日本を代表する実力派女優のひとり、寺島しのぶ。
代表作のひとつである映画『キャタピラー』では、ベルリン国際映画祭の銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。以来、国際的にも高い評価を得ている。
寺島のルーツは歌舞伎にある。父は歌舞伎俳優で人間国宝の尾上菊五郎。弟は尾上菊之助。母は昭和から活躍を続ける大女優の富司純子という、華々しい家系だ。
自身は、16年前にフランス人アーティストと結婚し、ひとり息子の眞秀(まほろ)君を授かった。そして今月、歌舞伎の初舞台を控える息子を、俳優業も休み、全力でサポートしている。
400年以上続く歌舞伎の約束事の一つが、俳優は基本的に男性であると言うこと。父親から息子に芸を受け継がせるのが伝統だ。
女の子に生まれた寺島は、幼い頃、いずれ自分も舞台に立てると思っていたが、物心がつくと、それが叶わないとわかる。家の期待に応えていく弟を眺めながら、やがて「男に生まれたかった」と考えるように。自分の存在価値への葛藤が、今に至るまで続くことになる。
そんな寺島の支えになればと、ラミレスは日本で成功するために学んだ「ある文化」を伝えたのだが‥‥。
ラミレス:日本で学んだことが3つあるんです。1つ目は、「ショウガナイ」シチュエーション
寺島:仕方ないっていう言葉が、私は一番嫌いな人間なんですよ。
生まれた時から「あなたは女だから仕方ないよね」って言われ続けてきた。「いや、しょうがなくないよ」って。じゃあ私が母のお腹にいたときに、自分で男か女かを選べって言うんだったら、必ずソレをつけて出るよ!って。
ラミレス:ハハハハ!
寺島:…なんか疲れない?っていっつも言われるんですよ、50歳だけど、未だに言われてる。疲れるのはほんと、分かっているんだけど。分かります?この感覚。
ラミレス:はい、もちろん。
寺島:もう来世は、日向で一日寝てるような猫に生まれ変わりたい…。
ラミレス:…笑。
ルーツである歌舞伎を全力で愛し、息子の初舞台のサポートにも全力を注ぐ寺島。「疲れ」は感じつつもどうすることもできないと語る彼女に、2日間の対談で感じたことをラミレスがメッセージとして伝えた。
ラミレス:(あなたのシチュエーションは)もしあなたじゃなかったら、歌舞伎のことが嫌いになって離れてしまうかもしれない。けれども、あなたは戻った。そして、歌舞伎をサポートしている。息子さんを生んで、歌舞伎俳優のいとこ同士仲がいい。とてもすばらしいこと。
歌舞伎はあなたの人生の一部だし、だから歌舞伎をサポートしている。それこそがあなたが女性として生まれた意味なのでは。
寺島:Thank you very much …そういうふうに言っていただけるとなんか救われる気がするなあ。あの…男に生まれたかったっていうことはずーっと、多分女優になった時からずーっと話していますけど、「結果、女でよかった」っていう、ラミレスさんの言葉をいただけたのは初めて。うん、本当、うれしい。
ラミレス:シャンパン持ってきて!
寺島:ハハハハ!
2023/5/12 スイッチインタビュー「アレックス・ラミレス×寺島しのぶ」EP2より