日本陸上界の常識を破り続けるプロランナーの大迫傑は、男子マラソンで日本人選手初の2時間5分台のタイムを出し、日本記録を2度更新。また、中・長距離トラック種目2つの日本記録保持者でもある。
2016年、5000mと10000mでオリンピックに初出場、2021年の東京オリンピックではマラソンで6位入賞を果たしたがその直後に現役を引退し、注目された。
大迫:“退く”っていう言葉は好きじゃないですけど、本気で走ることを一旦ストップする、違う方向にシフトしていくことを決めていたんです。“ゴール”を決めないと自分自身が出し切れないと思いましたし。
なぜかというと、東京オリンピックという自国開催で、知らず知らずのうちに自分にプレッシャーをかけていた。その中でオリンピック後も走ったら、自分自身が燃え尽きちゃうなって。燃え尽きている自分と会いたくない。「ここで一回区切り」というくらいの気持ちでやりたいと。
しかし引退後、こん身の走りをする同僚を見た大迫は気持ちの変化を感じ、再び走ることを決意。ことし3月の東京マラソンでは、日本人3位となり、パリ・オリンピック選考レースの出場権を獲得した。
挫折と挑戦を繰り返し、陸上界やマスコミの常識を破る大迫の決断。いつも走りながら“自分の声”に耳を傾け、答えを導きだしていると語る。
大迫:東京マラソンもやめようかなと思っていたんですけど、「これから世界と戦うためには、この短いスパンでもしっかりと合わせることが重要だ」とコーチと話して決めたんです。
周りからしたらおそらくMGC(選考レース)への出場権を捨てて、違う突拍子もないチャレンジをすることが“大迫傑っぽい”と見られているんだろうなと感じてて。でも、自分は何が目的かゴールか、何がベストかと考えた時に、東京マラソンを走るのがベストじゃないかって。
SKY-HI:アスリートはひょっとしたらアーティスト以上に偶像化、神格化されやすい気がするんですよね。美談も多いし、本人の望む望まざるにかかわらず切り取って、そこだけ繰り返し繰り返し反すうされていくから功罪があるなと思っていたんですけど。
大迫:3月の東京マラソンのレースも、僕としてはすごくいい出来だったと思いますし、そう言ってくれる方が多いですけど、順位で見た時に(全体の)9位で、これが本当に満足するのかと。色々考え出すとキリがない。でも、僕自身は自分自身の評価を大事にしてる。
SKY-HI:自分の、自分に対する評価。
大迫:そうですね。自分がどうしたいか、本当に自分がどう過ごしたいのかをまず、素直に声を聞くようにしていて。
ただ、必要ない部分でいうと、「他人からこう思われている自分」を想像して、「大迫傑はこういう人間だから、次のアクションはこう起こすべきだ」と考えてしまう時もあるんです。でも、「それは本当に自分がやりたいことか?」ともう一回キャッチボールすると、「やっぱりこっちだな」と思うんですね。
次世代アスリートの育成にも力を注いできた大迫は、学校やチームの垣根を超えたプロジェクトを立ち上げ、世界に通用するランナーを育てている。
2年前には会社を設立し、自ら大会もプロデュース。マラソンを通して健康増進や地域を元気づける事業を展開している。
周囲の声に惑わされず自分の信じる道を進む、2人が目指す先とは。
大迫:アスリートって何か応援されたり、見てくれる人が感動したりするだけじゃない、もっと何か貢献できるというか、僕らの価値って他にないのかなとずっと考えていて。
次の目標にどう進んでいくかも含めて、(アスリートの)僕らが自然にやっているけど、子どもたちに伝えていける1つの大きなスキルだなって。しかも、実体験を基に話せて、分かりやすいと、ふと思って。特に子ども時代はあまりそういうことを授業で習わない。
走ることの楽しさや体を動かすことの重要性はもちろんありますけど、その後にワークショップをやって、目標の持ち方や、「そもそも夢はどんなものから形成されるのか」「夢や目標を持った時に達成していく要素は何だろう」みたいなことを考えることを、休みの毎週末、いろんな各地を回ってやってますね。
SKY-HI:大迫さんのゴールはどこになるのでしょうか?
大迫:ゴールってないなというか。結局、一つの目標を決めて達成した後も、絶対出てくるじゃないですか。
SKY-HI:そうでしょうね。
大迫:次のところまで行って、そこでまたさらに走り始めるの繰り返しかな。自分自身がずっと自分に興味を持てている活動をしていきたいなって。
逆にどうですか、自分自身の人生の中で達成してみたいことは?
SKY-HI:うーん。時代はどんどん移り変わっていくものなので、自分も30代をそのうち終え40代に入り。達成したいことでいうと、見渡す限りのお客さんたちが確実に、人種とかセクシュアリティーとか、環境全てを超えただろうっていう光景を日本初のもので作りたいっていうのはあるかな。
大迫:そう考えると何かありそうですね。僕自身も。
SKY-HI:ありそうですよね。
大迫:ランニングを通してのことに絶対なるし。(ランニングは)ほぼ誰しもができる競技だからまずはアジアから。アジアの人たちに自分たちの陸上を通してどう貢献できるか、応援してもらえるか。その先に世界へと考えていきたいですね。
SKY-HI:大迫さんにとって、走ることやマラソンをより色々な角度で見ると、スゲー好きになるみたいなことはないですか?
大迫:そうですね。今までは「競技としてのマラソン」、たぶん1面2面でしか見られてなかった。それが「ライフスタイルとしてのマラソン」「自分が好きなものとしてのマラソン」「趣味としてのマラソン」と捉えた時に、あらためて走ることが好きだなって。
自由に走ることによって、自分が目的に本気になることで、何かいい影響を周りに与えていけたらみんなハッピーかな。自分だけが犠牲になって頑張るわけでもなく、一方的にこっちに行こうよってファンの方も含めて見せる訳でもなく、誰も無理してない。ポジティブな。
SKY-HI:そうですよね。
2023/6/9 スイッチインタビュー「SKY-HI×大迫傑」EP2より