アルゼンチンの優勝で幕を閉じたFIFAワールドカップ2022。日本は今大会目標としていたベスト8には届きませんでした。「2050年までにワールドカップ優勝」という目標を掲げる日本。今大会の戦いからどのような学びを得ることができるのか。森保監督をスタジオにお迎えして、中澤佑二さん中村憲剛さんとともに考えました。(2022年12月18日放送)
森保監督が今大会一番肌で感じたことは
豊原キャスター:日本代表はドイツとスペインを倒して決勝トーナメントに進出しました。そのことに関しては、本当にわたしたちも敬意を表したいと改めて思います。ただ、現実を見据えたときに、目標に掲げていたベスト8という新しい景色を見ることはかないませんでした。この壁を突破するために、選手たちが言っていた歴史を変えていくために、日本は今大会の戦いからどのようなことを学びとることができるのか。森保監督と一緒に考えていきたいと思います。
中澤さん:森保さんはカタールの地で率直に何を一番肌で感じましたか。
森保監督:大会を通して感じたことは、ゴールを奪う、ゴールを守るというところの前に、ボールを奪い合うという本質のところで勝っていかなければいけないと。強さとうまさを持ち合わせないとこの大会では勝てないなと思いました。
憲剛さん:僕もその点で世界に近づいたからこそ、まだ壁は高く厚いなと痛感したのですが、特に感じたのは、今森保さんがおっしゃったこと、あとは戦い方の幅のところだと思います。
中澤さん:守備のところは比較的よくできたと思うんですけど、攻撃のところでコンビネーションの乱れや迫力が少し足りなかったのかなというところがありますよね。
豊原キャスター:お二人から攻撃面というところに指摘がありましたが、森保監督はどう振り返られますか。
森保監督:まず全体的に言うと、個のレベルを全て上げるという部分は、やっていかなければいけないと思いますけど、相手が嫌がる守備というところはある程度できたと思いますので、そこから攻撃に移す、プレス回避する、そしてボールを握りながら試合をコントロールする、チャンスを作っていくというところは、これからもっともっと上げていかなければいけないところかなと思います。
4バックから3バックへ
豊原キャスター:最初におさえておきたいのは、大会前に日本がどのようなスタイルのサッカーを目指していたか。キーワードは“主体性”でした。後方からパスをつないで自分たちが主体的にボールを握って攻撃を仕掛ける形。そのためのフォーメーションは4バックでした。日本は森保監督のもと、4年以上にわたりこのスタイルを築き上げようとしてきました。迎えた初戦のドイツ戦。前半日本はこのスタイルで挑みましたが、相手にボールを保持されて何度も決定機を作られます。ついに31分、PKを与えてしまい先制されます。するとハーフタイム、森保監督は4バックから3バックへの変更を指示しました。
憲剛さん:ここが今大会のターニングポイントだったのかなと個人的には思っています。4バックで自分たちがボールを持って、前からプレスをかけようとしたが、前半のドイツの状態を見て3バックに変更して、しっかりと前から行く、ボールをつなぐ形に変えた。カウンターも含めた形に変更したと思うのですが、この決断の狙いは?
森保監督:ドイツも4バックでしたけど、ビルドアップのときは3バック気味に回していたので、個の局面を1対1で勝っていくためにミスマッチではなくて、よりマッチアップさせて、個の局面で勝っていく。相手にプレッシャーをかけていくということで変えました。
憲剛さん:そのほうが勝算があると判断し決断したということですか。
森保監督:あの形になった時には、プレッシャーをかけるという部分では、マッチアップして個の責任をはっきりさせて、局面に勝ってボールも握って行こうということを選手たちに話していましたので、前半よりも個の局面で勝てたということは、選手たちが本当によく頑張ってくれたなと思いますね。
中川キャスター:戦術変更について、センターバックとして出場していた板倉滉選手にも聞きました。
板倉選手 ドイツ戦の前半は、もうサンドバッグ状態じゃないですか。攻められて、そこをしぶとく守っていくというところで。僕たちはボールを保持したいし、どうやってボールを保持しながら戦うかということを考えたいのはもちろんですけど。「3枚(3バック)でいくぞ」という話だったので、選手のやっている身からしても、3枚でやるって言われた時に役割ははっきりするなと。選手自身もこれは守って、相手の隙を狙ってカウンターでいこうと割り切った部分はあったと思う。
豊原キャスター:中澤さん、同じセンターバックとして、板倉選手の言葉はどうように聞かれました?
中澤さん:守備の面では、3バックから5バック気味になったことによって、マークにはっきりとつけることがより明確になったことはすごくよくなったと思いますし、攻撃のところでは、自分たちでボールを握ってというところから、板倉選手も言っていましたけど、割り切ってカウンターを狙いにいく、選手の中で迷いがなくなったところがよかったと思います。
森保監督:引きながらカウンターではなくて、より前でプレッシャーをかけてのカウンター。ロングカウンターからショートカウンターに変わったと思います。
豊原キャスター:先ほどターニングポイントだったとおっしゃいました憲剛さんは。
憲剛さん:結果的にこの変更が功を奏して、後半自分たちで逆転勝利をしたので、そこに関して僕は何の文句もないです。ただ4年間、4バックでやってきたものが3バックに変えたことによって守備の役割ははっきりしたのですが、練習時間や攻撃のところでのイメージの共有がちょっと難しかったのかなと思いました。
森保監督:攻撃の部分は、まだまだ試合の中でも上げなければいけないところは出ていたと思いますけど、実は3バックにしたのは守備だけではなくて、ウイングバックを置くことによって、あらかじめ幅を取ってそこに攻撃の起点を作れるという利点もあると思って変えました。ウイングバックの選手から攻撃の起点になったこともあると思いますので、今大会を戦いながら、この形が非常に勝つ確率が上がるかなということで、私も選手たちも共有して戦えたとは思っています。
豊原キャスター:守備的になったということではなくて、一人一人の戦う構図を明確にしたという。
森保監督:そうですね。むしろ一対一の局面が多くなるということは、守備的ではなくて攻撃的で、一対一で相手が強ければやられる可能性があるところを局面で勝っていって逆転に結び付けたということは、選手たちの個のレベルは間違いなく、世界的にも戦えるというところ。これまでのレベルアップがあったということは言えると思います。
豊原キャスター:4バックから3バックという戦術の変更は日本のその後の戦い方を大きく左右していきました。コスタリカ戦では、引いて守る相手に試合時間の半分以上を3バックで戦い、決定機をなかなか作れずに敗れました。クロアチア戦も、効果的なチャンスはなかなか作れずPK戦で敗れるという結果に終わりました。
中澤さん:得点を狙っているときに3バックにしたところで少しチーム全体の重心が後ろだったかなという印象もありますし、その中でシステム的な問題や相手の問題もあったと思いますが、なぜ3バックを選択したのでしょうか?
森保監督:守備の部分でもより堅くなりますし、実際は奪ってから縦にいきたいところですけど、なかなか縦には行かしてもらえないというところから、1回横に幅を使ってプレス回避する、そこからチャンスをうかがうということで、3バックというかウイングバックをうまく使えるように変えました。
中川キャスター:憲剛さんはこの選択をどう捉えていますか。
憲剛さん:大会の途中からこの形にしたので、クロアチアも多分、分析をしたうえで対策をしていたので、なかなか日本のやりたい形、攻め筋というのが見えなかったなという印象があって。クロアチア戦は前線に人を増やす意味でも、特に三笘薫選手を前に出す決断、4-3-3を途中でやれたかなと思ったのですが、そこら辺はいかがですか。
森保監督:というよりも、ウイングバックを引かせれば5バックになる、前線に置けば、それだけ攻撃の枚数をワイドに2枚持てるので攻撃の人数が5人となり実は増やせる。伊東純也と三笘薫で攻撃のところでより相手に圧力をかけることもできるため、この形を起用しました。
豊原キャスター:同じクロアチア相手に戦ったブラジルを見ると、積極的にどんどんチャレンジしていく姿、攻撃を自分たちから仕掛けていく姿があったと思うのですが、主体的にチャレンジしていく、そういう姿勢がすごく大事になってくる?
憲剛さん:そう思います。今のクロアチア戦の話で言うと、三笘薫と伊東純也が高い位置に上がる時間をどう作るかというのは、多分後ろの選手や中盤の選手も相手を見ながらやらなきゃいけないので、そこをチャレンジしたけどなかなか難しかったと。そういう意味ではクロアチア戦は非常に難しかったなと思います。攻撃的にブラジルのような得点が日本にもできるようになれば、多分もっと上に行けるんじゃないかと。
森保監督:相手は、我々のやろうとすることを消していく巧みさ、強さがあったと思いますし、そこを超えるようにもっとやらなければいけないと、試合を通して振り返って感じているところはあります。でも選手たちは本当にチャレンジをしてくれながら、今のベストをぶつけてくれたと思いますので、これまでの歴史のとおりちょっとずつでも積み重ねてやることは、どこかで花開くと思います。
中川キャスター:その辺り、板倉選手はどう感じているのでしょうか。
板倉選手 自分たちが主導権を握りながら戦うというところを目指さないといけないと思いますし、パワーで戦っても勝てないし、ドイツ、スペイン相手に勝てたというところはありますけど、実際、中でやっている身としては、そんなに(世界との距離が)近くないなと正直感じたところもありますし、代表で集まる時は、ワールドカップを基準として、これから考えていかないといけないかなと思います。
日本代表に必要なものは
豊原キャスター:主導権を握る戦いを目指さなければいけないと板倉選手も話していましたけど、どうすればそれが実現できるのか。中澤さんと憲剛さんから、それぞれ大切だと思うポイントを提言いただきます。まず中澤さんからお願いします。
中澤さん:世界のチームを見ていても、ライン際でボールをキープするのは日本もできるのですが、ピッチの中央から1人でボールをもって局面を打開する、プレスをはがせる選手が重要になってくるのかなと思います。僕自身の経験からこれができたのは、日本だと多分中田英寿さんぐらいなのかなと。今後は個人の打開力、守備ではなくて攻撃のところで局面を打開する力が求められてくるんじゃないかなと。それだけ目標設定がもう日本は高いですから、ベスト16で満足するチームじゃないので。優勝狙うのであれば、こういったところは必要かなと思いますね。
豊原キャスター:続いて憲剛さん、いかがでしょう。
憲剛さん:僕は、試合の状況を見て臨機応変に戦える選手たちの数を増やしていくことが大事になるかなと思います。いい例として、ベスト4に進出したモロッコですね。フランス戦、エムバペ選手はあまり守備をしないので、意図的にモロッコのサイドバック、ハキミ選手が2対1を作るシーンがありましたが、そこに自主的にボールを集めてチャンスを作り続けました。相手の空いている場所、相手が攻め込まれると嫌な場所を自分たちで感じ取りながら、効果的な攻めを何回も繰り返すことができる選手を増やすことが重要だと思います。
豊原キャスター:中澤さんからは個人の打開力、そして憲剛さんからは自主的に考える選手が必要だという提言をいただきました。この2つの提言、森保さんはどのようにお考えですか。
森保監督:おっしゃるとおりだと思いますね。今回、攻撃の形は作ろうとしていましたけど、前線で起点になれる選手、タメをあの局面の中で作れる選手という部分では、まだまだ足りないところがあったかなと思うので、そういうプレーができる選手の個の部分を上げてもらいたいというところはあります。そして、憲剛さんがおっしゃられたとおり、状況を見ながら相手の嫌なことをしていく。予測力を全体に上げていくところ、相手より1歩はやく動くという部分は、もっともっと頭の判断の回転をはやくできるようにしていかなければいけないかなと思いますね。日本人、できると思います。