和歌・短歌界を代表する3名が数多ある作品から、究極の50作品を選出しました。
『究極の短歌50選』の発表です。
【選考者】
穂村弘(歌人)
栗木京子(歌人・現代歌人協会理事長)
渡部泰明(国文学研究資料館長)
『究極の短歌50選』の一覧(PDF)はこちらからダウンロード可能です。印刷するなど、お手元にどうぞ!
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
□■究極の短歌50選■□
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【01】額田王・飛鳥時代
熟田津に
船乗りせむと
月待てば
潮もかなひぬ
今は漕ぎ出でな
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【02】柿本人麻呂・飛鳥時代
楽浪の
志賀の唐崎
幸くあれど
大宮人の
船待ちかねつ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【03】山上憶良・奈良時代
世の中を
憂しとやさしと
思へども
飛び立ちかねつ
鳥にしあらねば
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【04】大伴家持・奈良時代
うらうらに
照れる春日に
雲雀上がり
情悲しも
独りし思へば
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【05】在原業平・平安時代
月やあらぬ
春や昔の
春ならぬ
わが身ひとつは
もとの身にして
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【06】小野小町・平安時代
思ひつつ
寝ればや人の
見えつらむ
夢としりせば
さめざらましを
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【07】紀貫之・平安時代
桜花
ちりぬる風の
なごりには
水なき空に
浪ぞたちける
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【08】和泉式部・平安時代
黒髪の
乱れも知らず
うち臥せば
まづかきやりし
人ぞ恋しき
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【09】西行・平安時代
年たけて
またこゆべしと
思ひきや
命なりけり
佐夜の中山
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【10】式子内親王・鎌倉時代
玉の緒よ
絶えなば絶えね
ながらへば
忍ぶることの
弱りもぞする
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【11】藤原俊成・鎌倉時代
夕されば
野辺の秋風
身にしみて
鶉鳴くなり
深草の里
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【12】藤原定家・鎌倉時代
春の夜の
夢の浮橋
と絶えして
峰にわかるる
横雲の空
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【13】藤原家隆・鎌倉時代
ながめつつ
思ふも寂し
ひさかたの
月の都の
明け方の空
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【141】源実朝・鎌倉時代
箱根路を
われこえくれば
伊豆のうみや
沖の小島に
波の寄る見ゆ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【15】永福門院・鎌倉時代
花の上に
しばしうつろふ
夕づく日
入るともなしに
影きえにけり
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【16】良寛・江戸時代
霞立つ
ながき春日を
子どもらと
手まりつきつつ
この日暮らしつ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【17】橘曙覧・江戸時代
たのしみは
まれに魚烹て
児等皆が
うましうましと
いひて食ふ時
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【18】与謝野晶子・明治時代
春みじかし
何に不滅の
命ぞと
ちからある乳を
手にさぐらせぬ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【19】長塚節・明治時代
馬追虫の
髭のそよろに
来る秋は
まなこを閉ぢて
想ひ見るべし
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【20】山川登美子・明治時代
後世は猶
今生だにも
願はざる
わがふところに
さくら来てちる
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【21】若山牧水・明治時代
白鳥は
哀しからずや
空の青
海のあをにも
染まずただよふ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【22】石川啄木・明治時代
不来方のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【23】北原白秋・明治時代
君かへす
朝の舗石
さくさくと
雪よ林檎の香のごとくふれ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【24】齋藤茂吉・大正時代
のど赤き
玄鳥ふたつ
屋梁にゐて
足乳根の母は
死にたまふなり
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【25】釈迢空・大正時代
人も 馬も
道ゆきつかれ
死にゝけり。
旅寝かさなる
ほどのかそけさ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【26】齋藤史・昭和戦前
濁流だ
濁流だと叫び
流れゆく
末は泥土か
夜明けか知らぬ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【27】近藤芳美・昭和戦前
たちまちに
君の姿を
霧とざし
或る楽章を
われは思ひき
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【28】前川佐美雄・昭和戦前
春がすみ
いよよ濃くなる
真昼間の
なにも見えねば
大和と思へ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【29】宮柊二・昭和戦前
軍衣袴も
銃も剣も差上げて暁渉る
河の名を知らず
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【30】葛原妙子・昭和戦後
早春の
レモンに深く
ナイフ立つる
をとめよ素晴らしき
人生を得よ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【31】中城ふみ子・昭和戦後
灼きつくす
口づけさへも
目をあけて
うけたる我を
かなしみ給へ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【32】大西民子・昭和戦後
かたはらに
おく幻の
椅子一つ
あくがれて待つ
夜もなし今は
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【33】寺山修司・昭和戦後
マッチ擦る
つかのま海に
霧ふかし
身捨つるほどの
祖国はありや
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【34】春日井建・昭和戦後
大空の
斬首ののちの
静もりか
没ちし日輪が
のこすむらさき
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【35】前登志夫・昭和戦後
夕闇に
まぎれて村に
近づけば
盗賊のごとく
われは華やぐ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【36】河野裕子・昭和戦後
たとへば君
ガサッと落葉
すくふやうに
私をさらつて
行つてはくれぬか
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【37】小野茂樹・昭和戦後
あの夏の
数かぎりなき
そしてまた
たつた一つの
表情をせよ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【38】塚本邦雄・昭和戦後
馬を洗はば
馬のたましひ
冱ゆるまで
人恋はば人
あやむるこころ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【39】佐藤佐太郎・昭和戦後
冬の日の
眼に満つる海
あるときは
一つの波に
海はかくるる
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【40】道浦母都子・昭和戦後
催涙ガス
避けんと秘かに
持ち来たる
レモンが胸で
不意に匂えり
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【41】高野公彦・昭和戦後
白き霧
ながるる夜の
草の園に
自転車はほそき
つばさ濡れたり
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【42】馬場あき子・昭和戦後
夜半さめて
見れば夜半さえ
しらじらと
桜散りおり
とどまらざらん
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【43】栗木京子・昭和戦後
観覧車
回れよ回れ
想ひ出は
君には一日
我には一生
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【44】竹山広・昭和戦後
人に語ること
ならねども
混葬の
火中にひらき
ゆきしてのひら
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【45】岡井隆・昭和戦後
手をだせば
とりこになるぞ
さらば手を、
近江大津の
はるのあはゆき
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【46】俵万智・昭和戦後
寄せ返す
波のしぐさの
優しさに
いつ言われても
いいさようなら
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【47】佐佐木幸綱・昭和戦後
のぼり坂の
ペダル踏みつつ
子は叫ぶ
「まっすぐ?」、そうだ、
どんどんのぼれ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【48】穂村弘・平成
サバンナの
象のうんこよ
聞いてくれ
だるいせつない
こわいさみしい
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【49】山中智恵子・平成
昭和天皇
雨師としはふり
ひえびえと
わがうちの天皇制
ほろびたり
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
【50】永井陽子・平成
ひまはりの
アンダルシアは
とほけれど
とほけれど
アンダルシアのひまはり