中村憲剛”博士”が「日本サッカー強化論」を研究する“Kengoʼs Lab”
1回目の研究テーマは、「W杯をいかに戦うか」!
森保 一監督との1時間に及ぶ対談で見えてきた日本代表が目指すべき“スタイル”とは⁉️
▼ワールドカップ 対戦相手が決まった瞬間は
中村:ワールドカップ本大会の対戦相手がドイツ、スペインに決まった瞬間の心境は。
森保:あの、最高のグループに入ったなと思いました。
中村:「うわ、やべえ」とかではなかったですか。
森保:強いチームがいるなあとは、もちろん思いましたけど。ワールドカップに出てくるチームはどのチームも、間違いなく強いチームですし。対戦する相手が強い方がやりがいがあるだろうなというふうに思いました。ベスト8以上にいくという目標であったり、日本サッカーの2050年までにワールドカップで優勝するという目標を考えると、ワールドカップで優勝経験のあるドイツやスペインと対戦できることが日本にとっては貴重だろうと。
▼ワールドカップで対戦 ドイツについて
中村:ドイツはフリック監督になって、スペインはルイス・エンリケが監督になってどちらも力をつけてきたという印象で、若い選手を積極的に起用しながらやってきてると思います。ドイツはバイエルンの選手たちやプレミアリーグで活躍している選手たちを中心に、非常若くて才能があってスピードがある選手たちが多いですし。森保監督のドイツに対する印象をお聞かせください。
森保:ドイツに対する印象は選手がフィジカル的にも技術的にも能力が高く、メンタル的にも最後まで粘り強く戦える、非常にいい選手がハードワークし続けられる。組織として機能できる能力を持った素晴らしいチームだなというふうに思っています。一見派手さはないですけど、非常に強いチームだというふうに思っています。
中村:世代交代もうまくしながら、ノイアーやミュラーなどのベテラン選手もたぶん入ってくると思うんですけども。新旧の選手がそろっていて、システムもいろいろやってくる。どこがストロングポイントだと思ってますか。
森保:攻撃も守備も強力だなと思う。全体的にいうと、局面での強さを発揮して守備から攻撃にうつってくるという強さを持ってるチームだと思います。これから先、こういう強いチームにどうやって勝っていくか、最低でも勝ち点を拾っていくためにどうやって戦っていくのが日本にとってベストなんだろうっていうことを考えることがすごくワクワクしますね。
中村:なるほど。そうか。それはそうですよね。分析はまだそこまで重ねてはいない?
森保:もちろんミュラー、ノイアー、ニャブリ、サネ。トップの方であればチェルシーにいるベルナーとかハベルツなどの名前は出てきますけど、チームとしてどういう機能性を持ってやっているかというのは、まずはヨーロッパ予選をしっかりともう一回見ていきたいなと思います。
▼ワールドカップで対戦 スペインについて
中村:スペインは、ドイツほどいろんなことをしてくることはなくて、基本的には4-3-3というシステムで、自分たちがボールを保持した上で攻め勝つというイメージがすごく強いんです。昨年、東京オリンピックでは準決勝で戦っていますし、ドイツよりも見えているところが多いのかなと思うんですけど、いかがでしょうか。
森保:東京オリンピックで対戦したチームは、ほぼA代表のチームと言っても過言ではないようなチームでした。スペインのやろうとしてるサッカーについては、東京オリンピックでプレーしていた選手たちも、おそらく大半がA代表として今度のワールドカップにも選出されると思いますので、そういった意味ではスペインがやるサッカーの大まかな予想はできるかなと思っています。
中村:東京五輪で戦ったときの試合について、森保監督ご自身は、思ったよりできたのか、それともちょっとまだ遠いのかなと感じたのか。
森保:両方とも、実はあって。スペインに勝てると考えることもできますし、まだまだ足りないところもあるなっていう部分もあります。まず、勝てるということに関しては試合全体を通してスペインが嫌がる守備ができた。攻撃の部分では、前半は受け身になりましたけど、後半以降チャンスを作ることができました。そういう部分では、十分勝つチャンスを作れるのではないのかなと思っています。足りない部分としては、受け身になった部分、相手の攻撃力に対して受け身になって、そこから疲弊させられてしまって、最後延長でやられてしまったというところはあるので、もっと自分たちが疲弊しないような、相手にプレッシャーをかける守備ができるようにさらにやっていかなければいけないなと思いました。攻撃の部分では、もっとチャンスを作れるように持っていかなければ、なかなか勝つ確率を上げられないかなというふうに思ってます。守備から攻撃になったときに、相手のプレッシャーもほんとにはやいので、まずはそこの奪ったボールをどうやってプレスを回避して攻撃につなげていくかということをワールドカップでは、東京五輪のときよりも上げていかなければいけないと思います。日本がボールを握れれば、速攻も遅攻も含めてチャンスは作れると思いますので、次対戦するときは、東京オリンピックのときよりもチャンスの数を増やして勝つ確率を上げることをやっていかなければいけない。そこは、前回の対戦では足りなかったところかなというふうに思っています。
中村:スペインのテクニックが事前の想像を上回るところはどれぐらいあったんでしょうか。
森保:2つあげるとすれば、まずは、ベースラインのビルドアップ能力は想像以上でした。いろいろ止め方を考えていましたけど、数的不利な状態では、なかなか止めれないと。パスもできれば持ち運ぶこともできますし、非常に厄介だなと。守備に関してはもっと整理していかなければいけない。彼らの全体の攻撃に関しては、立ち位置もだいたい決まってますし、ポジショニングも予想できるようなところはあるんですけど。でも、彼らにはたくさんのプレーモデル、局面を打開するための選択肢があって、我々がやろうとすることの逆手をとってくることが前線の選手にはできますので。彼らを止める選択肢を我々がもっと広げていかなければいけない。なんとなくかたちを見て、「こうやってくるだろ、わかってるよ」という感じでいくと、また痛い思いをするかなと思います。逆に、攻撃に関しては、我々が奪ったボールをもっとうまく攻撃につなげられればということと、ボールを握りながら彼らのシステム的な部分であったり個の部分の弱点を突ければ、もっと攻撃のチャンスは作れるかなと思っています。
中村:試合中に森保監督もかなり頭を悩ませたのかなっていうふうに思ったんですけど。あの手この手で横並びにしたり、縦関係にしたりいろいろ守備のかたちを変えていたイメージがあったので。
森保:前線の選手は、より高い位置からボールを奪いにいきたいっていう思いはあるでも、なかなかそれをやるとむずかしい。なので、いったんかまえて、我慢しながらプレッシャーをかけていこうとしたが、なかなかうまくできなかった。我慢しながらと言いながらも、我慢しても、彼らはそこを突破してくる術を持っているんで、なかなかむずかしかったです。ただ、スペインも日本を崩せたかというと、彼らも結構ストレスを抱えながら、「なかなかうまくいかないな」っていう感じでプレーをしていたので、われわれも相手にとって嫌なことがやれたんだということは、もう一回整理した上で、ただ受けるだけじゃなくて、もっとプレッシャーをかけて、どうやったら守備から攻撃につなげられるのかということを次の段階ではやっていきたいです。
▼4-3-3のシステムは
中村:最終予選4戦目(オーストラリア戦)から4-3-3っていう形に人とシステムが入れ替わって、そこから連勝していった。いちサッカーファンとしての質問なんですけども、本大会に向けてこのスタイルをそのままぶつけるのか、はたまた現実的に、相手がドイツとスペインなので、勝ち点をなんとか取るために、これまでやってきた4-3-3をまた別の形に変えて戦うのかっていうのは、ものすごく気にしているところです。
森保:ベースとしては、これまで我々が戦いの中で使ってきた4-3-3であったり、4-2-3-1も試合中に使ってますし、その形をベースに考えたいというふうに思ってます。それと対戦相手を分析した時に、自分たちの良さを発揮できるという判断であれば、スリーバックなども考えていきたいなというふうに思ってます。スリーバックはこれまでの代表の活動で多くは試してないですが、何度かスリーバックも入れながら活動をしてきましたので、そこも選択肢にもって、ワールドカップに向けて準備していきたい。スペイン、ドイツも予選で試合をしてますし、彼らの試合を見て、我々の良さを活かしながら、彼らの良さをしっかりと消していくっていうことができるような形は考えていきたいなと思います。
▼「日本代表のスタイル」とは
中村:ワールドカップに連続出場している中で、日本代表のスタイルはどうしても4年に1回監督が変わるたびに変わってしまうと現役の時からすごい感じてました。その時その時の監督の良さに、日本人の良さを加えたものがその時のスタイルになるんですけど、それが結果的に次につながっていないっていうのをものすごく感じていて大丈夫かなと。森保さんは、前回ロシア大会では西野さんのもとでコーチとして帯同されていました。日本のスタイルに関しての考えをお聞かせください。
森保:そうですね、まずは日本代表としてのプレーモデルはもっと確立されてもいいかなというふうに思っています。相手の分析はしていかなければいけない、相手の良さを消していく、ついていくことをしていかなければいけないんですけど、相手ありきではなくて、我々がまず何をしたいのかっていうことは非常に大切だというふうに思っています。私自身が、日本のサッカーがこれだっていうことがすべて具現化できるわけではないですけど、今やってることが少しでも多くの人に、日本のサッカーの関係者に共感共鳴をしてもらって、「これが日本のサッカーだよな」っていうふうに思ってもらいながらプレーモデル作りにつなげていってもらえるとうれしいなと思っています。これは将来的に、私が監督やっても、憲剛さんが監督やっても、他の誰かが監督やっても、代表の戦い方のベースは変わらないと。だけども、その監督の性格や持ってる力量などで、プラスアルファの力をチームに与えられることになっていくといいなと思います。世界の優勝国、優勝経験国は、自国の独自のサッカーのプレーモデルを持ってると思います。去年の東京オリンピックでスペインと対戦した時も、すごくそれは感じましたね、彼らはスペインのサッカーのプレーモデルという大きな目標があって、その中で4年ごとに自分たちがやってることを見直してブラッシュアップをしていく。スペインが目指すサッカーのベースは変わらず、監督が持ってるモノを上乗せしていく。プレーモデルがある中で、選手もプレーするんですけど、選手の個性をそこに付け加えるということで、ベース自体は変わらないというサッカーをしているなと感じました。日本も4年に1回ゼロに戻してるとまではいかないと思いますけど、かなり監督によってまたイチからスタートっていうことはあり得ると思いますので、そういうところは戦い方のベースに加えて、監督・選手たちの持っている個性を活かすような形になるのがいいなと。そうなった時に世界に勝っていける、世界を追い越していける状況が生まれるかなと思います。
中村:自分もそうだったんですけど、アジアとワールドカップ本戦では日本の立ち位置が違うので、どうしてもアジアでやってることをそのまま通せない、それで戦いにくいというのがこれまでの歴史だったと思うんです。今大会最終予選での4-3-3で相手の出方を見極めたうえで攻守で圧倒していく戦い方に共感をしていました。日本代表のスタイルを築いていくという観点でいうと、これをワールドカップでもぶつけて欲しい。ドイツやスペインにもこれでいってほしいっていうのは個人的な思いとしてあって、そうすればいろんなものが物差しができるんじゃないかなと思っています。ただそこで「勝ち点3が難しいかもしれないけど、それでもぶつける」という考えは森保さんの中にもちろんないでしょうし、そこでいろいろ戦い方、例えばディフェンスラインの高さとか、プレスのスタートの高さとかを変えながらやることになると思うんです。この戦い方をぶつけることで、若い選手たちや育成年代を指導してる方たちにが「あ、ドイツとスペインにもここまで日本がこの戦い方でできた」ということになれば、ものすごく大きな指針になると思うんです。この場で個人的な願望を伝えるのはちょっと反則なのかもしれないんですけども。
森保:ほんとに熱い思いを聞かせてもらえてうれしいです。思いは同じです。
中村:お!ありがとうございます。
森保:実際ワールドカップの本大会の試合になった時にどういう形になっているかはチームの状態にもよるわけで、もしかしたら違うじゃないのか、って言われるかもしれないですけど、ロシアのワールドカップにスタッフとして帯同させていただいて、西野さんが「日本人、世界でやれるぞ!」というスタンスでチーム作りをされて、選手たちも、自分たちの持ってるもので勇敢に勇気をもって戦いを挑むことで、こんないい試合ができるんだ、こんないい結果を生むことができるんだということを示してくれたと思うので、そこは私もトライしたいなというふうに思っています。
ワールドカップに日本が出続けられている歴史の中で、ベスト16までいった大会が3大会。その時の監督の方々を考えてるコンセプトなどをもう一回見直して、ベスト16まで行く秘訣と、そこからさらに上にいけるようにということを考えてやっていきたい。ザッケローニさんのインテンシティであったり、ハリルさんのデュエルであったり、ダイレクトプレーであったり、そういう世界の舞台で勝つために必要なスタンダードをたくさん経験してきていると思うので、過去のワールドカップで戦った日本の良いところ、足りないところ、ベスト16の壁を破るために必要なところをもう一回整理して、カタールのワールドカップでは、選手たちに思い切ってプレーしてもらいながら、日本の力をぶつけられるようにしたいなと思います。
中村:監督によって4年でスタイルが変わるっていうふうに僕は言ったんですけども、それぞれの監督が提言してくれたことが、日本代表の中にちゃんと積みあがっている。インセンシティーだったり、デュエル、ダイレクト。あとは「日本人らしさ」がだいぶ積みあがってきた状態で今回戦えるようになったということなんでしょうか?
森保:その通りだと思います。例えば、トルシエ監督でベスト16にいったときには、あのフラットスリーなど組織的、戦術的に戦うことが日本人にとっては合っている、世界と戦える。岡田さんの時には、まさに今我々もやってる、良い守備から良い攻撃に、っていうことをやっていこう。4-5-1、4-3-3とも言えますけど、攻撃においてはサイドのケアをしていく、やられないようにしようという過去の日本代表が世界の舞台で、アジアの舞台で痛い思いをしてきたところをしっかりとケアされて、戦いに臨んでいた。西野さんは守備もちろん大切で、構築しないといけないけど、「もっとボールを握りながら我々は攻撃をしかけていける」「主導権を持ちながらサッカーをできる」というところをチームに植え付けてロシアのワールドカップに臨んだと思う。そういうところは全部自分が過去の監督であったり、いろいろ尽力してくれた方々が積み上げたことを活かしながらやっていきたいと思っています。今回のワールドカップ予選もそうですけど、間違いなく日本のサッカーの積み上げで勝たせてもらった、ワールドカップに繋げてもらったなという思いは持っていますので、ワールドカップ本大会の舞台でも、日本の過去の歴史、積み上げを活かして大会に臨みたいと思います。
中村:個人的には、ドイツ、スペイン相手にボールを握る日本が見たいなっていうのは正直あるんです。ドイツもスペインも、ワールドカップ予選では60%、65%以上の保持率を誇るチームですから、そこに挑戦してほしい。4-3-3のスタイルで、日本のビルドアップに対して相手がかけてくるプレスを外すことができる選手たちもだいぶ増えている印象があるので、そういうところを選手たちに期待してるんですけれども、森保さんのお考えはいかがですか。
森保:ボールを握ることで無駄な体力ロスをなくして得点のチャンスをつくる、相手にもダメージを与えることをしていこうということは、時折選手たちに話してきたつもりですし、ワールドカップの舞台でもそこはトライしたいなと思います。実際ロシアのワールドカップでも、ベスト16でベルギーと対戦したときに、60分ぐらいに2-0になるまでは、ほぼ互角に戦っているんですよね。パス数がちょっと少ないっていうのはありますけど、ポゼッション率とかでは。ところが2-0になってから、ちょっと守りに入りある程度受け身になって、極端に相手のほうが上回ってきたので、なんとかそこからさらにボールを持っていくことができれば、あの試合も結果は変わったんじゃないのかな、というふうに私自身も思って、選手にも話したりしていますので、そういうところを次のカタールワールドカップではトライしたいなというふうに思います。西野さんも言われていた、自分たちはできる、自分たちから仕掛けられるという攻撃をやれるようにさらにクオリティを上げてトライしていきたいなと思います。
中村:ベルギー戦の話をまさに今しようと思っていたので、非常にわかりやすかったです。受けに回らずに、2-0以上で終わらせる。そこのマインドを持って戦いたいっていうことですよね。
森保:ロシアのワールドカップを踏まえて、我々のチームづくりはスタートしたので、あの試合のことは常に頭の中にはあります。あの時も、選手たちの判断材料としては、日本の経験値が足りなくて、ベルギーに対して2対0とリードした時点で、どうしたらいいんだろうっていうことになったとも思うんですけど、あの経験はすでに日本の成長に向けての経験値と変えられると思うので、次のカタールのワールドカップではしっかり生かしたいなと思います。
中村:今までの話を踏まえた上で、森保監督が考える日本のプレーモデル目指すべきスタイルは。
森保:世界で勝っていくことを目指しながら、日本の選手のよさを発揮して戦うことかなと思いますけど。日本人のよさである組織力を発揮することは絶対的に忘れてはいけない。やはり個々の局面で勝っていく世界のスタンダードに対して、日本人の組織力を生かして戦っていきたいなというふうに思います。
中村:選手も個人でいろんな海外に出て経験も積んできて、臆することなく戦えると思うんですよね、7大会連続ですから。この積み上げっていうのは、そのサッカースタイルもそうですし、選手個々の経験値っていうことを考えても、多くの選手が海外でプレーしているので、外国チームに対しての苦手意識はもうないと僕は思っているんですよね。日常的に彼らはそこの舞台でやっているわけですから。いろんな意味で揃った状態で今大会を迎えるのではないかなというふうに思っています。積みあがった状態で。
森保:多くの選手は海外でプレーをしていて、世界の超一流の選手たちともリーグ戦で対戦していて、どういう選手と対戦しても、どういうタイプの選手と対戦しても普通だというふうに思いながらみんなプレーしているので、そういった意味では、国内とか国外とかっていう認識はなくて、強い相手と戦うのは当たり前と思ってくれていると思います。戦い方としては、今、憲剛さんの話を聞いて、日本人らしく粘り強く戦いながら、攻守で仕掛けていけるサッカーをしたいなと改めて思いましたね。選手たちはやれると思っているんでその後押しをしてあげられるようにはしたいなと思います。
中村:受けに回る相手になるかもしれないんですけど、それでも果敢に戦ってほしいなっていうふうに心から願っております。
森保:そうですね、はい。果敢に勇敢に戦えるようにしたいと思います。
“Kengoʼs Lab”1回目は、サンデースポーツ(【総合】2022年4月24日夜10時00分~)で放送。