今シーズンのプロ野球の大きなトピックの1つが、日本ハムの新球場“エスコンフィールド北海道”。試合を観戦できるサウナやビールを醸造するブルワリー、広いコンコースに並ぶたくさんのグルメなど、魅力的な設備はさまざまな形で取り上げられてきました。今回、藤川球児さんが「球自論」で掘り下げるのは、この球場がどんなコンセプトでつくられ、何を目指しているのか、という点。新球場建設のキーマンに伺いました。(2023年4月23日放送)
藤川球児さん まずは新球場を探訪
この日も熱いプレーが繰り広げられていたエスコンフィールド北海道。
藤川さん:歩きながらでも、どこを歩いていてもグラウンドの中が見える、今回国際大会(WBC)で日本がアメリカのマイアミで戦った時もこの光景でした。そういった形は全く一緒。コンコースの広さも、やはりアメリカのスタジアムと非常に近い。(エスコンフィールドが)勝っていますけどね。
藤川さん:スクリーンも大きいし、本当に近未来的な球場やと思いますね、明るいね。
藤川さん:ベンチが張り出しているんです。ベンチの声がすごく聞こえるんですよ。
ファン目線がとにかく徹底されているというのが藤川さんの第一印象。ただ、肝心のお客さんの入り具合は座席数2万9000人のところ、この試合の観客はおよそ1万6000人でした。
藤川さん:少し観客席がまばらかなという感じはしますね。環境を整えて、それから地元に馴染ませる、北海道のファンに馴染ませる。まだ球場に来られてないファンの方たちに浸透させる時間が必要ですから。ハード面とソフト面と言われる、現場とファンとスタジアムを一体化させるというところ、それをどうやって乗り越えるのかも聞いてみたいと思います。
ターゲットは“次世代を担う子どもたち”
改めて試合のない日に訪ねました。今回話を伺うのは新球場の仕掛け人、前沢賢さんです。マーケティング会社勤務を経て2004年にチームの北海道移転と同時に入社。新球場建設のプロジェクトを8年にわたり主導してきました。
藤川さん:今の心境はどうですか?
前沢さん:やっとここまで来たっていうこともありますけども、まだここまでかという感じもありますし、課題を1つ1つできるだけ早くクリアしていくということを今やっている感じですかね。
まず案内してくれたのは、前沢さんがこの球場のエントランスと位置づける三塁側コンコースです。
前沢さん:ゲートからまっすぐ歩いてきて、目の前にフィールドが見られる、選手たちが見られるという状況を作りたくて。そういう意味で言うと、ここはすごく思い入れのある場所なんですよね。私すごく大好きな光景があって、藤川さんも昔あったと思うんですけど、少年野球チームに入りたての子が、だぶだぶのユニホームを着ながら柵を抱えて野球場を見るという光景が、僕は1番野球の中でいい光景だなって思っていまして。
藤川さん:だから高さが全てこれぐらいの高さで見られる角度になっているんですね。
前沢さん:そうなんです。
藤川さん:このコンコースをぐるっと回ると全てその高さから見られるんですよね。
前沢さん:そうなんです。子どもたちは地域の財産であり我々の財産だと思うので、子どもたちにフォーカスしていますね。
次世代を担う子どもたちをターゲットとするコンセプトは、ライトスタンドのエリアにも。一般的な球場だと応援団が陣取る場所です。
藤川さん:こちらは?
前沢さん:ここはお子様とお子様連れの方々が主役のエリア。
藤川さん:ものすごい広いスペースですよ、これ。
前沢さん:この中に大体2000平米ぐらいある遊び場があります。
藤川さん:2000平米?
前沢さん:はい。これは試合のある日もない日もやっています。
藤川さんも遊び場を体験。
スタッフ:虫が隠れていますので、探してもらって。
藤川さん:あ、いたいたいた!最高すぎるわ!
遊び場からゲートをくぐったすぐ隣には、さまざまな遊具を無料で使える広場もあります。
前沢さん:今の公園は禁止事項が多すぎて。結局ベンチで座っているしかないの?みたいな公園が多い。世の中そんなんでいいんだっけというのは内部でずっと話していて。なのでこのエリアは基本的に禁止行為がないんですよ。
藤川さん:めちゃくちゃありがたい。球団運営の中で野球少年が少ない、人口も減ってきている、子どもたちのためにと言うけれど、見せることはするんだけど、させてあげる環境、ハード面に関して何か投資するというのは、なかなかどの球団も手が届いてないじゃないですか。
前沢さん:そうですね。野球好きな人しか行きたがらない野球場が多いと思うんですけど、そうじゃないのをどうやって作るかというのは、結構頭を悩ましたポイントで。いろんな人たちが主役になれる場所がエリアにないと駄目だっていうことで、野球に関係ないものがいっぱいある。
藤川さん:その中で大谷翔平選手のような選手がまた新たに生まれれば、自分たちも行ったことがある、もう1回あそこに行こう、しかも選手がいるよと、結局野球と結び付く。
前沢さん:そうです。
藤川さん:ハード面とソフト面がね。
藤川さんが現役時代、多くの時間を過ごしたブルペンにも特別に入らせてもらいました。
藤川さん:メジャーリーグ時代を思い出すというか。これはね、テキサスかどっかでしょうかね。ファンとの距離が近いのが(大リーグを)思い出されるというか。
藤川さん:僕たち現場の選手からいうと、このベンチの椅子がアメリカって異常に長いですよね。みんなが自由に座れて。(ここで)ホームランキャッチできるんちゃう?
本格的なメジャー仕様に驚いていると、この日球場に散歩に来ていた子供たちが声をかけてくれました。
子どもたち:ふじかわさーん。
藤川さん:おーい!ここで遊んだことある?
子どもたち:うん。
藤川さん:ある?すごいね。
子供たち:4歳です。
藤川さん:4歳だから、自分たちの年齢になるまであと30数年すれば、今度自分たちが親になってという形がもう見えるよね。すごく未来志向ですよね。
前沢さん:面白いでしょ?球場にこういう子たちがいて。
新球場が描く未来のカタチ
さらにコンコースには試合がない日にもかかわらず多くの人出。お店を覗きながら、ブラブラと散策することができます。野球場である以前に、世代をこえて多くの人が集まる場であってほしい。そこには、長年プロ野球のビジネスに身を置く前沢さんの危機感があります。
前沢さん:巷で平日の試合の入りが少ないというご意見もいただきますけど、我々も元々そんなに左うちわで大丈夫だと思っていませんでしたし、そういう状況に近いというのは大体分かっていたことですね。この球場は野球があってもなくても楽しめる場所になっているので、逆に試合のない土日には今1万人ぐらい来てくれている。
藤川さん:試合と同じぐらいの?
前沢さん:はい。野球に関係ない人たちがこのエリアを訪れて、野球とか球場に近づいてくれているってことは着実にできているので、チームが弱いとか強いとか関係なく収益をきちんととれる、ブランディングできるというのが我々の使命だし、我々の役目なので。チームが勝っているから負けているからとかで言い訳はしたくないですね。したくないし、それを言うんだったら我々はもう存在意義がないですよ。今までの“こうだ”と思っていたことと全然違うことが起こっているのがこの球場。それに我々が頭と心をどこまでアジャストできるかというのは、我々の責任の方が大きいかなと思いますね。
藤川さん:北海道という、いわゆる日本の中では地方と呼ばれるところから取り組む意義は?
前沢さん:これから日本は観光立国をもっともっと進めていかなきゃいけないという中で、日本の人口が減少している、グローバルでは人口増えている。だったら80億人近いグローバルに、野球じゃなく北海道という観光資源でもっと攻めていくべきと思っているので、僕は北海道のこの価値だったら十分世界で戦えると思いますね。
藤川さん:メジャーリーグに先に行かれたところを日本に今度取り返してください。
前沢さん:そうですね。MLBのよさは絶対あると思うんですけど、日本人のよさもこの球場には入れていかなきゃいけないと思うので。全部が全部何かを真似したというのは絶対やりたくなくて。
藤川さん:未来に向けてどうなっていって欲しい、こんなところを見て欲しいというのはありますか?中長期的なプランとして。
前沢さん:この球場のコンセプトは“共同創造空間”と言っていて、自分たちでやるんですけど“いろんな人たちとやりましょう”というのがコンセプト。この球場を作ったのは「私です」「私です」っていろんな人たちに言ってもらうことが私たちの望みで、そうなりたいなと思いますね。至らない点は多々ありますし、じゃあ我々は何をやるかというと、間違っていたらやめてすぐ改善するというのをできるだけ早く回していくのが今我々がやっていることですね。
藤川さん:どうもありがとうございました。またよろしくお願いします。
前沢さん:こちらこそ。またいつでも来てください。
藤川球児さん きょうの「自論」
豊原キャスター:いろんな仕掛けには確たる思いがあったということですね。
中川キャスター:それでは藤川さん、今回の「自論」をお願いします。
藤川さん:今回は「未来への挑戦にはリーダー“達”の決断力があった」。
豊原キャスター:リーダーではなくて、リーダー“達”?
藤川さん:はい。前沢さんも「我々」と言っていました。そして次世代。前沢さんがおっしゃったのは自分ではない。自分はあくまでリーダーだけど、これからの世代にリーダーを担ってもらわなきゃ、この日本を支えられないと言っていました。だからこの球場と北海道には未来をすごく感じました。そういった意味でリーダー“達”とさせてもらいました。