尾上松也「みんなが同じ思い、情熱で動いたチームは強い」

NHK
2023年2月27日 午後11:20 公開

歌舞伎俳優・尾上松也は現在38歳。

5歳の時に初舞台を踏み、名子役として活躍。女形を多く演じた時代を経て、現在は若手歌舞伎俳優のリーダー格として公演を支えている。


原:歌舞伎の魅力をどう感じている?

尾上:僕、個人的に好きなのは歌舞伎の持っているエネルギー、力といいますか。ほかの演劇にはないパワーを持っているんですね。というのは、歌舞伎は何年も積み重ねてきた型というものがありまして。その確固とした土台というものがあるからこそ、歌舞伎の演出というか技法にかかってしまうと、どんなものでもある程度、なんでも成立させられちゃうという点が僕は歌舞伎のすごいところと思っていまして。

原:なるほど。

尾上:僕は、むちゃくちゃなストーリーであればあるほど好きなんです。もうとんでもない話でも、最後に男役、立役の人が、「ばったり」って見得を切っちゃえば歌舞伎になっちゃうみたいな、そういうすごさってかっこいいなと常に僕は思いながら。

原:伝統を守れているというのも素晴らしいことでしょうね。

尾上:そうですね。それでいて実は柔軟でして。だからこそ、今も新作歌舞伎もたくさん作られていますし、いろんな題材を歌舞伎にできているのは柔軟性だと思うんですね。

歌舞伎をご覧になってない方にはすごく堅いイメージがあると思うんですけど、そんなことはなくて、そもそも歌舞伎の概念というのがあまりなくて。先輩がおっしゃっていたことですごくかっこいいなと思うことが、「われわれ、歌舞伎役者が歌舞伎だと言えば全部“歌舞伎”になるんだ」というのは、まさに。

原:お相撲さんが鍋を食べると全部ちゃんこ鍋っていうね。

尾上:ああ、そうです。それに近いものがあると思うんです。
 

歌舞伎の魅力を知ってほしいと、様々なジャンルで挑戦を続ける松也には、思い入れのある公演がある。自ら企画・制作を務める自主公演『挑む』。20代の頃、思うような役に恵まれなかった松也が芸を磨くため自ら立ち上げた。始めたきっかけは、名わき役として活躍した歌舞伎俳優の父・尾上松助が若くして亡くなったことだという。  

原:お父様が突然亡くなられて、一匹おおかみ的なところがありましたか。

尾上:僕の後輩たちの環境や家庭、お父さまもご健在でというのを見ているとすごく羨ましかったです。今思えば、(父に)もっともっと聞いておけばよかったと思う事が沢山ありますけど、年齢的にこっ恥ずかしいところもあって。でも僕、二十歳の時に父がいなくなるなんて思っていませんでしたから、すごく色んな事を考えました。

そんな中、自分がどうチャンスをつかんで、歌舞伎界の中で、役をもらえるようになれるかと考えたときに、待っているだけではなかなかチャンスは巡ってこないというのは分かっていましたし。今そういう場がないのであれば、自分でつくるしかないと思って、たまたまそのとき一緒に賛同してくれる仲間が近くにいたもんですから、彼らの力を借りて、もう無理やり自分を奮い立たせ、始めたっていうのがきっかけでしたね。

原:その考えも凄いね。

尾上:逆に父が元気だったら、そこまでのバイタリティーが自分に生まれていたかと、ふと考えたりするところはありますね。父が亡くなったからこそ後押しをしてくれて、もっと頑張れと言ってくれたのかなというような気もしなくもないなと。

原:自主公演、自分がトップでやる仕事というのは、とても自分を成長させますよね。

尾上:そうですね。例えば舞台でいうところの技術、スキルが磨かれるのは当たり前だと思うんですけれども、実は、それ以外のところで学ぶことが多かったですね。要は、どうやってみんなの心を1つにして、みんなやる気になってもらうかというところは、舞台を、役を務めるだけではなかなか感じられない、勉強できないようなところもたくさんありました。

原;なんとかお客さんにたくさん来てもらう、いい演劇をするということを、自分と同じぐらい思ってほしいと思うときってあるでしょう?

尾上:本当にまさにそのとおりです。スタッフさん、共演者の皆さんも含め、同じような思いでやってもらいたい、同じ情熱を持ってやってもらいたいと思うんですよね。それが結果的にどうなるかは分からないんですけれども、やっぱりそう思ってやったチームって強いと思うんですよ。

例えば野球でいうところのスタメン、スターティングメンバー以外の人たち。演劇でいうところの主役ですとか準主役、せりふのある人たち。せりふがない人たちもいる、でも、その人たちが横を通ってくれないと雰囲気が出なかったりするわけです。

原:もう一緒です。

尾上:そうなんです。「あ、自分も必要とされてるんだ」と思って一緒にやってもらいたいっていう意味で、チームのつくり方というのは同じ思いかなと今、感じましたね。

原:リーダーになったから、たぶん早めにお気付きになったと思う。

尾上:そうかもしれないですね。
 
 

2023/2/27 スイッチインタビュー「尾上松也×原辰徳」EP2より