2011年から家族に作る毎朝のスープをSNSに投稿し、話題になったスープ作家の有賀薫。その数は10年間で3500食以上にものぼる。身近な食材で手軽に作れるレシピや、「スープ作家」という肩書きが注目され、数多くのメディアに出演。暮らしに寄り添った、頑張らないスープが人気を呼び、著書の累計発行部数は27万部を超える。
飯豊:有賀さんから見たスープの魅力とは?
有賀:本当に生活にぴったり寄り添ってくれる料理ということが一番大きいんですね。鍋ひとつでできて、野菜もお肉もお魚さんもなんでも、具材なんでも入れられて、栄養もたっぷりとれて。人と分け合うことができるし、作り置くこともできる。それで失敗もしづらい。
こういう料理って、暮らしの中で自分の定番として持っておくと台所仕事もすごく楽になるし、それにスープってすごく安心感がありませんか?
飯豊:たしかに感じます。
有賀:それがすごく自分の中では大きくて。外に出て仕事をしたりとか、いろんな人間関係などがあったりしたときに、いろんな感情が出てくることもあると思うんですね。
そういうときにおうちに帰ってきて、“日常のスープ”みたいなところに帰ってくると、すごく心が安心する。そういうのがスープの効用かなと思っています。
飯豊:私も、おうちでスープを作って外に出るときも、相棒のようにスープを持っていくと、どんなときでも少し自分に戻れる時間になるというか。夜遅く帰ってきてもすぐ温めて食べられたり、ちょっと次の日の準備している間に煮込んで味付けして食べられたりとか。夜食としてもいいですね。罪悪感がない。笑
有賀:「(スープは)罪悪感がない」ってよく言われますね。
スープ作家である有賀には、レシピを考案すること以上に大切にしていることが。それはSNSに送られてくる主婦の悩みに寄り添うこと。
スープ作りを通して、暮らしのあり方を提案し続ける有賀が「毎日料理を作る主婦」に伝えたい思いは。
有賀:料理の悩みってめちゃくちゃいっぱいあるようで、実は5個とか6個ぐらいしかないんですよね。いつも同じことをずっと延々と悩み続けているんですよ。笑
私もずっと長いこと料理をしているので、「あーあるある!」って共感するというか、みんなの悩みは、自分が感じてきた悩み。例えば、「冷蔵庫の残り物をどうしよう」「味がマンネリになってしまう」「作るけど、子どもが好き嫌いが多くてなかなか食べてくれない」とか。でも私が思うに、具体的な解決策は結構出揃っていて、どこかにあるんですよ。多分、みんなが悩んでいるのは、具体的なことではなくて、心の部分というかね。
飯豊:例えばどんな?
有賀:「料理ってこうじゃなきゃ」と思い込んでいる人がすごく多いんですよ。今、SNSとかですごくゴージャスな家庭料理などをいっぱい載せられている方もいたり、料理の情報自体が雑誌を見ても何か素敵な食卓を目指していたりするようなところがあって。それはそれで素晴らしいけど、「うちではこんなにできない」と思い込んで、つらくなっちゃっている人がすごくいっぱいいる。
飯豊:でも、それってSNSが始まってからですよね。他人と自分を照らし合わせて、比べちゃうっていう。
有賀:確かにそう!以前は家庭料理、他人の家の料理なんて見えなかったんですよね。スーパーで人のかごをのぞき込んで、「この家、今晩カレーだな」くらいしかわからない。
飯豊:なかなかそれも見ないですよね。笑
有賀:なかなかそれも見ない。そのぐらいだったのが、今本当に見通しがよくなったというか、みんな「他人の家はこんなに素敵なご飯食べているのね。それに比べて私は…」と思っちゃう。
飯豊:SNSで見える料理などで、みんなが「こうじゃなきゃいけないんだ」っていう理想がどんどんどんどん膨らんで、個としての魅力がなくなっていく。みんな同じものになっていくのがすごく自由じゃなくて。
有賀:ホントですね。もっと、作る人が自信を持っていいと思うし、「これでいい」って言えるようであってほしいなと思っています。
2023/4/21 スイッチインタビュー「飯豊まりえ×有賀薫」EP1より