小倉智昭「少しはお役に立つことをやって恩返しして、死んでいきましょう」

NHK
2023年2月13日 午後11:20 公開

民放ワイドショーで22年間、朝の顔を務めた小倉智昭。軽妙な語り口と歯に衣着せぬコメントで、お茶の間を楽しませてきた。

そんな小倉に病が見つかったのは、2016年。ぼうこうがんを手術するも、後に肺に転移。現在も治療を続けている。

小倉が会いたいと望んだのは、著書『怒らないこと』などで人生や死との向き合い方を説くスリランカ人僧侶・スマナサーラ。13歳で自ら出家、真理と向き合い続けるテーラワーダ仏教の長老に、小倉が語る自身の半生と“死生観”。
 


小倉:僕、小学校5年の時に、きつ音がひどいから、学校の教室に飾る七夕に「どもりが治りますように」って書いたんですよ。でも、3年たっても全然治らないから父親に「七夕ってうそだ。夢なんか叶わない」って言ったら、父親が「智昭、夢を持つのはやめろ」と言ったんです。

「夢は夢で終わることがあるんだ。成功すると言う人は、その人は成功したから夢は叶うって言うんだ。夢を持つんだったら、目標を持ちなさい。目標を持って、それがもし達成できたらさらに上を目指せばいいし、それがもしできなかったら、その下の段階の目標を持てばいいだろう?お前は目標を持ちなさい」。それが父の教えで、今でも守っていますね。

スマナサーラ:これはすごい言葉と思いますよ。なぜなら私も、夢にものすごく悪口言う性格なんです。敵にしているんです。

小倉:夢が敵!

スマナサーラ:夢持つなよと。あれは悪魔やと。

小倉:夢は悪魔。笑

スマナサーラ:みんな「ええっ」と言うんだけど、みんな心理学的なシステムを知らないんですね。夢っていうのは妄想だから。なんでもできるでしょ?例えば「俺はどこかの国の王になってやる」「アメリカの大統領選挙に出てやるぞ」とかね。どんな夢でも作れますよ。だから夢ってものすごい悪魔なんです。夢は本当に持ってはいけない。だから目標を作るんです。

小倉:なんか親父と話しているような気になってきました…笑。

スマナサーラ:お父様は我々にすごい言葉を残したと思いますよ。

小倉:ぼうこうがんになって、死というものと初めて向き合ったんです。いろいろな(死後の)話を聞くじゃないですか。死の直前にお花畑があって、死んだ親父が出てきて「こっちに来い、こっちに来い」って言うけれど、自分は行かなかった。そうしたら、ふっと生き返ったとかそういう話はあるでしょ?

スマナサーラ:ちらちらとありますね。

小倉:あれは現実に、頭の中で妄想しているだけですよね?

スマナサーラ:そうです。

小倉:僕は死んだらもう、全く無くなると思うんですよ。「無」になると思っているから、元素とか何かになって、それが輪廻転生という考え方になるのかと思うけど、「全くゼロになる」というのが死だと思っているんです。この考えっておかしいんですか?

スマナサーラ:臨死体験って、Near Death Experienceと我々、英語で言いますけど。この考えにみんな、すごい執着している。よく見ると、文化的なイマジネーションなんですね。で、西洋人のNear Death Experienceと日本人のNear Death Experienceは違います。

日本人は花畑を通って川を通ってなんとかかんとかっていうものになる。川の向こうからおいでおいでって言うだけでね。向こう(西洋)はさーっと上がってトンネルがあって、トンネルに向こうから光があって、そこに行かないで途中で止まったっていうね。あるいは天使たちが出て「あんた戻りなさい」と言ったとかね。だからあれはDaily Experience…毎日心にインプットされた、洗脳された文化的なイメージですよ。

小倉:洗脳された人が、亡くなる直前には脳が覚えていて、そういうことを見るんですかね。

スマナサーラ:するだろうと思います。だから生き返った人々がそう言ってるんだからね。でもそれは、私はそんなに真剣に考える必要はないと思いますよ。

小倉:うーん。ただ来る時が来れば、自分の人生の終末期というのはわかっていますから。

なるべくそれまではやり残したことを、ちょっとずつでもいいからやっておこうとか、自分の物の整理をしておこうとは思っていますけどね。
 

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スマナサーラ:小倉さんは今までの人生、振り返ってどう考えますか?

小倉:今まではよくやったなと思います。ただ、これからの目標というのは何も考えてないんで、のんびりとあるがままの姿で余生が送れればいいなと思ってますね。

スマナサーラ:我々は、今はもう計画は立てる必要はないし、ただ明るく、その日その日過ごせばいいし。人は、今日みたいに「ちょっと仕事をお願いします」って言われちゃうと、体がちょっと苦しくてもみんなのために頑張ってしまう。きっと今、小倉さんも。まあそんなものでしょ、人生は。

小倉:そうですね。これから目標を持たずに余生をのんびり生きようと思っていましたけど、…ちょっと考え方を変えますよ!

スマナサーラ:そこなんです、ポイントは。生きている間は、人類の役に立つべき。人は助けられてみんな生きてきたんだから、これからも助けられて生きていきましょう。

小倉:わかりました。これからはちょっと人の為、世の為なんて大きなことは言えませんけど、少しはお役に立つことをやって、恩返しして。

スマナサーラ:謙虚で何か役に立てばいいやっていうね。

小倉:そうやって死んでいきましょう。
 
 

2023/2/13 スイッチインタビュー「小倉智昭×アルボムッレ・スマナサーラ」EP2より