3年ぶりに開催された、モータースポーツの最高峰F1日本グランプリ。中でも注目されたのは、去年日本選手史上最年少で参戦を果たした角田裕毅選手です。去年、今年と2年連続で年間チャンピオンとなった王者フェルスタッペン選手も高く評価しています。
角田選手は22歳。そして今大会優勝したフェルスタッペン選手は25歳。F1では世代交代が進んできています。過去7回年間チャンピオンの37歳ハミルトン選手らに代わって、今シーズン総合3位につけている24歳のルクレール選手も含め、若手が台頭してきています。この世代交代、角田選手はどう考えているのでしょうか。サンデースポーツの豊原謙二郎キャスターがお話を聞いてきました。
角田選手:お願いします。元気ですか。
豊原キャスター:元気にしてます。
豊原キャスター:俺たちがまた新しい時代を築くんだみたいな、そういうのってありますか、角田選手の中で。
角田選手:僕は正直ないですね。もちろん今、若いドライバーがベテランたちを追い抜こうとしているんですけど、僕はあんまりどうでもいいかなっていう。年齢というよりは本当に自分のことに集中というか。自分が速ければ、周りはどうでもいいかなっていうふうに思いますね。
豊原キャスター:自分のことにフォーカスしているってことなんですね。
角田選手:はい。
世代交代なんてどうでもいいと言う角田選手。自分のことをこう評する。
角田選手:特に僕は、やんちゃな小僧だったので。今もそうかもしれないですけど。
角田選手のスタイルは、“コーナーぎりぎりまで減速しない”最高時速350キロ。極限の集中力が求められる中アタックし続ける。しかし、ヤンチャなだけでは到底生き残れる世界ではない。そう忠告する人がいる。プロのレーサーを夢見ていた角田選手を、思春期の頃から指導してきた阿部正和さん。しばしば無謀な行動をとったと言う。
阿部さん:カッとなりやすいところがありましたね。(コースを)譲ってもらったにもかかわらず前へ出て、その人に幅寄せをするみたいな。遅いから譲れとか、譲ってくれないとか。そういうのはもう独りよがりでしかないから、そういうのはいけないねっていうのは、だいぶ彼に何度か言ったと思います。
レーサーとはどうあるべきか。阿部さんには忘れられない光景がある。皇帝、シューマッハー。今の角田と同じ22歳でF1デビュー。その後も長年にわたり最強のチャンピオンとして君臨した。
阿部さん:昔、日本のたばこメーカーがシューマッハーのチームのスポンサーになった時に、その発表会でシューマッハーが先に登壇して着席していた。そこへ、そのたばこメーカーの社長が来られて、その時に、あのシューマッハーが立って、その方に椅子を引いて差し上げて。そういうことをすっとやった時に、こういう事されたら応援したくなるよなと。ある部分、紳士として振る舞えるように将来ならないと駄目だと思うので。
角田選手:阿部さんに一番教わったのは、人への接し方だったり、もちろんレースだけじゃなくて、自分が走っていないときの環境で、接し方も結果につながってくるので、そういったことを学びましたし、ずっと心の中にとめています。
■世代交代についてスタジオゲストの上原浩治さんと村上茉愛さんに聞いてみた
豊原キャスター:世代交代というのは、どの競技にも付きものだと思いますが、村上さんは現役時代、意識したことっていうのはありましたか。
村上茉愛さん:正直そこまで世代交代ってことに関して意識したことはないんですけど、いずれ先輩方は引退する時は来るので、先輩方が受け継いできたものを自分たちも崩さないようにしながら、自分のオリジナリティーを演技で披露できればいいなと思いながらやっていました。
豊原キャスター:受け継ぎながら、ということですね。
上原さんは、若い世代についてどうですか。伝承しよう、受け継いでいこうっていうのは実践されたりしたんですか。
上原浩治さん:いや、特にはないですけども、伝え方っていうのは言葉で伝えることももちろんですし、あとは行動ですよね。自分の場合は後者のほうで、練習をとにかく一生懸命やる。それを見てくれているならうれしいなっていうぐらいで、伝えようという意識は全く思ってなかったですけどね。
■モータースポーツ界 時代の要請 環境への配慮
世代交代が進んでいるのは、レーサーだけではありません。モータースポーツ界全体も新たな時代に突入しています。かつて、エンジンから大量の排気ガスを出して“ガソリンの無駄遣い”と揶揄されたこともあるモータースポーツですが、高まる環境への意識を背景に、いかにCO2の排出を減らしていけるかという課題に向き合わざるを得なくなっています。そのためのアプローチが2つ。1つが電気自動車。世界各地を転戦するレースも行われていて、先日東京都が招致することも決まりました。そしてもう1つが、従来のエンジンを使い続けながら解決を目指そうという方法です。日本はいち早く、この開発に乗り出しました。最前線の現場を取材してきました。
■日本最高峰の次世代マシン
神奈川県にある開発拠点。
普段は決して公開されない内部の取材が、今回特別に許された。
こちらは、日本の最高峰のレースの開発車両。その名は、SF19CN。トヨタ自動車とホンダが共同開発を行う次世代のマシンだ。エンジンを使い続けるための一番のポイント、それは燃料。車に注入しているのは、主にバイオ燃料。生産、製造の過程でCO2を吸収する植物から作られている。テストドライバーとして開発に関わっているのが、国内最高峰のレースで2回年間チャンピオンになっている石浦宏明さん。
石浦さん:想像以上に普通に走れてしまったっていうのがまず驚きだったんですけど。
豊原キャスター:エンジン以外にも植物が使われている?
石浦さん:こちらのボディーの色が、(車体の)赤い部分と全然違う。これ実は、麻素材を使っている。
車体に使われていたのは、なんと麻。強度については、ほぼ問題なし。今後は耐熱性の検証を進める。すでにテスト走行では、最高時速300キロ以上をマーク。来シーズンからレースでデビューする予定だ。
石浦さん:これが本当に使えるとなれば、内燃機関(エンジン)が世の中に生き残れる可能性が出てくるので、いろんなワクワクも生まれてきますし、壮大な実験が始まったなっていう。
■より美しい爆音を求めて
石浦さんたちが、ここまでエンジンにこだわるのには理由がある。モータースポーツの大きな魅力、それは耳をつんざくような爆音。
石浦さん:内燃機関(エンジン)が好きで、音に対して魅力を感じたファンの人たちは、ちょっと物足りないなって感じることもあると思う。騒音問題とは無縁のレースができているので、それはひとつありだと思うんですけど。
より美しい爆音を求めて、石浦さんたちはエンジンまわりをいじり始めている。通常であれば1本だけの排気管。なぜかもう1本長いものが。時間差を設けるために、あえてとぐろを巻いたような形になっている。
豊原キャスター:例えば、一つのシリンダーのドンっていう爆発が、2回に分けて聞こえる?
開発スタッフ:そうです。
石浦さん:もっと甲高かったらいいのになって、正直レースファンとしては思いますね。
石浦さん:燃費を良くしたり排気ガスを綺麗にしたり、そういう技術、今当たり前に使われる技術って、レースの世界でかなり研究された技術が何年か経ってから一般車の方に落とし込まれていっていると思うんですけど、またそのサイクルが来たなと。モータースポーツが貢献できる取り組みが始まった。
■取材をおえた豊原キャスターからひとこと
エンジンを使い続けるための新しい燃料の開発というのが今、世界中でものすごい勢いで進んでいますので、新たな時代をモータースポーツが切り開いていくっていうことになるかもしれませんね。これからも取材を続けていきたいと思います。