常識にとらわれないデザインで、国内外100以上の賞を総なめにしているデザイナー、太刀川英輔。幼い頃から周囲の物を分解するのが大好きだった太刀川は、1981年に神奈川で生まれる。
建築家だった父の影響もあり、大学は工学部へ。いつしか、工業デザインの世界を志すようになった。
プロのデザイナーとして活動を開始した太刀川は、めきめきと頭角を現す。3Dプリンターで月の形を緻密に再現した、美しいライト。まるごとキウイフルーツに見えて、実はケーキ。縦横 両方から開閉可能な引き出し。
ワクワクさせてくれる太刀川のデザインは、実は生き物や自然物の形をヒントに作られているという。
養老:いろいろ拝見させていただきましたけれども、本当に素直に惹かれるというか、いいなと思ったのはこの瓶ですね。
太刀川:ありがとうございます。
養老:まさに自然な感じなんですよ。普通こういう瓶というのは対称できちんとした形をしていて、どこから見ても360度、軸の周りを回転できるようになっているんですけど。それがちょっと崩れているところが非常に良いんですよね。
太刀川:ガラス瓶だから硬いので、“壁”をたてないといけないんですね。でも、その壁がもし液体のとおりだったらこういう形であったであろうという風にしたかったんですよ。
養老:何か危ういんですよね。その危うさが逆に安定しているんですよ。実際は。
太刀川:実際、自然物ってなかなか完全な対称にならないけれど、液体ってやっぱり揺れているものだと思うし、そういう“危うさ”が出るといいなと。
養老:非常によく出ているんじゃないですか。
太刀川:ああうれしい。ありがとうございます。
養老:ごく素直な感想です。
太刀川:“素直に作る”っていうのが大事だなと。形は素直じゃないといけない、だから形から“自分”が消えていくことが大事だと思っていて。そういう意味では「何がその形をその形にするのか」は、観察しないとできないと思っていて。
養老:僕はあまり人の作ったものを関心しないというか、関心がないんですけど、伺って初めて、こうやって見ていいものだなと思いましたね。
太刀川:この瓶差し上げます。お酒飲まれます?
養老:別に欲しかった訳じゃない笑。ちょっと人に見せたくなって。家族にこう持って「どうこれ?」って言いたくなります。
太刀川:嬉しい。嬉しいっす!
2022/11/14 スイッチインタビュー「養老孟司×太刀川英輔」EP2より