日本競馬界のレジェンドである騎手、武豊。
40代で引退する騎手が多い競馬界だが、武は去年の2022年、53歳で日本最高峰のG1「日本ダービー」を制覇。最年長・最多勝記録を塗り替えた。
2018年には前人未到のJRA通算4000勝を達成。その記録はまもなく4400勝になろうとしているほどで、歴代最多記録を1400以上も上回っている。
1キロたりとも増減が許されない厳しい体重管理や、落馬や骨折などのケガと隣り合わせの過酷な環境で戦う騎手たち。そのような状況でも、武がレースへと駆り立てるものはなにか。
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武:大きいレースになると、勝った馬だけが「ウイニングラン」といって、一頭だけまたゴールに戻ってきて、大観衆のファンの前に迎えてもらえるんです。
郷:そうなんですね。
武:ここが一番我々にとっては最高ですね。一番嬉しい時間かもしれません。ジョッキーからしたら。
郷:大歓声を一身に受けるから。
武:多いときは20万人の方が詰めかけている。その中で、馬に乗って先頭でゴールを切るのもただ一人、ジョッキーだけなので、最高の瞬間なんですよ。騎手しか味わえないし、騎手でも選ばれた騎手しか味わえない。そこをみんな目指しているところが一番の魅力かもしれないです。
郷:だからずっと続けられることもあるんですね。本当に最高の瞬間なんだろうなって。
武:ケガもあったりとか、しんどいこともあったりするんですけど、たまにすごくいいことがあるので励みになるし、何か自分の中でエネルギーになって続けていけるのかなと思います。
郷:それ、一緒なんですよね。僕たちも歌っていて、ヒット曲がしょっちゅうあるわけじゃなくて。ポツ、ポツってたまにあるんですよ。でも、それがあるからこそ、ずっと続けていられるんだろうなって思うんです。
それで、実はいろいろな歯車が噛み合っているんですよ。いい歌だ、いい詞だ、いいアレンジだって。でも、最後に “人々が求めている”っていうパーツが組み合わさったときに“ヒット”っていう大きな車輪が動き出すんですよね、ゴトン!っと。
…って僕は思っているんですよ。
武:そうですね、ほんと同じ感覚ですね。
去年10月には53歳を迎えた武は、世界最高峰のレースであるフランス「凱旋門賞」に10度目の挑戦をする。しかし、結果は伴わなかった。
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武:僕というか日本人のジョッキー、日本の馬がまだ勝ったことがないんですよね。
郷:そうなんですか。
武:なかなか勝てなくて難しいです。苦戦しています。
郷:でもやはり「絶対に勝ちたい」という気持ちはあるんですよね?
武:絶対に勝ちたいですね。
郷:今後の目標ですか?
武:そうですね。騎手を続けていく本当に大きなモチベーションの1つですね。そうやって口に出して、ずっと「凱旋門賞いつか勝ちたい」と言っているので、いつかみんなで喜べたらいいなと。
郷:今、50…?
武:53歳です。
郷:年齢のせいにされないのは、素晴らしいことだなって。一言も言わないですもんね?
武:そうですね。この年齢でジョッキーをできているのはすごく嬉しいことです。
郷:ご自分が「もうこれでいいかな」って引退される、何かひとつの目安みたいなものがあるんですか?
武:まだまったく。当然人との会話でも「何歳ぐらいまで?」とか、「いつ引退?」とか、「引退したあと何されるんですか?」という会話は当然多いんですけど、正直、本当にまだ何も決めてないというか、長くやりたいという感じで。簡単に辞めちゃいけないかなという思いを感じながらやらせてもらっているというのはあります。
郷:生まれ変わったとしたら、やはりこの道を選びますか?
武:はい。もう一度騎手やりたいですね。これ以外やったこともないですし、騎手だから味わえるすごくいいことがたくさんあって。それは生まれ変わってもまたやりたいなって思います。
2023/1/9スイッチインタビュー「郷ひろみ×武豊」EP1より