中野純「闇に溶ける気持ち良さ、解放される感じ」

NHK
2022年8月30日 午後5:54 公開

中野純は、「自ら体験を作り出し、それを書く」という「体験作家/闇歩きガイド」。「サイハテ」や「辺境」のような光景を歩いては、軽妙なタッチで文章にしたためる。  

日常の傍らにある非日常をテーマに体験取材してきた中野が、もっとも力を入れているテーマが、「闇」。灯(あかり)を点けずに街の暗闇を歩いたり、終電で山に向かい夜通し登ったり、自ら「闇歩き」を企画しガイドする。

「暗闇には、普通の日常生活や散歩の中では気づかない“不意打ちされる感動”がある」と語る中野と共に、闇歩きの面白さを味わった片桐は「日常の中の非日常を味わうと同時にラクになった」と語る。  

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片桐:はっきり見えないということを諦めたら、こんなに快適でラクチンなんだってことが、今回本当によく分かったというか。
 

中野:「見えない」というのもそうだし「見られない」というのもそうなんですよね。いま自分が笑った顔が相手にどう見られているかなんてことを何も気にしなくて、本当に油断しまくった状態でいられることがどんなにラクか、闇の中にいると感じますね。
 

片桐:本当そう。普段だったら表情をつくっている、今、私の顔をつくってるつもりはないんですけど「つくってるんだな」ということに気付くじゃないですか。

多分、世の中の人みんな今、マスクをしたことですごくマスクの下は楽になってると思うんですよ。
 

中野:少なくとも日本人はなかなかマスクを手放さないんじゃないですかね。マスクが良いカタチなのか分からないけど、よく見えない時間、よく見られない時間というのは必要なんだと思いますよ。
 

片桐:「読まなきゃいけない空気が見えないこと」ってすごいことだなと思いました。闇の中にいると読まなきゃいけない空気はなくなるんだという感じがしたのは「あ、知らない人ともし来ても、これ気持ち良いかも」と思えたからで。
 

中野:まさにそうで、自分の輪郭も見えないから、自分と闇との境目、自分と他人、自分と森との境目もなくなって溶けていくような。あるいは、闇が自分に入ってくるような、区別がどんどんなくなっていってしまって、私とあなたみたいな感じもなくなって。

なんだかちょっと危ない話になっちゃいますけど、それこそ“森の中に魂が浮かんでる”。実感としてはそんな感じで、魂の着こなしや魂の表情とかも別に気にする必要ないし、何からも解放されていくような感じがありますね。
 
 

2022/8/29 スイッチインタビュー「片桐はいり×中野純」EP1より