日本を代表する指揮者のひとり、西本智実はこれまでおよそ30か国でステージに立ち活躍を続けている。
2012年、西本は自らが芸術監督を務める「イルミナート」(IlluminArt)を創立。「明るく照らす」「啓蒙する」などの意味のIllumineと芸術であるArtをリンクさせるという願いをこめ、オーケストラだけではなく、オペラ、バレエ、合唱など、ジャンルの垣根を超えた総合芸術として、新たな舞台を作り上げている。
2013年には、アジアの演奏団体として初めてバチカン国際音楽祭に招へいされ、広島長崎の原爆投下から70年の節目となった2015年には、平和への祈りを世界に向けて発信した。
そんな西本が感じている、音楽との向き合い方とは。
――――――――――――
佐治:これまで色々と新しい演出や試みをなさってきましたけど、これから先、どういう音楽、音楽だけに限らず芸術活動を含めて、残していきたいか、あるいは作っていきたいか。
西本:総合芸術を目指しています。例えば楽譜を読めない人も含めて一緒に、人類の叡智(えいち)をもう一度確認したいと考えています。
佐治:なるほど。まさにボイジャー計画ですね。人類の叡智を結集し「地球の人類は、宇宙の中で孤独なのか、それとも孤独でないのか」ということに挑戦したことでしたから。
“平和”という言葉を軽々しく使うのはどうかと思いますが、あえて使えば、人類の平和というものを“イルミナート”という芸術を通して発信していけるとすごくいいですね。
西本:私はロシアにもウクライナにも友人がいます。音楽仲間がたくさんいます。音楽を通じて話していたし、やりとりをしていたんです。今もつながっているそれが、どうして隔たって分断されているのか。…そこを変えていきたい。ですからまず、自分が変わるということです。
佐治:とても重要なことですね。相手と理解し合うことのポイントは、やもすれば「人を変えたい」と思う場合が多いんですね、権力者というのは。だけど「自分が変わる」ということは「歩み寄る」ということで。
ふと気がつくとそれが“平和”に結びついている。これができるのは音楽なのかもしれないですね。
2022/7/4 スイッチインタビュー「西本智実×佐治晴夫」EP2より