歌人 穂村弘
<プロフィール>1962年、北海道生まれ。歌人。1990年、歌集『シンジケート』でデビュー。現代短歌を代表する歌人として、その魅力を広めるとともに、評論、エッセイ、絵本、翻訳など様々な分野で活躍している。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞、連作『楽しい一日』で第44回短歌研究賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で第33回講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。他の歌集に『ドライ ドライ アイス』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』『ラインマーカーズ』(自選ベスト版)等がある。
番組への意気込み
最初は、単純に好き嫌いで選ぼうと思っていて、「偏愛リスト」みたいなものをイメージしていました。みんなが知らなくても、自分だけひそかに愛してる歌を見てもらいたいなと……。でも、実際に選び始めると、大昔の大歌人たちの作品には、「時間の圧」のようなものがあるんです。千年の時間の中で名歌とされたものを差し置いて、自分が好きだという歌を推すということが本当にできるのかと思い始めました。そこで、ある年代以上の代表的な歌人については、歴史のジャッジをくぐり抜けてきた作品から選ぶことにしました。新しい時代になるにつれて、少しずつ自分の好みを反映するという選び方をしています。
「究極の短歌」への選考ポイント
「この歌のここが凄いんだ」ということを、限られた秒数でどうしたらうまく伝えられるのかと思うと、緊張してしまいますね。不思議な歌、謎のある歌、変な歌を見るとうれしくなってしまう性質(たち)なので、「ほかの人は好きじゃないかもしれないけど、自分はここが好きなんだ」という美点をできるだけお話しできたらと思っています。
□■選考された短歌■□
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熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな
−額田王・飛鳥時代−
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東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ
−柿本人麻呂・飛鳥時代−
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うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しもひとりし思へば
−大伴家持・奈良時代−
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桜花ちりぬる風のなごりには水なき空に浪ぞ立ちける
−紀貫之・平安時代−
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夢にだに見で明かしつる暁の恋こそ恋のかぎりなりけれ
−和泉式部・平安時代−
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時鳥そのかみ山の旅枕ほの語らひし空ぞ忘れぬ
−式子内親王・鎌倉時代−
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真砂ナス数ナキ星ノ其中ニ吾ニ向ヒテ光ル星アリ
−正岡子規・明治時代−
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ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
−佐佐木信綱・明治時代−
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ああ皐月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟われも雛罌粟
−与謝野晶子・明治時代−
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おつとせい氷に眠るさいはひを我も今知るおもしろきかな
−山川登美子・明治時代−
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白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
−若山牧水・明治時代−
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君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ
−北原白秋・明治時代−
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やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに
−石川啄木・明治時代−
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名も知らぬ小鳥来りて歌ふ時われもまだ見ぬ人の恋しき
−三ヶ島葭子・明治時代−
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かにかくに祇園はこひし寝るときも枕の下を水のながるる
−吉井勇・明治時代−
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まことかの鸚鵡のごとく息かすかに看護婦たちはねむりけるかな
−宮沢賢治・大正時代−
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濁流だ濁流だと叫び流れゆく末は泥土か夜明けか知らぬ
−齋藤史・昭和時代−
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この空にいかなる太陽のかがやかばわが眼にひらく花々ならむ
−明石海人・昭和時代−
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早春のレモンに深くナイフ立つるをとめよ素晴らしき人生を得よ
−葛原妙子・昭和時代−
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ポオリイのはじめてのてがみは夏のころ今日はあついわと書き出されあり
−石川信雄・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−香川進・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−竹山広・昭和時代−
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日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも
−塚本邦雄・昭和時代−
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出奔せし夫が住むといふ四国目とづれば不思議に美しき島よ
−中城ふみ子・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−大西民子・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−山中智恵子・昭和時代−
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夕闇にまぎれて村に近づけば盗賊のごとくわれは華やぐ
−前登志夫・昭和時代−
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あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ
−小野茂樹・昭和時代−
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夜半さめて見れば夜半さえしらじらと桜散りおりとどまらざらん
−馬場あき子・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−寺山修司・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−春日井建・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−佐佐木幸綱・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−永田和宏・昭和時代−
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観覧車よ回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生
−栗木京子・昭和時代−
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催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり
−道浦母都子・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−永井陽子・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−米川千嘉子・昭和時代−
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寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら
−俵万智・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−水原紫苑・昭和時代−
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(※著作権法のため掲載できません)
−佐伯裕子・平成−
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(※著作権法のため掲載できません)
−林あまり・平成−
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−東直子・平成−
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−安藤美保・平成−
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−飯田有子・平成−
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−大口玲子・平成−
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−笹井宏之・平成−
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−小島なお・平成−
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(※著作権法のため掲載できません)
−平井弘・令和−