立川志の輔「0.0何秒の間で笑いが違う。だから“同じ落語”はできない」

NHK
2023年8月4日 午後9:59 公開

落語家・立川志の輔は“立川流の最高傑作”と呼ばれており、芸歴41年を迎えた現在も年間100回近く高座に上がる。古典もさることながら、現代を巧みに取り入れた新作が若い人にも大人気。過去も今も「最もチケットが取れない落語家の1人」だ。

エンターテインメント性豊かな“志の輔落語”の世界。そのルーツは演劇にある。演目ごとに、落語の想像の世界が目の前に広がり、観客はギャップを楽しむ。毎年1月、渋谷の劇場で開催される志の輔落語の1か月公演は、あの手この手の舞台演出が話題を呼び、毎年1万2千人以上を動員。チケットは即日完売するほどの人気である。


志の輔:「正月から笑うといいことがある」なんて言ってるのは日本だけでしょ、きっとね。なので、お正月公演はめでたく、たくさん笑ってもらってという構成にしているよね。

飯塚:ああいう演出をされている方は(他に)いらっしゃるんですか?

志の輔:いや、いないでしょ基本的には。いろんな劇場を回っているから分かってもらえるかもしれないけれど、劇場にはどこにもちゃんと楽屋に神棚があって、そこに劇場の神様が多分住んでいらっしゃって、そこで何かをやろうと思って考えている時に「いや、それよりこっちの方がこの劇場に似合うんだけどな」って神様が言ってくれているような気がするんですよ。

飯塚:神棚に手を合わせた時に構成とか演出が降りてくるんですか?

志の輔:というより、その劇場に観に行ったりするときに。僕、演劇もコンサートも大好きで本当に。

飯塚:いろいろ観に行かれるんですね。

志の輔:大好きなの。1か月稽古して1か月公演やっている劇団の人たちとか、コンサートとか。人の作ったもの見るのが大好きで、知らず知らずのうちにかなりのヒントをいただいていると思う。
 

客席にいる、一人一人の想像力が集まって笑いがさく裂する落語。舞台ならではの生の笑いにこだわるのは飯塚も同じ。

そこには様々な駆け引きも起きているという。  

飯塚:このボケ足したらどうなるんだろうとか、ここを削ったら、しかも語尾をちょっと変えたらどうなるんだろうとか。何か研究に近くないですか?

志の輔:うん。近いよね、確かに。

飯塚:ほんのちょっとで変わる。

志の輔:ほんのちょっとですよ。0.0何秒の間と、音の高い低いで、本当に人って笑うか笑わないか。だから毎回同じ落語はできない。恐らく何人でやるお芝居も、絶対同じものは二度とない。

飯塚:こっちがいくら同じ間でやっても、お客さんが集中しているかとか、例えば、咳(せき)1つでちょっと変わるじゃないですか。こっちが作った間がその咳で変わってしまうから、またある程度間を作り直さなきゃいけない。

志の輔:くしゃみとかは本当に別にその人は、なんの悪気もないんだけど、大事なところで「クシュン!」

飯塚:ははははは!笑

志の輔:今それ、なんで…って。

人情噺で、最後は泣いていただこうと思っている話の時に。でも滑稽話のただ笑えばいい(場面)なら、例え登場人物がおばあさんであろうと「あんたね、くしゃみしてる場合じゃないよ」という一言だけでもっと笑いが多くなる。そんなことを一回体験してしまうと、次もくしゃみがあったら何か言えばいいのかというところと、これは言ってはいけないというところの0.0何秒の判断ね。あれは…

飯塚:それ考えている間に他のセリフかんじゃったりとかして、さらに(自分に)イライラしちゃって笑。ありますねえ。
 
 

2023/8/4 スイッチインタビュー「立川志の輔×飯塚悟志(東京03)」EP2より