Jリーグ30年 欧州クラブチーム監督 ヨーロッパ目指す若い選手たちにアドバイス

NHK
2022年6月1日 午後2:34 公開

1993年に始まったサッカーJリーグが節目の30年目を迎えました。海外から見てJリーグに足りないところは?現在オーストリア3部チームの監督を務め、ヨーロッパと日本のサッカー事情に詳しいモラス雅輝さんに話を聞きました。モラス雅輝さんは20年以上にわたりヨーロッパで選手の育成に携わり、Jリーグでもコーチを経験しています。5月29日に放送したサンデースポーツの一部を再構成してお伝えします。

ー Jリーグの誕生から30年目のシーズン、サッカーの変化や進化をどうご覧になっていますか?

1993年Jリーグが誕生した当時と比べても本当に進化したと思います。ピッチ上のプレーレベルだけではなくて、Jリーグの全体的な環境、様々なソフト面が発展していることは間違いない。国際的に見てもすごく魅力的なリーグかなと思います。ピッチ上での競技レベルもずっと上がっている。戦術面もフィジカル面も育成もどんどんレベルが上がっている。リーグ全体のレベルが上がっていることは間違いない。
ただ一つだけ忘れてはならないのは、Jリーグがレベルアップしているのと同じようにヨーロッパのサッカーもどんどん進化している。例えばドイツブンデスリーガも、今から10年前15年前のサッカーと今のサッカーでは大きな違いが出てきている。世界のどこでもレベルがどんどん上がっている印象です。

ー サッカーはどういうふうに変わってきているんですか?

一番大きなポイントは、インテンシティ(プレーの強度)がどんどん高くなっているということです。僕がヨーロッパで指導者を始めたのが1997年なんですけれど、いま当時の90年代のサッカーをもう一度映像などで見直すと、「なんてインテンシティが低かったんだ」と思うことがすごく多いです。(いまは)ピッチ上で選手に対して時間とスペースがほぼ与えられないサッカーになっている。インテンシティ、特に相手ボールのときに何をするかが、ここ15年間の大きなポイントだったんじゃないでしょうか。

ー Jリーグのレベルは、ヨーロッパではどのリーグに相当するんでしょうか?

ドイツ、イングランド、スペイン、イタリアの4大リーグと比較すると、予算の違いというのがありますし、まだこれからかなっていうところはあります。ヨーロッパの中堅リーグ、ステップアップリーグと比較ができるんじゃないかなと。例えばボールの扱い、ボールを持ったときの技術の高さ、そういうところで言えば、Jリーグを見てすごく上手い選手が多い。僕の周りでもいろんなスポーツディレクターと話をしていて、 ボールを持ったときはうまいよねっていう話はよくします。なので、ヨーロッパを目指す若い選手たちにもし一つアドバイスできるとすれば、相手ボールのときのアクションプレーをいかに増やすか、そしてインテンシティを上げるかというところが大きなポイントになるかな。

ー 日本の選手の良さ、プレーの連動性、連続性はヨーロッパでも求められる要素でしょうか?

自分がいるドイツ語圏では特に、いかに相手ボールのときに連動して動いて、相手にプレスをかけていくかということがすごく大きなテーマで、そういう意味では、連動性というのは、ヨーロッパの戦術的な地位の中でもすごく大きなポイントです。選手たちがそれを実行できなかったならば、試合では使えないよねと判断されることがすごく多いです。今はボールを持ったときに素晴らしいパスを出せます、たくさんのゴールを決めることができますというだけではやはり足りない。相手ボールのときにいかに連動して動いていくか、どこの選手に対して圧力をかけてボールをどこに出させてどこで奪って、奪った後の切り替えのときにどう動くかという連動性が必要になってくる。そういう意味では、日本人選手がその連動した動きに慣れている、そういうことを育成時代から学んでいるというのは大きなプラス要素になるんじゃないかと思います。

ー Jリーグのサッカーの質を上げるために必要なことは何だとお考えでしょうか?

外国から優れた外国籍の選手がJリーグに来ることによって様々な刺激を得ることができるというのは素晴らしいことだと思います。ただ現実的には、Jリーグには外国籍選手のルールというのもあるわけですし、一番はやはり(選手の)育成になるかと思います。今まで以上に みんなで力を合わせて、日本のサッカーが今以上に高い人気を得て、子供たちがもっとたくさんボールを蹴るようになって、草の根から重視していく。代表選手、もしくはアンダーの代表選手、あとは大学・高校の有名なスター選手たちがよくメディアで取り上げられて、彼らについて語られることが起きるのは当然の現象なんですけれど、日本サッカー界の今後のレベルアップということを考えると、トップオブトップの選手たちだけの活躍、もしくは彼らがさらにステップアップできるような環境だけではなくて、育成、ベースのところから全員で上げていく必要があるかなと思います。

できる限り様々な世界最先端の情報、サッカーに関する情報がどんどん日本の業界にも入ってくる。そしてJリーグで仕事をしているいわゆるプロレベルで仕事をしている人たちだけではなくて、草の根で活動する人たちのところまで様々な情報が入ってくるようにする。ボランティアレベルで子供たちのためにすごくたくさんの時間を費やしている指導者たち。 もしくはアマチュアクラブの経営者の方々が海外の最新の情報を常に仕入れることができてそれを現場で生かすことができるような環境をみんなでつくっていくことが重要ではないかなと。そうすると、草の根から、もしくは保育園・幼稚園のころからの育成レベルがどんどん上がっていって、最終的にJリーグのレベルの向上そして、 代表チームのレベル向上につながるんじゃないかなと思います。
もちろんワールドカップで結果を残したいとか、何年までにワールドカップで優勝したいっていう気持ちや目標も大切だと思いますけれど、 代表チームだけではなくて、草の根の育成でも、様々な世界最先端の要素を取り入れていくってことが、今後のすごく大きなキー ポイントになるんじゃないかなと思います。Jリーグはこの30年素晴らしく発展しましたからね、次の30年間が本当に楽しみです。