東南アジアなどで信仰されているテーラワーダ仏教の長老、アルボムッレ・スマナサーラ。仏陀の教えを日本人に分かりやすく発信し、人生や死との向き合い方を説くスリランカ人僧侶だ。来日して40年。ベストセラー『怒らないこと』などの著作が、多くの人から支持されている。
同世代の小倉智昭に向けて、スマナサーラが発した言葉とは?
小倉:例えば、瞑想とかで「無になる」と言いますよね。修行の世界ではそういうことも学んでいくんですか。
スマナサーラ:瞑想を始めた瞬間に、我々は無になることを教えるんです。こんなことをしたら無になりますよと。「無」というか「空(くう)」というんですね。なってから観察して下さいと。
小倉:簡単になれますか。
スマナサーラ:すごい簡単です。
小倉:僕、「目をつぶって瞑想しなさい。無になりなさい」って言われても、いろんなことが頭に浮かんできて、なかなかできないと思うんですよ、僕の性格から言うと。
スマナサーラ:伝統的に思われている瞑想は、”仏教の瞑想”じゃないんです。”仏教の瞑想”は、“observation=観察”なんです。観察する時は、思考が邪魔なんです。
小倉:観察する時は、思考が邪魔。
スマナサーラ:だから思考をやめて、観察する。
小倉:でも「無になる」という感覚が、僕にはわからなくて。
スマナサーラ:まぁ…当然でしょうね。
小倉:当然ですか? 例えば僕、昔、短距離走をやっていたんです。で、スタートの時に「何も考えるな」、要は「無になれ!」と。そうすると、神経が働いてピストルの音はすぐ入ってくるから、飛び出すのも早い。でも言われれば言われるほど、スタートの構えをしても無になれないんですよね。もうちょっと瞑想したり、修行したりしたらスタートは良くなってましたかね。
スマナサーラ:なりますね。無になったら、”無駄”が消えるんです。この”無駄”が、思考なんです。
小倉:無駄が消える。
スマナサーラ:だから仏教と武士道の世界は一緒で、「無になれ」と言っているんです。例えば、剣道で「この人はこんな構えだからこう来るだろう。だから私はこんな構え」(こんなことを考えていたら)負けます。
小倉:それって例えば「勝ち負けにこだわってはいけない」という教えがあるじゃないですか。僕は1947年生まれで、日本ではベビーブームとか団塊の世代って言われるんですね。で、中学を卒業しても高校に入れなくて浪人するという時代で、1クラス65人ぐらいいるわけですよ。その連中が、何が何でも高校に進みたい、自分の考えている大学に行きたいとか、小さい時から競争ばかりさせられてきたんですね。僕も本当に競争ばかりしてきて、「勝ちたい」「自分のものにしたい」とついつい思いがちなんですが、それっていけないことなんですよね。
スマナサーラ:私が思うのは、やることはベストでやる。
小倉:やることはベスト。
スマナサーラ:だから競争でもないんです、私個人的には。例えばどこかの試験を受けたら、数学以外満点取れないんだけど、(自分にとって)最高の点数を取ってやるぞと!それだけ。
小倉:ベストセラーになった『怒らないこと』は1と2があって、怒らないで人生をやり過ごすことができるのかな?って思ったんです。怒らないということって面白いですか。
スマナサーラ:「まず怒らない」ではなくて、一般の人が怒るところで怒らないでいることが面白いんです。
小倉:私はあまり怒らない方なんですが、やむにやまれず怒ることもあります。でも「怒るということは自分の弱さだ」と聞かされると難しいなと思ったんですけど。
スマナサーラ:どうせ難しいんです。難しいけど、嫌な気分で1日1時間でも過ごしたら損でしょう?
小倉:確かにそうです。怒った後は嫌な気分ですよね。
スマナサーラ:嫌な気分になるでしょうし、体に悪いし、能力も減るし。
小倉:例えば「これだけは見過ごせないぞ」という時、怒る代わりにどう対処するんですか?
スマナサーラ:私は冗談を言うんです。すごい失敗したら「なんで失敗した?」じゃなくて「まぁあなたの能力でやったらこの程度でしょうね」とか。笑
小倉:笑。相手にとってはかなり屈辱だと思うんですけど。
スマナサーラ:でも、本人が「怒られるだろう」と心配するなら、「あなたができることはそんな程度」「もう一度やってみて」(という)とかね。
小倉:それを信じてやったら、大げんかになりそう。
スマナサーラ:冗談は、お釈迦さんがたくさん使った手段なんですよ。冗談というかユーモア。すごい品格のあるユーモアなんですね。
小倉:そうですね。怒った時に、怒る前に冗談を言うということは、相手のこともよく知らなければいけないし、自分もそれに対しての考えを持っていないと、良い冗談は言えないですよね。
スマナサーラ:だから、日常で訓練するんです。日常生活でそれをやらなくちゃいけない。どんなネタを言うか考えなくちゃあかん。前のネタは通じませんからね。笑
小倉:お笑いの世界みたい。ネタを考える…面白い。笑
2023/2/6 スイッチインタビュー「小倉智昭×アルボムッレ・スマナサーラ」EP1より