2022/4/25の『平野啓一郎×ryuchell』に出演いただいた作家・平野啓一郎さん。
平野さんが語った「心に残る言葉」をご紹介します!
「――母を作ってほしいんです。」
平野の最新作『本心』の舞台は、2040年代の日本。物語は29歳の主人公の独白から始まる。
高齢の母が亡くなったことを受け入れられない主人公。専門業者に300万円を支払い、仮想空間に母親そっくりのアバターを作り、一緒に暮らし始める。
平野:親を亡くして、お母さんの代わりにAI人間をつくると聞くと、僕たちはついつい「ちょっと気持ち悪い」「普通じゃない」という感情を持ちがちだけど、そういう人に向かって「そんなの偽物じゃん」と言うことはできないと思うんですよね。
だから、埋め合わせる存在としての“AIのお母さん”を肯定的に描きたかったんですけど、とはいえ“やっぱり人間とは違う”という揺れ動きのようなものを書きたかったんです。
ryuchell:『本心』を読ませていただいて一番思ったところです。本当に家族って大切だから、最新技術を使ってでもすがる思いに僕は分かるなって思いました。
毎日一緒に過ごすうち、生前には知りえなかった”母親の本心”に触れていく主人公。しかし物語の終盤、心境に変化が現れる。
<母>と会話する頻度が減った(中略)
僕は、あの機械を卒業しつつあるのだろうか?(中略)
そのことを考えているうちに言い知れぬ寂しさが込み上げてきた
平野:人間に備わっている1つの能力と思いますが、あるときに「もうそんなに悲しくない」という自分に気が付いてがく然とすることもあるんですよね。あんなに愛していたはずなのに、気が付けばそんなに悲しまずに毎日を過ごせていたり、思い出す機会も減っていたり。少しずつ元気になることは悪いことではないという考え方も、僕は必要だと思っていて。
仮に自分が今日、あすで急に亡くなって、あの世から自分の家族を見たとき、僕が死んだことにずっと苦しみながら家族が一生を終えることを僕は望まないんですよね。やっぱり、そこから元気になってほしい。だから、家族を亡くした喪失感から自分が立ち直っていくことに罪悪感を持たないことも大事とも思って。それを肯定的に書きたかったんです。
ryuchell:生きていくって、どうしても前を向いていかないといけないんですよね。僕はまだ家族を亡くしていないのですが、26歳の今『本心』に出合えて読んで、30、35、40と、これから人生を歩んでいく中で読み返していく小説になるのは間違いないです。
平野:ありがとうございます。そこまで言ってもらえて、本当に作者としてはうれしいです。
EP1でryuchellさんが語った「心に残る言葉」はこちらから!