俳優・高橋克典。ドラマ『サラリーマン金太郎』で一躍大ブレイク。底抜けの明るい演技で、日本中にその名を知らしめた
現在放送中のNHK朝の連続ドラマ小説『舞いあがれ!』では、ヒロインの夢を支える父親役を好演している。最近は俳優以外の仕事にも活躍の場を広げている。
50代にして豪傑で爽やかなラガーマンから、戦いに明け暮れる戦国武将、悪徳不動産会社社長まで、演じる役は幅広い。一体どんな思いで演技をしているのか。
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佐藤:常に作り込まれた演技をされていると思うのですが、理想の演技は模索中なんでしょうか。
高橋:いや、(理想は)作り込まない演技です。笑
佐藤:自然体でできるような。
高橋:人が僕のことを好きでいてくれることを僕は信じきれないところがあって。自分で自分の存在肯定ができないままにずっと生き続けているような。だから、役をやっている時の方が普段生きているより楽。
いろいろなキャラクターをやることで、自分のリアルな人生から逃げ続けてきたところもあるかもしれないですけど、妻や子どもができて、家庭を持って生き始めると、どうしても自分を必要とされますよね。なんていうか…逃げられない。
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1964年、音楽家の両親の元で生まれた高橋。父の勝司は戦時中、特攻要員に選ばれ訓練を受けた。戦争の傷を負った勝司は酒に溺れるが、音楽と出会い、立ち直る。その後、音楽教師となり、長い間教壇に立った。
高橋は、小学校から都内有名私立に通うも、仕事が忙しくてなかなか触れ合う機会のない父に対し、寂しさを抱く。中学ではラグビーに没頭。次第に自分の好きな事をするようになっていくが、ラグビーは高校1年で辞めることになる。この頃、高橋家が多額の借金を抱え、自宅も抵当に入る事態となったのだ。
両親は仕事に逃げ込むようになり、高橋は“ひとりぼっち”の日々を送るように。壊れてしまった家庭。 父に閉ざした感情。自分を表現したくて俳優になるが、華やかな芸能界の中に身をゆだねると、心の中に“埋められない何か”がたまっていった。
“リアルな人生”を探し続けた高橋は、いつしか家庭を持つことに夢を抱くようになり、守るべき人のため、逃げることを止めた。
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佐藤:そういう心境の変化は、仕事にも影響あります?
高橋:すごく大きいと思います。
何て言うんでしょうね。本当の意味で“自分のためじゃない”仕事の仕方になったような気がしますね。ちょっとフォームを変えているみたいな感じで、本当にお恥ずかしい話、いまだに模索しているんですけど。
佐藤:今後の展望や、俳優以外でしてみたい仕事などお聞きしたいのですが。
高橋:今、幸いなことに、バラエティーに呼んでいただけるんですけど、すごくいい経験で笑ってもらえる。
後から勉強して知ったことなんですけど、アリストテレスが「演劇とは」というベースで悲劇論を書いたんですよね、当時。で、次、喜劇論を書くはずだったのに、書く前に死んじゃったという話があるんです。だから悲劇論しか残ってなくて、そうすると、演劇というのは悲劇論が正統だと受け取って発展してきたことがあるらしいんですよ。
佐藤:本来は喜劇と両輪だったのに、悲劇が本道になったということですね。
高橋:悲劇の作品を見ると、自分のリアルな生活でたくさんなんです。子どもの時の絶望から始まっているから、楽しいもの、あったかいもの、僕はどうしてもそういうのが好きなんですよね。
2022/10/17スイッチインタビュー「高橋克典×佐藤祐輔」EP2より