パワフルな歌声とキレキレのダンスで、観客を魅了する歌手・郷ひろみ。67歳。
1972年のデビュー以来、数々のヒット曲を生み出し、2022年にはデビュー50周年を迎えた。パワフルな歌声とキレキレのダンスは衰えを知らず、全国ツアーやディナーショーなど年間100を超えるステージに立ち続けている。
大ヒットを何度も出していたが、「歌は歌えているけれど、ごまかしながらやっている」と感じていた郷。2002年の47歳の時に突如、音楽活動を休止して単身ニューヨークへ渡る。転機が訪れたのは、伝説のボイストレーナー、ドクターライリーとの出会い。二人三脚で“郷ひろみ”の声を1から見つめ直す日々が始まる。そして3年が経過したころ、確かなテクニックと、大きな自信をつかんだと郷は語る。
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郷:ドクターライリーは実は、セリーヌディオンやシャキーラのトレーニングをつけていた方なんですよ。
教わったことはたくさんあります。わかりやすくいうと、「うぅぅ…」とのどを締めて歌うよりも、「ああぁ~~」とオペラの歌手のように歌うほうが絶対にのどを傷つけない。でも、これは“郷ひろみ”じゃないんですよ。“郷ひろみ”は何かというと、この45度(半分)ぐらい。ここのポジションを見つけるまでに時間がかかった。
他にも、それまでのビブラートをしたら「ひろみ違うんだよ。今のビブラートは浅くて速くなってるんだよ。そうじゃないと今の歌手とは言えない」と言われた。ということは、自分のビブラートを“浅く狭めて”変えていくしかないんです。「え、ビブラート変えるんだ」って思いましたよ。自然にかかる腹筋と背筋だけのビブラートをしてみると「こんなに動いてるんだ!」って。技術的なことも教わりましたね。
武:それまで日本にいるときには?
郷:考えもしなかったです。“声が見える”っていう感じですよね、渦巻いている声が。これはもう、本当にすごいものを手に入れたっていう感覚です。
武:僕も30歳のときに突然、なんとなく「このままで終わるんじゃないかな」とふと思って、アメリカにもう一人でポンッと行って。帰ってきてからドンっと、今まで越えられなかった(勝利)数字もドンっと越えることができました。僕も行っていたのが3年でした。
郷:なるほど。いい経験されたんですね。
武:なかなか厳しかったですが、日本では、何か言えばちやほやしてくれる感覚だったんですけど、海外へ行くと無名に近いですから。日本では逆に経験できないことが、一からまた全部自分でやらなきゃというところが、すごく鍛えられた感じでした。
武:今の10代、20代、若い音楽界のアーティストさんをご覧になって、何か思うことはありますか?
郷:僕が10代の時よりもはるかにしっかりされていますよね。だから、僕にないところがたくさんきっとあると思います。年齢関係なく見て、いいなっていうところを真似していくっていう。
武:特別に気になる歌手の方はいらっしゃいますか?
郷:僕自身がまだまだ現役じゃないですか。引退とかっていうことも考えてないので、そういう目で見ないんですよね。まだまだ後進を育てたいとは思わないんです。
武:実は僕も同じ考え。
郷:ですよね。
武:僕も「誰か、若手で気になる騎手はいますか?」と聞かれても、あまりそういう目線で見られない感じ。だから今、郷さんのお答えにすごく興味あって「同じ感覚だ」というのがすごくうれしかったです。
郷:まだまだ自分が現役でやれる。やりたいっていう意識がすごくおありじゃないですか。僕も同じなんですよね。まったくフィールドは違うけども、同じ考え方。
武:僕も今日、本当に何度もその思いをさせていただいて。
郷:武さんを見ていると、やっぱり僕が考えていることは良いんだなって。笑
武:それは僕のセリフですよ!
郷:いやいやいや。笑
武:時代が変わっていくのに、戸惑いは感じますか?
郷:でも、大きな流れはもう変えられないと思うんですよね、僕一人の力では。だったら、その大きな流れについて行くしかないと思うんですよ。そうじゃないと「昔は良かったよね」「郷ひろみ変わっちゃったもんね」って。
変わり続けていくからこそ「今はひろみさん変わらないよね」って言われるのかなとふと思ったんです。自分が変わり続けていきたいなって。
武:郷さんは、逆に変わらないイメージがすごく強くて。おそらく皆さんそうだと思います。
郷:ありがとうございます。それは、僕自身がその変化をいとわない、自分が変わり続けたいって(思うから)。
武:変わっていっているから変わらないということですね。
郷:僕自身が変わり続けているから、しがみついているから。そういう意識があるからこそ、変化についていっているなと思うんですよね。
2023/1/16スイッチインタビュー「郷ひろみ×武豊」EP2より