**ロッテの本拠地・マリンスタジアムに響き渡る独特の場内アナウンス。
みなさん聞き覚えがありませんか?
谷保 恵美さんの「4番、指名打者、サブローーーー」
場内アナウンサーの谷保恵美(たにほ・えみ)さんは、その美声でビジターのファンをも魅了しています。**
谷保 恵美さんの仕事、そしてロッテへの思いに野球解説者の藤川球児さんが迫りました。 「アスリート×アナウンス」 。共感ポイントが多かったそうで、熱い語り合いになりました!
藤川:先日佐々木朗希投手が完全試合を達成した試合もアナウンスされていました。どんな心境でしたか。
谷保:試合展開が早かったのと時速160キロがたくさん出てたので、最初はそちらに注目していて、「ああ、何キロ出るんだろう」っていうことから始まってたんですけど、だんだん三振が増えてきて。だいたい6回ぐらいですよね。みなさんも気がつきだして、何か球場内がざわざわってしてくる感じをみんな感じ取って、でも誰も言わないでおこうね、みたいな感じでしたね。放送室内でも。
藤川:アナウンス歴32年。その中で特に記憶に残る選手はいますか?
谷保:サブロー選手は新人時代に、「僕の名前はちょっと特別な感じで読んでね」って冗談で言ったかもしれないですけど、私はすごいそれが記憶に残っています。
藤川:僕が阪神タイガースの抑えとして試合に出ていたときは、僕の場合は入場テーマソングがすごく有名でそれを鳴らすスイッチャーの方が、僕のタイミングに合わせてくれていました。谷保さんもアナウンスのタイミングは、たとえば代打のコール時などは意識されていますか。
谷保:そうですね。特に、代打の選手が見えてきて、お客さんも見えててわかってるんだけどっていう。でも、皆さんちょっと黙っていてくれて、コールしたら、「うわー」っていうその球場の雰囲気というのはすばらしいですよね。
藤川:そのタイミングはどうやって合わせているんですか?
谷保:ちょっと窓を開けて、球場の雰囲気を聞きながらアナウンスするようにしているんです。
藤川:すごいなそういう感覚は。実際にゲームの展開を変えてしまうような一瞬だとも思うんですけれど、「なんとかこのアナウンスで打たせてやろう」と考えるようなことはあるんですか。
谷保:アナウンスとみなさんの声援と一体になって(選手の背中を)押せるような感じになればいいなとは思いますね。
藤川:谷保さんのアナウンス人生の原点を教えてください。
谷保:小さい頃から高校野球、甲子園球場のアナウンスに憧れて。テレビ越しにまねをしていました。
藤川:甲子園は少し音程が違うんですよね。
谷保:そうなんです。そのまねをしてアナウンスをやってみたいなと思ったのがきっかけです。
藤川:つらいときや転機もあったと思うんですが。
谷保:やはりこの仕事がやりたくて仕事に就いたっていうところが一番で。そのことを思い出すと、もうちょっと頑張ろうっていう。アナウンスの仕事をしようと北海道から固い決意で上京してきたので、簡単にはやめられないという気持ちもありました。
藤川:体調不良などで休まれたことはないんでしょうか。
谷保:今のところ担当させてもらっている試合では一度も休んでいないですよね。
藤川:ええっ!声や喉が不調だったりすることは?
谷保:やはりあるんですけど、なんとか乗り切って。最近はかぜもひかなくなってきて・・・乗り越えてきました。
藤川:喉の調子が悪いときは発声のしかたが違うんですか。
谷保:そうですね。なんとか出るようにはもっていく感じですね。
藤川:谷保さんが実践している発声は、私も現役中にマウンドで聞いたことがあるんですが、語尾を伸ばすような感じがとても独特ですよね。
谷保:新人の頃はこういう感じではなかったと思うんですけど、このマリンスタジアムとともにアナウンスもちょっと変化してきたというか、自分が左右されているような感じはありますね。
風が強い球場なので、名前が特に聞こえやすいようにというのは気をつけています。発音をはっきりして風に飛ばされないようにしようと気をつけているのと、あとはみなさんが大事にしている選手の登場曲にも意外と引っ張られまして、曲の雰囲気に引っ張られてなんかちょっと伸びている。特にサブローさんの『栄光の架け橋』なんかは特に引っ張られた感じもありますし、今の選手の皆さんの曲にもそれぞれなんとなくつられる感じはあるんですね。
藤川:テーマソングにも合わせて声を変えなければいけないとなると、全くリズムが違う歌が流れますから大変ですね。新人選手の名前を初めて呼ぶときはどんな気持ちですか?
谷保:新鮮ですね。すごく新鮮で何回も名前を呼んでみたりしますね。呼びやすいところとか、なるべく私の気合いが入るような感じで呼びたいなと思っていろいろ呼びます。
藤川:コロナ禍で無観客試合になった時のアナウンスはいかがでしたか。
谷保:初めて体験することで、お客様がいらっしゃらない中でアナウンスの音声だけが球場に響くってこんなにさみしいんだなっていうことを感じました。
藤川:僕はそのシーズンかぎりで現役を引退したんですけれども、無観客で、それこそアナウンスの音、打球音っていうのがものすごくさみしく感じました。そこで力がもらえてないような気がして、ああ、もう自分は引くときかなっていう。自分の力で進めていないような気がしてやめたんです。
谷保:本当にさみしかったですし、今までお客さんに助けられてたなと思いました。
藤川:無観客から有観客に徐々に変わってきましたよね。
谷保:選手も球団スタッフもみんな感動して、球場外周にお客さんがいらっしゃるというのでもうすごく鳥肌が立って、「ああ、お客様が来たね」って言ったのを思い出しますね。
藤川:ゲーム後は気持ちのクールダウンはちゃんとできてるんですか。
谷保:そうですね。もうちょっと若い頃はそれでもまたビデオを見返すとかよくしていたんですけども、最近は切り替えないと次の日行けないので、音楽を聴いたり、インターネットで動画を見たりして寝ています。
藤川:いま、バスケットボールやバレーボールなど多くの競技でアナウンスの力がスタンドの入場観客数にも関係してきていますね。その中で、谷保さんにとってアナウンスの役割とは?
谷保:いらっしゃっている皆さんに聞こえやすくというのが一番。あとはなるべく元気に、常に元気にアナウンスしようと思ってます!
このインタビュー取材は、「球自論」として2022年6月12日のサンデースポーツで放送しました。