2023年5月14日放送「G7広島サミット ”核なき世界”への道は」(後半)

NHK
2023年5月19日 午後3:24 公開

被爆地・広島で開かれるサミットを前に、核廃絶に向けてどのようなメッセージが出せるのか。番組の後半では、核軍縮を進めるために何が必要か、そして日本が果たすべき役割は何か、議論していただきました。

ここまでの議論は  ⇒⇒「“核なき世界”へ」(前半)

●核軍縮をどう進めていくか

核軍縮を目指して1970年に結ばれたのがNPT=核拡散防止条約です。現在、日本をはじめ国連加盟国のほとんどにあたる191の国と地域が参加しています。NPTでは、アメリカ・イギリス・フランス・中国・ロシアの5か国に核の保有を認めた上で、核軍縮に向けた交渉を義務づけています。そしてその他の国には核の開発や保有を禁止しています。しかし、NPTには5か国以外に核を保有しているとされるインド・パキスタン・イスラエルが参加していない他、北朝鮮も一方的に脱退を宣言。当初目指した核軍縮は思うように進んでいません。

こうした中、2021年に新たに発効したのが核兵器禁止条約です。締約国に核兵器の開発や保有・使用などすべてを禁止しています。これまでに92の国と地域が署名していますが、アメリカや中国、ロシアなどの核保有国は参加していません。また日本も参加していません。日本政府は「核保有国が参加していない今の枠組みでは、核軍縮の取り組みを進めるのは困難だ」としています。

(核軍縮の現状をどうみるか?)

中村:

先ほど「規範的なアプローチが軍縮には効果的ではないかもしれない」という話がありましたが、だからこそ日本の役割が非常に重要になってくるのだと思います。核兵器の恐ろしさを身をもって経験した日本が“核の傘”に入るという、一見矛盾したように見えるこの立場というものが、日本政府が従来からずっと言っているように、「核を持っていない国々と持っている国々の橋渡し役に一番適している」のだと思っています。日本の動き方次第では、軍縮は十分に進めていけるのではないかと思いますし、岸田首相がこれだけ核軍縮を掲げているので、実行していく段階に移していってほしいと思います。

(核軍縮をどう進めていくか?)

樋川:

今までのやり方をきちんと振り返って、やり方を変えるべきだと思っております。私は「核軍縮が専門です」と言っても今まで声がかかることはほとんどなかったんですが、このウクライナ戦争が始まって、あちこちから呼んでいただいて、お話をさせていただく機会が増えました。やっぱり一人一人が自分事として捉えて考えていくことが必要だと思います。広島のへいわ創造機構ひろしま(HOPe)」が非常に素晴らしい取り組みをやっています。ポストSDGsに向けた取り組みです。SDGsに「平和」は入っていますが、核兵器の問題は入っていないんです。でも平和は核兵器の問題を解決しないと難しいと思うんですね。ですからSDGsの後の国連のアジェンダに核兵器廃絶の問題を入れ込んで、すべてのステークホルダー(利害関係者)、専門家だけではなく一般市民の方も、環境をやっている方も、人権をやっている方も、皆さんを巻き込んでみんなで考えていきましょうということを打ち出していますので、私はそれをサポートしていきたいと思います。

川崎:

核兵器の禁止だけでは核兵器はゼロにならないというご指摘があって、それはその通りです。しかし禁止をしないと始まらないんですよね。生物兵器や化学兵器もまず禁止条約を作って、まだ存在しますけれども、禁止することで悪いものだからなくしましょうという動きが出てくる。例えばシートベルトの義務化とか飲酒運転の禁止とか歩きたばこの禁止でも、まず禁止するわけですよ。それをした上で、具体的な形で進めていくと。核を減らしてなくしていくときの実際の検証制度、そういったものを作っていかなければいけないことは確かなのですが、まず禁止をしてから廃絶に向かうと、こういう流れだと思います。

樋川:

禁止から入るという考え方自体は私もよく理解できるのですが、でも実際問題、過去を振り返ってみますと、NPTがなぜこんなに不平等な条約になったかというと、禁止することができなかったからなんですね。アメリカが核兵器を手放さなかったというのは大きい。CTBTもそうです。禁止をしてみたところで、国際社会の現実というのは主権国家で成り立っていて、ルールに入るか入らないかは主権国家次第なわけです。そして安全保障、各国の存亡が関わっておりますから、入らないという決定をする国があっても不思議ではないわけです。ですから規範的に禁止したとしても、入らなければ意味がないわけです。それが現状だと思います。

川崎:

CTBTというのは核実験禁止条約で、たしかに発効していないんですけども、条約に多くの国々の支持が集まったことによって、核実験はもう北朝鮮以外の国はできない状態になっている。事実上の効果は出ているんですね。ですから条約に核保有国が入ってこないと必ずしも意味がないとは言えない。NPT体制は今ガタついてきているので、核兵器が許されないものだという基本的な考え方を補強してあげなければいけない。弱まっているNPTを核兵器禁止条約で補完するものであると、こういうふうに考えております。

(NPT体制と核兵器禁止条約をどう考えるか?)

樋川:

核兵器禁止条約自体は、禁止するということである意味タブー化するというような意義はあると思うんです。核兵器が禁止されるべきものであるという認識を広めるという役割はあると思います。ただ実際問題として、NPT体制がある中で、途上国含め多くの非核兵器国の不満によって禁止条約ができた。それによって何が起こったかというと、NPTの方で分断が起こってしまった。そういう意味では核兵器禁止条約というのは、意義はないとは言わないのですが、別の方法があったのではないかと思います。

中村:

核兵器禁止条約の中心に入っている国々は、グローバルサウスといわれる国々が多かったり、核を持っていない国々が中心なわけですよね。そういった国々の声がこれまで聞き入れてもらえなかった。NPTはもともと冷戦下で軍拡が進んでいった時に、「私たちは核を持つけれども、それ以外の国々は持たないで、これ以上広げるのをやめましょう」という、非常に不平等な条約になった。その体制が今もなお続いているので、これを是正していかなければいけない。当事者の声がなかなか反映されてこなかった中で、核兵器禁止条約はそういう当事者の声を反映することに、完全ではないですけれど非常に積極的に取り組んでいる条約の枠組みだと思っています。

(NPT体制は厳しさを増しているという指摘もあるが?)

佐々江:

そう思いますね。現実的にNPT体制の前進に不満を持つ多くの諸国がこれではダメだと言って核禁止条約の方に移行するわけですけれども、その結果としてNPT体制そのものが分断化したと思うわけですね。NPT体制自身はステップ・バイ・ステップで、究極的な核の廃絶を目指すということで、日本もその重要なリーダーとして、核廃絶決議を毎年出して、多くの途上国も含めて賛成を得ているわけですね。その中で核兵器国、核抑止依存国とそうでない国との間は、更に対立が深まっている。本来この2つの(条約の)目標は核戦争を抑止するということであるにもかかわらず、協力ではなくて分断の方向に向かっている。これこそが私は今の非常に難しい問題の核心だと思っているわけです。

(核軍縮をどう進めていけばいいか?)

木戸:

私はNPTの会議にこれまでずっと参加しているのですが、今の議論は違うと思っているんです。分断の方向ではない。核保有国と同盟国が抵抗しているように見えますけども、圧倒的多数の国々が、核兵器をなくす、NPT体制を強化していくと。演説の大半はそちらの方向に向かっているんですよ。核兵器国と同盟国、それが世界の流れに抵抗しているという具合に僕には映ります。核兵器禁止条約の成立を含めて国連が果たした役割がものすごく大きいわけですけども、世界の市民と多くの国々は核兵器をなくしましょうという方向に強く歩んでいる。私はそういう意味では大変希望を持っています。

●核なき世界へ 今後のロードマップは

広島サミットでは、核軍縮に向けて何を打ち出すべきなのでしょうか。核廃絶を目指す現実的な行動計画として去年8月に岸田総理大臣が掲げたのが、ヒロシマ・アクション・プランです。▼核兵器不使用の継続や▼透明性の向上、▼核兵器の不拡散、そして▼被爆地訪問の促進を通じ被爆の実相に対する正確な認識を世界に広げるなどとしています。

(サミットでは成果として何を打ち出すべきか?)

木戸:

サミットがそういう議論ができる場なのかどうかというのがあるんですけども。世界を守る議論は国連でやるべきだと。第2次世界大戦でこれ以上戦争してはダメだという、その願いから生まれた国連の場で、すべての国が(議論すべき)。51か国で始まった国連が今は193か国です。多くの国々の願いを議論する場であり、国連の存在意義というものを私は改めて確認したいと思っています。

中村:

(今日の番組で)ここまで核使用を批判するような内容が議論されてきたように思うのですが、核そのものを批判していかないといけないのではないかなと思っております。加えて、行動計画を打ち出したり、非難するということは最低限すべきです。2016年の伊勢志摩サミットでも北朝鮮の核実験を批判するようなことがG7の中から生まれてきたわけですから。そこから先に実行に移っていった段階で初めて今回のG7の広島サミットというものを評価できるのではないかと思っています。

(サミットでの合意はどこがポイントになるか?)

佐々江:

「ヒロシマ・アクション・プラン」の5項目のうち、最後の「被爆地の実相の認識」というのも想定されるわけですよね。現実に訪れますし。また「核不使用の継続」というのは今までは出なかったのですが、これからあるかもしれないということを約束することには意味がある。それから「核戦力の透明性向上」、これは特に中国ですよね。中国は非常に不透明な拡張を行っているので、これに対するメッセージとしても重要です。「核兵器の減少傾向」というのは、やっぱり米国とロシアですよね。今の戦略兵器削減交渉、あるいは中距離核戦力について、ゼロにするというのが危うくなっているわけですよね。ですから、現状を元に戻していく努力というのを今回メッセージとして発信することは非常に重要ではないかと思います。将来に向けて「これ(核戦争)は絶対起こしてはいけないんだ」という決意を首脳たちが新たにして、具体的なステップを踏んでもらうように優先度を上げていく。ここに意味があるというふうに思います。

川崎:

核兵器の使用や威嚇はいかなる状況下でも許されないということを明確にG7諸国が宣言すべきだと思います。ロシアの核の使用、あるいは威嚇というものを非難する強い表明はあると思いますが、ロシアを含むすべての核保有国が核の使用・威嚇をしないということを約束すべきであると。先月(G7の)外相会合の声明では、「自分たち西側の核兵器については、防御的なものであって侵略や戦争を抑止するものだからいいんだ」というような、正当化するような表現ぶりが出てきているわけですが、そのようなことを広島で言ってほしくない。広島の平和公園というのは、あの場所に本当に数多くの市民の生活があったわけで、その公園の中にある慰霊の供養塔には7万もの遺体が納められていると言われているわけですけれども、その場所で核兵器の使用や威嚇を正当化するような議論があってはならないと思います。

(各国の思惑の違いもある中で、どこが到達点になるのか?)

樋川:

合意が難しいかどうかは何を打ち出そうとするかによります。核兵器の存在そのものを否定するような合意というのは、核兵器国が中におりますので難しいだろうと思います。その上で、これはG7です。7か国として何を議論すべきかといえば、他の国に対してああしなさい、こうしないではなくて、自分たちの決意ですよね。7か国としての決意をきちんと表明する。その時に、日本は核兵器持っておりませんし、不使用の継続というよりも、非核兵器国も含めて核戦争を絶対に起こさせないといった決意を表明することができればいいのではないかと思います。

川崎:

核を使用させない唯一絶対的な保障というのは、核兵器の廃絶なんですね。核兵器の廃絶を達成するという明確な約束は、既に全ての核兵器国はNPTの会議の中でしておりますから、そのことを明確に再確認して具体的な行動に合意すべきだと思います。

佐々江:

今言われたようにNPT体制を守っていくと、究極的な核の廃絶に向けてこれは引き続きやっていくという決意は非常に重要だと思いますね。その上で、今の問題を具体的な形で前に進めていくための方法論については、意見の差はあるのですが、少なくともG7としては、信頼醸成とか透明性とか、重要なステップを具体的な形で踏んでいくという合意ができれば、私は前進だと思っております。

(サミット後も含め、核軍縮をどう進めていくのか?今後の展望は?)

川崎:

核兵器は許されない兵器であるという規範が、核兵器禁止条約の発効によってでき上がりつつあります。世界の国の半数近くが既に署名をしておりますから。この数を増やして、圧倒的多数の国がまず核兵器を許していないという状況を作る。その上で、例えば核軍縮の検証制度であるとか、様々な地域の非核兵器地帯の拡大といったようなことを、安全保障措置を組み合わせて化学兵器のゼロを達成してく必要はあるだろうと思います。

樋川:

やはりポストSDGsですね。核廃絶というのは一晩で解決する問題ではありませんので、時間をかけて考えていかなければいけない。その時に安全保障の専門家だけとか核軍縮の専門家だけで考えるのではなくて、色々な分野の方、一般の方も、若い方も含めて議論して、解決策を一緒に考えていく必要がある。その意味では、国連のポストSDGsのアジェンダに核廃絶を入れ込んで大きなうねりを作っていくというのが一番ではないかと思います。

中村:

先ほど核兵器禁止条約(の参加国)を増やしていくという話がありましたが、核兵器禁止条約の中には核被害者の援助ということも含まれています。核実験は繰り返されてきたし、核の被害というのはずっと再生産され続けてきた。日本は被爆者の方々をはじめ、核の被害を受けた経験があるので、その経験を国際社会で生かしていかないといけない。そこで協力をしていかないといけない。もう一つは、世代間の格差ということに強い問題意識を持っています。私たちは生まれたときから核があって、核を持たないという選択肢ができなかった。これだけ気候変動が進んでいる中で、自然災害もあるし、パンデミックもあるという中で、これから対応していかないといけないことがたくさんあるのに、これ以上軍備拡大のほうに色々なリソースが割かれていくというところに強い問題意識を持っています。

木戸:

日本被団協が、「原爆被害者の基本要求」ということで、原爆とは何か、どうやって原爆や核兵器から人間を守るのかという提案をしているわけですけども、その中でも言っているように、武力で紛争を解決しようということは、結局武力闘争を招く、力の強い方がその紛争を解決するんだということで、軍拡に発展するわけです。ですから、武力ではなく対話で問題を解決するということに徹しなければならない。同時に武力か対話か、だけではなくて、人間が人間を生きる力を身につける。人類の誕生と同時に対話が始まっているんですよ。その対話の意味をきちんと捉えて、人間が人間に戻る、人間が人間になるという、そういう姿勢で世界の問題を解決するような、そういう立場に立ちたいなと思っています。

佐々江:

核戦争とか戦争を避けるということは、どういう立場であれ共通していると思うんですね。そのために、対話というのは非常に重要です。対話というのは、もちろん国と国との対話もありますが、市民社会の対話、市民社会と政府との対話も重要ですし、世論を盛り上げていくということも大変重要だと思います。そこで特に問題なのが、市民社会、あるいは民主主義社会においてはそういう対話が比較的自由に流通するのに対して、そうでない社会においてはそれが流通しないということなんですね。例えば中国は今、核拡大を行っているわけですよね。そういう国の政府に対して「それどうなんですか」と聞くと、「米ロに比べて劣っているから自分たちでやる必要がある」と、こういう意見ですよね。そういう国に対して、「いやいや中国がこれから大きな力・資源を使って核の軍拡をやるのがいいんですか」というような声が中国の市民社会から上がってくるなら、私はこれは非常に大きな成果だと思うわけですね。もちろん我々としてそれにどうするのかということは当然あるわけですけれども、今(中国との)関係が難しいので、そもそも対話自体が、例えば米中間で軍備管理交渉ができるような対話の環境があるのかというと、ないわけですよね。だから、まずその対話を作るための努力が必要だというふうに思うわけです。

●“核なき世界”の実現へ  日本の役割は

木戸:

本当に日本が果たす役割というのは大きいと思いますよ。今対話の話が出ましたが、日本政府は本当に対話しているのか、国民の声を聞いているのかと。やっぱり国民の声をきちんと聞いて、何を願っているか、そのために具体的には核兵器禁止条約等の署名・批准というのを是非やってほしいと思っています。

中村:

岸田さんは外務大臣時代に「ユース非核特使」という制度を作っておりまして、私も昨年6月に核兵器禁止条約の締約国会議に参加したときには「ユース非核特使」を委嘱されて現地に行ったわけですけれども、そこに経済的な支援などは一切ないわけですよね。こういった会議に私たちのような若者が入っていくというのは、アクターを増やしていくという意味では非常に重要。さらに私たちのような若者がこれからの世界を生きて作っていく上では、そういったところから知見をためていく必要もあると思うんです。私たちのような若者を現場に積極的に送ってほしいなと思います。

川崎:

核兵器禁止条約に関しては、最低限オブザーバーとして、今年11月の第2回締約国会議に参加する。そして核兵器への抑止力への依存を、日本自身が下げていかなければいけない。日本は今、アメリカが核兵器の先制不使用という政策をとることにも反対している状況ですから、これを変えていく。そして最後に、やはり私たち市民一人一人が傍観者であってはいけなくて、みんなで核兵器をなくすための運動に加わって参加していくということがとても重要だと思います。

樋川:

私もやはり軍縮不拡散の分野で日本がリーダーシップをとるべきだというふうに思います。どういうリーダーシップをとるべきかと考えると、一方的に非難するとか、何かを押しつけるのではなくて、まさに対話ですよね。そして調整役を担う。実際に調整役として日本が役割を果たすべきだと思います。ゼレンスキー大統領が昨年、日本の国会でオンラインで演説をされた時に、日本はハーモニーを大切にする国であると、それでそれが文化に根づいていると。リーダーシップをとれるのは日本であると言っていますので、その辺を期待したいと思います。

佐々江:

私も調整役が果たせればいいというふうに思いますね。しかし5つの核大国の間では彼らだけで話し合いが行われておりますよね。日本は非核国として、そういう国々に対して、「あなたたちももう少し核軍縮の努力をしなさい」と言う立場にあると思います。しかし同時に、脅威にさらされている国々の立場も理解した上で、お互いにどこまでギリギリ歩み寄れるのかと、そういう極めて地道な努力が必要だと思いますね。一方的に高い見地から説教するだけでは、いずこの国もなかなか動かないのがやはり現実であると。そのことを踏まえた上で、しかし日本らしい立場でお互いに対して働きかけていくということが重要だというふうに思います。