公式戦100連勝!期待の18歳 レスリング 藤波朱理選手

NHK
2022年6月22日 午後4:09 公開

6月に行われたレスリング全日本選抜選手権で優勝し、公式戦100連勝の大台に達した選手がいます。女子53キロ級に出場した18歳・藤波朱理選手です。中学生だった2017年から公式戦で負け知らずで、去年10月の世界選手権でも金メダルを獲得。2024年のパリオリンピックでのメダル獲得が期待されています。
この春から大学に進学した藤波選手が、新たな環境でどのように高みを目指しているのか、「サンデースポーツ」メンバーの一人、元体操選手の村上茉愛さんが、取材しました。

▼厳しい環境で追い込む日々

村上:今日はよろしくお願いします。大学生活はどうですか?

藤波:入学して2か月ぐらい経って、少しずつ慣れてきて楽しいです。

村上:ちなみにここ(顔の傷)は?

藤波:はい。これはちょっと練習中に相手の頭が当たってしまって。

村上:目、顔もだけど、いろんなところがやっぱり。

藤波:そうですね。やっぱ接触競技なので、よくあることです。

藤波選手が所属するのは、日本体育大学レスリング部です。私たちが訪ねたのは、全日本選抜選手権まで2 週間を切ったころ。大会直前の追い込みの時期ということもあって、ハードな練習の中で、取材に応じてくれました。2時間ほどの練習の間、ほとんど止まっている時間がないほど、体を追い込んでいました。
圧巻だったのはスパーリング。およそ3分間試合をして、15秒のインターバルを挟んで、また試合。これを何セットも繰り返します。さらに藤波選手は、女子選手だけではなく、男性のコーチともスパーリングしていたことにも驚きました。

村上:ものすごくハードな練習ですね。

藤波:今はもう試合まで1週間なので、新しい技に挑戦っていうよりかはもう今までやってきた技っていうのを確認して、しっかり実践練習、スパーリングをやって、息を上げて追い込んでいくっていう練習をしていきます。

村上:高校でレスリングをやっていた時と、大学生たちとやるレスリングの練習、違いっていうのは何かありますか?

藤波:はい。大学生になって本当にスパーリングの質が上がったなっていうのが1つあって。より試合に近いスパーリングが日々できていて、本当に充実しています。技術の面でも、コーチだったりとか、すごいレベルの高い技術を毎日教えてもらっていて、本当に新鮮で、新しいことっていうのが、すごく発見できています。

村上:連勝記録が今、97回ということで、間もなく始まる全日本選抜選手権で優勝すると100になると思うのですが、そこに対する思いはどうですか。

藤波:メディアの方に連勝記録を言ってもらうことは多いんですけど、自分の中では本当に、連勝記録っていうのは過去のことだと思っていて、マットに上がったら、連勝記録とか関係ないので、今は本当にこれから勝つことに集中してやっています。

村上:すごいですね。ちなみに試合は緊張するタイプですか?

藤波:自分はあんまりしないですね。しないタイプです。

村上:何か音楽聴いたりとか、ルーティーンとかってありますか?

藤波:試合前日の夜に赤飯食べるっていうルーティーンはあります。

村上:いいですね!じゃあ海外に行く時とかって持って行ってるんですか?

藤波:はい。持っていきます。

村上:じゃあ荷物いっぱいになりますね。

▼武器は長い手足を生かしたタックル

練習を見ていて印象に残ったのは、藤波選手の体格です。身長は1メートル64センチ。ほかの人と比べても手足が長く見え、私たちから見ても、間合いが広く感じられました。そして、スピードも持ち合わせていて、練習中のスパーリングでも何度も何度もタックルに成功していました。

身長差はありますが…村上さんと背中を合わせると、このリーチ差!

村上:手足の長さっていうのが1つの武器だと思うんですけど、体操は技に対してというよりも表現力に手足が長いと生かせるのですが、レスリングでは具体的にどう生かせるものなのか、教えてもらえますか?

藤波:まず1つは、構えの姿勢のときに、構えたときに相手と自分の足の距離が遠くなるっていうのがあって、相手がタックルに入りづらくなることですね。 もう一つは、逆に自分がタックル入るときに、手が長い分足が届きやすいだったりとか、バックに回るときに手が足に届きやすい、腰に届きやすいっていうのがあると思います。

村上:人より行動範囲が広くなるんですね。いいですね。私は小さかったので、大きく動けるっていうのはちょっと羨ましいなって思います。対面で対戦相手と向き合っているとき、どこを見ていたり、どういうことを考えているのですか?

藤波:そうですね。1つの技にしても本当に相手によってその反応の仕方とか動き方だったりとかが本当にそれぞれ本当に違うので、はじめ、ピーって試合始まった時に、フェイントだったりをかけてどういった反応をするのかなっていうのをまず見てやるっていうのが自分の中では1つ考えていて。あとは、でも、大体ピーって始まった瞬間、組み合った瞬間になんか分かんないですけど勝てそうだなとか、あっ、この人強いなっていうのは感じます。

村上:今、取り組んでいる課題や、修正したいところはありますか?

藤波:はい。タックルに入るまでの技術、相手の崩しだったりとかもですが、タックルに入ってからのポイントに持ってき方だったりとか、本当にそこを中心的に今はやっています。どうしてもタックル入ったあとに止まってしまうことが多くて、まだ完全には直っていないんですけど、やっぱり、タックルに入って、ポイントをとるところまで止まらずに攻め続けたいっていうところです。それが弱い人にはできても、高いレベルになるとそれができないことがあります。

村上:レスリングは、瞬発力と持久力、どちらが大事ですか?

藤波:本当にレスリングはどっちも大切ですね。タックルに入る瞬間っていうのは瞬発ですし、常にやっぱり動いていくのは持久力って感じです。

▼二人の指導者と高みを目指して

今、藤波選手の成長を支えているのは、二人の指導者です。そのうちの一人が、父・俊一さん。所属する日本体育大学のコーチでもあります。レスリング指導者である父の影響で4歳から競技を始めた藤波選手は、ジュニア時代、高校、大学と父の指導を受け続けてきました。

父・俊一さん。オリンピックで金メダルを取ってお父さんを肩車するのが、藤波選手の目標の一つ。

村上:お父さんに、指導をしてもらっているということで、お父さんってどういう方ですか。

藤波:そうですね。自分が小さいときからレスリングを見てもらっていて、大学に入って直接細かい技術だったりとかを指導されることはもう少なくなったんですけど、本当に誰よりも自分のレスリングを知ってるっていうか、小さいときから本当に今までずっと見てきてくれたので、本当に自分のレスリングだったり、性格だったりとか、自分のことを自分のこと以上に知ってるような、なんかそんな感じがします。

村上:自分も父が体操のコーチで同じクラブの先生で、結構体操でも親子で体操をしてるっていう方がすごく多くて。でも、よく聞くのは、家と体操場との切り替えができなくて、調子悪かったら家に帰って、そのままお父さんかお母さんの機嫌が悪いままっていうのがあるんですけど、あまりそういう影響っていうのはないですか?

藤波:そうですね。自分たちはそれを持っていかないっていうルールは決めていて、家は家、道場は道場っていうふうに分けるっていうのは約束事として1つ決めていて、そういったのはないですね。でも、練習中とかにやっぱり父だからか、イラッとする時は本当によくあります(笑)

そしてもう一人が、伊調馨選手。現在も拠点の日本体育大学などで練習を続ける傍ら、コーチとして指導に当たっています。オリンピック4連覇を果たしたレジェンドに、藤波選手のストロングポイントについて聞いてみると…。

伊調馨選手

すごいいっぱいあるんですけど、とにかくまじめですね。まじめでレスリングに対してものすごく貪欲です。向上心のかたまりだなって思いますし、どんどん吸収したいという気持ちが前面にでていますね。
自分の形というのが、ベースはほとんど作り上がっているので、微調整というか、ほとんどコーチ陣がいじるということはほとんどないです。少しの、数センチだったり、入り方、取り方。そこさえもうちょっと修正できれば誰が相手でもできると思います。
週の半分以上、朱理とやる毎日になったので、高校生のときはたまに来て相手するくらいだったんですけど、いまは週のほとんど相手をするようになって、お互いにきょうはどういう展開をつくろうかなと、きのうはこれでとられたから、きょうはこんな戦法でいってみようとか、お互いにどうやったらとれるのかというのを考えて、きょうはどうだったとか話すのが毎日の楽しみですね。

試合では「普段練習している伊調さんのほうが強い」と感じるという。

スパーリングから筋トレまで、大先輩の近くで過ごす日々。

村上:伊調さんに普段、指導を今してもらってるということなんですけど、伊調さんとやってみて思ったこととか、よく普段指摘されることが多いなって思うことって何かありますか。

藤波:はい。実際にスパーリングをやってもらうことが多いんですけど、距離の取り方だったりとか、技の仕掛けるタイミングだったりとか、本当に勉強になることが多くて、強いなって感じですね。

▼藤波選手から村上さんへ

取材中、藤波選手から村上さんへ質問する場面もありました。ほかの競技の選手の話を聞く機会がなかなかないそうで、村上さんの話にときおり大きく頷きながら聞き入ってました。

藤波:体操って新しい技に挑戦する時に多分結構なリスクを負うと思うんですけど、レスリングはそんなリスクはないんですけど、気持ち的にどうなんですか?

村上:まあ人によってなんですけど、私は結構何でもやっちゃえ、やっちゃえというタイプなので。自分がやりたいって思っている技の動画をちょっと見る。頭の中にもう一人の自分を作って、その自分を操ってみて、その技ができなかったら、あっこの技できないな、っていう感覚。

藤波:それでもう大体わかっちゃうんですか。

村上:はい。挑戦はするんですけど、多分できないなっていう時は1本目で絶対失敗するので、そこで感覚と操作して照らし合わせてやっていくっていう感じなんですけど。大体の人はものすごく怖がってできないので、ものすごい安全なマットか、すごい補助してもらうとか。大体の人は怖がって手震えたりとかがあるので、そこはもう行くしかないっていうのが最終的に勝つかなと思いますね。

藤波:もう一つ。練習と本番って、例えば本番になったら逆に緊張してできなくなることの方が多いのか、逆にもう興奮して集中してる分、できるようになる技が多いのかっていうのはすごく気になります。

村上:昔は100%練習でできていない、100%の確率じゃないものは使わなかったです。
でも、試合で「はい、お願いします」って手上げる時に、自分たちは“試合キン(筋)”って言うんですけど、馬鹿力みたいなのが出るので、エナジードリンク飲んですごいパワー出るみたいな感じのが出るので、それによってちょっと助けられてた部分はあります。緊張はもちろんするんですけど、普段が60%ぐらいのパワーしか出なかったら、試合は120%出るから、すごいいい演技ができるっていうことはあると思うので。でも、逆にパワーが出すぎてすごい跳んでいっちゃったりとかあるので、そこをわざと抑えて調整していくっていうのをやりますね。そういう謎の力が出るんで。

藤波:すごい。

村上:そういう時だけすごい見えるんですよ。体操は視覚も大事になってくるので、自分がどの角度にいるかっていうのを目を開けて体操をしなきゃいけないので、目つぶってたら頭から落ちたりとかあるんですけど、パッて見えるんで。「あっ“試合キン(筋)”出てるな」っていつも感じて。

藤波:すごい、面白いです!

▼パリ五輪での金メダルに向けて

いま、藤波選手が目標に定めているのが、2024年のパリオリンピックでの金メダル獲得です。最後に、夢の舞台へ向けた思いを聞きました。

村上:高校3年生で世界選手権金メダル。トップに立って、オリンピックだったり、大きな大会について心の変化っていうのはありましたか。

藤波:はい。自分の中では小さいときから本当にオリンピックっていうのが一番の目標であって、本当に去年の世界選手権はもちろん目標だったんですけど、やっぱり通過点ということで、本当に今はオリンピックっていうのが一番の大きな目標です。パリオリンピックの予選は12月から始まるので、時間もう多分すぐ来ると思いますし、その中でしっかり自分まだまだ高められるところがあるので、しっかりそこをこの日本体育大学でしっかり高めていって、必ず予選で勝ってオリンピックで優勝したいです。

村上:最後に、レスリングの面白さがどういうところだと感じているのか、教えてください。

藤波:レスリングは、柔道の柔道着などのように格闘技の中でも本当に掴むところもなくて、使う道具もなくて、格好としても本当にありのままに近い格好で、本当に人の強さっていうのが、強さ同士の戦いっていうか、本当にそういったところが面白いかなと思います。

村上:頑張ってください!きょうはありがとうございました。

藤波:ありがとうございました!

今回の取材の様子は、6月19日放送のサンデースポーツ「#myオシ!」で放送しました。