2022年8月7日「日本外交の役割は」②核軍縮めぐる国際社会の現状は?

NHK
2022年8月10日 午後8:16 公開

ここまでの議論は→ 「①米中対立の行方は?」

前半の議論を受け、次にテーマとなったのは”核軍縮”。今月から核軍縮について話し合うNPT=核拡散防止条約の再検討会議が行われていますが、ロシアによる核の脅威が続く中、合意に向けた交渉は難航しています。複雑に絡み合う核保有国、非保有国の思惑を分析していくと、NPTが直面する厳しい現状が浮かび上がってきました。

このあとの議論は→ 「③核軍縮へ いま何が必要か?」

●核軍縮めぐるNPT再検討会議の現状は

今月1日からNPT=核拡散防止条約の再検討会議が開かれています。国連加盟国のほとんどにあたる191の国と地域が参加し、今後の核軍縮の方向性について合意することを目指しています。条約では、アメリカ、中国、ロシアなどの5か国は、核保有を認めた上で、核軍縮に向けた交渉を義務付けています。一方その他の国々には、核兵器の開発や保有を禁止しています。前回2015年に開催された会議では、各国の主張が対立し交渉は決裂。そして新型コロナの影響で2年以上延期された今回、ウクライナに侵攻したロシアによる核の脅威が高まる中での開催となりました。

会議では冒頭から日本をはじめアメリカやドイツなど多くの国が、核による威嚇を続けるロシアを厳しく批判。これに対しロシアは、行動は全て必要に応じたもので、核による脅しだなどという主張は言いがかりだと述べ、立場を正当化。各国の対立が深まっています。

(NPT再検討会議の目的は?)

吉田:

この会議は5年に一度の重要な会議です。NPTが基盤条約として機能するために、NPTの運用状況を点検する重要な会議です。もう7年前になりますが、前回の会議では核軍縮での不一致もありましたが、基本的に文書が採択されなかったのは中東問題ということです。持つ国と持たない国を分けているある意味不平等な条約ですので、核軍縮が前提の条約なんですが、ここ数年間は進んでいません。ウクライナ危機で米ロ関係も悪化していますし、米中関係も悪化しているという事で、何とか核兵器を使わない時代の継続とか基本的な原則で合意できればいいなと思いますが、大変厳しい会議になっていることは間違いないと思います。

(去年、NPTとは別に、非保有国が中心となって核兵器禁止条約が発効した。

 NPT会議での合意はなぜ難航しているのか?)

吉田:

核兵器禁止条約は、NPTの下での核軍縮がなかなか進まないということへの不満が大きな背景にあると思います。(今回は)核兵器禁止条約を発効してから最初のNPTの再検討会議です。NPTと核禁条約の関係をどう位置付けるのかという問題で大きく意見が割れています。かつNPTの中の核保有国とか核抑止に依存している国が核禁条約に反対していますので、そのあたりの考え方の違いがNPTの結論を大きく分けると思うんですね。合意できるかどうかは厳しい状況だと思います。

(非保有国の中でも立場の違いが?)

吉田:

もともと違うんですね。「核兵器5か国対非核国」という構図ではなくて、核兵器を持っている国と、その同盟国で核抑止に依存している国が一つのグループなわけです。先ほどの核兵器禁止条約を支持する国は、そのグループに属していない、核抑止力に依存しないグループなんです。そういう意味では、非核国の中でかなり分かれている状況だと思います。

(核保有国間の対立をどう見る?)

神保:

NPTの枠内における核保有国は核軍縮の義務を負うということは確かにそうなんですが、核保有国の中でも、核兵器を安全保障戦略の中でどう位置付けるかは立場の違いがあるわけです。特にロシアは冷戦期と大きく異なるのは、通常戦力において西側つまり今のNATO諸国に対する優勢というものをもはや確保できないと。だとすると、核兵器によってこれをオフセット、補わなければいけないという立場を非常に強めておりますし、そのようなロシアに対してアメリカも対応しなければいけませんから、特にトランプ政権の中では新たな核戦略というものを策定して、低出力の核であるとか、その運搬手段、こういったものを強めている。また中国も戦略核弾頭を増やして、まずはアメリカとロシア、核兵器を一番配備している国の背中を追いかける形になっていて、様々な核保有国が存在しているのが現状だと思います。

(NPTに対するロシアの立ち位置は?)

廣瀬:

ロシアはこれまでも欧米に対しては非常に不信感を高めていたということで、例えば今年の1月には核保有国で、今後は交渉で世界を取り繕っていこうという約束をしていたにも関わらず、2か月も経たずにこの侵攻が始まってしまったと。その中でたびたび核を使用する姿勢を示してきているわけです。それが直接核を使うということにはつながっていないわけですが、ロシアが核を持っている以上、欧米がそれを恐れて侵攻してこないということを見据えての消極的抑止みたいな部分を利用して今の侵攻をしているということがあり、非常に矛盾する状況があると思います。

(NPTの中での中国の立ち位置は?)

江藤:

中国は、世界の平和を中国がリードするんだという立場ですので、核軍縮においても基本的には必要なことであると言っています。しかし誰がやるのかと言った時に、まずアメリカとロシアがやるべきだという立場です。米ロが対話によって核軍縮を進めると。実際問題としても、ロシアが6200発以上、アメリカが5500発以上核弾頭を持っている中で、中国は350という数字ですので、現状として中国はロシアやアメリカのような立場にはないというスタンスをとっています。

(合意形成が難しい状況をどう見るか?)

藤崎:

核保有国が入っているのはこの機関だけですから、岸田さんが今回参加して、やっぱりNPTが大事なんですとアピールしたんだと思います。(合意が)できることが必要なんですけど、できない場合であっても、核保有国が入っていて、核保有国に義務を課している。これは大事なことですし、日本にとって一番大事なのは中国と北朝鮮の核のことですから、NPTを何とか生かしていくことを考えるべきじゃないかと思っています。

●“核の抑止”をどう考える?

(ロシアが核による威嚇を続ける中、“核の抑止”をどう考えるか?)

廣瀬:

今回は、明らかに核抑止の失敗の事例になってくると思います。他方で、安定・不安定逆説の事例であるとも言えます。戦略レベルの抑止関係の安定が地域レベルでの核抑止関係の不安定化を導いてしまうという事で、今回もアメリカは侵攻を抑止するために事前にリークをしたり、何らかの侵攻があった場合には非常に甚大な経済制裁をするということを言っていたわけです。しかし昨年12月にバイデン政権は、ウクライナに何らかのことがあっても派兵をしないということを言ってしまったのは、かなり大きな引き金となったと言えると思うんです。それが抑止とならずにロシアは実際にやってしまったと。他方でウクライナというのは核保有国であったわけです。ソ連解体後、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンは核保有国だったわけですが、1994年のブダペスト覚書によって、それぞれの核をロシアに移し、代わりにイギリスとアメリカとロシアがその3か国の主権と国境を守るという約束をしたわけです。けれども、それが破られてしまったという事で、やはり核を持っていなければ平和というものは維持できないのではないかということが、ウクライナだけでなく非核保有国にも広がっているというふうにいえると思います。

(中国にとって核の抑止力は?)

江藤:

抑止力、特に核兵器に関する抑止力はこれから中国が獲得していきたい能力と考えていいと思います。核弾頭の数の増加ということだけでなく、それを運搬する手段ですね。潜水艦から発射する航空機、新型航空機から発射する、爆撃機から発射するといった形で、運搬する手段の多様化、それから大陸間弾道ミサイルのサイロの数を増やしていることなどを踏まえると、使う目的で他の部分も準備しているじゃないかと、こういう議論になっていくわけです。当然ながら周辺国としてはこれに脅威を覚えるわけですし、中国としては先ほどの話のあった台湾においてもアメリカを抑止するために核を使う可能性を検討はしているだろうと思います。

(“核の拡散”を招く可能性は?)

藤崎:

核抑止というのは一応働いているんだと思います。米ソ時代から大量破壊兵器戦略は、基本的に働いたように、今だって核を持っている同士は戦わないということで、インドとパキスタンの関係でも戦争はこのところ起きていないのは、お互いに160発、165発の核を持っているというところが基本にあるんだろうと思います。ただし、この核抑止が今は一応ありますけど、不拡散という方が一番大事な問題で、これを形で担保しているのがNPTなわけですね。だからこそNPTが大事だと。NPTは、核軍縮と平和利用とそれから不拡散と、この不拡散をきちんと形の上で抑えている。そのためにNPTは大事だなと思っています。

(日本にとって“核の抑止力”は?)

神保:

日本を取り巻く核兵器の環境は大変厳しい状況になっていて、中国、北朝鮮、ロシアという核大国に囲まれているわけです。より複雑にしているのは、それぞれの核保有国に対する抑止戦略というのを、それぞれに合わせて作らなければいけないということなんだと思うんですね。戦略核を撃ち合うという関係だけであれば、それは最終的には第二撃能力をどう担保するかというところで核の抑止を成り立たせるのですが、最近厄介なのは非戦略的な核の使い方、つまり「戦術核」の使い方ですけれども、通常戦争の延長に核の使用を位置づけることによって、戦況を優位に進めたり相手の軍の介入を阻止したりするような核兵器の使い方が広がっているんですね。これはロシアの「エスカレーション抑止戦略」ということですが、最近は北朝鮮も戦術核の利用を重視し始めていますし、中国も中距離ミサイル、巡航ミサイル、さまざまなものを核兵器、非核兵器両用で使えるようにしているところが、将来核兵器が利用されるのではないかという認識を我々にもたらしている訳ですね。

(“核の抑止”と“核のリスク”をどう考える?)

吉田:

核抑止というのは強大なリスクを伴っているからこそ抑止が成り立つわけですね。とんでもない規模の脅しをかけるわけですよね。それがなければ抑止というのは理論的に成り立たないし、現実的にも成り立たない。それは裏を返すと、大変危険な状況に常に置いているということです。8月6日に広島県知事が、「核抑止というのは合理的な判断を想定しているが、本当にそうだろうか」と疑問を呈されました。プーチンの例を見ても、こういう時に脅しをかけるかという疑問が噴出したわけですが、じゃあ北朝鮮は、あるいは他の国はどうかと。究極的な状況になった時に本当に最後まで理性的な判断が働くのかという疑問は常にあって、そこは抑止力の根本的な疑問で、リスクがあるんだと思うんですね。ですから、そのリスクを考えながら抑止というものの有効性、信頼性を吟味しないと、抑止に頼りきると大変危険な状況は続くし、非人道的な兵器ですから、そこを重視して核兵器禁止条約もできているということは忘れてはならないなと思います。

神保:

オバマ政権の時から、アメリカの安全保障戦略においても、核兵器の役割を低下させることは言われ続けてきたわけですね。まさに吉田さんがおっしゃったような、全て合理的に抑止力が成立するのだろうかという疑念が、もし使われた際の世界のリスクを非常に高めると。こういう感覚は核保有国もおそらく共有していると思うんです。ところがそれがうまくいかないのは、より使いやすい核兵器というものが登場してきてしまって、核兵器が使われる可能性が通常戦争の延長の中でむしろ高まっていると。それに合わせてアメリカも対応していかなければいけないというところが、現代の核戦略を非常に難しくしてるポイントだと思います。

(核の“廃絶”と“抑止”のバランスをどう取るか?)

吉田:

本当に抑止が効いているかどうかは証明不能だと思うんですね。ただし、持っている国が「抑止が効いている」と信じている限りは、抑止が存在しているのは間違いないと思います。その前提で考えますと、一番大事なことは核兵器がなくなるまで使わせないこと。使わないまま核兵器の廃絶が行われるということです。大規模に使われた後、たぶん核廃絶は起きると思いますが、それでは遅すぎるので、かつてキッシンジャーさんが「使った後は核廃絶は起きるでしょう。それならば使われる前に核廃絶しませんか」と、核のない世界を目指す論考に共著で出されたことありますけれども、被爆地の視点からしても、“長崎を最後の被爆地に”というのは、無くなるまでは使ってはいけないっていうメッセージなんですよね。核のない世界を作る時に、核を使わない形で実現する。これが人類共通の課題だということは共有されるべきだと思いますね。

藤崎:

今回、岸田さんが新しい提案を出されましたよね。若い方に広島を訪問してもらうための基金とか、賢人会議をやろうとか、いろんな形で動かしていくということじゃないかなと思うんですね。アメリカについての意義というのは2つあってですね。日本が北朝鮮、中国、ロシアに囲まれていることから、アメリカの核抑止力に依存するという側面と、もう1つは日本にとって一番大事なのは、中国の核がどんどん増えていること。北朝鮮がまた第7回目の核実験をするかもしれないと。そういう状況下において、中国と北朝鮮と向き合って交渉しようとしている国は唯一アメリカなんですね。ですからそのアメリカを支援していく必要があると。