建築家・建築史家の藤森照信の作品は、建物と敷地全体が自然と調和するよう設計されている。骨格は現代の建築素材で作り、表面を優しい自然素材で覆うスタイルが「藤森建築」の特徴だ。
その独創的な建築に至る、思想の源とは。
◆科学技術に自然を着せる
藤森:現代の建築は基本的に、鉄とガラスとコンクリートでつくるというのが大原則なの。だけどその、鉄とガラスとコンクリートは私にとって「硬くて冷たい感じ」で、優しいものではないんですよね。
「柔らかくて、肌触りのあるもの」が欲しい。ずっとどうしようかと考えていて、その方法として「人が目で見たり、触ったりする…人間の五感が接するところは、自然のものをちゃんと使おう」と。“骨”といいますか、骨格は現代の技術でやろうと考えたんですよね。
現代的な構造や技術を使いながらその周りに自然のものを使うことを、「科学技術に自然を着せる」という言い方をしています。
◆ルーツ、意識のもとにあるものは
信州の諏訪地方は、藤森の先祖が代々暮らしてきた故郷。山の神をまつる諏訪大社では、寅と申(さる)の年に「御柱祭(おんばしらさい)」という祭りが行われており、山から切り出した16本の大木を山の斜面に滑らせ、最後に柱としてお社の境内に建てる。
それを藤森は、「太陽信仰の名残ではないか」と考える。
祭りには必ず故郷に戻り参加するという藤森。その度に新たな作品を諏訪の地に建てている。
藤森:最後に「自分が何を設計していくか」ということは最近はっきりわかってきたんです。なんか“天国”の設計をしたいと思ったの(笑)。こう…この世。人間が行くんだけど、地上とは違うところをつくりたいということはわかった。
森:ものづくりって、自分のルーツ、先祖様やファミリーは、自分のものづくりに影響してると感じますか?
藤森:自分では実は本当によくわかんないの。人から言われて「そうかな」とは思いますけど、気づいたときにはもう遅いんですよね。そういう自分の中に、自分の中の本当に深いところに溜まってるものは。
本当に、意識のもとにあるものは、自分でなかなかわからないですね。
森:確かに、意識しないですもんね。眠ってるもの。
藤森:そうそう。
森:さっき「言語化するのが難しい」っておっしゃっていたじゃないですか。でも言葉にするとしたら、何でしょう?
藤森:(深く考え込む)何が好きかっていうとね、もう…(木を指して)こういう状態が好きなんですよね(笑)。だから本当に、言語化は難しい(笑)。