スパイの男、殺し屋の女、超能力を操る少女。3人のかりそめの家族を描いた大人気アニメ『SPY×FAMILY』。
貧しい少年が、チェンソーの悪魔と化す『チェンソーマン』。
これらの大ヒット作を世に送り出したのが漫画編集者、林士平(りんしへい)。担当作品は次々と大ヒット。人気は海を超え、海外の漫画ファンをも熱狂させている。
菅田:俺の最近の体感なんですけど、漫画の展開が早くなってる気がしてて。
林: あ、そうかもしれないですね。
菅田: それは何か理由があるんですか?
林: 映画会社に訴えられた、オチまでやっちゃう「ファスト映画」って流行ったじゃないですか。権利的に絶対アウトなんでNGですけど。ただ、ちょっと距離を置いて観察すると、そのぐらいの速度で物語を摂取したい層がいっぱいいるから、多く見られて、お金を稼いでしまった。もちろん彼らは泥棒なんですけど、アイデアとか、絵を全部使ってやるのはNGですけど、僕の体感、ファストに関しては体感上仕方なくて。見るものがありすぎるんですよ。
菅田: 今、そういうことなんですかね。
林: 全世界に見るものがありすぎて、頭のいい方々がみんな、僕らの余剰時間をかすめ取りに来るわけじゃないですか。たまにTikTokとか見ると1時間ぐらい平気で溶けるわけですよね。
菅田: 溶けますもんね。
林: 別に何でもない、こう、揺れてる若者たちを見るだけ。
菅田: ほとんど何も覚えてないのにね。
林: そう笑。見終わった後の徒労感というか。「なにか面白かった気がする、これって動物的な反応で面白いと思っているけど、知的に面白いと思っているわけではないんじゃなかろうか」と思いながら、「なぜ俺は、こんな無駄な時間を」って。スラムダンクの三井みたいな気持ちで思っちゃう瞬間もあるんですよ。
菅田: なるほど。笑
林: そのくらい、みんながみんな可処分時間を奪い合うために、あの手この手でものを作っているのであれば、ゆっくりものを見てもらうのはとても贅沢(ぜいたく)なことで。
菅田: 面白いストーリーとか脚本とか、何か心がけていることはありますか?
林: 難しいですね。ジャンルによって異なりますけど、でも、面白いか面白くないかのジャッジって正解かどうか誰もわかってないんですよ。
菅田: 確かに。
林: なんで、割れます。めっちゃ何もかも。みんながみんな超面白いってことはほぼなくて。「これは面白いと思うけどな」「俺はダメだと思うけど」って、ほぼ全てのタイトルで行われている。で、うまくいったタイトルだけが「歴史的にはあれは正解だったんだよね。あの時代においては」って。でも、自分が「面白くない」って言ってたことは、軽やかにスルーしていく人も多いんですよね。後は思い出補正で修正されてって。
菅田: 笑。でも、意思を持つっていうのは大事。
林: 僕はだから、ちゃんとそれを覚えとくタイプなので「あなた面白くないって言ってましたけど」って。笑
菅田: データとしてね。かみ付いて怒られるっていう。笑
林: 「おかしいなあ?(言ってましたよね?)」って話をするタイプですね。要は、何でお客さんに驚いてもらうのか。
菅田: 何で驚いてもらえるかは大事っすね。
林: 面白いの手前に、大体驚きが僕はあると思ってます。1拍驚きがあるっていう感覚は結構あって、それを探していることが多いかもしれないですね。だから打ち合わせでも、とっぴなアイデアぶつけてますね。「バカっぽいこと言うんですけど、このキャラ死んだらどうなりますか」と言ってみるとか。発想を壊すみたいなこととか、視界を広げるということは、よく話してます。特に『ダンダダン』の龍さんは、打ち合わせの時にお互いが笑ったら正解なんじゃないかっていう感じで。
菅田: すごい分かります。
林: カフェで「それだ!」「ですよね!」って笑。お互いが笑う瞬間があるってことは、それをお客さんもきっと笑ったりとか驚いたりしてくれるんじゃないかなっていう感覚はありますね。『SPY×FAMILY』の遠藤さんも打ち合わせしながら探してますよ。
菅田: こういう表現ダメだとか、漫画内コンプライアンスみたいなものは変わってるんですか?
林: 例えば、法律的に問題だ。他者の創作物に対してタダ乗りしているものとかは、丁寧にケアしないとといけないんですけど、いわゆる残虐表現とか性的な表現はどこまで許容されるのか問題は、なるべく自由でありたいと思っていますし、作家さんサイドに立ちたいかなと思って。それが物語上必然ならば交渉しますけど、物語性じゃなくて露悪的なものだった場合に、作家さんに「なぜこの表現が必要なのか、なぜそれを書かなきゃいけないのか、このキャラこのシーンが」ていう議論をする感じですかね。
菅田: その辺は何かちょっと俳優とマネージャーと近い感じがありますね。
林: フラットに。広い意味で作品とか作家を守る可能性もあるんで。
菅田: そうですよね。
林: なので、バランスを常に。もちろん、最終的に作家側に必ず立ちたいんですけど、議論は経てから交渉するのが望ましいかな。
菅田: じゃあ、作家さんが「これをどうしてもやりたい、こうこう必要だから」というのを戦いに行くこともあるんですか。
林: もちろん。お預かりしたら「じゃあそれぶつけにいきますね」って。
菅田: 頼もしい~~むちゃくちゃ頼もしいなあ。
林: そうなった時は一番いいんですけど、常に議論。常に議論。ダメそうっていう時もありますし。
菅田: 常に議論というのがなんか俺、すごいテーマな気がするのが、今回。
林: 話すしかないっすよ。5歳10歳上の人ともたぶん文化が絶対違うし、5歳10歳下とも文化が違うから、諦めて話して理解をしましょうって。
菅田: そうですね。
林: 担当作家は本当に20代も多いんでね、みんな若い子ばっかり。これからはデビューする子たちは全員20代ですからね。ほとんどみんなそうです。
2023/9/8、15 スイッチインタビュー「菅田将暉×林士平」EP2、EP3より