2023年度サンデースポーツの新メンバー内川聖一さん。“安打製造機”と呼ばれた巧みなバットコントロールで数々の記録を打ち立て、昨シーズンNPBを引退。今シーズンからは新たに独立リーグ「大分B‐リングス」に加入、地元・大分でプレーを続けています。投手の心理やボールのクセを鋭く見抜いてきた内川さん。新コーナー「内っ側(うちっかわ)」では、現役選手の立場から勝負の内側に鋭く迫っていただきます。初回は広島投手陣vs.ヤクルト村上宗隆選手。その駆け引きの内側とは…?(2023年4月2日放送)
内川聖一さんの略歴
内川さんは大分工業から2000年ドラフト1位で横浜ベイスターズに入団。ハマの安打製造機として活躍し、いまだ破られていない右打者最高打率をマークしました。2011年にソフトバンクへ移籍し、史上2人目となるセ・パ両リーグでの首位打者を獲得。そして、去年2年間プレーしたヤクルトを最後にNPBでの選手生活に別れを告げました。今年から地元大分の独立リーグのチームでプレーしています。
豊原キャスター:そんな内川さん、野球以外でも顔が広く、ラグビー日本代表の選手やサッカー・陸上の選手と自主トレーニングをするなど交流されています。そしてサンデースポーツでもおなじみ、秀ノ山親方の断髪式にも参加されました。いろんなスポーツでの取材を期待しています!
内川さん:選手に近い視点で1歩も2歩も踏み込んだ解説をしていきたいなと思っています。
豊原キャスター:お願いいたします。内川さん、決めポーズは?
内川さん:「内っ側」。
豊原キャスター:ありがとうございます。内側にスライドしていただきました。初回の「内っ側」は、ヤクルトと広島の試合からですね。
内川さん:ピッチャーとバッターとの間で珍しい駆け引きがありました。
4月2日ヤクルトvs.広島戦 内川さんが解説!
開幕2連敗の広島は1回ランナー1塁で3番秋山翔吾選手。ヤクルトの先発はドラフト1位ルーキーの吉村貢司郎投手。秋山選手がヒットを打ち、その打球をライトが取れず。一気にランナーがかえり、広島は開幕から19イニング目で待望の初得点を奪います。
豊原キャスター:広島にとってはようやくの1点となりました。
内川さん:そうですね。開幕からはゼロ行進が続いていましたから、1点取るのがこんなに難しいのかって感じた1点だと思いますね。
広島の先発・玉村昇悟投手は4年目で、緩急を生かしたピッチングが持ち味です。立ち上がり1塁2塁のピンチで4番村上宗隆選手との対戦。速球で徹底してインコースを突き、5球目に詰まらせてレフトフライ。このピンチを無失点で切り抜けました。
豊原キャスター:内川さん、全球インコースでしたね。
内川さん:そうですね。村上選手の場合は一歩間違えればホームランがありますから、あそこに投げるのはすごく勇気がいるんですよ。でも全球あのインコースにきっちり投げ切りましたね。
続く2回には新外国人の6番M.デビッドソン選手。来日初ヒットがソロホームラン。1点を追加します。一方、2点を追うヤクルトは3回、先頭の1番濱田太貴選手。開幕から先発出場をつかんだ22歳がツーベースで出塁します。このあとワンアウトとなり、3番山田哲人選手。“完璧に捉えられた”と今シーズン1号の2ランホームランで同点に追いつきます。
続いて村上宗隆選手の第2打席。広島バッテリーはここも大胆な配球で攻めました。一転してアウトコースに変化球を集めます。最後はスライダーで見逃し三振。
豊原キャスター:第1打席から一転、外の攻め。バッター心理として内川さんはどう考えますか?
内川さん:1打席目に5球連続インコースに来られているのは分かっていますから、バッターとしてはそのボールを打ってやろうという心理が働くんですよね。しかしインコースを意識すると、外角のボールはすごく遠く見えるので、そのインコース、アウトコースの距離感の難しさっていうのはこの打席の中ではすごくあったと思います。
同点のままヤクルトは8回4人目の星知弥投手が1塁2塁のピンチを招きます。広島は5番の西川龍馬選手。執念でとっさに足が出た星投手がボールをトラップし、勝ち越しを許しません。
豊原キャスター:中澤さん、どうですかこのトラップ。
中澤さん:サッカーをやってもいいんじゃないですか。僕より上手いです。確実に上手いです。
その裏、先頭の村上選手。広島は4人目の松本竜也投手。この打席はボールを散らされます。2カウントから6球目。インコースへのボールが甘く入ったところを捉えた村上選手。高く上がった打球は右翼フェンスに当たり僅かにスタンドに届きません。ただ、ライトの野間峻祥選手がもたつく間に村上選手は一気にホームへ。相手のミスもあり、1点を勝ち越します。
9回は今シーズンから抑えを任されているヤクルト・田口麗斗投手。接戦を制したのはヤクルトでした。去年に続き開幕3連勝。絶好のスタートを切りました。
豊原キャスター:内川さん、この試合の勝敗を分けたポイントから伺っていきたいのですが。
内川さん:まずはヤクルトの先発投手、ドラフト1位ルーキーの吉村投手の立ち上がりですけど、先に点を取られましたけど、僕はその点を取られた後の投球っていうのはすばらしかったと思いますね。
豊原キャスター:そこ見ていきましょうか。1回の表、吉村投手は3番の秋山選手にまずタイムリーヒットを許しましたが、その後ということですね。
内川さん:そうですね。その後4番のR.マクブルーム選手をインコースの厳しいボールでサードゴロに打ち取るんですね。そして5番の西川選手もショートゴロに打ち取りました。広島としては昨日まで無得点の中で、先に1点を奪ってここから一気に乗っていきたいところではあるんですけど、そこを彼の投球で1点で抑えたと。1年目ですけど、ボールに力もありますし、コントロールも良いし、落ち着きもありましたので、これは今年すごく期待できるピッチャーじゃないかなと僕は思いましたね。
豊原キャスター:精神的に崩れなかった。
中川キャスター:そしてヤクルトの攻撃では村上選手が試合を決めましたね。
内川さん:そうですね。3打席目までは広島バッテリーの攻めもありまして、凡退していたんですけど、私も打席の中で経験したことがないほど徹底した攻めをされていましたね。
内川さんが実演解説
豊原キャスター:という事で広島バッテリーの攻めと村上選手の対応を内川さんに実演解説していただきたいと思います。
中川キャスター:贅沢!お願いします。ここにホームベースも用意してありますので。
馬瓜さん:かっとばせー!内川!内川!
豊原キャスター:インコース攻めがどう厳しいかというところを解説していただきます。まず、真ん中にボールがきた場合ですね。
内川さん:真ん中の球は普通に振ると、真ん中でしっかりインパクトできるんですけど、インコースの場合は(球が)体に近くて腕を曲げて打たないといけない分、いつもよりポイントを前にして打ちたいんですよね。なので、その分ボールに対する反応も早くしないといけなくなりますし、打者として詰まりたくないってイメージがあるので、近い所を前でさばきたいっていう印象がついてしまうんですよね。
豊原キャスター:それが第2打席のアウトコース攻めにどう影響したのか。
内川さん:1打席目はインコースに5球来たというところを村上選手は考えた中で、次インコースにきたら今度は打ってやろうという意識が働いていると思うんですよ。なので、いつもよりもポイントを前にして、早く反応しようとするんですけども、そこを一転アウトコース攻めになったことによって、ボールの距離感というのは変わってくるんです。遠い所っていうのは引き付けて打たないとなかなか芯に当たらないんですけど、インコースというのが意識にある分、アウトコースのボールがちょっと遠く見えたというところがあると思いますね。
豊原キャスター:その中で第4打席は最後1球を仕留めた。ここに村上選手のすごさがあるという事ですか?
内川さん:そうですね。あの打席はスリーボールツーストライクになった時に、ある程度ストレートで勝負にくるというのは、村上選手の場合感じたんだと思うんです。打った瞬間、普通の風だったらホームランだと思うんです。ただ、今日はライトからレフトに風が吹いて逆風でしたので、結果的に入らなかったですけど、3打席抑えられていても、この最後の打席で1球の甘い球を見逃さずに仕留められる村上選手。これはやっぱり今年もすごい存在感を出してくれるんじゃないかなと思いますよね。
豊原キャスター:やはり今年も村上選手をどう抑えるかとなってきますか、各チームは。
内川さん:昨年の三冠王ですから。村上選手の出来でヤクルトのチームの成績は大きく変わってくるのかなと思いますね。
内川さん 野球人生初の順位予想
中川キャスター:開幕3連勝はヤクルト、阪神、ソフトバンク。DeNA、広島、ロッテは3連敗。内川さん、まだ開幕3試合目ですからね。
内川さん:そうですね。3連敗のチームは共に敵地で開幕していますし、火曜日(4月4日)からは本拠地に戻りますので、そこで仕切り直しができるかなと思うんですけど。ただ、去年のオリックスとソフトバンクの戦いを見ると、同率でオリックスが優勝しているんですよ。やはり1勝の重みがこれだけ感じられるシーズンはなかなかないので、それを踏まえると早く1勝したいのが本音だと思いますね。
中川キャスター:そんな内川さんにこの開幕3試合を踏まえまして、順位予想をしていただきましたのでお願いします。
中澤さん:あら、内川さん、順位予想しても大丈夫ですか?後々大変な事になりますよ。
(※順位予想がちょっと苦手な中澤さん。)
内川さん:実は僕、野球人生で初めての順位予想なんですよ。
豊原キャスター:ありがとうございます。では早速拝見しますと、セ・リーグはヤクルト3連覇と予想ですね。その理由はどんなところですか?
内川さん:塩見泰隆選手がまだいない中でも、濱田選手や内山壮真選手が今日も1番2番でいい仕事をしていますし、S.マクガフ投手が抜けた穴を田口投手が3連戦で2セーブあげていますから、そういう選手層の厚みなんかを見ると、僕はヤクルトが優勝には一番手じゃないかなと見ていますね。
中川キャスター:一方パ・リーグはどうでしょう?
内川さん:昨年と同様ソフトバンクとオリックスが2強の中でレギュラーシーズン進むんじゃないかなというふうには見ています。
中川キャスター:今後も時々この内川さんの予想を思い出しながら、是非皆さんシーズンを見ていきましょう。
最後は地元でユニフォームを脱ぎたい
豊原キャスター:そして内川さんご自身も先月シーズンが開幕したということですね。
内川さん:はい。そうなんですよ。開幕しました。
豊原キャスター:今年から地元の独立リーグ、大分B-リングスで内川さんはプレーをされています。アットホームな感じですよね。開幕戦では豪快な決勝ホームランをお打ちになったと。
中澤さん:まだまだいけるんじゃないですか。内川さん。
内川さん:僕もまだまだ本当はいけるんじゃないかなと思いました。笑
中川キャスター:内川さんが独立リーグでの現役続行を選ばれたのはどうしてですか?
内川さん:NPBを引退というのは決断したんですけれども、まだ自分の体が動く中で野球を全くやらないってイメージがなかったんですよ。でもこの歳になって、まだプレーをするというのは何か理由がないと気持ちが前向きになれなかったので、そういう意味で地元の大分県にあるチームで、両親もいますし、知人もたくさんいますので、そういうみんながまだユニフォームを着て野球をやっている姿を見たいと言ってくれましたんで、自分の中でも最後は地元でユニフォームを着てみんなに勇姿を見てもらって、ユニフォーム脱ぎたいなって思いましたね。
馬瓜さん:独立リーグに行ってみて気付いたことはあったりしますか?
内川さん: NPB時代がいかに恵まれていたのかというのはすごく感じますね。やはり施設もしっかりしていましたし、練習がしたいと思えば球団の施設行けば何でもできたんで。独立リーグの場合は練習環境であったり、グラウンドも時間の制約がありますから、そういう制約の中でも、いかに自分が練習場所を見つけながらどういうふうにやっていくのかっていうのを今やっている立場からすると、僕こんなに野球が好きだったんだって改めて感じています。
豊原キャスター:現役とキャスターの二刀流でよろしくお願いします。
内川さん:よろしくお願いします。