サンデースポーツのコーナー「球自論」(きゅうじろん)。2回目は、藤川球児さんが、阪神タイガースの片山大樹ブルペンキャッチャーのもとを訪ねました。
▼ブルペンキャッチャーの仕事とは
藤川:片山さんは、ブルペンキャッチャー歴が20年以上。
片山:高校卒業してすぐこのタイガースのユニフォームを着させてもらって、一回も脱いでない。他の仕事っていうのを実際自分は知らないんで、ずっとタイガースのユニフォーム着られるっていうことは、ほんと幸せなことなんじゃないかなって思ってます。
藤川:僕は片山さんの存在は阪神タイガースにとって大きな財産だと思っているんです。
片山:22年間、欠かさずタイガースの試合を見てきたのは、たぶん自分ぐらいしかいないんじゃないかなと。その中でいい事だったり悪い事だったりいろいろ感じてきてるんで、それをほんとに上手く選手に伝えれたらなって、これはまあ僕にしかできないんじゃないかなって思います。
藤川:まずは、ブルペンキャッチャーとはどういう仕事か教えてください。
片山:練習のピッチングを受ける仕事ですね、簡単に言えば。選手と同じように球場入りして、それで先発ピッチャーのキャッチボール相手をして、中継ぎピッチャーの練習をサポートする。そして試合になる。
藤川:特に気をつかっている時間帯はありますか。
片山:先発ピッチャーが(登板と登板の間の)中6日の調整のために一回か二回行うピッチングを受けるので、その時はしっかりと調整をしていますね。
藤川:中6日のピッチャーは大勢いますから、毎日集中してその1回1回をすべて受けているっていうことですよね。選手の状態や調子を見極めたり、気になる部分をどういうふうにして支えているんですか。
片山:シーズンは長いので、ピッチャーには好不調の波が必ず来ます。好調の時は普通に球を受けていますが、投手が不調になった時は、自分が受けていて感じることを素直にそのピッチャーに伝えたりしています。
藤川:選手の性格によってアプロ―チは変えますか。
片山:変えますね。そのためには、選手との常日頃からの会話をすごい大事にしてます。
▼タイガース投手陣の中で印象深いのは
片山:下柳さんはかなり一緒にやりましたね。あの人はすごい練習にストイックでキャンプからシーズン中でもインターバルピッチングというのがあって、走りながら投げる、走りながら投げる。
ストライクゾーンにはいらなかったら、「もう1球追加してくれ」って、ほんとに喧嘩するような感じで言ってましたね。疲れた時にどれだけパフォーマンスが出せるかっていう練習だと思うんですけど、すごいストイックにやってましたね。
藤川:現役選手だと?
片山:西投手はもう一歩外に寄ってくれとか、もうちょっと外に構えてくれとか、そういう要望を出しますね。青柳投手もそこまで細かくないですけど、結構ブルペンでは試行錯誤してやってますね。
藤川:今の阪神のブルペン陣って若いじゃないですか。若い選手って成長早いですか?
片山:めちゃくちゃ早いですね。特に湯浅投手なんて、そんなにまだシーズン投げてないんですけど、もうほんと立ち回りとか、ふだんの野球の練習態度とかもだんだん自覚がでてきたっていうか、一球一球の大切さをわかって、そういうところもチェックしながら自分も練習を見ていたりとかしてますね。
藤川:選手が伸びるか、伸びないかのすごい差になるんですよね、実は。ボールというより、その素ぶり、仕草が一番重要ですからね。
▼チームが不調のときにも
藤川:チームが連敗中だったり、調子が上がらない時、投手にはどのような変化があるんですか?
片山:例えば打たれました、で、帰ってきたら大体落ち込んでますよね。でも、勝負して打たれるんだったらもう仕方がない、次の一球のほうが大事だと、「落ち込むのはもうきょうだけにして、あしたがまたあるんだから」っていうふうな言葉をかけてますね。
藤川:調子が難しくなってきた選手って、やはり周りも声かけづらいじゃないですか?僕も現役当時あったんですけど、これはもうやっぱりプロである以上、自分で立ち上がるしかないっていう、黙るっていうことはそういうサインの一つでもありますね、支える側としては。一番苦しいと思うんですよ、その時が。もう何言っても絶対ダメだから自分で這い上がるしかないっていう。
片山:ほんとに僕らも声かけづらいんで、なんとか次に向かせよう、次に向かせようというサインじゃないけど、言葉、それも選手によりますね、どういう言葉をかけていいかっていうのは、日ごろ話している性格を把握しながら声かけるっていうのはすごい大事じゃないかなと。
藤川:ブルペンキャッチャーとして片山さんのレベルになれば、「ブルペンで投げたこのボールではもうグラウンドに出た時には絶対無理」ってわかるケースないですか?
片山:あります。ありますけど、その時は選手じゃなくて、ピッチングコーチにちょっときょうは早めに(リリーフを)用意しとったほうがいいんじゃないか、って伝えます。マウンドに送り出してしまったらもう仕方無いんで、選手にはもう声かけられないんで。
藤川:片山さんがボールを受ける、そして投げ返すという一連の動作の中で、心がけてることは?
片山:まずはしっかり受けてあげるっていうのが一番です。しっかり止めてあげた上で、そのピッチャーのフォームを見てあげるのがすごい大事。特に、試合で良いパフォーマンスが出てる時のフォームをしっかり見てあげる。そして調子が悪くなった時に、しっかりしたフォームを重ね合わせて、「ここが違ってるんじゃないか」とか、そういう早く不調を脱出できるようなアドバイスができたらなと思って、しっかりフォームを見てあげるっていうのは大事にしてます。だからいいフォームの時は、選手のシルエットをしっかり見ておくようにしています。
藤川:球を投げ返す時に心がけてることは?
片山:ピッチャーよるんですけど、グラブを持ってる手のほうにボールを返してあげること。あとは、ピッチャーの目線を上に向かせないっていうのを心がけてます。なんでかと言ったら、ピッチャーって常にキャッチャーの下のほうに投げてる。で、返すボールで上を向かせたら、ちょっと目線がズレてしまうんですね。
藤川:そうですね、僕もやっぱり自分が現役の時に投げていて一番感じたのは、スローイングの精度、投げ返してくるボールの精度がものすごくよいと、同じルーティンで入れるんですよね。またすぐセットポジションに入って、同じゾーンに投げ続けることができるっていう。捕手からの返球がそれると、またイチから作り直さなきゃいけない。僕は他のチームのキャッチャーのスローイング見て、「あ、このスローイングだったら調子崩れるな」とかいうのがわかる(笑)。
▼能見投手のある言葉が貴重な教訓に
藤川:片山さんはボールを受けるときに声を出しますよね?
片山:プロに入った時、自分はほんとプロのピッチャーをとれなかった。実は高校2年生からキャッチャー始めて、それまで一回もキャッチャーやったことなくて、
藤川:えー!
片山:めちゃくちゃ下手くそだったんっすよ。時速140キロの球をとったことなかったんで、で、その時にピッチャーから、パス、パスって言われて、お前ちゃんと受けろ!って、めちゃくちゃ言われまして、その時に実は、ほんとはパシって言いたかったんですけど、パシちょっとカッコ悪いから、声でごまかす、声でカバーしようと思って、その音を。それを1年目から、おい!って声出して、それが癖ついて、
藤川:(笑)これ初めて聞きましたね。
片山:プロに入って、みんなめちゃくちゃ球が速いんで、それできっかけで声出すようになった。今では盛り上がっていいかなと、自分の中で気に入ってます。逆に声出すなって言われたら調子悪いんです。
藤川:相手投手に合わせた捕球の仕方は、身体で覚えてるんですか?
片山:実は、能見投手が先発の時の試合前のピッチングを受けた時に、ものすごい調子悪かったことがあったんですよ。で、これはちょっとダメだなと思いながら受けてて、ちょっとのせてあげようと思って、おもくそ音鳴らして、のせまくったんですよ。そしてそのままマウンドにいったら、案の定ボコボコで。
片山:後で、能見投手が「調子よかったっすか?」て聞くから、「いやいや、めちゃ悪かった」と、
藤川:あー、そうですか。
片山:能見投手からは「なんでそんなパーンって受けたんすっか。パンパンいってたから調子、調子がいいと思ってそのままマウンド上がったらあれ?、あれ?って打たれた。パスってとってください」って、言われたんですよ、その時に。
藤川:ごまかさないで捕ってくださいってことですか?
片山:そうです、はい。あ、捕り方もこうやったらダメなのかな、選手によってですけど、むつかしいな、ブルペンキャッチャーってむつかしいなってその時はすごい思いましたね。
藤川:そうかもしれないですね。そこは、ありのままの自分をわからせてもらう場所でいい、っていう方もいると思います。
片山:投手はマウンド上がったら慎重になるっていう、すごい勉強になりました、あの言葉は。
▼22年間の蓄積を生かして
藤川:片山さんの秘蔵のノートっていうのがあって、僕も現役当時からしたためていたものですね。今で何冊目ぐらいですか?
片山:12~3冊はいってるんじゃないですか。
藤川:中身は、どのようなことが書いてあるんですか?
片山:ピッチャーの球数ですね、トータルの球数。中継ぎ投手だったらちょっと点とられた、抑えた。何球投げたら点とられたんだ、いろいろそういうのをちょっと探ってるんですよ。なかなか答えは出てこないですけど、いろいろ考えて、監督、コーチ、トレーナー、フロントと共有して、投げすぎじゃないかとか、けが防止のために共有するためにやってる感じです。
片山:コーチも2人いるんで、その話し合いにちょっと入ったりして、投手を3イニング待機させたらもうちょっとパフォーマンス落ちるねとか、3連投目はパフォーマンス落ちるねとか、そういう会話はちょいちょい。
藤川:僕もリリーフだったので、やっぱり人間の身体もほぐれすぎると力でなくなりますね、次だんだん固くなって、麺のように伸びたり、縮んだりするっていう感じですよ、正直。
片山:2003年ぐらいの井川とか、ムーアとかの、伊良部さんとかからまだずっと一応持ってるんで。
藤川:それはすごい財産ですよ。片山さんこの仕事は向いてると思いますか、自分で?
片山:もう今でも球を受けることって大好きなんで、まだ。飽きるかなと思ったんですけど、まだまだ自分の中では勉強することあるし、「うまくなっていかなあかん」って思ってるし、ほんとに好きだから、まだまだやりたいし、ほんとに天職なんじゃないかなと思っています。はい。
藤川:タイガースがいま低迷しているんですけれども、そんな中で投手陣をどういうふうに支えていこうとお考えですか?
片山:常に準備だけはしっかりして、結果はいってみないとわからないですけど、しっかりここで、ブルペンで準備させることはしっかりしていきたいです。自分の中でできることは、自分とピッチャーで話し合ってしっかりしていきたいです。
藤川:これからも頑張って支えて1勝でも多くファンの方々に勝利を届けてあげてください。
「球自論」2回目は、「サンデースポーツ」(【総合】2022年5月1日夜10時00分)で放送。